開戦
「ヒャハハッフー!!」
「「「「「っ!!!?」」」」」
勇者(変態)光臨。
「ふぇ?あのぅ…」
「『ふぇ?』頂きました!御馳走様でぅえっす!あ、涎垂れてるよ?……ぺろりんちょ………してもいいですか?」
「ぴゃあぁあぁぁぁ!!」
「ぶっ!ぷえっ!あんっ!そこっ!!」
魔王は言語能力を失うと、奇声をあげ、口元を乱暴に拭い、勇者の腕の中で暴れる。
だが、魔王の両手はいまだ手枷に自由を奪われており録な抵抗が出来ない。
そして、勇者はなぜか喜んでいる……
「ぐへへへっ、お嬢たんに良いことを教えよう!オレはな……一度捕らえた獲物は決して放さない……ジュルリ…では、いただきま───っ……」
「ぴゃあぁあぁぁぁ!!」
ここにきて、またも神の加護の発動である。
魔王の足が打ち抜いたのだ。
偶然にも…勇者の……男の急所を……
「ふえぇぇぇん!!」
くたばる勇者を放置し魔王はムートの元へ駆け出した。
「魔王とムート……無事再会っと。」
勇者は静かに立ち上がる。
…超内股、へっぴり腰で。
「なにをしている?」
「あ?」
そんな勇者にレーギスが話しかける。
「あれは魔王だぞ!貴様、自分の使命を忘れたか!!」
レーギスは勇者が魔王を救ったばかりか逃がしたことに激昂。
今にも切りかかってきそうな剣幕だ。
「ん~、オレの私命に勝る程の事なんてあんたかな?」
だが、勇者はどこ吹く風。
レーギスを適当にあしらいながらそわそわと落ち着きがない。
「貴様、ふざけているのか!このままだと打首も──」
「あぁ、うるっさいな!」
「なんだと?」
本日、レーギスは何度同じ言葉で話を遮られたことか…
それもありレーギスは鬼のような形相で勇者を睨む。
そんな、今にも飛び掛かりそうなレーギスを余所に勇者はというと。
「オレは今、魔王たんルート攻略中なの!わかる?ついに接触までいけたのに外野がうるせぇから逃げられたじゃねぇか!」
逃げられたのは自業自得である。
「だから、もうやめようぜ?これ以上続けてもお互い良いこと無いよ?てなわけで、はーい人間の皆さんちゅーもーく!!……そして、解散!!」
「「「「………」」」」
空気が死んだ。
勇者はやりたい放題である。
「あれ~?」
「もういい…貴様もそこで死ね!国王軍、抜刀!!」
「うわっ…だるっ!」
心底嫌そうな顔をする勇者を後目に魔物達もまた、武器や爪を構える。
「くくく、忘れたか魔物ども?こちらにはまだ人質だって──」
「あっ!てめぇら、オレの誘いは断っといてなに国王軍に参加してんだよぶっ飛ばすぞ!」
勇者の空気を読まない発言にレーギス『も』額に青筋を立てる。
「そろそろ──」
「あ゛ぁ゛ん!?ぶっ飛ばすたぁ、ずいぶん大きく出たじゃないか?是非、やってもらおうじゃねぇか?」
「…この度は私の不躾な発言であねさんの気分を害したことをここに深くお詫び申し上げます。」
勇者の土下座で本日2度目、空気が死んだ。
「……あの男と人質を……殺せっ!!」
ついにレーギスが動く。
レーギスの指示で数十人の兵が勇者に向かって駆け出した。
「まじかよ!オレ1人ぃ!」
さらに縛られて動けない魔族達もまた囲まれるが抵抗する術はない。
「ムート!」
「申し訳ありません、あれを見てたら準備が…」
おいそこ、人のせいにするな。
勇者が後方でなされる会話に内心ツッコミをいれる間も勇者自身、人質の魔物達にも兵が迫る。
「『魔法使い』!人質を守れ!あ、あと、ついでに縄も切ってやれ!」
迫り来る兵に背を向けて走る勇者は声を大に叫ぶ。
「ちっ、『命令』なら仕方ないね。ストーム!鎌鼬!」
勇者の命令に反応したのは女。
女魔法使いの魔法により人質の周りに分厚い竜巻が発生する。
そして、人質を縛る縄は風の刃が切り裂く。
「ぐっ、貴様ぁ!国王軍に所属しながら敵を庇うか!」
やはりここでレーギスが噛みつく。
人質にたかっていた兵達は竜巻に弾かれ、魔物達は自由を取り戻す。
「はんっ、国王軍?残念だったね!あたしは勇者御一行の1人だよ?リーダーの命令は絶対さ!」
「ちくしょう!おい!そいつらも最早敵だ!やっちまえ!」
国王軍はついに勇者一行にまでも敵に回す。
「『神官』!人質達の治療を!」
「了解だリーダー。」
一行、2人目は神官。
声からして男であろう、その男はずかずかと女魔法使いが発動させた竜巻に近づき、何事もなくすり抜けるように侵入した。
「たく、あんたぐらいだよあたしの魔法を気にせず歩けるのは!」
女魔法使いは憎々しげにそう言うが神官は気にしていない様子。
「神の下に平等な安寧を…」
人質達のほぼ中心で神官はどこから取り出したのか一冊の分厚い本。
その本を開きぼそぼそと何かを口にする…
「なっ…傷が…」
「暖かい…」
するとどうだろう。
数十体の魔物達を包むように展開する光のドーム。
それに包まれた魔物達の傷があっという間に完治していく。
「けっ、なぁにが神の下だい!あんたにゃ神なんて似合わないってぇの!」
女魔法使いがぼそりと呟く。
それと同時進行で魔物達を覆う竜巻からさらに小ぶりな竜巻が発生し国王軍を蹂躙していく。
「哀れな咎人に神への導、試練を、神罰を…」
「──っぶねえな!くそ神の駒が!」
天から振ってきた光の矢。
それを女魔法使いは危なげもなく回避すると神父に向かって中指を立てる。
相変わらず仲のよろしいことで。
「ねぇねぇ、リーダー!」
「なんだぁあぁぁ!」
勇者一行、最後の1人が挙手。
声が変わり前なのか高めの声で小柄な少年はおやつを欲しがる子犬のような仕草で勇者に声を掛ける。
そんな少年に勇者は死に物狂いで国王軍に背を向け、走りながら返事をする。
「僕はどうしたらいい?」
「わかってんだろ!『戦士』!…蹴散らせ!」
「がってんだい!」
シンプルイズベストな命令に少年戦士は元気よく敬礼と共に返事をする。
「なんだこいつは?」
「知らん!ただ、少なくともあの2人は手強いぞ!」
「だったら……」
「あのガキを初めに潰してしまえ!」
神官、女魔法使いの相手は骨が折れる。
だったら、小柄で子どものような戦士を。
そう考えた国王軍は武器を手に一気に距離を詰める。
「なっ!」
「なんだよあれ!」
だが、この流れで今更ただの子どもがいるはずもない。
「いよいしょー!飛んでけ~い!」
「「「ぎゃー!」」」
少年戦士。
彼の武器は身の丈以上ある大剣。
それをハンマー投げの要領でぶん回す。
ただそれだけで範囲内に入った国王軍を面白いほどに吹き飛ばす。
少年戦士…彼は力持ちである。
そんな勇者一行が国王軍に大打撃を与える中、勇者は…
「勘弁してくれぇ~!」
いまだに逃げ回っていた。
「よし、ゴールや!ムート!後は頼むで!」
「はい?なんですか、その口調は……まぁ、いいでしょう。彼らにはそれなりにお世話になりましたからねぇ!」
勇者は魔族軍に潜り込むと先頭にいたムートに後ろから追いかけてくる兵を押し付けた。
それでもムートは嫌な顔せず、むしろ率先的に前に出ると体が陽炎のように揺らいだ。
「魔王様…行って参ります。」
「あ……うむ。なるだけ…殺しはよしてくれ…」
「御意…うぅっ…ウウゥ…グルルォオオォォ!!】
次の瞬間、ムートは人の形ではなかった。
「ひっ!」
「なんだあれは!」
「ま、まさか…」
【グルルォォ!!】
空の支配者
バハムート参戦。