ある日の森の中、変態に出会った
「まじでふざけんなよ!こんな所に魔王なんて本当にいんのかよ!」
いろんな要因がストレスとなり溜まりに溜まった鬱憤を撒き散らすかのように叫ぶ。
「だいたい、勇者が出るって言うなら他の奴も来るべきだろ!ちくしょう!」
他の奴とは勇者の仲間である戦士、神官、魔法使いの三人。
それぞれ、「だるい」「めんどい」「自業自得」と一刀両断。
勇者の人望の無さの現れである。
「くそっ、くそっ、魔王も魔王だ!こんな迷路に隠れやがって!居るんなら『こっちだよ!』って、案内板くらい用意しとけっつうの!!」
それでは迷宮に隠れた意味をなさないが勇者はこれでも真面目だ。
そして、ついに怒りがピークに達した勇者は近くに生えていた大木の幹を勢いよく蹴りつけた。
八つ当たりである。
「きゃわっ!?」
「っ!?」
するとどうだろう。
蹴りつけた幹の一部が忍者屋敷よろしく回転扉の容量で半回転。
悲鳴と共に出てきたのはこちらに背を向ける形で幹に張り付く少女。
「………」
「………」
10才くらいか、勇者の胸くらいの身長で腰まで伸ばした黒髪を揺らしながら少女は恐る恐る振り返る。
「あれ?」
だが、その少女の黄金色の両眼に勇者の姿はなかった。
「お嬢さん!!」
「ひゃいっ!?」
下から勇者の声。
少女は驚き裏返った声で返事をするのそのまま声のする方へ顔を向ける。
そこには小柄な少女が自分の足元を見下ろさなくては気づかないほど近くにそれはいた。
「ひっ…」
顔をひきつらせ小さく悲鳴をあげるが仕方ない。
それほどまでに異様。
勇者は少女に触れるか触れないかのギリギリの場所でもはや土下座に近い体勢で跪いていた。
そして、口を開く。
「クンカクンカしてもよろしいですか?」
耳が痛い程の静寂……
「へ…」
「へ?」
「変態だぁああぁああぁぁ!!」
少女は理解した彼が、勇者が変態だと。
「ちょっ、落ち着くんだ!」
「いやぁあぁぁああ!!」
少女は壊れた様に悲鳴を上げながら幹を叩く。
「こら、怪我する前にやめるんだ!安心しろオレは変態だが紳士だ!許可が下りるまでは───」
「ぴゃあぁあぁぁぁ!!」
にじり寄る勇者に少女の壊れ具合はさらに加速。 もはや、理解出来る言葉は発せず両手で幹を叩く。
「ほ~ら、怖くないよぉ~。さぁ、おとなしぶふぇっ!!」
もはや言い逃れ出来ぬ状況を作り出した勇者に罰が下る。
いや、少女の思いが天に通じたと言うべきか。
どうやら、先の勇者の蹴りで不具合を起こしていた回転扉。
これが、少女の気持ちに応えるように起動。
つっかえていたものが取れたかのように勢いよく回転。
そして、その扉に絶妙な距離で接近していた勇者は勢いの乗った扉の端に顔面を叩きつけられた。
「おぐぁっ…今の勢いはいくら無機物キッス組合、組合長であれど耐え難いものが…ありゃ?」
無機物キッス組合…組員一名。
活動内容は言うまでもない。
そして、弾き飛ばされた勇者が起きあがるとそこにはもう少女の姿はなかった。
「くっ…くくく…ぐふへへへ!鬼ごっこでちゅか?お嬢ちゃ~ん!」
勇者は変態である。
事の発端である、第三王女、ミーシャ・リステイン9歳に対してもそうだった。
今まで機会が無く出会うことがなかったが、何の因果か勇者とミーシャは出会ってしまった。
長き滞在の末、かなりの依頼をこなしてきた。
そして、その日仰せつかっていた依頼の報告で城を訪れていた勇者御一行。
その依頼の報告を終え、城を出ようとした勇者一行を一人の兵が呼び止めた。
なんでも、勇者と話がしたい方がいるらしく勇者だけ、庭で待たされる事になった。
そして、少しして、勇者の元に現れたのがミーシャであった。
それからは言うまでもない。
あれよこれよという間に勇者は豚箱行きである。
被告人曰く
許可無く触れてなければ罪ではない。
冤罪だ。
勇者は変態である。
「ぃよいしょー!」
黒髪の少女を見失って数瞬。
勇者は少女が消えた幹に向かってダイビングクロスチョップを敢行。
所詮は張りぼての幹。
勇者の全体重を乗せた奇行に耐える術もなく呆気なく崩壊。
その先に続くは──
「あばばばばばばば!!」
階段。
地下へと続く階段に勇者もまた為す術もなく吸い込まれていくのだった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ところ代わり黒髪少女。
蝋燭以外に光源の無い薄暗い廊下で少女は荒い呼吸を繰り返す。
あれはやばい。
自分が備える全てのセンサーが一気に警報を鳴らした。
『勇者が来る』
それを耳にした少女は興味本位で人間の希望。人間達の最高戦力。
と、称されるそれを見に来た。
危険は百も承知。
でも、どうしても見てみたかった。
聞いてみたかった。
話してみたかった。
触れてみたかった。
自分の立場とは関係無く、いや、大いに関係あるが少女もまた勇者に希望を見ていた。
だが…
その希望は、夢は、脆くも呆気なく音を立てて崩れ去った…
「何事か?」
廊下の先。
闇の中から1人の男が現れた。
2mを越す大男。
その厳つい表情は小さな子どもなら見ただけで心臓が止まるのではないかと思う程。
だが、少女は一切の恐れもなく、さっきまでの少女とは別人になったかのような表情と雰囲気を出しながら口を開く。
「敵じゃ。迎撃態勢。」
「っ!…畏まりました──
───魔王様」
「うぐぐぐっ…なんの……これしきぃ!!」
階段を自己最速記録で転がり落ちた勇者。
その衝撃は並みではない。
全身打撲。
普通の人間なら立つことも出来ない程のダメージを負っていた。
だが、勇者は立ち上がる。
なぜ?
それは勇者という役職上、異常に幸運で打ち所が良かったから…否。
むしろ、運は悪い方だしダメージはかなりのものだ。
ならば、勇者としてどんな危機的状況でも立ち上がり敵に立ち向かう不屈の精神があったから…否。
むしろ、勇者は敵が現れれば進んで仲間の後方支援(応援)に勤しむタイプだ。
であれば───
「クンクンクン…ぐへへ、お嬢ちゃんの匂いはこの先だぁ~!」
─────勇者は変態である。
「っ!」
今にも走り出そうとした瞬間。
勇者は違和感を感じ立ち止まる。
そして、勇者は自ら地面に張り付くとそのまま耳を地面に押しつけ……
「…3…9…20…40……っち。」
舌打ちと同時に立ち上がる勇者。
そして、周りを見渡す。
一直線な廊下に、見える範囲で脇道は無し。
後ろは今来た階段のみ……
「急げ!人間だ!」
「勇者だ!」
「数は1人!数で落とすぞ!」
「武器はなくてもいい!さっさと見つけて囲んでしまえ!!」
バタバタと廊下をかける魔物の集団。
武器を手にしている者は比較的に少ないが如何せん数が多い。
いくら人間最高戦力と言われる勇者と言えど狭かろうが広かろうが囲まれてしまえばどうなることか。
その魔族の集団は廊下を突き当たり階段を上がり始める。
魔族の狙いが勇者の捕縛か殺害かはわからないがこのスピードと数から逃げ切るのは勇者でも……
全ての魔族が階段を上がりきり迷宮の森に出る。
そして、廊下はしんっと静まり返る。
「……ほっ!」
すたんと天井から降ってきたのは勇者だった。
勇者は魔物の気配を察知し、短い時間で思考し、薄暗い空間を利用し天井に剣を突き刺して張り付き、息を殺すことであの場を凌いだのだ。
素晴らしい判断力と長い冒険生活により身についた護身術と知恵。
そして、それを迅速且つ丁寧にやってのける。
さすがは勇者と言う所か。
「ぐっへっへ…これでオレ様の邪魔をする奴が勝手に出てってくれたわけだ。待っててねお嬢ちゅわ~ん!」
残念すぎる程に変態なのが悔やまれるが。
前書きと後書きって何を書いたら良いのだろうか……