チーレム
『厄介だよね。スーパーハイパーウルトラドラゴンがここまでやって来るなんて・・・』
『スーパーハイパーウルトラドラゴンは殆ど縄張りから出ないはずなのに・・・。スーパーハイパーウルトラドラゴン同士の縄張り争いでもあったのかしら?』
『でもスペシャルデンジャラスバトルフィールドのところに居座ってるのは変じゃない?もしかしたらスーパーハイパーウルトラドラゴンがスペシャルデンジャラスバトルフィールドにいる勇者達を助けに来たとかだったり?』
『まさかっ!?スーパーハイパーウルトラドラゴンを手懐けられる人間がいるとでも言うの?この世界でスーパーハイパーウルトラドラゴンに勝てる存在なんて、スーパーハイパーグレートウルトラドラゴンかスーパーハイパーグレートミラクルウルトラドラゴンくらいしかいないわよ?』
お姉さんたちはとっても高度な難しいお話をしているのです。
「あの・・、あそこにウルトラドラゴンがいるのは危険なことなのですか?」
『『スーパーハイパーウルトラドラゴンよっ!』』
女性というものは、得てして些細なことも大切なことだったりするのです。
竹中さん、反省。
「すみません。そのスーパーハイパーウルトラドラゴンが、スペシャルデンジャラスバトルフィールドにいるのはまずいのですか?」
『とってもまずいよー・・、だってあたしたちが千人いたって絶対勝てないし、絶対1人も逃げられなくて・・・!!』
イオさんは言葉の途中で瞳を大きく見開くと、一気に全身から黒い魔力の渦を吹き上げる。
続いてメラさんも、同じように魔力の渦を吹き上げる。
何事かと、竹中さんは素早く後ろを振り返った。
そこには子供がいた。
10代の少年が1人。
10代の少女が4人。
竹中さんは、とても嫌な予感がした。
竹中さんは・・、たぶん・・・この少年少女のことを知っている・・・。
黒髪で凡庸そうな普通の高校生という印象の少年。
そう、これはやばい。かなり危険な匂いがぷんぷんする。そして・・・。
少年より一歩前に出て、胸を逸らせて勝ち誇ったような笑みを浮かべている美少女A。
やばい・・・。
一見おっとりしてるようで、でもしたたかに大きなおっぱいを少年の腕に押し付けている美少女B。
やばい・・、やばすぎる・・・。
高校生のお兄ちゃんに甘える中学生の妹っぽい、少年の後ろで隠れて覗く美少女C。
揃ってる・・、揃いすぎてる・・・。
少年の一歩後ろで、無表情にこちらを分析しているような美少女D。
もう確定だ、こんな少女はレアすぎる・・・。
いるかもしれないと思ってはいた。
けれども・・、竹中さんはいてほしくないと強く願っていた。
「メラさん、イオさん・・、絶対に彼らに攻撃しないでください。出来れば少年とは会話しないでください。私が何とか正体を探って交渉してみます。私を信じてくれませんか・・・。魔力を収めて、じっとしていてください・・・」
数秒の後、竹中さんの背中に当たっていた魔力の威圧感が、すぅっと引いていく。
その信頼が、竹中さんはとても嬉しかった。
「あら?戦う前に諦めちゃったの?」
美少女Aがすました声で言った。
やはり・・・。
しかし確かめなければなるまい・・。
竹中さんはゆっくりと一歩進む。
きっとステータス看破的なこととか、空間把握能力的なこととかで、全部知られている。
だから逆に、自分は脅威とはならないことを少年に解ってもらえているだろうと、竹中さんはゆっくりと進む。
ゆっくりと・・、ゆっくりと・・・。
相手が反射的に反応してしまわないように。警戒して対応されてしまわないように。
美少女Aの瞳を真っすぐに見つめ、ゆっくりと正面に立ち、ゆっくりと腕を上げて・・、そして・・・、ゆっくりと前に出す。
時は・・、停止した。
もみもみもみもみ・・・。
「なっ、なっ、な、ななな・・・」
美少女Aの顔はみるみる紅潮し、頬はひくつき、唇は震えて言葉を紡げない。
やはりか・・・。
竹中さんは瞬時にバッっと後ろに飛びのくと、ズザザザッと床に片手を着きながら、かっこ良く元いた場所へと戻る。
危なかった。あと一瞬でも遅ければ攻撃を受けていたかもしれない・・・。
「と・・トトトオル・・あのおじさんが・・おじさんがぁ・・・」
美少女Aは竹中さんを震える指で指しながら、少年に何かを訴えようと、涙目で必死に呻いている。
美少女Bは、「うわー・・・」って感じで可哀想な人を見るような表情をしてる。
美少女Cは、あわあわと手で顔を覆うふりをしつつ、指の隙間から視線はばっちり通っている。
美少女Dは・・・、無表情だ。
説明しよう。竹中さんの使った秘儀『ゆっくりゆっくりもみもみ』とは、光速戦闘や巨大な力のぶつかり合いに慣れた者たちに、未来予測をさせず、いつでも避けられるという安心感を与えておいて、相手の判断の及ばない領域へと自然に辿り着き、もみもみせしめてしまうという達人技である。その際、一瞬の時間停止と相手への麻痺痙攣効果を与えられれば成功であり、「きゃっ」とか「はうっ」などと瞬時に反応を返された場合、反撃の可能性が残ることも多々ある。仮に、対象から反撃を受けた場合、たとえもみもみ出来たとしてもそれは初心者級の失敗と言えよう。
「フッ、やはりな・・。少年、キミはこの世界で1番強いのだろう?この城のセキュリティだって軽々だったのだろう?表にいるスーパーハイパーウルトラドラゴンは、軽く殴って仲良くなった親友かな?当然勇者もお友達か?いや弟子とかかな?おっと、攻撃はよしてくれよ?こちらの無力は当然知っているのだろう?」
美少女A、B、C、Dが驚いたように竹中さんを凝視した。
おそらくこの世界で、トオル少年の力を初見から正確に見抜いた者などいなかったはずだ。
うまく揺さぶれば、争わずに目的を達して帰ってくれるかもしれない。
しかし平凡な形をしたトオル少年は、無言で竹中さんをちらりと見ると、すっと肩をすくめた。
これだっ、確定だ。
モンスターの売却にSランクなんて出してみては、「え?これすごいの?簡単だったけど?」的なとぼけ発言をして、みんなが驚いているとすっと肩をすくめちゃうのだ。
ドワーフの里なんかでオリハルコンなんて出しちゃったりしても、「え?たくさんありますけど?」みたいな顔をして、ドワーフの長老が引きつっているとすっと肩をすくめちゃうのだ。
まったく困った思春期ボーイだぜ。
しかし、思春期ボーイが途轍もなく恐ろしいのは、その世界を超越した力だけでなく、いや、ある意味世界を超越した、フラグ量産性能が備わっていることである。
扱いを間違うと、メラさんとイオさんまで持っていかれかねない。
竹中さん(40)の人生最大の難関が、いま幕を開かんとしていた。
「君たちのことは良く知っている・・・。どうか静かに目的を達して帰って欲しい・・・」
竹中さんがそう言った瞬間、トオル少年の瞳が怪しく揺らめく。
その瞳には、危険な何かがうごめいていた。
まずいっ、失敗だっ。
「メラさんっイオさんっ逃げ・・・」
『俺の女に手を出しといて、要求まで出すとか虫がよすぎじゃねーか?おっさんっっ!』
覇気に当てられ薄れゆく意識の中で、竹中さんは自分のミスを悟った。
美少女Bはきっと2番目に仲間になっている。ゆえに、美少女Bがトオル少年にベタベタする度に、最初期からいたツンデレ美少女Aのイライラは加速して、なかなかトオル少年との恋仲は進展していないハズだ、と竹中さんは見ていた。
美少女Aの反応が、とても思惑通りの反応だったために、まさか少年がすでに《美少女Aを俺の女認定している》とは、全く思ってもみなかったのだ。
せいぜい、おっぱいを揉まれたことをびっくりした目で見つめる程度の関係性だと思ってしまっていた。
むしろ、自分をきっかけに恋が燃え上がったりしてキューピッドになっちゃうかも?くらいに高を括ってたわけだが・・・。
もう・・・、とっくに終わっていたのだな・・・・賢者候補だけが選ばれるという時代は・・・・。
そして、竹中さんの意識は失われた。
『おっさんの要求を飲んでやる義理はねぇよ』
トオル少年はそう冷たく言い放つと、何か強大なものを宿した瞳で、けれどもとても静かに、メラさんとイオさんへ視線を移した。
すでに再び魔力を解き放っていた2人は、念話によって竹中さん回収と戦闘の役割分担を決め、スキを見計らっている。
『坊やたちはここに、何が目的でやって来たのかしら?あんまりおいたが過ぎるとお仕置きしちゃうわよ?』
メラさんが少年に問う。
『決まってる。古代魔神族の殲滅だ。アルトのやつがミスったって連絡よこしてきたんでな。こっちはこっちで、シャイニングゴッテスドラゴンの軍勢と戦り合ってて忙しかったんだけどな・・。まぁ、あんたたち2人程度ならこんなに急いで来ることもなかったかもな』
『シャイニングゴッテスって・・・あなた・・・ドラゴンゲートを抜けたって言うの?』
『あんなもの、ちょっと真魔因子を弄ってやれば簡単に抜けられるぞ?それよりあんたら、魔神王の血を引く王子を隠してるな?』
(まずいわね・・、イオ、こいつらは本物の化け物みたいだわ・・・一瞬しか時間は稼げないかもしれない)
『言うわけないわ』
メラさんは返答と同時に、もてる最大級の魔力を凝縮し、少年少女たちに向かって放った。
その隙に、イオさんは竹中さんを抱えてテラスから飛び去る。
しかし、イオさんが飛び立った瞬間、巨大な閃光がイオさんを掠めて吹き飛ばす。
どうやら相手も、念話で準備をしていたようである。
スーパーハイパーウルトラドラゴンが、城から逃げるものを打ち落とすために狙いをつけてしまっていた。
竹中さんを必死に抱えたまま、地面にバウンドするイオさん。
激しい衝撃に、呻きながら竹中さんは目を覚ました。
右の翼と右上半身が、肩から腰まで円形に抉れてなくなってしまっているイオさんが、お腹に乗っていた。
どうなってる?何が起こった?
いや、いまはそれよりも急いで温泉にっっ。
竹中さんは、すぐさまイオさんを抱え上げ、立ち上がる。
『・・おじ・・さ・・』
「イオさんっ!イオさんっ!すぐに温泉にっ、気をしっかり持ってっっ」
『も・・ダ・メ・・だか・ら・・、お・じ・さん・・』
「逝かないでっ逝かないでくださいっお願いしますっあなたは最高の女性なんですっ私の女神なんですっお願いですっ頑張ってっっ」
『ほ・・ら・・・お・し・・り・・お・・ね・・』
「いくらでも揉みますっずっと揉みますからっお願いですっ逝かないで・・・」
竹中さんの手のひらは、イオさんのお尻をつかもうとするが、お尻は、あの素敵なお尻は、もう掴むことができなかった。
竹中さんの指の隙間から、黒い靄が零れ落ちて、空中に霧散していく。
必死で掴み集めようとするが、竹中さんの手のひらは、何も掴むことはできなかった。
そこには、もう何も残ってはいなかった。
あの素敵なおっぱいも、あの素敵なお尻も、あの素敵な温もりも・・・。
パキンッ
空気の割れる音がして
ドッ
何かが竹中さんの目の前に落ちてきた。
メラさんは、右肩から左わき腹にかけて切り裂かれ、下半身すべてがなかった。
『め・・ら・・さん・・・メラさんっメラさんっ!めらさんっ逝かないでお願いですあなたが大好きなんですっめらさんっめらさんっ・・・」
『・・だ・・けな・・か・さ・・・・・ほ・・ら・・お・・ぱ・・・』
めらさんは、優しく微笑んでいた。
『メラさんっメラさんっ・・・めら・・さ・・」
竹中さんの手のひらは、あの素晴らしいおっぱいを掴むことはもうできなかった。
黒い靄が、霧散して、霧散して霧散して・・・。