羊と山羊と子守唄
パンナも気に入ってくれたところで、ミレスピーは曲を形にして練習することにした。
「では、きちんと歌ってみようか」
ミレスピーは短いイントロを頭で創ると、ハーモニカでパンナに聞かせた。
「この後に、さっきのように歌を入れてくれ」
「うん!!」
ハーモニカのイントロを吹くと、パンナが歌う。
「やーぎー!やーぎー!やーぎー!ひつーじ!ひつーじ!ひーつじ!!山羊と羊 どっちが眠い 比べっこ 比べっこ メーメーメー どっちの声だろ?」
「「メーメーメー」」
最後の鳴き声のところで誰かがはもった。
「あれ?ミレちゃん歌った?」
「いや、私は歌っていない」
「じゃあ、誰が?」
何かの気配を感じ、パンナは恐る恐る後ろを見ると、なんと、あぐらをかいた山羊と羊がこちらを向いているではないか。
「な・・・いつの間に・・・」
ミレスピーが山羊と羊に驚いていると、羊が右手を振って、驚く必要は無いとジェスチャーした。
「なかなかにいい曲ではないか」と羊。
「しかし、根本の問題が解決していないな」と山羊。
「それよりもお前らがいることが問題だろ」とミレスピー。
「いや、そんな事は些細な問題だ。結局、我々のどちらが眠気を誘うのかをはっきりさせないといけない」と羊。
「その通り。永遠のライバルである羊に負ける訳にはいかない」と山羊。
「私達はこの歌を創ったら、寝る予定なんだ。そんな不毛な議論は、外でやってくれないか?」とミレスピー。
「わーい。羊さんと山羊さんだー。もふもふさせてー」
パンナは羊に抱きついて、その感触で楽しみ始めた。
まったく収集がつかなくなったこの状況に、ミレスピーはため息を一つついた。
「では、どうすれば納得する?」
「私達が鳴き続けるので、どっちが寝やすいかを判断してくれ」と山羊。
「どちらにしても鳴き続けたら、私とパンナは眠れないだろ」呆れた声で言ってやる。
すると山羊と羊は、時速百キロで崖を飛び降りたかのような衝撃的且つ驚いた顔で固まってしまった。
「そ、そんな・・・」と羊は崩れ「私達の声が・・・」と山羊は奈落の底に突き落とされたような声で落ち込んだ。その二頭の姿は見ていられないくらいに物悲しかった。
「ちょっと、ミレちゃん!!可哀想でしょ!!」
「な・・・私は・・・そ、そうか?すまなかった。で、では、他の方法を考えようではないか」
羊と山羊は、希望の星が舞い降りてきたかのような晴れ晴れとした表情で、ミレスピーを見ると、何度も頷いた。
改めて羊と山羊が、ミレスピーとパンナの前に座った。
「そ、それでは、山羊と羊のどちらが人間に眠気を催すかサミットを開催する。御異議はありませんか?」
「異議なーし!!」羊と山羊とパンナの声が同時に言う。
「では、全会一致とみなし、サミットを開催します。尚、議事の進行は、私、ミレスピーが担当します」
全員が頷いているので、ミレスピーは勝手に議事を進行することにした。
「では、まずはお互いの鳴き声を披露してもらう。先に羊」
「ヴェ〜〜〜」と羊。
「では、次に山羊」
「メヘェェェェェ」と山羊。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
確かに鳴き声は全然違う。
ミレスピーが、助けを求めるように横目でパンナを覗くと、青い顔をして気まずそうにしているパンナが見えた。
結論としては、夫婦揃ってどちらも眠くならないと思ったのだ。
「おほん。それぞれに特徴があり、甲乙付け難いという結果になりました。御異議は?」
すると、一本の手が挙がった。
「異議あり!!」と山羊。
「異議を認めます。山羊くん!!」
「はい!!羊はおとなしいというか、面倒なのでなかなか鳴きません!!その点、山羊は主体性をもって動くので、人間が眠くなるまで鳴けます!!」
今度は山羊の隣から手が挙がる。
「異議あり!!」と羊。
「異議を認めます。羊くん!!」
「はい!!山羊は兇暴なので、人間はとても寝る所ではなくなると思います。安心安全の羊こそが、眠気を誘えると考えます!!」
そして、山羊と羊は睨み合った。
こんな狭いところで喧嘩でもされても困るので、ミレスピーは、山羊と羊に水出しのお茶を差し出した。山羊と羊はお茶を、ずずっと飲むと、少し冷静さを取り戻したようだ。
「いいか。お互いにいがみ合って、争っていては何の解決もみない。それにお互いの特徴を認めるくらいの度量を持ってくれ」
山羊と羊はしゅんとして、下を向いてしまった。
「ねえねえ。じゃあさ、もう一度みんなで納得のいく曲を創ろうよ」
パンナは山羊と羊の手を握ると、お互いの顔を交互に覗いた。
山羊と羊は、ばつが悪そうにお互いに見ると、ミレスピーに「「よろしくお願いします」」と頭を下げた。
「元はと言えば、私の歌詞がどっちつかずだった事が、山羊側にも羊側にも迷惑をかける形になってしまった。両陣営に謝らなければいけない」
ミレスピーはそう言うと、ケースからステッィクを取り出し、弦の調整をした。
ぽーんと、一番低い音を出すと、山羊と羊はこれほど低い音を聞いた事がなかったのだろう。目を丸くして楽器を見た。
「ああ、こいつはスティックという楽器でな。基本的にはバスという低音を担当する楽器だ。私はこの楽器で曲を創り、世界を旅している」
「ほう。世の中には面白い楽器があるのですなあ」と羊。
しゃべる羊がいることの方が余程面白いと思うが、まあ、世の中は広い。そういう事もあるだろう。
「では、曲をもう一度おさらいする。パンナいいか?」
「うん!!」
ミレスピーがイントロを弾くと、パンナが歌い始める。
「やーぎ!やーぎ!やーぎ!ひつーじ!ひつーじ!ひーつじ!」
すると、ミレスピーはここで伴奏を止めた。
「ここからの歌詞がライバルである山羊と羊がもめる原因となってしまった。だから、歌詞をこう変える。『山羊と羊は眠い声 どちらも眠い 聞いてみよう 聞いてみよう ヴェーヴェーヴェー やさしい羊 ヴェェェーヴェェェー ゆかいな山羊』」
そして、ミレスピーは、初めに決めたコンセプトを捨て、子守唄から少し離れて、みんなで楽しめる曲にするため、もうワンフレーズ付ける事にした。
童謡は基本、メロディ二つくらいが丁度いい。それでもあえて三つ目のメロディを付けるのには訳がある。山羊と羊が手を取り合って最後のフレーズで踊ってほしいからだ。




