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0.5話:わたくしとエクトルの微妙な関係(ノエル視点)

絶賛書き直し後の第二話です。

元々1話にあったノエルちゃん視点の話に追記しています。


「お嬢さん、わたしと踊って頂けませんか?」

「ノエル様にはそのバラが良くお似合いで。そうそうバラと言えば……」


 あーうんざり。早く終わらないかしら。


「申し訳ありません。これからわたくし、父の同伴で伯爵さまにご挨拶に参りますの。御免あそばせ?」



 どっちも面倒だけど、伯爵さまへの挨拶の方がまだましかしら。


 ブラッキー伯爵様は恐妻家で有名だしご子息もまだ幼い。

 面倒な話は持ってこないでしょうから。


 ――――


 わたくしはノエル、ノエル = メルシエ。

 このリモージュの街で商業ギルドの役員を務めるお父様、『パウロ = メルシエ 』の二女。


 半年に一度行われる街の有力者主催の舞踏会に参加しているの。



 我がメルシエ商会は、お父様が一代でのし上がった魔道具を扱う商家。街の有力者に名を連ね、遠く王都の貴族や各地の諸侯とも取引があり一目置かれる存在。

 ではあるものの、一方では『成り上がり』と陰口を叩かれていることも知っている。


 こういう社交界で上流階級の人々と親交を深めることで、だんだんと馴染んでいくことが大事なのはわたくしなりに理解しているわ。



 でも、こうも『ツマラナイ男共』が言い寄ってくるのはうんざり。



 わたくしが飛ぶ鳥を落とす勢いの商家に生まれ、何一つ不自由なく生活できること。

 男女を問わず、美しいと称賛する目鼻立ちや艶のある茶色いストレートな髪を持って生まれたこと。


 これらを両親に感謝してはいても、言い寄ってくる男もまた、その上辺だけしか見ていない。場を弁えて、それ相応にめかしこんだだけのわたくし。そこにどんな価値があるというの?



 きっと、わたくしと結婚しても、『次なる美貌』を求めて流離うだけの薄っぺらい男に用はない。


 わたくしが、幼い頃は周囲のガキどもを束ねて悪戯の限りを尽くしたガキ大将だった、と知ったら、いったいどんな顔をなさるのかしらね?ちょっと面白そう。


「うん、ノエルちゃんだしね。」


 の一言で済ます、えっくんの度量を見習いなさいよね。



 えっくん、『エクトル』はわたくしの幼馴染にして数少ないわたくしの理解者。


 えっくんのお父上は高名な冒険者らしいんだけど、争いを好まない性格のえっくんを心配して、彼を街に残してこの世界を飛び回っているんだそうな。


 争いを好まない、のはわたくしも同意しますけど、だからってなぜ彼一人を置いて飛び回っているのか謎だわ。

 お母上もお兄様もお父上とご一緒だと聞いていますのに。



 でも、そのおかげで、えっくんとは物心つく前からずっと一緒でしたわ。

 彼の方が半年ほどお兄ちゃんなのですけど、自分を出さずにわたくしの後ろに付き従うお付きの者みたいだったわね。



 それが……そうね、あのときね。



 近所の悪友たちに『男女』だの『ノエルって男みたいな名前だ』などと言われて、そのころ遅ればせながら自分が女であることの自覚が芽生えていたわたくしは、自分でも意外なくらいショックを受けて。


 時期が悪いことに、その頃、わたくしが大好きだったお姉さまがお嫁に行ってしまって。

 すがる相手も居なくて、寂しくて、だから意固地になって平気な顔をして。


 そんな時、えっくんが自分の家の倉庫に何日も篭り、何やら古くて厚い本を調べて、こう言ったの。



「『ノエル』っていう言葉はね、遠い異国で、神の使徒の誕生を祝う唄、という古語から来ているんだよ?『人知れず、聖なるものを祝福する役目』って意味があるなんて、ノエルちゃんらしくて素敵じゃない。」



『恵まれた娘』という色眼鏡でしかわたくしを見ていない人にはわからないと思うわ。

 わたくしが『この言葉』に、『この言葉を紡ぐために努力してくれたこと』に、どれだけ救われたかを。


 もう、この時に決めましたの。わたくしはえっくんのものになるのだと。

 今のご時世、誰かのものになる、だなんて古臭いですけど。わたくしはそれでいいの。



 お父様をどうやって説得するか、色々考えているところだったけど、ある日そんな心配も不要になった。

 えっくんのお父上が久しぶりに我が家にやってきて、お父様と書斎でお話しされていた時、偶然聞いてしまったの。


 えっくんとわたくしは生まれながらの許嫁なのだと。舞い上がるってこういうことを言うのね。落ち着くまでに何日もかかったわ。



 そんな、わたくしの幼馴染で密かに許嫁のえっくんは、知的で物静かで優しい人。でもいざという時はわたくしのために体をはることを厭わない人。


 あまり愛想が良くなくて、取っ付き辛いと周りの女の子たちに思われてるみたい。


 だけどそれは好都合。

 バカな女避けになってるから。


『結構美形なのに損してるよね~』なんて言ってる貴女たちは、えっくんの魅力が分かっていないのよ?絶対に教えてあげないけどね。ふふふ。


 えっくん本人がわかってないみたいだけど、たまに出るかわいい笑顔はわたくしのもの。

 妄想して悶絶してるのも、わたくしだけがその魅力に気づいているからいいの。


 貴女たちは『ちょっとキモイ』って引いていればいいのよ?


 二人っきりの時はもう少し砕けた感じになってもいいかな~と思うことはあるけどね。



 もう、また変な男が言い寄って来ましたわ。せっかく人が楽しい思い出に浸っているときに!早く屋敷に帰って休みたいですわ。


 明日になったら、ばあばに手伝ってもらって、朝からお弁当作りですわ。お昼前に魔の森の入り口に行って、えっくんとお昼ご飯をご一緒しますの。



 ――――――――


 翌朝は予定通りお弁当を作り、今魔の森の入り口の切り株に腰かけて、待っているところよ。


 この時間なら、そろそろ下を向いてキョロキョロしたえっくんが向こうからくる頃よ?



 いつもより少し遅めにやってきた彼は、顔面蒼白で足取りもぎこちない!


 わたくしは急いで彼のもとに駆け寄り、


「えっくん!どうしたの?大丈夫?」


 と、彼の左わきに肩を入れ、なんとか支えようとする。

 どさくさに紛れてべたべた彼の体に触れるチャンス。


 彼は私に気が付くと一瞬微笑み、


「よかった……きみに伝えたいことが……」


 そこまで言うと、気を失って倒れてしまった。



「えっくん?えっくん?? えっくんーーー!!」


 偶然を装ってここに来る、なんてのどかな状況ではありませんわ。


 慌てて彼を抱き留めたわたくしは、周囲の方々に助けを求めて大声で叫んだのです。


次は3~4話目のまとめになる予定。

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