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南溟の断証(ゴリアール)  作者: 雅夢
第一章 八坂激闘譜
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八坂激闘譜 閑話 或る米砲術士官が見たソロモン海戦(後編)

昨夜の前編に引き続きの後編です。

八坂激闘譜 閑話 或る米砲術士官が見たソロモン海戦(後編)


 「そうだな、ノックス君、君ならどうするかな?」

 それは第63任務部隊指揮官、ウィリス・A・リー少将の唐突な問い掛けであった。

 私はもう一度最新の情報が記されているアクリル板に目をやり、少し時間を掛けて浮かんでいたアイデアを纏めた。

 OK、と自分の心のなかアイデアが一応の形になるのを待ってそれを言葉にすることにした。

「現在、敵は20000メートルまで近づいてきています、これが我々に気がついて攻撃のための接近か、気が付かづに偶然接近してきているのかは日本海軍でも無い限りは判りません。」

 少し冗談めいて口調で、現状を纏めると赤黒い照明のなかでリー提督は少し笑みを浮かべた、恐らく同じ見方なのであろう。

「ですが、これ以上近づけば彼らは確実に気が付きます。

 何しろ恐ろしいほど夜目が利くようですから。」

 私のその言葉に他の司令部要員達は或る者は怯えたような表情を浮かべ、また或る者は面白くなさそうな表情を浮かべて顔を背けた。

「であるなら、思い切ってこちらから近づいて間合いを詰めてみたら如何でしょうか?」

 私の言葉に皆が虚を突かれた表情を浮かべた。

「今の段階ならこちらが主導権を握って攻撃が出来ます、

  あと少し、18000付近まで近寄ればレーダー射撃が可能なのですから。」

 「良いな・・。」

 私の言葉に提督が面白そうな表情を浮かべて頷いていた。

「確かに、敵が気付いているかは解らないのに、躊躇して敵に先手を取られえるのは面白くない。」

 どちらかと言えば自分に言い聞かせるように提督は言葉を紡いだ。

「このまま接近すれば正面からの撃ち合いと成る。

 こちらは前の主砲しか使えないが、それは敵も同じだ。しかも正面なら投影面積が小さくなる、悪いことばかりでは無いな。」

 リー提督はそこまで言って、一人の人物に視線を向け命令を下した。

「参謀長、各艦に伝達してくれ。

 パプリカ(ワシントンの符丁)は敵の一番艦を、ラベンダー(ペンサコーラ)とアロエ(ノーザンプトン)は2番艦、タラゴン(ヘレナ)とセージ(駆逐艦マハン)は3番艦、・・・。」

 リー提督は任務部隊各艦の符丁を読み上げて攻撃対象とする敵艦を割り振って行った。

「距離18000で射撃を開始する。」

 提督がそう宣言すると、連絡を担当する各員は隊内無線機を通じて作戦指示を各艦に伝え始めた。

 これ以降はワシントンの乗組員達の仕事だ、SGレーダーを用いて算出された敵の諸データはテレトークや指示器を通じて艦内奥深くに有る発令所に送られて、中に設置された射撃盤(編注:実際には米海軍には射撃盤と言う装置は存在せず、Mk8 RengeKeeperと呼ばれる日本軍の射撃盤+測的盤を組み合わせたシステムが使用されています、然しながらここでは読者の皆さんが解り易いように射撃盤と言う単語を当てています。)に次々と入力されてゆく。

 戦後記された書記等に誇張や誤認が多く、読者に誤った認識が広がっているようだが、第二次大戦(太平洋戦争)の時点の技術水準でレーダーのデータに射撃盤を連動させる事は出来なかった。

 では、どうするのか?

 簡単な話だ、レーダー士官が読み上げる数値をテレトーク等で発令所に送り、人の手で射撃盤へ入力するのだ。

 要は、測距所の測距儀の代用としてレーダーを使い、光学データ代わりに電波で測定した方位と距離を入力していただけの話である。

 従ってその他のデータは当然であるが、それとは別に各々の測定機器より得られた数値を入力することに成る。

 これらの各データを入力された射撃盤は算出した計算結果により、使用すべき主砲を旋回角と俯角の指示を出し直接をリモートコントロールする。

 但し、これは概算に近いデータなのでこの後、各砲塔の旋回手と射手に拠る修正が当然必要となる。

 今回も射撃盤の指示で照準を合わせていた各砲塔は、次の手順として各要員による修正により微調整がされていた。

 間も無く司令塔内に設置されたインジケータのランプが青から赤へ替り発射準備が完了したことを告げた。

 流石に実戦を経験した乗員の手際は格段に良くなっていた、と言うよりも一つ一つの作業に自信が現れている様に感じる。

 やがて敵に向けている2基の砲塔、6門全ての発射準備が整った。

「敵との距離は?」

「18200」

 提督の問い掛けに、レーダー室へのテレトークを握った伝令が即座に応える。

「司令?」

「艦長、砲撃開始だ(Open Fireing)。」

 発射の許可を求める艦長のグレン・B・デイビス大佐に、リー提督はその表情を変えること無く即座に命じた。

「砲撃開始、アイ!撃て(Fire!)」

 彼の言葉の後半は砲術長への命令だった。

 一瞬の静寂の後、轟音と衝撃が分厚い司令塔の装甲越しに伝わって来た。

 砲術長は、交互撃ちを3連装の外側2門、1番砲と3番砲で行う斉射と中央の2番砲を使う斉射を交互に行う選択をしたようだ。

 初撃は、まず当たることは無い、したがって落着した地点を計測しそこから算出される修正値を入力して、可能限り少ない手数で命中にまで持ち込む、それが砲術科の腕の見せ所となる。

 従って初弾の落下位置が最重要となる。

「着弾!

 全弾右舷、遠い!」

 レーダー手からの報告を伝令が叫び、違う伝令がアクリル板にその結果を書き込む。

 その詳細情報はすでに砲術長の下に伝えられている。彼はレーダー手のとらえた着弾位置を傍らの発令所へ繋がるヘッドセットを着けた伝令に命じて修正値を伝えた。

 さほどの間もなく第2射が放たれる、今度は各砲の中央、2番砲の2門が発砲する。

 着弾!

 今度は敵の左舷側に大きく逸れて着弾した。

 再び修正。

 三度目の着弾は再び右に逸れた、少し敵艦に近づきつつあったが。

 妙だ。確かにレーダーを用いた射撃はその特徴として距離データの正確さに対して方位角(旋回角)のデータの誤差が大きくなる傾向が有った。

 だが、それでもこの誤差は大きすぎる。

「拙いな。」

 そんな呟きの先を見ると、リー提督が苦虫を噛み潰したような表情で、着弾の結果を書き込んだアクリル板を凝視していた。

「ノックス中佐、これをどう見る?」

 私の視線に気が付いたのか、提督が視線をアクリル板から外さないまま問い掛けてきた。

「恐らく、先の夜戦で損傷したレーダーの修理に何か問題が有ったのではないでしょうか?」

「やはりそうか。」

 前述の通り、先の第2夜戦時、戦艦ワシントンは戦闘の終盤に艦橋付近に直撃を受けている、幸いなことに受けたのは駆逐艦の主砲弾である12.7㎝砲弾であったが、損害は軽微であったが深刻なものでもあった。

 艦橋後方のマストの中ほどに着弾した敵砲弾は付近の装甲に阻まれて表層で炸裂したが、その破片がマスト上部のレーダーアンテナを直撃し使用不能にしたのだ。

 レーダーは昼の内に予備部品を使用して使用可能にまで復旧できたが感度が低下したのに加えて精度に難が有ったようだ。

 加えて今回使用しているのが水上索敵用のSGレーダーであるという点にも問題が無いわけではない。

 後年の戦記などにこの戦闘に我々合衆国艦隊が射撃用のFCレーダーを使用してような記述が見受けられるが残念ながらこの時点ではFCレーダーは搭載されておらず、我々は索敵用のSGレーダーのデータを射撃用に転用していたのだ。

 それでもSGレーダーは十分な制度と分解能を持ちPPIを使うことで充分な性能を有しており実用に耐えられるはずであった。

 しかし、その目論見は潰えていた。

 現状では、レーダーのデータのみでの射撃は命中を期待できない弾の無駄遣いであり、砲撃により自身の存在を露呈させている以上、不利にもなりえる状態であった。

「司令、これ以上のレーダー単独での射撃管制は弾の無駄遣いでしかありません。

早急に光学による修正を併用させるべきです。」

 そういったのは砲術長からの報告を聞いていたデイビス艦長であった。

 しかし、提督がそれに応える前に新たな報告が飛び込んだ。

「敵艦隊変針。」

「敵艦隊、左に進路変更しました、方位175。」

「敵艦隊増速!」

  レーダーと艦橋上部の見張手から次々と敵艦隊の動きに関する情報がもたらされる。

それらの情報は次々とアクリル板上へ書き込まれ古い情報は消去されてゆく。

「175?南ですな。奴ら我々を無視してヘンダーソン基地を狙に行くつもりでしょうか?」

 アクリル板上に新たに書き込まれ修正された日本艦隊の航路を一瞥すると、主席参謀のカニンガム大佐はそうリー提督に問い掛けた。

「だがこのまま基地へ向かえば我々が無傷で放置されることに成る。背後がガラ空き成るのでは?」

 その問いかけに提督ではなく次席参謀であるスコット中佐が疑問を挟む。

私も新たな状況が書き込まれたアクリル板を眺めて同様な考えに至っていた。

「そうだな、、艦長進路190へ頼む。」

「190ですか?」

 リー提督の新たな指示に疑問を浮かべて問い返したのは艦長ではなくスコット中佐だった。

「そうだ、並進して背後から一撃を加える。」

  提督は新たな針路を指でアクリル板上を滑らせて指示すると、海図台から顔を上げてこの先の戦闘の概要を説明し始めた

「どの道、彼らはすぐに進路を変える、後背を突かれるのは連中も面白くは無いだろうからな。

 それから艦長。」

 そこまで話して提督は、進路変更の指示を出していたデイビス艦長に声を掛けた。

「なんでしょう?」

「星弾を用意してくれ、針路定針後に光学照準を併用して着弾修正する。」

 艦長は了解と告げると、両用砲へ星弾の装填準備を命じた。


 艦隊が針路を左方、南へ向けて定針するとワシントン艦上の両舷の両用砲が砲身を擡げて、星弾を夜空の彼方に吐き出した。

 後に見張手に聞いた話では、暗闇の彼方、眩い星弾の光に照らされて2隻の戦艦とそれに続く巡洋艦と駆逐艦の隊列を見たという事であった。

 先頭の2隻は真新しく見え、日本軍にはこれまでにないレイアウトの主砲配列が目についたと言う話であった。

 この日本艦隊は、星弾の光のなかで速度を上げ、更に右に転舵することで我々の頭を抑えて来た。

 これに対して、いや応えてと言うべきか、我が艦隊は同様に速度を第2戦速に上げると右舷側へ転舵して敵艦隊と並進、同航戦へ入る構えを示した。

 光学の修正を併用することで、より正確な旋回角が出せるように成る、これまで空振り続きだった砲撃が一気に正確さを増す。

 その証拠に、針路変針後の第一射は至近弾とまでは言えないものの、これまでの大きく外れた着弾位置よりも遥かに近い位置へ着弾している。

「さて、どうする?」

  アクリル板上へ記された新たな着弾位置を確認しながら私は見たことのない日本艦隊の指揮官へ問い掛けた。

 その答えは時を経ずしてもたらされた。

 それは艦橋上部で配置に着いていた見張手とレーダー手からの報告だった。

「艦隊上空に、吊光弾多数。」

「対空レーダーに反応有り、日本軍機です。」

 これまでこうした場面では日本艦隊は犠牲を承知に探照灯を点灯して照射射撃を行う事が多かった、しかし、今回敵艦隊の指揮官は自軍の犠牲を抑えるためか位置が露呈して集中砲火を浴びる可能性の高い探照灯照射射撃ではなく、ある意味我が艦隊と同様の照明弾を空中に浮かべて照準を行うという方式に変えてきた。

 そんなことを考えるのはほんの一時だった、やがて見張手より報告が入った。

「敵艦発砲!」

  ここに第三次ソロモン海戦第3夜戦の第二幕が上がることと成ったのである。


今回の閑話はこれで終了です、一周間自宅療養だったので書く時間は充分あると思ったのですが、以外に執筆に時間が取れなくてこの二話を投稿するのが限度でした。


 何時もながらですが、誤字脱字、言い方が変なところが有ったら教えて下さいね。

感想も意見も大歓迎です。

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