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ゼロ話:直感で『茎さま』に決めました!

3章の終わりが見えてきたところで書き直しました。

以前の1話と2話をまとめ直した感じです。

『コマンドワード受理しました!』

『ツッコミ波動エネルギーを感知……追加オプションを選択します……』

『整合性チェック作動……動作中……完了OK!』


『正規起動!メインルーチン開始……完了』


『マスター契約変更ルーチン起動中……割込処理中……』



 聞いたことのない単語が中性的な声色で頭の中に直接流れ込んでくる。


「は??」


 知ってるかい?人間、度を越して驚くと、勝手に口が開くようだよ?

 あんぐりと口を開けて、目の前の事態に放心している私が言うのだから間違いない。




『俺を握れ!』


 今度は渋い親父風の声色で、でもやっぱり頭の中に直接流れ込んでくるのは一緒。


 握れと言われても、得体のしれないものを握る合理性が私には浮かばない。

 はっきり言うと、そんなの嫌だ、ということになる。


『俺を、に~ぎ~れ~~』


 この目の前の『茎』のようなもの、

 生き物とも物体とも言い難い代物のことを『茎さま(仮称)』と呼ぶことにしたのだが、

 この『茎さま(仮称)』が『握れ』とさっきから命令してくる。


「何かわからないものを握るのは危険だと思うのですが?」

『その物言いが問題なんだよ、はよ握れ~~!』


 はぁ~。

 埒があきませんね。

 毒性も攻撃意思もないようですので、ひとまず妥協しましょうか。



『ピカッ!』

 閃光が瞬くとともに


『マスターのアラインメントをニュートラルに変更しました!』

『割込処理終了……稼働確認……完了OK』



 渋い親父の方ではなく、中性的な声の方が、頭の中に響く。

 何か頭がボヤっとするので思考が安定しない。


 いきなり頭の中に声がする、とか、私の精神は異常をきたしたのであろうか?


 自分で自分の頭を心配する、というのも変な話だが、

 記憶を紐解きながら整理してみることにした。



 ――――



 えーっと、俺の名は……エクトル。


 ――――――――

 うん大丈夫。覚えてる。

 ――――――――


 この春で17歳になった。今日は6月1日。


 ――――――――

 うん、

 時間感覚も狂っていない、と思う。

 ――――――――



 早い奴だと15歳くらいで、教会にある『成人岩』を使った『成人の儀』により、大人になり神に定められた職に就く。

 俺は思うところがあって、すぐには『成人の儀』は行わず、まずは伝手を頼って『代筆屋』の見習いとして修業を始めた。



 『代筆屋』というのは、各街や国を跨いで商売をするときに、必要な書類、を各国や地域の言葉で書き直す職人の事で、各街との間の商売がそれほど頻繁に行われない今となっては、それほど従事する人がいない、そこそこレアな職業である。


 『代筆屋』になるためには、それこそ各地の言葉や商習慣を知らなければならず、『言語理解』という魔法を駆使するのが必須といってもいい。


 そうなのだ。『代筆屋』≒『魔術師』なのである。

 そして、俺がこの職を目指すのも『魔術師』に関係がある。



 我が家には、なぜか『魔導書』とか『魔術教本』とかの、魔法に関する書物が倉庫に無造作に置かれていた。

 小さな頃の俺は、人と関わるのが面倒で、よく倉庫に入ってそれらの本を読んでいた。


 そんな本を読んでいれば、それを実践したくなるのが人間というもので、10歳になる頃には、魔法文字で書かれたものを読む『魔法読解』と多言語を読み書きできる『言語理解』の魔法を使えるようになっていた。



 ――――――――

 うん。

 ここまでの記憶にも齟齬や矛盾はないな。

 ――――――――



 魔法を使えるようになった俺だが、今後の人生を考えてちょっと困ってしまう。

 中肉中背で、力仕事は苦手、というか、根性がないのでやりたくない。

 せっかく魔法を使えるようになったはいいが、物語の魔術師のように悪人や他国の侵略や魔物と戦うヒーローには、成れそうにもない。


 悪人は個人が成敗するものではなく、官憲に引き渡して裁きを下されるものだし、他国の侵略なんて、遠い国の事はともかく、この辺りでは100年以上聞いたこともない。魔物に至っては、人間がそもそも戦う相手とも思えないほど強力だ。


 せっかく使えるようになった魔法を活かし、なおかつ無茶をせずに手堅く稼げる職業、これが『代筆屋』を選んだ理由だ。



 ――――――――

 うん。そうだった。

 代筆屋は魔術師の派生職業のようなものだ。

 ここまでの記憶も問題ない。

 ――――――――



 コネを使って代筆屋に見習いに入り、そこそこ仕事が分かってきたので、17の誕生日に成人の儀を受けた。

 成人の儀は、これから就く職業の確定でもあるので、ある程度やっておけば、神様も追認してくれると思ったからだ。


 特に将来を考えるでもなく、成人の儀を受けた場合、本人の長所や潜在的な希望を神様がくみ取り、適切な職業に確定する、と言われている。でも、いくら素質があったとしても、俺の職業が『兵士』とかになったら嫌だ。争うのもましてや殺し合いなんて恐ろしい。


 もうそろそろいいかな?と思って教会に行ったのだが、神が示した俺の職業は『魔術師』。

『代筆屋』ではなかった。

 なぜだ?神よ……



 ――――――――

 ショックだった。

 上位職に就けずに基本職で我慢しろ

 と言われたようなものだ。

 ――――――――



 仕方がないので、『魔術師』になったのだが、やはり目指した『代筆屋』になりたい。

『魔術師』が『冒険者』となって、魔物を討伐し、最後に魔王を倒す、なんてのはもはや時代遅れで物語の中のお話でしかない。

 今もその手のヒロイズムに憧れる奴も皆無ではないが、珍しい存在だ。


 幸いなことに修行先の代筆屋の主は、成人後の俺も受け入れてくれた。ありがたいことだ。

 ただ、見習いだし、収入は多くない。


 そこで、副業に考えたのが、魔法薬や一般薬の原料となる、薬草類の採集だ。


 魔術師になった直後から、なぜか道端の草と薬草類の見分けがつくようになった。職の恩恵というやつなのだろう。

 薬草は金になる。他の人は効率よく探せないから採集なんかしないが、俺はちょっと午前中回ればそこそこ採集できる。



 ――――――――

 ここまでもOK。

 薬草採集と代筆屋見習いの二足の草鞋である。

 ――――――――



 最近は代筆屋見習いより、よほど採集の方が金になるので、修行に当てる時間を減らしてしまおうか?と思うくらいだ。

 午前中に北門から北東に進み、『魔の森』と呼ばれる鬱蒼とした森との境目を歩く。

 この辺りで一抱えくらいの薬草を摘み、お昼前に街に戻って、ノエルちゃんの家に買い取ってもらってから、午後に代筆屋の主の事務所で見習いを行う。これが俺の日課となっている。


 ノエルちゃんというのは、俺の幼馴染で、大きな魔道具商会の二女、栗色の長いストレートな髪と茶色い瞳。近所でも評判の美少女でお嬢様だ。



 ――――――――

 小さな頃から可愛かったが、

 最近は姿が見えるだけでドキドキする…

 ――――――――



 ど庶民の俺とは釣り合わないことこの上ないのだが、俺の親父と商会の当主パウロさんが大の親友な縁で、小さい頃から度々遊びにいっていたので、今も交流は続いている。


 ――――――――

 そうそう。

 庶民な父親と大商店の経営者がなぜ仲良しなのか?

 思い当たる節が全くない。不思議だ。

 ――――――――



 ノエルちゃんとはよく一緒に出掛けたりするし、たまに森で採取している俺にお手製のお弁当を持って来たりするので、憎からず思ってくれているとは思うのだが……俺自身が釣り合わな過ぎて……曖昧にしてその手を話題を避けてきた。


 せめてお金が十分にあれば、告白する勇気も出るんじゃないか?と思ってもしょうがないと思わないか?


 ――――――――

 OK。OK.

 もう十分すぎるくらい、俺は普段通り。

 狂ってはいない。

 このヘタレ具合は間違いなく、今までの俺そのものだ。

 ――――――――



 そしてここから、今日の記憶の確認になるわけだ。



 朝、目指すは魔の森。

 街の北門を出て、北東へ30分ほど歩くと、爽やかな草原から一転、鬱蒼とした森に出る。


 森の奥の方には鬼やら魔物やらが出るとの噂だが、そんな奥までは誰も入りたがらないので噂だけかもしれない。


 素材たちもそれほど奥に行かなくても見つかるので、午前中は散歩がてら探して廻ることにしている。


 いつもの日常だ。日常のハズだ。なのに何故かやたらに気になって、少し奥に足を延ばしてみることにした。なぜか?はわからない。敢えて言うなら、呼ばれたような気がしたからだ。


 呼ばれるに任せ、森を奥へ奥へと進む。普段ならこんな奥には絶対に来ない。

 奥には、ちょうど膝丈くらいの高さの苔むした岩がある。

 その岩の割れ目に向かって突き刺さるように、クリーム色をした何かの茎のようなモノが生えていた。



 ――――――――

 うん。生えてたな。

 これがすべての始まりだったハズだ。

 ――――――――



 ラッパ草のツボミ? いや、長すぎるな。

 枯れ枝にしては瑞々しい。


 やっぱり、茎??


 好奇心には勝てず手を伸ばす。

 あ、スベスベだ!



 そして、

『ん?』

 という、どこか間抜けな声がする。



『今失礼なこと考えてないか?』



 あ、渋い親父風な声だった。

 慎重に周囲を見回す。

 俺の他には誰もいないよな?


 この渋い声は、この『すべすべの茎』から出てるんだろうか?


 いやいや、

 いくらすべすべだからって、茎は声を出したりしない。



『それ、すべすべ関係あるのか?』


 また渋い声が……

 再度周囲を見回しても、声の主人は見当たらないし。

 この『すべすべ茎』にだって、当然ながら口なんか無い。


 やだなぁ。

 幻聴が聞こえるなんて怖い所だな。魔の森って。



『目の前には俺しかいないだろうがよ?』



 え?やっぱり、この、すべすべの茎?


 呆然と見つめる俺。

 茎もこっちを見つめてる気がする。


 茎には当然目はないんだが、そう感じるんだよ。

 誰かに見つめられてるって感じることないか?



 モテモテイケメンのアレックスなんて、

 絶対、常に女の子の視線を感じてると思うんだ!

 そういう、見られてる感じがするんだよ。


 俺は経験ないけどな……女の子の視線なんて……

 軽く凹んできた。



『おーい、無視して遠い世界に行った挙句に凹むなよ……』



 ああ、もうダメかもしれない。俺…

 だって茎が話しかけてくるんだよ?

 ボッチのあまり、植物しかオトモダチがいないなんて……



『ちゃんと聴こえてるんじゃねーか。じゃあ早速でワリーが合言葉な?』


 えーっと、茎……さま?

 合言葉って何ですか?


 知らん。知るわけない。



 会ったことない見知らぬ相手と

 あらかじめ合言葉の交換しとくわけないだろ?


 ましてや、相手は茎だ。

 茎に合言葉強制されるイタイ人だーれだ?私だよ(泣

 あ、『茎さま』ね。呼び捨ては怖い。



『…じゃあこっちからいくぜ?…』



 え?何?ナニ?ヤバイヤバイ!

 痛いの反対!



『胸が大きいクリステルと腰の細いアンリエット、君ならどっち?』


「なんで合言葉が2択問題なんだよ~~~~!!」



 思わずツッコんでしまった。

 合言葉って言われたから身構えたのになんだそれは?!

 あ、でも正しい答えを選択しなければならないのだろうか?

 二人とも知らない人なんだが……



 さっきまで渋い声で話しかけてきた『茎さま(仮称)』が黙ってしまって怖い。



 永劫とも思える一瞬を経て、

 茎さまは少しずつ光を加えるように輝き始めた。



 それとともに、


『コマンドワード受理しました!』

『……


 という一連の中性的な声が頭に響き、

 勢いに負けたとはいえ、今『茎さま(仮称)』を握っている状態だ。



 ふう。多少混乱していただけで、

 別に俺は狂ったわけじゃないらしい。



 だとすれば、この『茎さま(仮称)』はいったい何者だ?

 長いな。もう『茎さま』でいいや。

 しゃべってたの、茎さまだよね?



『マスター、これからよろしくな?』



 相変わらず声が頭に響く。

 マスターって俺のこと?なんかややこしい事になってる?

 この森の奥は危険かもしれないので、

 来た道を戻り始める。ここじゃ落ち着いて話も出来ない。



『大事な話の前に、ちょっとマスターには基礎データのロードをしてもらわないとな』


 え?まだなんかあるの?


 嫌な予感とともに、さっき聞いた、中性的な声がまた、頭の中に…



世界の法典(ルールブック)、基礎編、冒険ガイド、上級編のロード準備……OK』

『ロードを開始します……』


 頭の中に文字列が浮かんでは消えていく。

 ミステリア大陸……創造神……HD…レベル…呪文一覧…キャラクタークラス……


 最初は浮かぶ文字を読んでいたが、だんだんと浮かび上がる速度が速くなる。時折、図表やイメージ図、一覧やグラフなんかもはさみ、物凄い勢いで文字が浮かび消える。


 それとともに、頭を締め付けるような痛み、耳が聞こえなくなり、それが五感へと広がる…


 まずい…なにもわからなくなる前に森を抜けないと…


 人の姿が微かに見える。

 この子は…ノエルちゃん!

 助かった!いやその前に状況を…


「よかった…君に伝えたい事が……


 我慢の限界が来て、意識を手放した。


次の2話目はノエルちゃん視点でまとめ直しです。


『代筆屋』が『魔術師』の上位職なんてことはありません。主人公の勘違いです。念のため。

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