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ロリな魔王と変態勇者  作者: 鹿鬼 シータ
9/21

約束

短め投稿……



「うわぁ…」


 自ら選手交代を押しつけといてその結果にドン引きする勇者。

 もはや災害であった。

 足を踏みならせば大地が割れ、羽ばたけば石や枝葉を巻き込み、鎌鼬を発生させる。

 かと言って通常攻撃が落雷…

 生かす気はさらさら無いらしい。


「あぁ!あわわっ、あ、あぁ!」 


 その様子をはらはらしながら見守る魔王。


「……」


 さらにその様子をじぃっと見つめる勇者。


「……ひっ…」


 そして、目が合う。


「……」


 あまりにも露骨に嫌がられた勇者はその場に両手両膝をつく。


「あわわっ、ごめんなさい!そんなつもりじゃ──ひゃっ!」


 いきなり落ち込む勇者に罪悪感を感じた魔王は駆け寄る。

 だが、魔王の手が勇者に触れる寸前。

 勇者は魔王の背後にいた、と言うかお姫様だっこをしていた。


「いつの間に!って、は、放してぇ!」


 数瞬遅れて自分が置かれている状況に気づいた魔王は勇者の魔の手から逃れるべくもがきはじめた。

 手枷は外れた。

 今度はすぐに逃げてやる。

 そう意気込み体に力を込めた魔王だったが…やめた。


「………あの─」


「掴まってろ。」


「──うわっ!」


 勇者の目は悲しみに染まっていた。

 そんな勇者は魔王を抱えたまま大乱闘状態の戦場を駆け出した。


「……」


 魔王にはわからなかった。

 勇者がなぜ、このような行動に出たのか。

 勇者の瞳から読み取れる感情は悲しみと…怒り。


 わからない。

勇者がわたしには…わからない。



「神官。」


「ん?どうしたよ?」


 辿り着いた先にいたのはフードローブで顔まで隠した怪しい男、神官の元だった。

 勇者は優しく神官のそばに魔王を下ろす。


「治療を頼む。」


「治療?」


 フード越しだが神官が怪訝な顔をしたことはなんとなく勇者に伝わった。


「あぁ。立姿、また歩いたときの体幹からして左足首の捻挫。そして、肋もどうかしているようだ。他に打ち身が5ヶ所と擦り傷少々。頼めるな?」


「あ、あぁ。…任せろ。」


「……」


 魔王は自分の体ながらアドレナリンのせいか全く気づいていなかった。

 触れることなく見ただけでそこまでの異常を見つける勇者の観察眼。

 本来ならば誉めるところ?……なのかもしれないが、この観察眼は対象が少女のみ発動。

 

「それじゃ、任せたからな。」


 勇者はもう一度、釘を差すと回れ右。

 どこかに向け走り───


「ぁ……」


「ん?…どったの魔王たん?」


 走りだそうとした勇者のローブを掴んだのは魔王。

 ちなみに、勇者が呼び名をころころ変える事に大した理由はない。


「あ…えっと、勇者はどこに?」


「ちょっとお花を摘みに行ってくる。」


「?」


 勇者の答えに可愛らしく小首をかしげる魔王。

 その仕草を見た勇者だが暴走モードに入ることはなかった。


「おい、リーダー──」


「大丈夫。」


 その様子を見た神官が少し焦った様子で声を掛けるも勇者は即座に切り捨てる。


「魔王たんも大丈夫だから。こいつは味方だ。」


 魔王の心を読んだかのような言葉。

 ほんのさっきまで国王軍の中にいて、顔すら明かさない人間のそばに置いていかれるのは正直、恐ろしいだろうからな、と。

 実際は様子がおかしい勇者を心配しての行動なのだが。


「てなわけで、オレの魔王たんに手ぇだすなよ?」

 

「出すかよ。」

 

 勇者のおちょくるような発言をさらりと流す神官。 

 

「どうして?」


「ん?」


 小さく魔王が呟く。  


「どうして…助けてくれるの?わたしは…あなたにひどい事を──」


「忘れたか?」


「え?」  


 いつになく真剣な声。

 俯いていた魔王はつい顔を上げ、勇者と目が合う。


「俺は(幼女との)約束は決して破らない男だぜ?」


「──っ!」


 勇者の嘘偽り無き言葉。


 バカだわたしは…

 どうしてあの時この人を疑ってしまったんだろう。


 少なくとも魔王に非は無い。

 情けなさに涙を流す魔王。

 彼女は心優しい少女である。


「ごめんなさい…わたし───」


 それに引き替えこの男。


「そうだ、約束ついでにもう一つ約束しよっか?」


「ふぇ?」


 勇者はその場にしゃがみ魔王の視線を合わせる。

 そして、魔王の頬を伝う涙を指先で拭い、優しい声で語りかける。


「オレがこの戦いを終わらせてやる。それが終わったら一つだけオレのお願いを聞いてくれないか?」


 なんの裏も感じさせない声に表情。

 今の勇者ならばどんな嘘をついても信じられる気さえする。


「ふふっ、なにも世界の半分をくれなんて言うつもりはないよ。ほんと、大した事じゃない……ダメかな?」


 負の感情を宿した表情から一変。

 まるで包み込むような優しさ、愛情を感じさせる雰囲気を醸し出す勇者に面食らって黙ってしまった魔王に勇者のだめ押し。


「せ、せか……ううん、わかった!約束する!」


 だからこそ魔王は約束してしまった。

 まぁ、そもそもが断りづらいタイミングでもあったが、魔王はそれ以前に素直で心優しい少女である。

 そんな少女の後ろで憐れみのオーラを出す神官。


 ニヤリ…


「へ…?」


「魔王たんの添い寝ゲットおぉぉっ!!」


「ふえぇっ!?」


 あまりの豹変っぷりに魔王は戸惑う。

 だが、勇者の言葉を理解した魔王はすかさず勇者の横暴な約束の取り消しを求める。


「ゆ──」


「約束は絶対だ。ではさらば!ヒャハハハハハ!!」 

 肩をぐっと掴まれ、恐ろしいほどまっすぐな目で断言された魔王は何も言えず、走り去る勇者に届くことのない手を伸ばすだけだった。


 そんな哀れな子羊の背中に神官は静かに祈りを捧げた。


「アーメン」

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