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南溟の断証(ゴリアール)  作者: 雅夢
第一章 八坂激闘譜
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第1−4話 八坂激闘譜 Ⅳ

すみません、間が空いてしまいました。

急いで書き上げましたが途中です、続編のⅤ話は明日投稿の予定です。

八坂激闘譜 Ⅳ


 網膜を焼く閃光と、耳を劈く轟音、俗に「濡れ雑巾」と呼ばれる衝撃波を残してそれらは彼方の目標めがけて飛翔して行きました。

 初速760m/sで撃ち出された、「八坂」「八咫」の31センチ主砲弾は、彼我の距離18000メートルをおよそ30秒で駆け抜けると目標である敵艦隊の一番艦と二番艦の頭上から襲い掛かったのです。

 最初に落着したのは「八咫」の主砲弾でした。

 初撃ですから余程の幸運でもない限りは命中等ということは有り得ません、当然と言うのもおかしいですが「八咫」の放った三発の主砲弾も目標である敵戦艦の甲板を捉える事もなく、その頭上を通り過ぎてその向こう側の海面へ着弾したのです。

 ソロモン海へ落下した九一式徹甲弾は、そこで信管を作動させて炸裂、海上へ巨大な水柱を吹き上げました。

 その落下位置を見る限りは先ほどの米戦艦のそれよりも照準の精度が高い様でした。

 然しながら私を含め、主砲射撃指揮所に詰める四名にそれを見物する余裕は有りません、何故なら「八咫」の初弾にコンマ何秒かの差の遅れで着弾する「八坂」の主砲弾の着弾位置から次弾の照準を修正値を導き出するために目標である敵の二番艦を照準器内に捉え続けなければならなかったからです。

 故に、先ほどの「八咫」の初弾着弾の様子も自分の眼で見た訳ではなく、指揮所の四方の観測窓に着いて自艦を含めて周囲の状況を観測している観測員の報告に拠るものでした。

 そして我々の注視する中、「八咫」の砲弾の着弾に僅かに遅れて、敵の二番艦の頭上に閃光が走りました。

 その数は九、敵上空に達した「八坂」の砲弾が空中で炸裂した結果でした、勿論これは早爆等の信管の異常では有りません。

 「八坂」が発射したのは、三式弾(正式名称三式焼霰弾)と呼ばれる対空対地用の特殊砲弾で、砲弾頭部に取り付けられた零式時限信管により任意の高度、飛翔時間を設定することで空中で炸裂させることを目的とした砲弾でした。

 この特殊砲弾は空中で炸裂すると、弾体内より多数の焼夷弾子を放出し、周囲の敵機又は敵基地に火災を発生させ更に敵に損害を与える為にその弾片を撒き散らします。

 但しこの砲弾、前述の様に対空対地攻撃用として面での破壊を目的としていたため貫通力は皆無に近く、対艦戦闘には不向きとされ、装甲の分厚い戦艦等に対してはその戦果は期待できない代物とされていました。

 それでもこの砲弾を使用したのは、先に記した様に敵との遭遇を考えて先航の「八咫」に対艦用の九一式徹甲弾、次航の「八坂」が対空警戒用の三式弾と役目を分担して対処を計った結果で、この時「八坂」の主砲には三式弾を装填済みでした、加えて各砲の揚弾筒内にも継続して対空戦闘が可能なように同弾が準備されており、これを使い切らない限り徹甲弾へと弾種の変更が出来ない状態であった為でした。

 また当初からの予定として敵艦と遭遇した場合には早々に一斉射で使い切る旨の指示も挺身砲撃艦隊司令部からも有ったのです。

 蛇足では有りますが、先の第二夜戦に於いて戦艦「霧島」の敵戦艦のサウスダコタに対してこの三式弾を集中的に使用して上部構造物を破壊、焼き尽くしノックアウト寸前まで持ち込んだ先例も有り、条件に拠っては敵の戦艦や巡洋艦などの装甲艦に対しても有効ではないかとの見方も有ったのです。(実際には決定力に欠け、最終的に敵艦を沈ませ切れなかった等の問題が有りましたが・・・。)


 我「八坂」の初弾の九発は、敵艦上空で花火にしては地味な赤い炎の華を咲かせましたが、位置的には全弾とも敵を通り過ぎた位置で炸裂しておりその焼夷弾子が飛び散る有効半径内に捉えることは出来ず、海面に落ちて消えました。

 着弾位置が判ったところで、いよいよ私達の腕の見せ所です。

「修正!苗頭を左へ寄せ三、下げ四。」

 私はパノラマ眼鏡を覗き込み吊光弾の光の下で揺らめく敵艦の姿を追いながら確認した着弾位置に基づき修正値を導き出します、旋回手の渥美一等兵曹と射撃盤射手兼俯仰手の鷹野特務少尉は私より矢継ぎ早に下される照準の修正をそれぞれ方位盤射撃装置へ入力します。

 今回は、初撃が目標を飛び越えた位置へ着弾し、更に後方へ遅れ気味であったことから、次の着弾位置を、先より距離で四〇〇メートル手前、方位で左に三〇〇メートル修正する指示をしたわけです。

 勿論彼らもそれぞれの照準鏡で着弾位置を確認していますので私の指示をもとに更に細かく照準を微調整して行くのです。

 ここに「八坂」「八咫」共に初と成る対艦砲撃戦の火蓋が遂に切って落とされた事に成ります。

 当然ですが、敵艦も黙って撃たれる訳が有りません。

 「八咫」「八咫」の周辺には敵の主砲弾が次々に着弾し、大小の水柱が吹きあがり海面が沸き立ちます。その様子は観測員の報告に依れば「八坂」と「八咫」では随分と違うようです、「八咫」に向けられているのは戦艦の巨砲40センチ砲、交互撃ち方の為に六発或は三発という数で撃ち込まれますが間隔は大口径だけに間延びしたものです、しかし落下した砲弾による衝撃は大きく、巨大な水柱が生まれ、時には「八咫」の姿を隠してこちらの肝を冷やします、一方の我々の「八坂」を砲撃しているのは重巡洋艦、青白い吊光弾の光に浮かび上がったその艦影は、米海軍の巡洋艦としては典型的な箱型の艦橋構造物と大きく間を開けた二本の煙突を持っていましたがその武装、主砲の配置は一風変わった形式のものだったのです、その巡洋艦は艦の前部と後部に二基づつ砲塔を持っていましたが、その配置は特徴的で甲板にそのまま設置されていた一番砲塔と四番砲塔は連装、その前後に背負式設置された二番砲塔と三番砲塔は三連装と成っていたのです。

 敵は一〇門の主砲を交互打ちで撃ってくるのですが、見たところ集弾性が良く無いようで余り脅威には感じませんでした、しかしながら敵の三番艦も「八坂」を標的としている様で二番艦以外の二〇センチ程度の中口径弾が絶え間なく降ってくと言った状態で何時直撃弾が有ってもおかしくない状況した。

 この時点では「八咫」「八坂」ともに直撃弾は無くほとんど無傷な状態でしたがこの後もこの幸運が続くと考えるのは愚者の証でもありましょう。

 従って我々はここで一刻も早く敵艦に有効弾を撃ち込むなりして敵を屠る必要が有りました。

 何故か?

 答えは、「八坂」と「八咫」の三一センチ砲では敵戦艦の装甲を撃ち抜くことが出来ないからです。従って我々がこのまま砲撃戦を続けても勝ち目は無いのです。

『それを今言うのか!』と、思われるかもしれません、が我々はその認識を前提に砲撃戦に臨んでいたのです。

 確かに三一センチ砲艦の「八坂」「八咫」に敵の四〇センチ砲搭載艦の戦艦を沈める戦力は有りません。但し、それは「八坂」「八咫」各艦が単艦で敵艦に相対した場合の話です、当然ですがこの艦隊は装甲巡洋艦二隻、重巡洋艦二隻、駆逐艦六隻で構成されています。

 故に手は有るのです。

 要は、「八坂」「八咫」が敵戦艦を沈める必要は無い訳で手段は他にも有ったのです。

 本作品をお読みの諸兄であるならお気付きかと思いますが、我々挺身砲撃艦隊(と言うよりも帝国海軍)には必殺とも言える秘密兵器が有ったのです。

 それは戦後米兵が「ロングランス」或は「蒼いう暗殺者」の異名でその存在の恐怖を語った、九三式魚雷でした」。

 この六一センチと言う世界にも類を見ない大直径の大型魚雷は機関の駆動に純酸素を使うため高速な上に航跡を残さず、尚且つ大量の炸薬を装備可能と言う優れものの兵器で、我々の艦隊はこの段階で重巡と駆逐艦の合わせて一〇〇発超の必殺兵器を有していたのです。

 但し、魚雷としては長射程を持っていましたが砲弾に比べればその距離は短く、射程圏に入るのが難しく、使う場面を選ぶ難しい兵器でも有りました。

 従って、その一〇〇発超を有効に使うためにも我々が正面から敵戦艦と相対して砲撃戦に持ち込み少しでも拘束して駆逐艦隊が肉薄して雷撃できる隙を作る必要が有ったのです。

 その為にも少しでも長く我々との砲撃戦に付き合わせ、我々を討つ事に専念してもらう必要が有ったのです。そして、その前提として我々が現在標的としている重巡洋艦をサッサと片付けて「八坂」「八咫」の二隻で戦艦に相対しなければ成りませんでした。

 勿論それは我々の書いた筋書きです、敵はまた別の筋書きを用意しているでしょうから結果が我々の思った様に行くとは限りません。

 それでも私達はその時、負けることなど無いと心に決めて闘いに望んだのです。

春から激動の日々を送っています、入院・手術・療養生活、人事異動。此れでもかというぐらいの変化に五五過ぎのロートルは付いて行けませんで執筆スピードが落ちてしまいました(言い訳とも言う)。

 それでもと色々書き綴ったらまた膨大な量に成ってしまって、量を減らすのも何なので前後編にしました。


 中々終わりませんが、この後編からガチの戦艦と装甲巡洋艦の鉄拳での殴り合いです。私としても初めて書くのでどう表現するか悩む部分も有りませが、お楽しみいただけたら幸いです。

 例のごとく誤字脱字、何回も見直しましたが後から読み直すと見落としが有ります、気付いた方いましたら感想の方へお願いします。勿論、感想意見も大歓迎です。

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