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ロリな魔王と変態勇者  作者: 鹿鬼 シータ
2/21

ある日の森の中


「なんでオレが…」


 鬱蒼と木々が生い茂る森の中。

 迷宮の森と呼ばれるそこを1人の青年が歩いていた。


 彼は──


「なぁにが『勇者よお主にしかできぬのだ!』だ。あの、禿散らかした肉だるまが!」


──勇者である。



 年は17。

 勇者=イケメンと言う方程式が当てはまらない中肉中背のフツメン。

 鍛え抜かれた肉体もなければ豪華な装飾の施された立派な装備もない。

 街中を普通に歩いていそうなGパンにTシャツ。

 そこに薄汚れたローブを羽織っているだけで、こんな森の中を歩いて回る装備では決してない。

 さらに言うなら、彼に手荷物は無く、腰に差さったRPGならば初めに貰えられそうな小振りな剣のみと、大型の獣が彷徨くこの森を舐め腐っているとしか思えないような装備だ。


「あ゛ぁ~、腹立つな~くそっ!」


 青年は一人苛立ちを吐き出す。


 3日だ。


 青年がこの森に入ってもう3日が経つ。

 その間、青年は朝露以外は口にしておらず苛立ちもピークに達しようとしている。


「どうしてオレが…」


 本日だけで何度も呟かれた言葉。


「こんな事になるなら意地でも断っときゃよかったな…」



──────

────

──




 あの日…いや、3日前の事だ。


「げぇふっ、いやぁ食った食った!相変わらずゲロマズだがな。」


 オレは食器の乗った盆を返却口に入れるとそのまま近くのベッドに寝ころんだ。

 ここはオレの部屋。

 四方をコンクリートの壁で覆われ、窓もない。

 6畳程の部屋にあるのはボロい机に、ボロいベッド。

 後は異臭を放つ穴…もといぼっとん便所。

 唯一の出入口は分厚い鋼鉄製の扉が1つ。

 その下には先ほど使った食器等の返却口。

 まぁ、出てくるときもこの穴からなのだが。

 さて、ここまで言えばわかるだろ?


そう、ここは独房だ。


 ここに入れられてから、かれこれ一週間くらいか…


「そろそろ、飽きてきたなぁ」


 そんな時だった。


「おい、出ろ。」


 いきなり扉が開け放たれ1人の男が入ってきたは。


「おいおい、人様んちの扉を勝手に開けてんじゃねぇよ!まずはノックしてご機嫌は如何ですか勇者様?ってぇのが──」


バタン


「調子こいてすいませんでした!開けて下さいお願いしゃーす!」


 扉の奥からチッと隠す気もない舌打ちとともに扉が開かれる。


「イヤッフ~!シャバの空気よこんにちぶべっ!?」


 一週間ぶりの外の景色(コンクリ製の廊下)に興奮したオレは嬉しさのあまり気付けば飛出していた。

 だが、その記念すべき第一歩目を払われそのままコンクリ製の床と熱烈なキッス。


「っ~!なにしやが…てんでしょうか?」


 熱を放ちジンジンと痛む顔面を片手で押さえながら睨みつけるように顔を上げた…のだが。


「なに勝手に飛び出してんだお前?びっくり箱の中味か?」


「あはは、そっすね~。実は見た目に反して割れ物なんで慎重な扱いを…サーセン。」


 地べたに張り付くオレに後ろで控えていた2人の兵士が手に持っていた槍の穂先を突きつけていた。

 しかも、さらに軽口を開こうとするオレに黙れと言わんばかりに押しつけてくる。


 痛いから!黙るからやめてくれ!


「国王様がお呼びだ。今すぐ立て薄汚い犯罪者が!」


「ぐへっ!」


 男のつま先がオレの脇腹に食い込む。


「ちょいちょい、さっきも言ったけど俺はわれ…はい立ちました!!」  


ガキン


 と、言う音と共に先程までオレの頭があった場所に男の剣が突き刺さる。


 殺す気ですかこのやろう。



「ここだ。余計な事はするなよ?お前は大人しくYESと答えるんだ。」


 薄暗い廊下から階段を上がり、くねくねと絨毯の敷かれた廊下を行きついた先。


 謁見の間へと辿り着いた。


 何度か訪れた場所だが、今のような立場で訪れるのは初めてだな。


「入れ。」


 扉の中から聞こえてきた厳つい声。

 そして、扉は内側から開かれる。


「よし。」 


 別にオレは悪いことをしたわけではない。

 あれは事故だ!冤罪だ!

だからオレは堂々と───


「さっさと入れ!」


「ぶふっ!」


 俺は男に背中を蹴られつんのめるように謁見の間へ躍り出る。


「へぶっ。」


 ここで体勢を立て直せればまだよかった。

 だが、それは叶わず足を絡ませ顔面から高そうな絨毯の敷かれた床へとダイビングキッスをかます。


…あら、優しいキッス。


「重犯罪者である勇者。つれて参りました。」


「ぐむっ!」


 いざ起きあがろうとした瞬間、男に背を踏まれ息が詰まる。

 さっきから偉そうに何度も何度も…


「……」


 さすがに勇者様もお怒りになられますのよ!

っと、喉元まで出掛かったがやめた。

 だって、それを言ってたら首筋に当てられた男の剣に首を落とされかねないから。


「さて、久しいな勇者よ。頭は冷えたか?」


 頭上から聞こえる声に顔を向ける。

 少し離れた玉座には禿て贅肉をしこたま蓄えた肉だるまがふんぞり返っていた。


 頭は冷えたか?だと?ぶさけんな。  


「だいたいあれは「YES」─イェッサーもう完璧でさぁ!」


「む?そ、そうか?」


 何言ってんだお前?

 みたいな顔で見んなやキモイな。

てか、首が痛い!

絶対血ぃ出てるだろ!

 

「勇者ともあろうお主があれほどの罪を犯すとは正直、信じられなかったが…一度、頭を冷やしてどうだ?己の愚かさが身に染みたであろう?」


「いや、だから「YES」もう、これでもかと言う程身に染みやしたぁ!もうしねぇからこいつをどうにかしてくれでございます!」


 なんなんこいつ!

 キモイわ!怖いわ!痛いわ!!


「ふむ、これレーギス。もうお前は下がってよいぞ。」


「なっ!しかし「YES」…」


「ぷぇっ」


 謎の声が出た。


「しかし、こやつは重犯罪者ですぞ!」


「レーギス。」


「ぐっ、失礼しました。」


 男、いやレーギスは一度、オレをギロリと睨みつけた後、大人しく剣を引き、最後にオレの背中をぐっと踏みしめてオレを解放した。


よし、謎の声は我慢したぞ。


「お主の行いはもう水に流そう。」


 だから違うって。


「そして、お主を呼んだのは他でもない。」


 ここで、肉だるまが一拍置き険しい表情を作る。


「魔王の居場所を特定した。」

 

「…………で?」


「そこで、お主には勇者として「いやいやいやいや!」む?」


 む?っじゃねぇよ! 


「もしかしてオレに魔王の討伐に行けなんて言うつもりじゃねぇよな?」


「その通り。」  


「アホかてめぇは!知ってんだろ?魔王を相手にするには――っ!」


 突如、向けられた刺すような殺気。

 オレは反射的に早く首を傾ける。

 スヒュン…と、頭上で風を切る音がした後にハラハラと数本の髪が舞い落ちる。


「ちょっ!まじか!今のはダメっしょ!」


 オレの背後で剣を振り切った体勢でこちらを睨むはレーギスたん…おぇっ


「貴様ぁ、先程からの王への物言い…立場がわかってないのか?」


「ちょっと待って、吐きそうだから。」


 プルプルと怒りに震えるレーギス。

 だめだ、このおっさんをたん付けで呼んだときの破壊力…この世界を破壊しかのない。


「レーギス!落ち着くのだ!」


「…はっ。」


 おいおい、1回で大人しく引き下がるくらいなら剣抜くの止めてくれる?

 その程度の事で傷付けられたオレのハートはブレイク寸前よ?…はいそこ、自滅乙とか言わない。


「しかし、レーギスの言う事も事実。お主は確かに我が国のために働いてくれた。だからこそお主の振る舞いも流してきたが、先日のお主の醜行は黙って流せるものではない。わかるな?」


 わかりません。

 てか、オレ無罪です。


「お主が我が命を聞けぬと言うならば仕方ない。お主にはリステイン王国の第三王女、ミーシャ・リステインへ醜行を働いた罪で打ち首とするしかないか。」


 ちょっと待て。


「それはさっき水に流すってって違うか。そもそも誤解なんだよ!あれは─」


「もうよいのだ。今すぐ決めよ!首を飛ばすか、魔王討伐か!さぁ、どうする!」


「ぐっ、」


 ふさけんなよ。

 特にレーギス!

 なに後ろで剣を構えてんだ!


「っち、わかったよ!行けばいいんだろ!」



──

────

──────


 そして、今に至る。

 あれから無理やり剣一本持たされてここに転移されたのだが…


「みつからねぇじゃねぇか!!」


 迷宮の森。

 噂に違わぬその森で青年もとい勇者は迷子になっていた。


誤字脱字、アドバイス等ございましたらよろしくお願いします。

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