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ロリな魔王と変態勇者  作者: 鹿鬼 シータ
10/21

呪い持ち



 どうしてこうなった?


 レーギスは次々と迫り来る魔物達を時に切り伏せ、時に魔法で捩じ伏せながら苛立っていた。

 数、質共に上回り、人質もいた。

 さらには一時、魔王までもが我が手の中に…


 絶対的な優位。


 確実な勝算。


 それらを持ちながら今や乱戦状態。

 数ではいまだ優勢だが思いの外押し切れない。

 原因の1つは勇者一行の裏切り。

 噂は耳にしていた。

 だが、その戦いを目にする機会はなかった。

 その噂は…いや、噂以上だ。

 国王軍のなかでも選りすぐりの実力者達をまるでたかってくる虫をあしらうかのように蹴散らす様は戦慄を覚える。

 奴らは本当に人間か?

 そして、魔王軍も然り。

 魔物一体一体の実力は大したことはない。

 だが、士気が異常に高い上にあれ──


【グルルァアァァ!】


 空の支配者、バハムート。

 奴の存在はあまりにもイレギュラーすぎた。

 大型の幻竜種。

ランクは規格外。

 専門の装備もなしではいくら選りすぐりの兵でも足止めにすらならない。

 近づけば木の葉のように撒き散らされる。

 もはや、奴の独壇場だ。

 もし仮に勇者一行がいたならば…いや、仮の話しなど今はいらぬ。

 そもそも、この状況を作り出したのはあいつだ。

 あいつさえ…あいつさえ現れなければ……


「ちゃーっす!ご無沙汰してまーす!あれ?どしたの?今にもうんこ漏れますぅみたいな顔して?」


「よくも俺の前に姿を現せたな…この異常性癖の糞犯罪者め!」


 レーギスの前に現れたのは勇者。

 その顔を見たレーギスはこの魔物と勇者一行に対して正面切っての戦闘と言う状況を作り出された苛立ちを叩きつける。


「ぷぇっ!勇者は5のダメージを受けた……勇者は平然としている。」


 だが、当然の事ながら勇者に堪えた様子もなく、仰け反った後に子首をかしげたがら「なんかした?」と言うジェスチャーを加え、レーギスを挑発する。


「ぐぐっ、ふざけるなよクソが!」


 案の定レーギスは挑発に堪えられず今にも飛びかかる勢いだ。


「クソ?やっぱりクソがしたいのか!だったら落ち着けよ!これ以上力んだら本当に漏れてしまうぞ!」


 それでも勇者は挑発をやめない。


「きさっ──ふぅ。落ち着け…流れを掴まれるな。奴なんぞに合わせてやる必要もない。」


 と、ここでレーギス。

 怒りに任せて飛び出してくると言う勇者の読みに反し自分を言い聞かせるようにして落ち着きを取り戻そうとする。


「──ふぅ。だってよ!プギャー!なになに?漏らした?漏らしちゃった?国王軍を率いるお偉いさんがうんちを漏らしちゃいましたぁ?てか、年はいくつよ?いい年こいたおっさんがうんち漏らすとか、はっずかしぃ~!」


 だが、勇者は畳み掛けるようにレーギスを挑発。

 声を大に叫ぶ勇者の声は辺りで戦う兵士達にも聞こえており、話の内容は捨て置き戦場に似合わぬやりとりに士気が下がって行く。

 これにはさすがのレーギスもはち切れんばかりに血管を浮かべた顔で勇者を睨み付けるも、ぐっと飛び出すのを堪え、間を置き口を開く。


「随分と必死じゃないか?」


「あ?」


 自尊心の高いレーギスならここまで言われて黙っているはずがない。

 いつ自分の首を落としに来ても対応出来るようにと構えていた勇者だったが

 レーギスは事に反し、逆に勇者を煽ってきた。

 挑発が効いていないのかは顔を見ればわかる。

 だが、レーギスは動かなかった。

 むしろ勇者を煽り、何かしらの余裕すら感じられる。

 そんなレーギスの対応に勇者はうすら寒いものを感じた。


「必死?そうだな。オレは必死だし焦っている!なんせ魔王たんをあのムッツリの所に置いてきちまったからな。お漏らしさんとくっちゃべってる間に事が起こっては堪らねぇからな…あ、あいつはムッツリだが幼少は守備範囲じゃなかったわ!」


 沸き上がるなにかを悟られぬよう勇者は喋った。

 とにかく喋った。

 まだ、ペースはこちらのものだと。

 自分を落ち着かせるかのように口と頭を高速で働かせながら勇者は平然を装った。

 だが、レーギスの次の台詞に勇者は勢いを失う。







「呪い持ちの勇者君?」





 呪い持ち。


 レーギスがそう口にした瞬間、戦場の…いや世界の時間が止まったような錯覚に勇者は陥った。


「なぜ…お前がそれを知っている?」



 それを知っているのは勇者一行の3人のみ。

 その3人が漏らしたとは考えられない。

 勇者は3人に絶対の信頼を置いている。

 よって、それだけは断言できた。


 では、どこでそれを?


 そもそも、呪いとはなにか。

 呪いにも様々な効果や、かけられるルートがある。

 効果はマイナスはあってもプラスになるものはなく、ルートはトラップや家系、己の行いや人為的なものから魔物の能力など実に様々。

 なんにせよ勇者が呪い持ちなど他に知られてはならない事だけは確かだだった。

 

 勇者一行の活動は慈善事業ではない。

 旅に資金は必要不可欠。

 だが、勇者以外にも国や民間のギルド、傭兵など困り事に対応する団体はいくらでもある。

 だが、勇者であれば絶対。

 討伐にしくじり、怒り狂った魔物に手痛いしっぺ返しをくらうこともなければ、前金の持ち逃げなども心配なく『勇者』と言うだけで初対面でもある程度の信頼も得られる。


 だが、勇者が呪い持ちと知れたらどうだろう?


 数多の魔物を狩り、数多の遺跡を巡り、数多の命を救い、奪ってきた。

 中には、神と畏れられ崇められる存在すらも勇者は、勇者達は手に掛けてきた。

 そんな勇者が受けた呪いは周りに危害を加える呪いかもしれない。


 土地に悪影響を…


 疫病を…


 また、ありもしない不幸を運んでくるかもしれない…


 などと、詳しく知らない者からすればあっという間に勇者と言う名のブランドは地に落ちるだろう。

 ギルドや傭兵からすれば完璧な勇者など依頼を斡旋する害獣でしかない。

 そんな奴らに呪いが知れたらとんでもない事になる。


 そのため勇者一行は呪い云々無しにも風評被害対策には一番力を入れているのだ(一部の変態を除き)。


 実は呪いを受けてすぐの勇者は上記を理由に解散を提案したことがある。

 だが、誰一人として首を縦に振らなかった。

 その時ばかりは皆が意固地になり(勇者の)血を見る自体にまで発展した。

 それでも皆の身を一番に考える勇者は己が原料の血の池に沈みながも意見を曲げなかった。

 だが、それはみんなも同じだった。

 いつ沈むともしれない泥船(ブランド)なんかに乗っかるよりもどこかにギルドを築くなり入るなりした方が、と言う勇者の意見に真っ向から反発した。


 勇者(ブランド) だからじゃない勇者が勇者だから一緒に居たい。

 周りがなんと言おうが、仕事が減ろうが、呪いが自分達に牙を向こうが、勇者が戦闘に参加出来まいが、勇者が変態だろうが、そのせいで自分達もそうだとバカにされようが、勇者の投獄回数が3桁を越えようが、立ち寄った村で言われもない噂のせいで門前払いをくらい飲まず食わずで数日も森をさ迷うことになろうが、雑魚のクセに村人(幼女)に良いとこ見せようとして危うく村もろとも壊滅しかけようが、拾い食いしたキノコの幻覚で素っ裸で大国の会合に飛び入りしようが…etcetcetc。


 勇者は大粒の涙を流しながら号泣したと言う。

 もうやめてくれ…と。


  まぁ、何はともあれ勇者一行として活動を続けることになったが、その時に決まった暗黙の了解。


【勇者の呪いは口にしない。】


 鉄の掟とも呼べるそれや皆の努力(一部の変態を除き)のお陰もあり誰に知られることもなく

勇者としての風評も下がることはなかった。



 それなのに…


「ん?何を不思議そうな顔をしている?」


「なんだと?」


 勇者にはわからなかった。

 レーギスがなぜ呪いについて知っているのか。

 それが伝わったルートは?


 なぜ?なぜ?なぜ?

 だが、レーギスの次の言葉に勇者は耳を疑った。


「あぁ、そう言えば勇者、あの日お前は…」


 何かを悟ったような顔でレーギスはニヤリと顔を歪める。

 そして、レーギスは語った。

…真実を。


「あの日、俺に教えてくれたやつはな、───だよ勇者。」


「っ…嘘……だよな?」


 すべてを知った勇者は崩れるように膝をついた。


「全て、真実だ。」


 信じられなかった。

 信じたくなかった。

 頭を鈍器で殴られたような衝撃に勇者の視界が揺らぎ、歪み、倒れそうになる。

 動機、息切れ、吐き気、目眩、寒気、異常発汗。

 勇者はパニック状態になりながらも頭の一部は冷静だった。

 心当たりはあった。

 あの日、あいつはオレに不可解な事を言った。

 それだけじゃない。

 不審な点はいくつもあった。


「…あぁ…ぁ…ぁぁっ……ぁ…」


 だが、繋がった。

 全てが繋がってしまった。


「そんなにショックか勇者?」


 レーギスの言葉がどこか遠くで聞こえる。

 だが、今はどうでもいい。

 勇者の頭の中でレーギスの言葉が甦る。



『あの日、俺に教えてくれたやつは











お前自信なんだよ勇者。』


 全て思い出した。

 あの日、オレが第三王女に対する冤罪で投獄される3日前の話だ。

 って、わざわざ回想するほどの事じゃないから、かいつまんで説明しよう。

  あの日、オレ達は難しい依頼を成功させたとして城でパーチーをやったんだが…

 久しぶりで調子に乗ったオレは…むっちゃ酒を飲んだ。

 あっ、ちなみに飲酒は16からな?

 まぁ、後はご想像道理。

 パンツ一丁で匍匐前進しながら『オレは勇者!実は呪い持ちさ!』と言う台詞を繰り返しながら城中を二時間程彷徨いたのさ!……どうして誰も止めてくれなかったのかは今では謎だ。

 その翌日、戦士に聞かれたんだよなぁ。


『昨日の事、覚えてる?』


 って。

 だからオレは答えてやったさ!

 今現在進行形でなぜこんな(拷問水車)目に遭ってるのかすら理解できないと!

 なんとか解放されたされたものの、その日から奴らのオレを見る目はまるで腐った生ゴミでも見るかのような……あっ、それはいつもの事か!



 あれ?なんか目から汁が出てきたぞ?

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