勇者一行と騎士
「はぁ…。」
魔族と共闘し王国軍を退けたあの戦いの翌日。
勇者一行は迷宮の森の中にいた。
「はぁぁぁ…。」
迷宮の森とは言っても、最深部から離れたそこは普通の森と何の変りも無く、勇者一行+αは順調に王国に向け歩を進めていた。
そう、順調に……
「はぁぁぁぁぁぁ――」
「鬱陶しいわぁっ!!」
「げぶぉっ!!」
「ぐがっ!?」
「うわっ!」
「おぶっ!!!」
魔王に別れを言えなかった事を根に持っているのか、勇者は恨みのこもったため息を吐き続ける。
それち対し、ついに限界を迎えた女魔法使いのドロップキックが勇者の背中に炸裂。
軽く、魔法による身体強化が施されていたのか勇者はサッカーボールよろしく勢いよく飛び出すと、正面を拘束力皆無、形だけ腰に縄を繋がれ歩いていたレーギスに衝突した。
そして、不意打ちも良いところのその衝撃にレーギスも堪らず弾け飛ぶ。
さらに、レーギスの縄を掴んでいた少年戦士までもがつんのめるも、さすがは肉体派。
一歩踏み出したその足で完全に勢いを殺し、しっかりとその場に止まったのだ。
おかげで、レーギスは後ろからの衝撃で勢いよく前に出ていたのを少年戦士が堪えてしまったため、形だけの腰に巻かれた縄に引き戻され、二度おいしい思いをしてしまったのだった。
「けっ、何か言いたいことがあるならはっきりと口にしやがれ、この穀潰しが!」
「「………」」
「あわわっ、捕虜の兄ちゃんが泡吹いてる!!」
「おいおい、まだ本調子じゃないアホにそんな衝撃をあたえるなよ……これだから、この野蛮人は。」
「あぁん?陰湿野郎が何か言ったか?」
とある、事情で力(魔力)を使うと死に掛ける勇者は先日の戦闘で大量の魔力を使ったため、いまだ、本調子には程遠い体調であった。
そこにあのドロップキック。気絶してしまうのも無理はない。
そして、捕虜のレーギスもそれなりに良くない体調であの衝撃、主に二度目の衝撃で失神してしまった。
そんな事態でも変わらずいがみ合う二人……相変わらずカオスなパーティである。
「さて、順調に行けば明日にでも国に着く訳だが。正直、戻る意味はあるのか?」
二人に回復魔法を施した神官は休憩がてら腰を下ろしていた二人、特に女魔法使いに問いかけた。
「あぁ、このまま次の国に行ってもいいんだけどなぁ……あそこは、それなりにでかい国だからな、懸賞金でも掛けられたら面倒で仕方ないからな。それに、分が悪いのはこちらだけではないだろう?」
「まぁな。」
「なに?どったの?」
悪い笑みを浮かべる女魔法使いに神官は特に反論することなく納得する。
唯一、勇者だけは何もわからないと言った様子だが答えてくれる者はこの場にいなかった。
「ふっ…ふふふ…ふははは「やかましい!!」げぶっ!?」
翌日、王国の城壁が視界に入るところまで来た勇者一行+α。
「だめだよ!捕虜は大事にしないと偉い人に怒られるよ!」
「うぅ…ぐぅ…」
女魔法使いに蹴りを入れられ、蹲るレーギスの腰をさすりながら抗議するのは少年戦士。
我関せずは神官。
飛び火はごめんだと、さり気無く神官の陰に隠れるのは勇者。
「あんだよ、あたしが悪いのかい?突拍子もなく気味悪い笑い声を出したそいつのせいだろ?」
この二日間、自分が捕虜となったことを自覚したレーギスは何の拘束力を持たないただのロープを腰に巻かれているだけという状況下でも大人しく素直に勇者一行に付従っていた……のだが。
「貴様らはもう終わりだぁ!国はもう目と鼻の先!俺様を生かした事を死んで後悔しろ!!」
「あっ、逃げた!」
介抱にあたっていた少年戦士の一瞬の隙をついてレーギスは捨て台詞と共に駆け出した……のだが。
「ここまで一緒に来たんだ、今更一人先に行くなんてつれないこと言うなよ。」
「ぐふっ!!っ、ファイアーボール!」
「うわぁっち!?」
神官の陰に隠れていた勇者が走り出したレーギスの腰から垂れ下がるロープを掴む。
それにより、速度が落ちたのは一瞬。
すかさず、反転したレーギスは勇者に向け火球を放つ。
「貴様らは大罪を犯した!もはやこの地を生きて出られると思うなよ!!」
勇者の手を逃れたレーギスがそう捨て台詞を吐くと高笑いしながら国に向け駆けていく。
身体強化の魔法も掛けてあるのだろうレーギスの背中はあっという間に小さくなっていく。
「戦士、やめとけ。」
「……了解。」
勇者の命令に少年戦士が従う。
まるで、投擲を行うかのように大剣を肩に担いでいた少年戦士は先ほどまでの無表情ではなくどこか不満そうな顔で勇者を睨みつける。
「また、リーダーの首に懸賞金が掛けられてもいいの?」
「よくはないさ。でも、殺すのはもっとよくない。」
「むぅ。」
納得はしていないが、勇者の決定に異を唱えるつもりはないらしく少年戦士は頬を膨らませてそっぽを向く。
対する、勇者は苦笑いを浮かべて少年戦士の頭をぽんぽんと撫でると何も言わずに前を向く。
兵達は逃がしたんだ。今更、あいつ一人生かそうが、殺そうが何も変わらない。
「さぁて、野郎共!王様にごめんちゃいしに行くぞぉ!」
「……もう、こいつを簀巻きにして差し出した方が早い気がしてきたな。」
「「………」」
あれ、女魔法使いの言葉を誰も否定してくれないんですけど……。
「失礼ながら、これより先は我々の先導に従うと同時に武器を預からせて頂きます。」
レーギスの逃走からしばらくして、勇者一行はリステイン王国へとたどり着いた。
そこに待ち受けていたのは15名の騎士。
「少なくない?」
各々、武器となるものを騎士に預ける中、少年戦士もまたそれに従い、自分の預けた大剣を3人掛かりで運ぶ騎士を見て不思議そうに呟いた。
「この国の王も馬鹿では無いってことさ。」
少年戦士の言葉を返したのは神官。
勇者一行は魔王討伐の任を受けたにも関わらず、討伐任務を失敗したどころか、むしろ率先して王国軍を追い返したのだ。
だからと言って、戻ってきた兵にその事を聞かされた王はすぐさま討伐隊を組むことはなかった。
なんせ、魔王まで味方に付けた勇者一行に勝てるなど思いもしないのだから。
だからこそ、王は何もしなかった。なぜ、そのような事態になったのかは勇者のこれまでの言動と、この度見つけた魔王の容姿で理解出来た。
ならば、これ以上相手を刺激しなければ、これ以上の被害もあるまいと……
後は、ある程度ほとぼりが冷めたころに勇者一行に懸賞でも掛ければどこかの国の誰かが処分してくれるはず。
そうすれば、この怒りも少しは晴れると言うもの。
そう考えていた国王の思惑は外れ……
彼らは国に戻ってきた。
故郷でもなんでもない。旅の途中でたまたま立ち寄り、依頼を受けただけのそんな国に。
「王様も今頃、慌ててんだろうな!手配書の用意をしてた相手が、何食わぬ顔で帰ってきたんだからな!」
女魔法使いは楽しそうにそんな事を言う。
「あの肉ダルマには一発ぎゃふんと言わせてやる。飲まず食わずでさ迷い歩いたあの3日間……覚悟しろよぉ」
勇者は勇者で指の関節鳴らしながら悪役ぽい表情を浮かべる。
そんな、彼らの余りの言いようにも騎士達の反応は薄かった。
王に忠誠を誓った、誇り高い騎士達。
だが、彼らも人であり、戦士だった。
今の、油断しきったように会話を続ける彼らだが、例え背後から切り掛かったとしても間違いなく返り討ちにあう事くらい騎士達は本能で理解していたのだ。
それに、もしも彼らの怒りに触れてこんなところで暴れられた日には……と、騎士たちは怒りよりも恐怖が勝っていたのだ。
そんな彼らは、心から願う。
何事もなく、且つ早く終わってくれと。




