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ロリな魔王と変態勇者  作者: 鹿鬼 シータ
20/21

オリガノン帝国


「ちっ、さっさと薪でも拾ってこい!」


「はいっ!ただいまっ!」


 尻を蹴飛ばされ慌てて森の中に駆けていく勇者。その背中を見ながらテントを立てる者や食事の下拵えをする者達から嘲笑や憐れみ、いいのか?と言う恐れを含む様々な声が漏れる。


「ちくせう…ちくせう…どうして、俺がこんな目に…」


「急げよ!雇い主を待たせんな!!」


「はぁいっ!!」


 森の外から先ほど尻を蹴飛ばしてきた男の怒声が響く。勇者はその声にビビりながらも大きな声で返事をするとこれ以上無駄口も叩かず作業に集中した。


 なぜこんな目に?それにはこんな訳が……



「てめぇこら。アホがこら。死ぬか?いや、殺すぞ、あぁ?」


「すびばせん…」


 魔王リリムの元を離れて十数日。勇者一行は新たな国へと辿り着いた。

 オリガノン帝国。この国は三つのダンジョンを領地に所有しており、そこで採取される魔獣の素材や魔石を武器や防具、日用雑貨からインテリアまで幅広く加工し売りにしている。他にも広大で肥沃な領土を用いて薬草や穀物などの生産も盛んである。

 ダンジョンとは何ぞや。ダンジョンとは自然に又は強大な力を持った魔族が故意に作った膨大な魔力の吹き溜まりが変異した空間で、外からの見た目は何の変哲もない洞窟や、見るからに人工物の扉や城など様々な見た目をしている。ただし、中に入ってみると実に不可解で全く別の世界が広がっている。どこまでも続く洞窟であったり、広大の砂漠であったり、はたまたマイナス数十度の銀世界であったり、火山や見たことも無い大都市であった記録もある。そのどのダンジョンにも共通しているのが、

一つ、ダンジョン内では無限に魔獣が生み出される。

一つ、ダンジョン内のどこかに核となる高品質の魔石とそれを守る強力な魔獣が存在する。

一つ、ダンジョン内は一定の抵抗力が無い者は即死する毒のようなものが充満している。

一つ、ダンジョンは長く放置していると拡大する。

 以上が現時点で知られているダンジョンの特徴である。そのため、自国にダンジョンを保有するこの帝国はダンジョンから富を得る代わりに定期的にダンジョン内の魔獣を減らして力を消費させる義務がある。現時点でダンジョンはこの世界に73箇所存在が認められ、どれも周囲にある国がそれぞれ管理している。そのすべてのダンジョンで富を得られるかと言えばそうではない。強力な魔獣ばかりが生み出されるダンジョンや金にならないのに数ばかりが多いダンジョン。更には長時間は居る事も出来ない過酷環境なダンジョンなどがあるため、ものによっては被害が出る前に軍や勇者に依頼しダンジョンを攻略することもある。その点、ここ帝国には時刻に保有する冒険者が十分すぎる程いるし、素材や魔石で儲けようと他国から新規の冒険者たちもやってくる。それに、ダンジョン内の毒に対する薬草も大量に生産しているため多少抵抗力の低い者でも冒険者として活躍できるためダンジョン経営は順調で国としては非常に安定している。そんな国。

 さて、そんな国にやってきた勇者一行、帝国をぐるりと取り囲む高い城壁。その四方に関所が設けられその内の一つから入国したのだが、まずは資金調達と情報収集のため冒険者ギルドに向かおうとなったのだがこれがまた遅々として進まない。城壁から店や民家が立ち並ぶ石畳の敷かれた大通りを三十分程歩くだけなのに一歩進んでは「お嬢ちゃん、僕ね良い物を持っているんだ。」神官に蹴られてまた一歩「可愛いねぇ。少し匂いを」戦士に殴られまた一歩「美味しそうだね?僕にも少しなめ」魔法使いに髪を掴まれまた一歩……

 どこから来たのか衛兵と冒険者の群れ。何とか姿を確認されずに逃げ込んだ路地裏で勇者はリンチされボロ雑巾のように地面にへばりついていた。


「戦士、首輪はどうした?」


「三つ前の国で引きちぎられてから買ってないよ。」


「よし、どうやら完全に巻いたようだ。このままでは日が暮れる、ギルドと宿の二班に分かれるべきだと思うのだが?」


「ちっ、意見には賛成だ。発案者が気に食わねぇけどな。」


「貴様の賛同など要らんよ。では、戦士、一緒にギルドに向かおうか。」


「あぁ!?ざっけんなてめぇ!戦士、あんたはあたしと行くだろ?なぁ?」


「うえぇっ?何でそんな喧嘩腰なのさ!と言うか、僕がどっちを選んでも納得しない流れでしょこれ?だったら、僕だこれと宿を探しとくから二人でギルドに行ってきなよ!」


「あぁ?何でこんな陰険な男と!?」


「はぁ?どうしてこんな野卑な女と!?」


「あぁ?…やんのかてめぇ?」


「上等だ。跪かせてやる。」


「あぁ、もう僕は行くからね。気が済んだらちゃんと行くんだよ?で、終わったら連絡頂戴ね?」


 最早お決まりの展開に戦士は特に呆れることも無く淡々と指示を出すとボロ雑巾を引きずりながら大通りに向かう。その後、オリガノン帝国では珍しく帝国軍本隊が出動するほどの冒険者同士の騒ぎが起きたらしいが犯人は捕まらなかったらしい。



『おう、こっちは済んだぞ?宿はどこだ?』


 ところ変わって冒険者ギルドの併設された酒場の一角。四人掛けのテーブルに二人の男女が腰掛けていた。両名とも美形で注目を集めていたが、それは好意だけではなかった。それは二人とも激しい戦闘でも行ったばかりのようにボロボロであったからである。いくら冒険者ギルドとは言えここまでボロボロなのは珍しい。そんな注目を浴びる二人の内、神官服の男の方は分厚本を片手に酒を嗜み、魔法使いローブの女は額に手を当てたまま果実水を舐めていた。


「あぁ?」


 不意に魔法使いが不機嫌そうな声を出す。彼女は遠方通信の魔法を使っており会話をするにしても声に出す必要はない。それを知っている神官は嫌な予感を感じながらそちらに目を向ける。


『いや、いい。とりあえず合流だ。……あぁ。ギルドの酒場に居る。……わかったよ。』


 通信を終えた魔法使いは深くため息を吐いてグラスに残った果実水を流し込むと一段と深いため息を零す。


「何があった?」


 大体想像は付いていたが聞かずにはいれなかった。聞かれた魔法使いも聞くなよとばかりに睨みつけるが、やっぱりこの感情を共有させてやろうと考え直し重々しく口を開く。


「逃げたってよ。」


 それを聞いた神官は聞かなかったことにして手元の本に視線を落とすこと数秒、やっぱり我慢できずに本に突っ伏して深くため息をついたのだった。


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