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歌旅  作者: 黒ツバメ
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第一部 〜ジョングルール〜 ジョングルール

 その一 〜ジョングルール〜


 昨日からの酷い雨で、草で覆われていないこの道は泥の川と化している。こんな日は旅を止めて宿に籠っているのが吉だ。しかし、宿に泊まるにはお金がかかる。お金を稼ぐようなスキルは楽器だけという私には、雨だからといってそんな贅沢はできない。

 ただ、一つ看過できない問題がある。私の背負い鞄の中に何重にも包まれている中身が濡れることだ。この中身は私の半身ともいうべきもので、私の人生そのものと言っていい。いや、だからと言って楽器をぞんざいに扱っていいと言っている訳ではない。楽器は楽器で絶対に濡れないように最高級のガルーシャ(エイ)の皮を二重にあしらった特製の袋に入れている。

 旅をしながら楽器を弾く者の定番といえば竪琴かギター、あるいは笛やバイオリンだろう。しかし、私は有名な師匠に教わるようなお金もなかったし、教わった者が者だっただけに余り一般的ではない低音のギター〈師匠はバスギターと呼んでいたので私はバスと言っている〉をメインに使っている。

 初めに断っておけば決してギターが弾けない訳ではない。しかもだ。スキルは余程の一流でないかぎり私よりもうまい人はそこまで多くはいないと断言できる。ならばギターを弾けばいいとお思いだろうか?それはあり得ない。何故なら私が死ぬ程のへそ曲がりだからだ。誰もやっていないならそっちの方が恰好いいと思わないだろうか?

 ・・・・・・・・・

 余り多くの聴衆に肯定的な意見を貰えなかったので先に進む。

 そういう訳で、私はやたら低音のする楽器で歌を歌う。歌詞は自作だ。何故かといえば、ジョングルール(放浪芸人)と言われる者の宿命だからだ。ジョングルールと言えばあちらこちらで見聞きしたものを戦慄に変え・・・いや、旋律に乗せて語り、時には大道芸人をし、時には予言で権力者を脅したりもする。そんな職業だ。

 そうそう。ジョングルールは言い換えれば、吟遊詩人だ。その方が分かりやすい表現かもしれない。

 しかし私の場合、大道芸はしないし、スパイ活動もしない。それはひとえに自分の目指す音楽を完成させる為だ。だから宮廷お抱えのトルバドゥールから楽器の演奏力を買われ、宮廷の音楽会に呼ばれたとしても彼らの為に演奏はしない。彼らのつまらない演奏に参加するくらいなら、旅をしながら自分の曲を弾いた方が楽しいに決まっている。

 そして、一介の情報屋にもならない。

 世の中の流れや他の国の情報は貴重だ。自分の街や村から一生出る事の叶わない人々や領主には、その手の話しは貴重極まりない。だから、普通のジョングルールなら其の手の情報を、楽器を弾きながら語るのが普通だ。しかし、私は自分の体験した不可思議な話しを、自分独自の音楽に乗せて演奏する事に命をかけると決めている。だから外の情報と言っても、世の中の流れとはまったく関係のない情報を専門に扱っているのだ。

 まあ、そう言えば聞こえはいいかもしれないが、行く場所がマニアすぎることもあり、貴重な情報にも関わらず、一般の人々にはまったく意味をなさないと言った方が早いかもしれない。

 この手の話しはある程度の土地を支配している領主には受けが良かったりするが、戦略的に有益な情報でもなければ、だから何だという話しばかりなので、非情に学のある大都市の市長クラスでもなければ評価はしてくれない。

 そんな私が現在向かっている所はと言えば、山の中で文明とは程遠い暮らしをしている国を持たない人々の集落だ。

 彼らは国という枠組みには入らず、基本的には移動しながら暮らしている為、特定の村にいる訳でもない。遊牧民的な感じで年間通して決まった場所を転々とする事が多い。集団意識が強く、排他的で基本的に外から来る人を信用しないとの話しだ。

 危険を冒してその集団に会いに行く理由は、近いうちにその集団の祭りがあるという話しを聞いたからだ。

 今回私が目的にしているフルジュームと呼ばれる集団は、そこそこの規模で、他の集団よりは友好的だという。集落の端の端でもいいので祭りを見せてくれる事を願う。

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