表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロリな魔王と変態勇者  作者: 鹿鬼 シータ
7/21

クズは事態を覆す



「さて、どうする?」


「…ぐっ。」


 もはや選択肢は無い。

 レーギスは冷や汗を拭うこともせずに懐から何かを取り出して魔王に投げた。

 それは魔王の足元の砂に半ば埋もれて止まる。


「魔封の手枷か。」


「そこのお前、魔王にそれをつけろ!」


「……」


 レーギスの指示をムートはシカトする。


「ムート、頼めるか?」


「……………御意」


 それを見かねた魔王が頼むと長い間を置いてムートが足元の手枷を拾う。


「くくっ、こんな物。今のワレには不要なのじゃがな。」


 自嘲気味に笑う魔王は青ざめていた。

 脂汗を滲ませ、呼吸は荒く、膝は笑っていた。

 強すぎる一撃に体がついていけてないのだ。  魔王は見た目通り未成熟である。

 それを無視して放った魔法は魔王の体力、気力をごっそり削るだけではなく魔力切れ寸前まで追い込んだのだ。


「必ずや、お迎えにあがります。」


「うむ、待っておくぞ。…………我が儘言ってごめんね。」


 手枷をつけた魔王はゆっくりと覚束ない足取りでレーギスの元に向かう。

 最後はムートだけに聞こえる音量での言葉も残して。


 波の音と魔王が鳴らす歩みの音。

 それ以外に音はなく皆がそれぞれ違う思いで見つめる中、魔王は歩を進める。

 人間達は早く来い。

 早く終わらせろと。


 魔物達はどうにかならないのか。 

 魔王様、今からでも逃げてくれと。

 レーギスは勝利と服従感で顔を歪め

 ムートは屈辱と情けなさから歯や爪で己を傷つける。

 そして、ついに魔王はレーギスの手の届く範囲にたどり着く。


「これで良いのじゃろ?ワレはどうなってもいい。じゃから皆を──」


「指図をするなよ、クソガキが!」


「あぐっ!」


 突如、打たれた魔王。

 弱った体に魔封じの手枷をつけられた魔王は簡単に倒れた。


「なんだよ、いい声で鳴けるじゃねぇか!」


「くはっ!」


 仰向けで倒れた魔王の胸を圧迫するように踏みつけるレーギス。

 魔王もたまらず息を吐きだす。


「魔王様!貴様ぁ!!」


 その行為にムート、激昂。


「動くな。」


 しかし、レーギスは落ち着いた様子で剣を魔王の首筋に添える。


「っ!ふざけるなよ、貴様っ」


 ムートの体が陽炎のごとく揺らぐ。

 だが、それ以上は動けなかった。


「くっ…むー…と、逃げなさ…ぐっ!!」


 魔王の絞り出すような声。

 ただでさえ圧迫されて息苦しのにレーギスはそれを遮るように…また、楽しむかのようにさらに力を込める。


「勝手に喋るなよ。てめぇらもだ。逃げるなよ?」


 レーギスはそう言うと足の下で苦しそうに呼吸する魔王の頬を剣の腹でペチペチと叩く。


「…ぅ…っ…」


 抵抗する力も無い魔王を見てニヤニヤするレーギスは次の指示を出した。


「おい、お前とお前。その手に持つ槍でその生意気な男を刺せ。」


「「っ!」」


 ムートの後ろ両脇にいた魔物は目を剥き硬直する。


「…そ…んな…っぇ…」


「早くしろ。」


 レーギスは呼吸もまともに出来ない程に強く足に力を入れ、催促する。


「構いませんよ。やりなさい。」


 ムートは後ろを見ずに両手を広げる。

 だが、2人の魔物は動けなかった。


「なんだ、お前ら?このガキを死なせたいのか?」


「…か…ぅ…っ…」


 レーギスは苛立ちをあらわにするように魔王を踏む足をグリグリと動かす。


「っ!さっさと──」


「いい加減にしろよ!」


 ムートが戸惑う二人を怒鳴りつけようとした時だった。

 どこまでも響きそうな高い女の声。

 その声の主を中心に周りの兵たちが離れて丸く空間が出来る。

 そこにいたのはフードローブを頭から被る3人の人間。

 その1人が一歩前に出てレーギスを指さす。


「あんたのそれ、下劣すぎて吐き気がすんだけど?」


「はぁ?」


 声からして女。

 女の言葉を聞いてレーギスは気の抜けた声を出し、魔王は状況についていけず力なき瞳で女を見つめる。


「貴方達は確か、勇者のツレ…でしたか?」


「そうだよ。てか、さっさとその足どけろよな、見てて気分わりぃからよぉ!」


 勇者のツレ…

 なぜか魔王の頭を死なせてしまった黒こげ勇者がよぎった。


「口が悪い女だな。」


 だが、レーギスはそう言っただけで魔王から足を下ろす気はないようだ。


「あぐっ!」


 それどころか、八つ当たりのつもりか一度、足を浮かせ再び踏みつけると言う暴挙にでる。

 いきなりの事に魔王はたまらず大きな声が漏れる。


「てんめぇ~…どうも耳がわりぃようだな…」


「ふむ、なぜ魔王を庇う?魔物の王。討つべき対象だろう?」


 レーギスが問う。

 確かに彼女が魔王を庇うのはおかしい。

 特に彼女は勇者一行なのだから特に。


「あ?んなもん知るかよ!あたしはただ、そんな小せぇガキが虐げられんのを見たくねぇだけだゲス野郎!」


 だが、彼女もまたあの勇者と長いこと一緒に居ただけあり己の意志の方が優先されるようだ。

 仮に魔王が近くに来た時点でレーギスが切り捨てていたなら彼女は何も言わなかっただろう。

 容姿や口だけで魔を判断出来るほど生易しい世ではないのだから。


「世迷い言を…これまで、魔物が、魔王がどれだけの悪行を──」


「うるせぇ、ボケ。」


「あ゛ぁ?」


「うるせぇんだよお前は。魔物が今まで何してきたかなんて知るかよ。だから同じだけの苦しみをってか?くそ食らえってんだ!そもそも、てめぇの仕事はなんだ?魔を討つ事であって嬲り殺すことじゃねぇだろ?んなもんするくれーなら、ちゃっちゃと済ませて次の魔を討ちに行けってぇの!それが、時間も有意義に使えて被害も減らせるからよぉ。てな訳で、てめぇのそれはただの時間と労力の無駄、てか、下手すりゃ今の絶対的優位な立場すら失う可能性すらもある。理解出来たか?この自己満自粛野郎!」


 ふーっ、すっきりした!

 そんな雰囲気を出す彼女。

 それに引き替え、レーギスだ。

 もっともなことを言われ、罵倒までされたレーギスはふるふると体を怒りに震わせる。

 同時に力も込められているのか魔王は声も出せず表情を苦痛に歪める。


「もういい…殺してやるよこんなガキィ!!」


レーギスが声を荒げながら剣を振り上げる。


「恨むんならあの女を恨むんだなぁ!!」


「おいおい、あたしのせいにすんなよ!まるであたしが悪い女みたいじゃんか!……あぁ、あと───────。」


 レーギスが剣を魔王に振り下ろす。

 どよめく魔族。

 各々、感情を抱く人間達。

 胸を踏まれ立つことも転がることも出来ない魔王は迫り来る刃から目をそらす。

 そんな魔王の耳にレーギスを言い負かした彼女の最後の言葉、囁かれたような言葉が優しく届いた。













『あぁ、あと時間切れな。お前もよく耐えた。』


 え?…

空耳かと思うほどの小さな優しい囁き。

 思わず魔王は目を開ける。


「──っ!?」


 驚愕した。

迫る刃も胸の苦しみも無く、いつの間にか魔王は宙を舞っていた。


「お待たせ、お嬢たん。」


「ぁ…え?…ゆう…しゃ?」


 魔王は勇者にお姫様だっこの要領で抱えられていた。

 暫く宙を舞い、魔物と人間の間にふらりと着地する勇者。

 そんな勇者はばつが悪そうに口を開く。


「緊急事態だったとは言え許可無く触れてしまい申し訳ない…今更だがもしも許されるのならばお嬢たん……オレにあなたを触れる許可を貰えないかな。」


 勇者は魔王を抱いたまま、真面目な表情でそう言った。

 そして、魔王はというとこういった急展開には滅法弱いらしく機能停止。

 なぜ、わたしはまだ生きてるの?

 なぜ、勇者が生きてるの?

 どうして……勇者はわたしを…


「ダメかな…?」


「と、とんでもない!助けてくれてありがとう!でも──」


 テンパりついでに承諾。

 魔王はまたやってしまったのだ。

 ポーカーフェイスに塗り固められたどす黒い欲の化身になんの躊躇いもなく無防備な状態で接触の許可を与えると言う失態を…



ここからは、週に2~3話づつ投稿でいきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ