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歌旅  作者: 黒ツバメ
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愛の言霊

 ジャンゴと呼ばれた青年は、呆れた顔をしてパンナに実家の荷物の詰まったリュックを投げた。パンナは、慌ててリュックを受け取ったが、意外にも重いリュックの圧力に負けて尻餅をついた。

「ちょっと!!ジャンゴ!!何するのよ!!」憤慨して声を荒げる。

 ジャンゴはパンナの話しなどまったく聞いていないとばかりに、ミレスピーに向き合った。

「族長からの伝言だ。パンナの両親とも話した結果、二人の旅を認めるとのことだ。ただし、あんたにパンナの幸せが託せるのかが不安な場合は、即刻パンナは集落へと引き上げさせる。俺は、その判定を任された」

「具体的にはどうすればいいんだ?」

 ミレスピーはそう言いながらパンナのお腹の上に鎮座するリュックを脇にどけ、倒れているパンナの手を引っ張り、その場に立たせた。

 それを見たジャンゴは、ミレスピーに向かって言った。

「では、愛の言葉を」

 いきなりそんな事を言われても・・・とは言っていられない。

 ミレスピーは、不満げな顔でお尻の泥を払っているパンナの正面に立つと、目を見つめて、両肩を軽く手で包んだ。パンナは動きを止め、唇を震わせ、ミレスピーを見る。

 詩を書く者は、言霊を込めて話さなければいけない。

「この先、私は色々な国で色々な人々と会い、音楽を創る。それは果てしなく長い行程で、音楽を求めて幾日も大地を彷徨い、膨大な音符を頭の中でかき混ぜ、煌めく星のように音のピースをはめていく作業だ。その宇宙を創る事にも似た作業は、今日をもって一人では続けられない物となった。何しろ、曲というものは一番聞いて欲しい人の為に創る曲が最も優れた曲になるからだ。小さな芽の段階の音符は、パンナという光を得て、大木のような楽曲へと生まれ変わる。私はパンナの為に曲を書き、世界中の人とそれを共有したい。一緒に来てくれるか?」

「うん!!」

 パンナはミレスピーに抱きつきたそうにしているが、ジャンゴのいる手前一応自重しているようだ。ただ、涙眼でミレスピーをずっと見つめているので、ジャンゴも微妙に眼のやり場に困り、たまりかねて明後日の方を向いた。

 すると、パンナはミレスピーに抱きついて、力の限り泣いた。

 視線を正面に戻しその様子をみたジャンゴは、細かく首を縦に振ると、最早口を挟まなかった。しかし、しばらく経ってもミレスピーとパンナがなかなか離れなかったので、仕方なしに話しを進める事にした。

「分かった。分かった。認めるから、ちょっと離れてくれ」

 吐き捨てるようにそう言ったジャンゴに向かい合って、ミレスピーとパンナは並んで立った。

「まず、族長の話しだ。パンナが手紙まで残して行くからには、基本的に我々が何を言ってもまず聞く耳を持たないだろう。しかし、客人に迷惑をかける訳にはいかない。もし、ミレスピー氏が嫌がったら、引っ張ってでも連れ帰るように。と言っておられた。そして、集落からは基本的に人を外界へ出さない決まりで、パンナの踊りはフルジュームの宝であり、全世界の宝だ。ただ、その踊りに磨きがかかるというなら特例として、集落の外へと出る事を認める。との事だった。そしてパンナの母親だ。踊り以外は何もできないし、常に余計な騒動を引き起こすので、ミレスピー氏の足手まといにならないか心配でしょうがない。でも、親としては娘の幸せを願わずにはいられない。と言っておられた。最後にお父さんだが、手のかかる子程愛らしい。しかし、性格的にパンナが嫁げる男性はいないと考えていたが、この機会になんとか縁談をまとめて欲しい。こんなところかな」

 ジャンゴの話しを要約すると、踊りは天才的だがトラブルメーカーで、集落では持て余していた。というふうにしかとれない。まあ、外の世界ではそのくらいでないとやっていけない。

「しかと聞いた。族長と両親には、必ずや成長した娘をご覧に入れると伝えてくれ。そして、集落に戻った時には盛大に式を挙げてくれと伝えてくれ」

 ジャンゴは頷くと、ミレスピーをもう一度下から上まで見た。そして心配そうな目を向けた。

「考え直すなら今だけだぞ。本当にパンナでいいのか?」

「ああ。大丈夫だ」

 ジャンゴにこれだけ心配されるというのは、パンナが集落でいかに浮いていたのかが分かるというものだ。毎日何をやっていたのかは、あえて聞かない事にする。

 ところが、我慢できない困ったちゃんが一人いた。

 ここまでしおらしくジャンゴの話しを聞いていたパンナだが、余りの言われように怒り心頭の顔つきでジャンゴの胸ぐらを両手で掴みかかった。

「ちょっと!!みんな酷くない?もう少し晴れやかに見送る言葉が出ないの?しかも見送りとかも来ないし!!」

「うう、く、苦しい。ちょっと落ち着け!!」

 ジャンゴは意外にも力のあるパンナの腕を胸から遠ざけると、大きく一回呼吸して、パンナの両肩に手を置いた。

「ふう。見送りに来ないのは、こんなやり方をするお前が悪い。そして、心配されるという事は、それだけ愛されているという事だ。分かったか?」

 それでも納得がいかないのか、パンナの顔はまだ怒っていた。

 ジャンゴは喉をさすりながら、話を続けた。

「あれだけの悪事を毎日働いておいて、相手が見つかったのだから、逆に天に感謝しろよ。しかも他の集落との縁談も散々破談にしただろ」

「それは相手が私に対して不釣り合いだから悪いのよ!!」

 これ以上何を離しても前に進まないと思ったのであろう。ジャンゴは助けてくれの目線をミレスピーに送った。

「パンナ。ちょっと落ち着け。今の話しを聞いただろ。ようするに私の音楽に対する理解者が少ないように、パンナの考えに対応できる人間は少ないという事だ」

 ミレスピーにそう言われたので、パンナは渋々ジャンゴから距離をとった。

 そのパンナの反応を見たジャンゴは、口を開けたまま、空飛ぶ鶏を見たような顔をミレスピーに向けた。そして、冷静さを取り戻すと、にやっと笑い、ミレスピーに親指を突き上げた。

「ミレスピーさん。やっぱりあなたはただ者じゃないな。素晴らしい猛獣使いになれるぜ」

 そのジャンゴの余計な一言が悲劇を生んだ。

 すぐさまパンナの強烈な蹴りがジャンゴの尻に炸裂した。尾てい骨が折れたのでは?とミレスピーが本気でいぶかしんだ程の音が森に響いた。

 ジャンゴは声にならない悲鳴を上げながら、尻を押さえながらぴょんぴょんと飛んだ。

「ふん。みんなそうやって私をバカにして。飼い猫ばかりの集落だから猛獣を押さえられないのよ!!」

 パンナは怒りが収まらないのか、さらに蹴りを入れようと腰を落としたので、ミレスピーはパンナの肩を掴んで、後ろに押し戻した。

「いいかげんにしないと破談になるぞ」ミレスピーは耳元でパンナにささやく。

 パンナは一瞬動作を止めた。『ミレスピーに迷惑をかけるようだと集落に戻す』ジャンゴがそう言っていたのを一瞬でも思い出したのか、さすがのパンナも再び後ろに下がった。

 ただ、顔は不満で溢れていたので、完全には納得していないのはすぐに分かる。

「痛たた・・・本当にもう・・・お前、ミレスピーさんには絶対に暴力はふるうなよ」

「そんな事をする訳ないでしょ!!」

 暴力は振るわないかもしれないが、怖い思いはしそうだとはミレスピーも思った。まあ、それも慣れだと考え、ジャンゴを解放してあげる事にした。

「ジャンゴ。これ以上ここにいると余計な被害が出る。パンナと私はこれから旅に出る。そして、その成果を見せる為、数年内に集落に戻る事を約束する。だから、その時まで待っていてくれと族長とパンナの両親に伝えてくれ」

「分かりました。しかと伝えます」

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