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ロリな魔王と変態勇者  作者: 鹿鬼 シータ
15/21

嫌な予感


「おい、リーダー!それ以上は地形が変わる!」


「てか、どう見てもやりすぎだろ。」


「リーダーのあほー!」


 そんな勇者の姿を見た三人はそれぞれに声を上げる。

 だが、距離がありすぎるせいかその声は届かない。

 そうこうする内に勇者は準備が整ったのかその手を天に掲げる。

 何をするつもりかわからないが、どこに打とうと地上へのダメージは免れまい。


「もう、間に合わないか……」


そう言うと、神官は魔王に向き直る。


「えっ……あの、なに?」

 

 いきなり視線を向けられた魔王は思わず声を詰まらせる。


「勇者を呼べ。」


「勇者を……呼ぶ?」


 いきなり告げられた言葉に魔王はどうすればいいのかわからず戸惑う。


「あぁ、呼ぶんだ。文字通りな。」


「え、えと……」


「早くしろ。ここいら一体を海の底に沈められたいのか!」


 神官の鬼気迫る言葉に魔王は気圧されながら、思い付いた言葉を考えもせずに口にした。


「た、助けて!ゆう「勇者見参!!」ひゃっ!?」


 魔王の正面。

 向き合っていた神官から庇うように間に割り込む形で突如姿を表した勇者。

 その過程を認識出来た者はこの場にいない。

 気づいたら居た感じだ。


「おのれ、神官!よくも俺の魔王たんに手を出してくれたなぁ!」


「はぁ?…また面倒な……って、おい!それをこっちに向けるんじゃない!すぐに消すんだ!」


 何を勘違いしたのか、近くにいるだけで体調を崩しそうなほど圧縮された大魔力の魔法を神官に向ける勇者。

 堪らず神官が止める、その声は本気の焦りを感じる程裏返っていた。


「幼女の笑顔が俺を強くする!幼女の嘆きは俺を引き裂く!幼女の悲鳴が俺を呼ぶ!!神官!貴様の血は何色だぁ!?」


「やばいやばいやばい!社会不適合者が発狂しやがった!あと、クソ女!俺を盾にするんじゃない!」 


「黙れ腐れ信徒!あんたの仕事はあたしの盾になる事だろう!喜んで死ね!戦士、あんたも来な!」


「あ、アイアイサー!!」


「バカめ!俺に発狂したこいつの一撃が止められるはずないだろ!まとめて消されたくなかったらこの社会のゴミを止めろぉ!」


 まさかのカオス。


「ゆ、勇者?」


「なぁに、魔王たん?」


 そのカオスに終止符を打つは魔王。

 魔王の呼び掛けに魔法を溜めた手はそのままに半身を向ける。


「と、とりあえず止めよ?」


「はい、やめ「とったぁ!」ぶしっ……」


 魔王の申し出を受け、魔法を解き両手を広げて魔王に向き直った勇者の後頭部を間髪入れず少年戦士の大剣の腹が必殺の勢いで叩きつけられた。


「「「…………」」」


「……やり過ぎじゃね?」


 一瞬、凍りついた空気の中、女魔法使いの声が静かに吹き抜ける。



「まぁ、これのことは置いといてだ。」


 気まずい空気の中、神官が仕切り直すかのように咳払いをすると、いまだ呆然とするレーギスへと向き直る。


「さて、現状を見る限り今の戦況をひっくり返す方法は無いと思うのだが。」


 神官の問いにレーギスが顔を向ける。

 顔色は悪いがその眼にはまだ僅かに闘志が感じられた……女魔法使いが次の行動を起こすまでは。

 

「とりあえず、これで全部か?」


 勇者の放った魔法により飛び散っていた国王軍。

 それらを女魔法使いは魔力探知で居場所を特定し、更に風の魔法で一人残らず一纏めにすると、レーギスの周囲にばら撒いた。


「なっ!おい!しっかりしろ!」


「安心しろ、みんな生きている。先の戦闘で負った傷も酷いものは粗方治したからな。」


 自分の周囲に兵たちがばら撒かれた瞬間、焦りと驚きの混ざったような顔をしたレーギスだったが、すぐに近場の者から状態を確認するように兵たちに声を掛ける。

 それを見た神官が、女魔法使いが一纏めにした瞬間に立ち上がれる程度に回復魔法を掛けた事を告げるとレーギスは安心したように息を吐く。


「で?まだやるのかい?」


 放り投げられた国王軍の兵たちはその衝撃で気が付いたのか一人、また一人と立ち上がる。

 そこに女魔法使いの問い。


「………舐めやがって、やらない選択肢があるとでも思うか?」


 レーギスだけじゃない。気がついたばかりの兵たちもすでに戦う意思を見せている。

 武器を手にするものはそれを構え、武器を失ったものは己の魔力を高め、決死の覚悟を固めていく。

 みんなわかっている。

 あれだけの戦闘を行った後だと言うのに、数千の人間を探し出し、まとめて放り投げる魔法使い。

 ただでさえ魔力の消費が激しい回復魔法でどんな傷も癒し続けた上で、一度に同じく数千の人間を治療してみせた神官。

 それだけの事をしておいて息も切らさず余裕の態度を見せ、さらに後ろには、その怪力を生かし戦場で暴れまわった少年戦士に正真正銘、怪物のバハムート。

 そこに、それらを上回る力を持ち、従える魔王と勇者。

 ダメ押しとばかりに指揮が異常に高い、無傷の魔物兵数百匹がそれぞれ武器を構え控えている。

 これだけの状況で勝てるとは口にするのもおこがましい。

 だが…だが、可能性は0じゃない。

 事実、あの戦力で国に攻め込まれたら、ただでは済まない。

 今ここに、これだけの戦力を集めている為、国の防御力が低いのもあるがたとえ万全の態勢を整えていたとしても甚大な被害は免れないだろう。


「国を守る為にも…」

「今ここで…」


 奴らがこのまま国に攻め込む可能性は低いだろう。

 だが、低いだけで無いのではない。

 だからこそ、兵たちは立ち上がる。唯一、奴らに勝るものが数だけである以上決死の覚悟で。

 

「止まらないか。」


「止まれんな。」


 諦めたように呟く神官に覚悟を決めて言葉を返すレーギス。

 ここで死ぬか、魔王を殺して勇者になるか。


「全軍…掛かれ!!」


 レーギスは危機的状況且つまたとないチャンスの狭間で押し潰されそうになりながらも突撃の合図を掛けた―――


『おおぉぉっ…がっ!?』


 のも束の間。

 先頭が数歩前に出た瞬間、ぶつかったのだ。


「結界か!」


 先頭だけでも数百。

 その後ろからも勢いよく、次から次に押し寄せる兵たちの進軍をあっさりと、確実に止めたそれは神官の結界であった。


「全体止まれ!止まるんだ!!」


 一度、火が付き声を上げながら突撃する兵たちにレーギスの声は届かず、異変に気づき自然と止ったのは半数近くの兵が透明な壁に支えられる形で小山を作ったころだった。


「癒した者を自ら傷つけるのは心が痛むのだがな。」


「けっ、どの口がほざいてやがる。」


「あぁ?」


「あぁん?」


「ちょ、二人とも!今はそんなことしてる場合じゃないでしょ!リーダーもいつまで寝てるのさっ!」


「えぐぇっ!?」


 すぐにいがみ合う二人を慌てて宥める少年戦士はその片手間で勇者の腹に蹴りを入れた。


「うぐっ…なんか、いろいろいてぇ。」


 もはや、リーダーの扱いではないそれにより目を覚ました勇者だったが、全身、主に頭と腹の激痛でのた打ち回る。


「勇者…」


 そんな、カオスを展開する中、この場のキーマンこと魔王が口を開く。


 さすが勇者…さすが変態。


 小さくはない喧騒の中、耳を澄ましていなければ聞き逃すほど小さな声で呟かれた魔王の言葉に逸早く反応し、瞬間移動のごときスピードで魔王に迫ると接触する寸前で急制動。


「呼んだかね?」


 魔王の耳元で勇者は囁いた。


「ひぅっ…あ、その。わたしはどうしたら…」


「どう?…あぁ。」


 切羽詰まったような表情で問う魔王に勇者は周りを見渡し、状況を把握する勇者。

 いがみ合う二人、自分に蹴りを入れてくれたであろう少年戦士。

 神官の結界に堰き止められた国王軍……。


「とりあえず消飛ばすか。」


「「まてまてまてっ!」」


「リーダーのあほー!」


「息ぴったりだな、お前ら。」


 小さく呟かれた、無差別死刑宣告と高められた魔力。

 勇者一行は真の敵はここにいたとばかりに身構える。


「まぁ、冗談はさておき。神官、この結界を解くんだ。」


「了解。」


 勇者は皆の反応を見て悪戯が成功したとばかりにニヤリと笑みを浮かべた後、すぐに表情を引き締め、神官に命令を下す。

 神官も居住まいを正すと、すぐに実行に移した。

 結界で止められた兵たち。

 その結界を解けばどうなるか火を見るよりも明らかであった。

 結界によりかかる形で出来ていた人の山はすでに無く、結界をを包囲するように陣形が組まれているのだから。

 向こうの準備は万端。

 それでもこちらの準備する時間を作るでもなく、いきなり結界を解くように言う勇者に策はあるのかと問うでもなく、それが最善であるかのように命令に従うのは信頼故か…

 そして、結界は解かれた。


「かかれぇ!!」


 それと同時にレーギスの合図で兵が駆け出す。

 軍と軍の距離は最早、数十m。

 魔法を放つにも迎撃の為に陣形を変えるにも、完全に手遅れ。

 それをわかった上での命令だったはず。

 だが、その命令を下した勇者はなかなか次の指示を出さない。

 さすがに、仲間を巻き込まずに敵だけを一瞬で殲滅するには自分も女魔法使いも敵と近づきすぎている。

 なのに、なぜ何も言わない?

 まぁ、それもそのはず。


「リーダー。この状況で一体なにを……いねぇ!?」


 不審に思った神官が振り返ったそこに勇者の姿が無いのだから。

 ついでに、魔王の姿も見えないことから勇者がどさくさに紛れて誘拐と言う名の犯罪を犯したのだろうと推察。


 一体、何をするつもりだ?


 後先、考えずに行動する勇者に散々振り回されてきた神官はこの後の展開が予想できず嫌な汗が背中を伝うのを感じた。


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