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ロリな魔王と変態勇者  作者: 鹿鬼 シータ
6/21

これが魔王


「魔王はまだか!これ以上、待たせるのであればこれより捕縛した魔物を一匹づつ見せしめとして殺していくぞ!」  


 地下魔王城にはいくつか出入口がある。

 その1つがここシナナ海に面したもので、ここもまた大木の幹の仕掛けから出入りが可能。

 そして、いざ出てみると状況は最悪だった。

 月明かりに照らされた砂浜を埋め尽くすは人、人、人。 

 数千人は下らないのではないだろうか。

 その数に対しこちらは100体程とこれが現、魔王の持てる戦力だった。 

 しかも、ムートの報告通りその半分程が人の群の前で傷を負い、縛られた状態で転がされていた。

 残る半数の魔物達はどうすることも出来ず睨み合い。

 装備をまともに整えずに飛び出した結果だった。

 要求は魔王。

理由なんて聞くまでもない。


「時間だ!まずはこいつからだ!」  


 先頭にいた人間が一体の魔物に向け剣を──


「そこまでじゃ!」


「「「っ!」」」


 人間も魔物もしんと静まる。


「ま、魔王様!お逃げ「うるせぇ!」ぐっ!」


 今まさに殺されようとした魔物が声を上げるも蹴りで黙られられる。

 人質もそうでない魔物もみんなが絶望に染まった。


 この状況はまずいと…


「…そやつらを返しては貰えぬかの?」


 魔王はムートを従え、魔物達の先頭に立った。


「き…貴様が…魔王だと?」


 この人間の軍を率いる者。レーギスは戸惑いながらも確認を取る。


「いかにも、ワレが魔王じゃ。それで、そやつらを「くくくっ、くはははははっ!」なにが可笑しい?」


 魔王の言葉を遮り、笑うレーギスに殺気立つムートを手で制し、魔王は問う。


「三年前の魔物間での戦で魔王が死に、新しい魔王が後を継いだと風の噂で聞いていた…強大な力を持ち、圧倒的な支配力を持つ者が、と。…だがいざ、蓋を開けてみればなんだこれは?」

 

「っ…」


 魔王は歯を食いしばり何も言わない。

 そんな事、誰よりも自分がよく理解している。


「ダメもとで勇者を餌にしてみたが思った以上に食いつき、兵を集め奇襲を掛けるも予想を遥かに下回る数と質…挙げ句の果てに魔王が、ガキ。ふざけてるのか?」


「血祭りに───なぜ止めるのですか?」

 

 ムートの堪忍袋はあっと言う間に許容量を越え破裂。 

 魔物の中で上位種が成せる人型も揺らぎ、今にも火を吹き出しそうな勢いだ。

 だが、魔王はやはり手一つでムートを制し、さらに一歩前進。

 一瞬、勇者を交渉の材料に…とも考えた魔王。

 だが、レーギスの口振りからして効果は薄そうだ。


 なにより、勇者はムートの魔法で……


「ワレ等に人間と争う意志はない。頼むからそやつらを解放してくれ。」


 本心だ。

 魔王は人や他の派閥との干渉は完全に打ち切り、誰にも見つからないよう地下に城を…町を築いた。

 それにより短い期間だったが気が抜ける程の平穏を満喫していた。

 自分についてきてくれた魔物達も魔王の考えに強く賛同。

 争い無く、幸せな日々だった。

 

 だが、ふと思ってしまった。

 どうにかして、こんな暗く、湿った地下ではなく、日の下で、外敵に怯えずに伸び伸びと生活は出来ないものかと。

 あの日、地下で生まれた子どもが親や数人の大人に守られながら地上に出た。

 子どもは初めて見る物ばかりで目を回しながらも、大興奮ではしゃいでいた。

 それを見る大人達の悲しそうな目。

 これだけの護衛がなければ外に出られないなんてあまりにも不憫だった。

 

 そんな時に耳にした噂が『勇者が来る』それもたった1人で。

 胸が騒いだ。

なぜ?

どうして?

ここがバレたのか?

 様々な憶測が飛び交った。

 勇者の噂はよく耳にしていた。

 恐怖で騒ぐ仲間もいた。

 逃げようと言い出す仲間も戦おうと言い出す仲間も…

 だが、魔王は決して首を縦に振らなかった。

1人希望を見ていたのだ…


 勇者と言う無謀な叶うはずもない夢物語のような希望を。

 まぁ、それは勇者が変態により呆気なくくずれさったのだが…


「……」


 魔王は首を振った。

 なぜか不意に思い出していた過去を振り払うかのように。

 今は目の前に集中せねばと。


「……」


 軍を率いる男、レーギスは顎に手を当て何かを考えていた。


「そいつらを解放してもらえれば、こちらはすぐに引かせる。そして、早い内にこの土地からも出て行く!だから──」


「うるせぇな。」


「なっ──」


 黙っていたレーギスが魔王を睨み付けながら口を開く。

 その目はまるで取るに足らない虫でも見るような目だった。


「さっきからうるせぇんだよガキが!そもそもお前に交渉を持ちかける権利ねぇんだよ!」


 ごもっともだ。

兵の数も質も桁違い。

さらには人質。

誰もレーギスに反論出来なかった。


「だがまぁ、選択肢くらいはくれてやろう。『人間様に従います。ですから他の虫どもの命だけは見逃してください。』と、ひれ伏して懇願しろ。もしくは……一匹残らず…死ね。」


 レーギスはクズだった。

 勇者を大概だが、レーギスはそれを更に上回る。


「もうだめだ…殺そう。」


 そんなレーギスを相手にムートが堪えきれる筈もなく、尋常ではない殺気が放たれる。


 だが、ムートだけじゃなかった。

後ろに控える者達。

 さらには人質となりボロボロで縛られた者達もまた自由を奪われた手足を引きちぎってでも噛み殺す勢いだ。


「ムート、落ちつくのじゃ。」


「無理です。…ですが、魔王様はどうか、お逃げ下さい。」


「ムート」


「さすがに勝利出来るなど甘い考えはありませぬ。」


「…ムート」


「ですが、一匹でも多く道連れに地獄へと──」


「ムート!」


「「「──っ」」」


 ムートだけではない。

 魔物だけではない。

 人間達も含め、周囲にいた全ての生物が死を感じた。


 それほど大きな声ではなかった。

 むしろ聞き耳を立てていなければ聞き逃す程度…だが、それは不思議と離れた人間の軍の一人一人の耳にまで届いた。

 腹の奥から響くような声。


「───ワレは誰じゃ?」


 魔王が問う。


「ここにいる全ての魔物を統べる王。魔王様にございます。」


 素早くムートは跪きそう答えた。


「ならばその王の言葉を無視し、あまつさえ逃げろと指図する貴様はなんだ?」


「………」


「この場にいる魔の者達よ聞け!ワレの命なしに戦うこと、死ぬことは禁ずる!異議ある者はこの場に名乗り出ろ!!」


「「「……」」」


 異様な光景だった。

 10才くらいの少女の威圧に全てが圧倒され。

 少女の言葉に言葉を失う。

 そればかりか、控える魔物。

 縛られる魔物。

 全ての魔物がその少女に跪き、頭を垂れる。

 まるで、首を落とすも主の意のままにとでも言うかのように…


「これが…魔王…」


 レーギスかやっとの思いで口にした。

 その頬を流れる冷や汗はこれまでの人生で一番、冷たいものだった。


「人間…」


 魔王がレーギスに声を掛ける。


「……」


 だが、レーギスの喉は思った以上に強張りなんの音も出せなかった。


「そやつらを返してくれ。ワレと交換だ。さすればこ奴らは決して手を出さぬ。どうだろうか?」


 先ほどの現象を目の当たりにした者なら今の魔王の言葉は納得出来る。

 だが、この男、レーギスは違った。


「ふ、ふざけるな!言ったはずだ貴様に交渉の余地はないと!」


 余程、相手側が優位に立つのが面白くないらしい。


「さぁ、ひれ伏せ!もしくは……」


 レーギスが剣を抜く。

 それに合わせて後ろの兵達も各々腰に携えた武器に手を伸ばす。

 そもそもこの数だ、何を畏れているんだ。

 絶対的な数の差。

 徐々に人間達の士気が回復していく。


「そうか…仕方ない…」


 魔王の言葉にレーギスは表情を歪める。

 そうだ、どう足掻こうとこの兵力差を覆せる筈がない。

 素直に大人しく、その身を差し出すがいい。


 だが、レーギスの予想に反し。次の瞬間、魔王は手を海に向け薙いだ。


「「「───っ!!!?」」」


 昂る士気、戦意、余裕。

 その全てを魔王は一撃で根こそぎ削ぎ落とした。


 立ち上がる炎を含んだ水柱は10mを越え範囲は視界一杯。

 轟音、振動、衝撃。

と、一瞬でこれだけの魔法を構築、発動させたのだ。

 魔王が何をしたのか、レーギスを始め、人間……国王軍にわかった者はいない。

 だが、これだけは理解出来た。

 

 魔王1人でこの場の者全てを皆殺しに出来ると。

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