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ロリな魔王と変態勇者  作者: 鹿鬼 シータ
14/21

勇者の一撃



「勝利」


 勇者がポーズを決め、勝利宣言を行う戦場は水を打ったような静寂に包まれている。

 みんな動揺しているんだ。

 わたしを含め、みんな、ムートさえも。

 わたしたちと勇者の間に倒れる王国軍の兵士たち、その数、数千。

 そして、それを率いて攻めてきた将も今やぼろぼろになって四肢を投げ出している。

 勝った……勝った?

 あれだけの戦力差で?

 あれだけの最悪な状況下で?

 勇者、たった一人現れただけで……勝ってしまったの?



「あれ。勝ったよね、俺?」


 劇的勝利とは言えずとも、完全に負け戦だった戦況をひっくり返す発端となり、尚且つ敵軍の将であるレーギスを殴り倒し決着が着いた今しがた。

 勝利のポーズと勝鬨。

 勇者は歓声と共にみんなが駆けつけ褒め称えられることを期待していたのだが、あまりの静寂に不安になりキョロキョロと周りを見渡し始めた。


「大丈夫だよリーダー!ちゃんと勝ったよ、今回は!」


 と、少年戦士が微妙に引っ掛かる声を掛けるも、一番駆けつけてほしい魔王は未だ動かないまま。


「ぐぅっ……」


 そんな中、一番聞きたくなかった声が勇者の鼓膜を叩く。


「うへぇ、しぶといなぁ。」


 勇者に打ち据えられたレーギス。

 彼は笑いの止まらない足でゆらりと立ち上がると勇者を睨み、後方で倒れる兵たち、そして、勇者一行とその後ろに控える魔王へと視線を送る。


「なんだこれは……なんで、こんな……ふざけんしゃねぇぞおらぁ!!」


 レーギスが吠える。

 体はぼろぼろ、体力はギリギリ。

 それでも、それを感じさせないレーギスの声は静まり返った戦場に高々と響き渡る。


「おいおい、あんまり無理をす「立ちやがれ野郎共!!」……」


 レーギスに声を掛けたのは勇者。

 だが、まるで聞こえないとばかりにレーギスは怒声を被せる。

 そんな、レーギスの声に王国軍の兵たちがふらふらと立ち上がる。


「貴様等はここに何しに来た!!」


 それを一瞥し、レーギスは更に続ける。


「これは、面倒な事になるな。」


 神官はぼそりと一人ごちる。


「貴様等の敗北は国の敗北、国民の死と知れ!」


 血を流し、傷だらけの兵たちの目に戦意が点っていく。

 これだけの兵力を任され、率いているだけあって兵の焚き付け方が上手い。

 いや、それだけじゃない。

 彼自信、立場ある人間だ。

 それなりに、人徳もあるのだろう。


「これだけの戦力差!狙うは魔王一匹!一人、一撃、届けば勝ちだ!」


 兵が自分を、仲間を鼓舞するように声を上げる。

 もはや、これは止まらない。


「魔王様。」


 ムートが魔王の前に立つ。


「一歩を惜しむな!命を惜しむな!仲間を惜しむな!我等一蓮托生、我等の、一撃で魔王を滅する!全体構えろ!!」


 一瞬の静寂。

王国軍が構える。

魔王軍が構える。

 魔王がムートを押し退け、前に出ようとする……のを女魔法使いが欠伸しながら押し止める。


「全体……突撃!!」


『うおぉぉ……っ!?』


 王国軍の進軍開始と同時だった。

 辺りから音が消え、まるで昼間の様な明るさが全てを包んだ。


「あの、かっこつけたがりめ。」



 爆音、爆風、そして、衝撃。

 魔王軍並びに勇者一行の二人は透明なドーム状の膜に覆われ被害は無いが、皆が突然の事態に狼狽えている。

 そして、王国軍。

こちらは、被害が甚大である。

 爆音による三半規管へのダメージ、爆風と衝撃波により木々諸とも吹き飛ばされ、叩きつけられ、元々、動ける状態ではない体に鞭を打ち決死の覚悟で立ち上がった兵たちを悉く戦闘不能に追いやった。

 だが、それだけでは終わらない。


「なんだよ……あれは……」


 衝撃が襲ってきたのは背後から。

 勇者の拳だけで沈められたレーギスは他の兵たちに比べると比較的に軽傷であった。

 更に、勇者は身体強化を使っていなかった事も幸いして無防備な状態で受けた最後のラッシュも身体強化を施し、自然治癒を高めた今では先ほどの衝撃波により出来た擦り傷を残しほぼ全快している。

 そんな、レーギスの背後。

 その光景を見たレーギスは言葉を失った。

 

そして、後悔した。



「うにゃあぁぁっ!?」


 悲鳴を上げるは少年戦士。

 レーギスが兵たちを立ち上がらせ、特攻を掛けたと同時だった。


「……俺をシカトした上に、もはや眼中にねぇってか?」


 そこには、額に青筋を浮かべながら不気味な笑みを浮かべる勇者がいた。

 これはダメだ。

 少年戦士はこの後の展開が読め、勇者を止めなければと行動に出る。


「り、リーダー!一回落ち着こうよ!ね、リーダー!」


 だが、そんな少年戦士の声は勇者の耳に届かない。


「上手くいけば魔王たんが惚れ直すこと間違いなし……げへへっ」


 などとほざきながら袖を捲り、右腕に着けた魔具の鎖を僅かに緩める。


「―――――」


「っ!」


 そして、何かを唱え、その手を海に向けた。

 それを見た少年戦士はすかさず耳を塞ぎ、その場にしゃがみこんだ。

 その刹那。

 閃光、爆音、爆風、衝撃。

 少年戦士はそれに備えての行動だったのだが、身の丈を越える大剣が爆風に煽られ使い手を道連れに大空へと飛び立った。


「これで、魔王たんの心は頂いた!いひゃはっはっは!!」


 そんな、少年戦士に気づかずバカ笑いする勇者を眼下に少年戦士は成す術なく……


「リーダーのあほー!」


……ふっとんだ。



 遠・中・近、オールレンジで敵を殲滅して見せた魔法使い。

 どんな攻撃も跳ね返し、どれだけ重症を負っても回復させてみせた神官。

 何十人に囲まれても構わずまとめて吹き飛ばし、重量もかなりのものであろう大剣を携えていると思わせない俊敏性と怪力をみせる戦士。

 正直、この三人に攻められたらわたしを含む魔王軍なんてあっという間に壊滅していたであろう。

 いくら、ムートでもあの三人をまとめて相手には出来ない。

 現に、今回の王国軍の実に七割以上は三人が、残りは殆どムートだったけど、ムートだけだったらきっと勝てなかった。

 どうして、そんなすごい人たちが勇者についていくのだろうか?

 全く釣り合いが取れてない。

 さっきまではそう思ってた。

 次元が違う。

 まるで溶岩のような火柱……いや、火柱なんてものじゃない。

 とてつもない太さの赤黒いそれ、それが、沖の方で雲を突き破り先端が確認できないほど高くまで立ち上がっていた。

 勇者、あの人はいったい……


「うにゃあぁぁっ!?」


「っ!」


 思考を打ち破ったのは一つの悲鳴。

 あれは、戦士さん?

 こ、こっちに飛んでくる!受け止めないと!

 慌てて動こうとする魔王。

 だが、それは杞憂に終わる。


「子羊が飛んで来てんぞ神官。」


「ふんっ、見たらわかる。」


 その会話の後に結界を解いたのか息をするのも辛いほどの熱風が頬を撫でる。


「なんだ?その言い方はよぉ。」


 そんな中、神官の態度が気に食わなかったのか女魔法使いがかみついた。


「なにか問題でも?」


 神官も神官で、まるで威圧するように女魔法使いに体ごと向き直る。


「やるかい?」


 神官の威圧に負けない何かを滲ませながら女魔法使いは詰め寄る。

 だが、そんな事をしている場合ではない。


「あ、あの!二人とも危な―――」


 大剣ごと少年戦士が二人突撃する寸前。

 思わず声を上げた魔王だったがやはり杞憂であった。


「あぐぇっ!……た、たすかったよ。首が痛いけど……」


 どちらの魔法か、宙にピタリと固定された大剣。

 少年戦士はちょうど睨み合う二人の間に突っ込んで来たため、二人に同時に襟首を捕まれ、地面に叩きつけられる事態にはならなかったが、苦しそうに首を押さえている。


「なぁ、あいつ、どこまで外したんだ?」


「俺たちに流れてきてない所を見るに完全に外したわけではないだろうが……」


 女魔法使いが珍しく、やや緊張気味に口を開く。

 並びに、神官も心なしか声が固い。 


「うん。大丈夫だよ。ほんの少し緩めただけ。」


 その答えにほっとする二人は少年戦士を下ろすと前を向き直る。

 沖の火柱はもう消えている。

 戦場には、レーギスが一人だけ立っており、気絶していない兵たちは完全に戦意をへし折られたらしく武器を下ろし呆然としている。


「話が違う……」


「魔法が使えないって……」


「もうだめだ……」


 ポツリポツリと聞こえる声は次々と伝染していき次第に大きくなっていく。


「くっ、お前等……くそ、なんだよ……なんなんだよあれ……」


 その声はレーギスにも届いていた。

 だが、それに渇を入れ再び戦場に復帰させる事はさすがに出来なかった。

 レーギス自信もまた勇者と言う男を見誤っていたのだから。

 そして、その勇者はと言うと……



「もういっちょ、いっくぞー!!」


 昂っていた。

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