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勇者



竹中さんは歩いていた。

薄暗い中、ひび割れた地面は溶岩でも宿しているのだろうか、所々赤い光を放ち、竹中さんの歩む先を映し出していた。

岩しかない大地の向こうに、大きな城がそびえている。


仕方がないのだ。人工物は城しか見当たらないのだから。

竹中さんは歩いていく。

城に着いたら少しは何か解るだろうと期待して。


竹中さんは昨日、40歳になった。

自分が40歳になる日が来るなんて、竹中さんは全然思ってもみなかった。


30歳までは、わりと長かったように思う。

子供時代があり、青春時代があり、大人になってからも多くのことがあった。

しかしある日、30歳という日がやってきた。思えばあの日から、老いというものに足を掴まれてしまったのかもしれない。

しかしそれでも、自分はずっと脂の乗った30歳前半の人間なのだと、どこかで感じていた。信じていた。

そう、34歳くらいだと、本当に思っていたのだ。

「えっ?40歳??」竹中さんはびっくりしちゃったのだ。

だってあっという間に40歳がやってきたのだから。


誕生日など毎年来る。もう、しょっちゅう来るのだ。誕生日なんて気にしなくなっていた。

敬老の日とか春分の日とか、そんないつもある〇〇の日と同じでスルーしていた。

そんな訳で、竹中さんはびっくりしちゃったのだ。気付けば40歳になっていたということに。


そして、びっくりしちゃって、びっくりしちゃい過ぎたせいで、こんな魔界的どこかにいたのだった。

いたのだった・・・。

そう、現実とはそんなものなのです。

「なんでだよっ?」

そりゃ竹中さんもついつい突っ込みたくもなるだろう。

そう、現実とはそんなものなのです・・・。


そんな訳で、竹中さんは魔界的どこかを城に向かって歩いていたわけだけれど、ついに城の手前まで辿り着いた。

城の手前には楕円状にえぐられた大きな穴が掘ってあって、言うなればそう、闘技場のようなていをなしていた。

そしてその中央には、向かい合って5対5の集団が、今まさに戦闘態勢という姿で武器を構えて陣取っていた。


片方の5人組は、勇者パーティっぽい。

金髪のイケメン、オラオラ風イケメン、渋いおじさんイケメン、ボインな魔法使い、美少女な僧侶。

あぁ、竹中さんは知っている、よく知っているよ。あれは勇者たちです。


かたや、黒くて大きな大魔王、2足歩行の牛の人、2足歩行の馬の人、それに、おっぱいがおっきくて金属のつるのようなもので大事なところがかろうじて隠れてる感じでほとんど裸のような姿の悪魔的な感じが素敵な羽根の生えたお姉さん×2。

あぁ、竹中さんは知ってる、知ってるよ。あれはえっちなお姉さんです。


高まり光り出す勇者の聖剣。高まり噴き出す魔王の魔力。めっちゃ凝視してる竹中さん。

高まり輝き出すイケメンのアーティファクト、高まり轟きだす獣の咆哮ほうこう、目が血走ってる竹中さん。


『いくぞっ』


勇者が叫んだ。


『来るがいい』


魔王が応えた。


「ちょっと待ったーっ!」


竹中さんがちょっと待ったコールをした。


双方の時が、一瞬止まった。


そして竹中さんは言い放った。


「お姉さん、最初に見たときから決めてました。これからお茶でもどうですか?」


お辞儀をして手を差し出す。


『ちっ、どいてろっ』


赤い髪のオラオラ風イケメンが竹中さんに突進してきて、弾き飛ばした。

竹中さんは10mほど吹き飛んで、そして10mほど地面を転がった。


そのまま、すぐに戦端は開かれた。閃光がほとばしり、轟音が鳴り響き、剣戟けんげきの音が、聞いたこともない魔法発動音が、爆風が、叫びが、うめきが、もうしっちゃかめっちゃかであった。


竹中さんは涙を流していた。それはそうだ。人が10mも突き飛ばされたのだから、痛みも相当だろう。

どこか折れてしまってるかもしれない。


「うぅ・・・、私の、私の40年の正義ではイケメンに敵わないというのか・・・40歳では・・もう付き合えないというのか・・・」


竹中さんは全然間違っていない。竹中さんは正義だった。

どうやらケガはたいしたことがないようです。


竹中さんは戦いの余波を受けないように、闘技場の端まで移動した。

そして戦いの行方を仕方なく見守ることにした。


美少女な僧侶の破けた衣服が爆風ではためき、白い太ももがあらわになる。

お姉さんが翼をはためかせて、あっちへこっちへ移動する度に、もうおっぱいがボヨンボヨンと揺れまくる。

竹中さんは、仕方なく戦いの行方を見守ることにした。


『ここは俺が抑えるっ、俺に構わず先にいけぇーっ』


『フッ、あとで会おうぜ』


イケメン達の戯言ざれごとが聞こえる。


ボインな魔法使いの顎に伝う汗が、谷間にぽたぽたとしたたっては吸い込まれ、それはもうはち切れんばかりのおっぱいが妙に艶っぽく輝く。

いかづちっぽい魔法を浴びて吹き飛ばされた魔族のお姉さんが、可愛らしい声で悲鳴をあげながら全身を痙攣させる、それはもうビクンビクンと。

竹中さんは仕方なく戦いの行方を見守ることにした。


『これは死んでいったダーバンの分っ、これは両親を失ったメリッサの分だぁーっ』


イケメンの寝言が聞こえる。


竹中さんのすぐ近くに、お姉さんが一人吹き飛ばされてきた。

翼はあちこち千切れてボロボロで、髪も肌も焼け焦げて痛々しく、そしていたるところから血が流れ出して地面を染めていた。

竹中さんは、すぐに近づいて頸動脈に手を当てる。脈はまだあった。

抱きかかえて闘技場の壁まで移動すると、そっと寝かせる。

着ていたYシャツを脱ぐと、お姉さんの出血が激しい部分を止血していった。


とても可愛らしい人だ。長いまつ毛、妖艶な紫のアイシャドウ、ピンク色の唇、大きなおっぱい。

きっとサキュバスとかサキュバスとかに違いない。あとサキュバスとか。

竹中さんは、お姉さんを看病しながら、うっかりもみもみしたりもしながら、戦いの観戦を続けた。


こちらに向かってまた誰か吹き飛ばされてきた。

赤い髪をしている。鎧の色々な部分は砕け、左腕は失われていた。

可哀想に・・・。


竹中さんは、手に感じる柔らかさを味わいながら、ご冥福を祈った。


またお姉さんが吹き飛ばされてきた。

竹中さんはすぐに駆け寄ると、壁際まで抱き抱えて避難させた。


しばらく竹中さんが、張りと弾力のある素敵な曲線を目で楽しんでいると、戦いは終わった。

大魔王は黒い霧となって消滅していく。2足歩行の牛と馬の人はもうとっくにどこにもいなかった。


渋いおじさんイケメンは、地面にうつ伏せに倒れている。

美少女な僧侶もボインな魔法使いも、可愛らしい太ももをさらけ出して横向きに倒れている。

パンティーは日本のものと似ている感じだ。でも僧侶なのに紫のTバックは攻めすぎじゃないだろうか・・・。ボインな魔法使いは、意外に白いパンティーだった。

勇者は膝をつき剣で体を支えながら、ゼェゼェと肩で息をしている。


最初に吹き飛ばされてきた魔族的お姉さんがうっすらと目を開ける。

見つめ合う瞳、ときめく竹中さんのの心、うるさい勇者の呼吸。

お姉さんは瞬時に周りを見回して、目を見開くと、怒りを宿して勇者を睨んだ。


勇者もこちらに気付く。お姉さんを討伐せしめんと立ち上がり、剣を引きずってこちらへ歩を進めてきた。

お姉さんは、立ち上がると全身から魔力を一瞬吹き上げるが、すぐに霧散してしまいよろめく。


とっさに竹中さんは、まだ気を失っているもう一人のお姉さんをおんぶすると、勇者と戦おうとしているお姉さんの腕を掴んで、


「逃げるよっ」


竹中さんの言葉に、お姉さんは一瞬反抗しようと睨みながら振り返るも、背中のお姉さんに視線を動かし、そしてすぐに走り出した。


竹中さんは勇者を見つめると、


「勇者よ、君はおっぱいを揉みたいと思わないのか?」


そう言って、答えも聞かずに逃げたお姉さんの背中を追っって走り出した。




ドサッ


勇者は引きずっていた剣を落とすと、ゆっくりと天を仰ぎ見た。








目を通していただけて光栄です。ありがとうございます。

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