表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

天使




怒りなんて、微塵もなかった。

後悔なんて、微塵もなかった。

ただ喪失感という穴が、暗い穴が、ぽっかりとあいて・・、悲しくて・・溢れて・・溢れて・・。


ただただかなしくて、哀しくて、悲しくて・・・。


竹中さんはとても悲しかったのだ。悲しすぎて悲しすぎて、そして気づいたら、朝、自分の部屋、自分のベッドの上、ただ涙が流れていた。


現実とは、そんなものなのです。

「なんでだよっっっ」

そりゃ竹中さんも突っ込みたくもなるというものだ。

でも、現実とは、そんなものなのです・・・。


竹中さんは、ずっと泣き止むことが出来なかった。

何かとても大切なことを忘れているような、とても大切なものを失くしてしまったような・・。


出勤しなければ・・。

よろよろとベッドから這い出し、出掛ける準備をする。

なんなのだろう、この喪失感は・・。

何なのだろう、この胸を引き裂くような痛みは・・・。


けれどもそんな日もある。

悲しい夢を見る日だってある。

けれど、どんな夢を見たって、どんな悲しい日だって、日本人の40歳は仕事にいかなければならないのだ。


竹中さんは柔道整復師の資格を持っている。

もう、20年もマッサージの仕事をやってきた。

結婚はしていないし、特にお金のかかる趣味ももっていない。せいぜいアニメを見るくらいのものだ。

今日もいつもと同じ、出勤して、仕事帰りには弁当とビールでも買って帰り、アニメを見て眠るだけだ。


けれども竹中さんは、その日で、職を失うことになってしまった。


誰一人、施術できなかったのだ。

いつも通りにマッサージをしようとして、けれど、誰の体にももう、触れることは出来なかった。揉むことは出来なかった。

なんとか触れようと手を伸ばせば、胸に強烈な痛みを伴う悲しみが湧き、溢れ出し、涙と嗚咽をこらえることはできなかった。


数日間、診療内科へと通い、ストレスを軽減した方がいいと言われ、色々な所へと散歩などに出かけた。

けれども、もう誰かを揉んで癒したいという心は、欠片も生じはしなかった。


ある日、ふと遊園地へ足を運んだ竹中さんは、ジェットコースターやスリルのあるアトラクションを体験することで、びっくりした拍子に何か大切な場所に届くような、そんな気持ちがすることに気付いた。


その日から、毎日毎日毎日毎日・・、遊園地へ通った。


毎日何度もジェットコースターに乗り、何度もホラーハウスに入り、心が一瞬何かに近づくような気がして・・、遠ざかり・・、そんなことを繰り返す日々を送った。


2か月も立つと、痩せこけて目の血走った竹中さんは、怖いアトラクションよりも怖いと有名になり、遊園地から出禁になってしまった。


しかしそれも、丁度頃合いだった。

竹中さんはもう、貯金も尽きて、明日を生きることが難しくなっていたのだから。


竹中さんは、気づいていた。

こんなことを続けても、きっと何の意味もないということを。

いずれすぐに、明日の生活すら出来なくなる。

そもそも、明日を生きる意味すら、今の竹中さんにはもう見えなかった。


頃合いなのだ。


人生で、初めて望むバンジージャンプ。

しかし、1回きりの、命綱なしのバンジージャンプ。

きっと、そのびっくりは、自分をどこか大切な場所へと連れて行ってくれるだろう・・・。


街で最も高い建物の屋上に、竹中さんは立つ。

見渡せる早朝の街は美しく、遥か遠く、懐かしい何処かが見えるような、そんな気がした。


朝靄の合間を、コンクリートの建物が朝日で銀色にキラキラ輝いて、涙で滲んだその情景はまるで、美しく神秘的な池のように竹中さんには見えた。


竹中さんは、ゆっくりと体を池にひたして・・・。







































































































竹中さんは天使に手を引かれて、どこかへ泳いでいく。


とても美しい褐色の天使達だ。


1人は、襟足の長いショートカットの天使で、大きなおっぱいとむちむちのお尻がとっても魅力的だ。


1人は、長い髪がところどころ撥ねてるキュートな天使で、やっぱり大きなおっぱいとぴちぴちなお尻がとっても魅力的だ。


竹中さんは、2人の天使をどこかで見たことがあるような気がしたけれど、でも思い出せなかった。

だけどきっと、そんなことは些細なことなのだ。


だって・・、きっとこれからは・・、ずっとこの天使たちと一緒にいられるのだから・・・。


毎日、神秘的で素敵な温泉に3人でゆっくりと入るのだ。


『『大事なのはマッサージよっ』』


女性は些細なことに、とてもこだわるものなのです。




                                      おわり














最後まで目を通していただき、ありがとうございました。


楽しく馬鹿らしい、笑えるお話をと書き始めた第1話でしたが、こんな悲しい結末になってしまうとは・・、作者もびっくり致しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ