第1-3話 八坂激闘譜Ⅲ
時間が掛かってしまいましたが、やっと更新できました。
八坂激闘譜Ⅲ
昭和十七年(一九四二年)十一月十六日から十七日に掛けて行われた第三次ソロモン海戦第三夜戦に於いて、第三挺身砲撃艦隊本隊の先頭に立って居たのは挺身砲撃艦隊の旗艦である「草薙」型装甲巡洋艦の三番艦「八咫」でした。
第三夜戦に際して「八咫」が旗艦に選ばれたのは、挺身砲撃艦隊司令部からの強い希望の結果とされています。この事から「大和」型二番艦の「武蔵」と同様に、豪華客船の建造経験の豊富な三菱重工業長崎造船所で建造された艦の方が海軍工廠で造られた艦より内装や調度品も出来が良く見栄えや居心地も良い為に選ばれたなどと言われる事が有りました。
実際のところ私が当時の関係者に話を聞いた限りでは、「八咫」に搭載された二二号電探、正式名称二式二型電波探信儀が故障も少なくまた操作に当たる作業要員も扱いに馴れていて稼働状況も良いことと通信機器が充実していた事から(「草薙」型装甲巡洋艦は本来は複数の水雷戦隊を指揮する目的で建造されたため高性能の通信設備を有していました。)旗艦に選ばれたと言う話しでした。
艦隊の司令部は今回も恐らく敵艦隊が待ち伏せを行っていると考え、電探を搭載した「八咫」を本隊の先頭に置くことで、待ち伏せや不意打ちを未然に防ぐ手立てとしたのです。
その期待のマグロ(二二号電探の通称)ですが、見事その期待に応えた言って良い働きをしています。
第三挺身砲撃艦隊は鉄底海峡の北の入り口、サボ島北の海峡に身を潜めて待ち伏せをしていた米艦隊の存在を捉え、訳も判らないまま一方的に砲撃で撃たれて壊滅的な損害を受ける事を免れ得たのですから。
この時、「八咫」が発信した発光信号は次の様な内容でした。
『本艦電探ニ感アリ、方位・左三〇度(十一時ノ方向)、距離二二〇(二二〇〇〇メートル)、数不明、反応大ナリ』
パノラマ眼鏡の接眼レンズ越しに発砲炎が煌いたのは一瞬の事でした。それは瞬く間に消え、少しの間を置いて雷鳴の様な轟音が轟き、次に砲弾の飛来音が正しく絹を裂くような甲高い音を引きながら聞こえてきました。
何時聞いても肝が縮こまる様な音は、確実に大きくなりそれが艦隊を狙って放たれた事を証明して落着します。
砲弾が着弾した地点を見るに、敵は艦隊の前衛である第十駆逐隊の頭を通り越して本隊の先頭を行く「八咫」に狙いを付けて居たようでした。
但し、「八咫」の左舷側の相当離れた所へ着弾しましたが・・・。
着弾は随分と逸れた場所にでしたが、それから生まれた水柱の大きさから、それを発砲した敵艦が大型艦、恐らくは14インチ(35.6cm)以上の主砲を搭載した戦艦であることを示していた。
水柱の数は四本!
戦艦が主砲を初手から全門を発砲することはまず有りえません、必ず各砲塔の内の任意の砲を交互に発射する交互撃ちを行って、今使っている射撃データの有効性の確認と修正を行うことが基本であるからです。
そう考えるとすれば、敵は我々に正対する形で向き合い、使用可能な前部の主砲のみを使用した交互撃ちを行っている、であるなら相手は三連装の主砲のうち外側の二門を使用していると考えることが妥当であると結論付けることが出来ました。
つまり、敵は「八坂」と同様に三連装砲塔を前部に二基搭載している。
「前部に三連装二基か・・・。と言うことは奴さんはノースカロライナ級かサウスダコタ級ですな。」
方位盤射手の鷹野特務少尉も既に照準眼鏡を敵影に向け、その敵をそう評しました。
「やはり居たか、ノースカロライナもサウスダコタも四十センチ砲艦だ、手ごわいな。」
私は以前見た敵艦艇の諸元一覧を思い出してそう言う間に敵は第二射を放ちました、今度は二発、三連装砲の真ん中の二番砲の砲撃です。
これは先ほどとは反対側の「八咫」の右舷側へ逸れて着弾しました。
暗闇の中での射撃とは言え妙な砲撃です。
「おいおい、今度は右舷側って、ちゃんと狙い定めて撃っているのか?」
「確かに、修正はしている様だから盲目撃ちでは無いけど、これじゃあ弾の無駄遣いですよね。」
動揺手の岡野上等兵曹と旋回手の渥美一等兵曹は着弾位置を確認しながらそんな批評を口にしていた、同じ砲術を担当する者としてこの砲術の仕方は納得いかなかったのであろう。
更に敵艦は第三射となる四発を打ってきました。着弾位置は再び「八咫」の左舷側でしたが多少は目標に近づいています。
「こいつはやはり電探を使った砲撃ですね。」
「鷹野さん?」
「前に電探担当の通信科の奴に聞いたのですが、電探の特徴として距離の諸元は正確に出るそうですが、方位角の諸元が今一つだそうで、単純な索敵用でそうですから射撃用はもっと精度が必要ですから影響は大きのでは無いでしょうか?」
私の問いに対して鷹野特務少尉はそう言って現状での電探の問題点を指摘してくれました。
そう言われて着弾位置を確認すると、確かに方位角は不正確でバラけていますが、距離という面で見るなら大きな違いは有りません。
確かに電探の使用は有り得そうです。
その後、第四射の二発が放たれましたが、目標に対して至近弾というのには少し遠い地点へ着弾して終わりました。
しかし、こちらの艦隊に動きは有りません、反撃の砲撃も敵に照準を行うための探照灯照射も有りません、いえ、それらの行為は敵にこちらの位置を知らせるだけの愚策として今回は禁止が徹底されていました。
勿論それを徹底させる為の策も有りました。
敵の放った第五射は四発は、再び目標である「八咫」の左舷を大きく離れて着弾しました、それは敵が第五射で狙いを着けた「八咫」の未来位置と現実が大きくかけ離れていたために起きた事でした。
ここにきて初めて日本側は動いたのです、敵が第五射を放つのと合わせるようにして「八咫」は面舵、つまり右に舵を切り針路を右に九〇度と大きく右へ変更したのです。
やがて後続の「八坂」も先程「八咫」が回頭した地点に差し掛かると、主砲射撃指揮所が左舷側に傾き始めました、これは「八坂」も舵を右、つまり面舵に転舵していることを示していていました、。
もちろん右へ舵を切ったのは「八坂」だけでは有りません、後続の二隻の重巡洋艦も同じ地点で順次、右に舵を切り先行の二隻の装甲巡洋艦に続航します、所謂『右八点逐次回頭』と呼ばれる艦隊運動です。
更に第三挺身砲撃艦隊は、右へ転舵後に陣形を大きく変えました。
「八咫」を先頭に主力艦で成る本隊の単縦陣を中央にして、先鋒だった第十駆逐隊の三隻の駆逐艦が単縦陣で本隊の左舷側に位置を取り、後衛の第二七駆逐隊の駆逐艦も右舷側に位置をとって❝小❞の字を形作る複数の単縦陣で構成された複縦陣を形成して南進を始めたのです。
それは一見すると、敵艦隊との戦闘を避け距離を取って、サボ島の南側のタファサロング沖を通ってヘンダーソン基地へ向かい刺し違えを覚悟の上で叩こうとしている様でも有りました。
「さて、どうする米軍?」
私は、置いてきぼりにされつつ有る米軍をパノラマ眼鏡の視界に収めながらそう呟きました。
私の呟きに答えた訳では無いでしょうが、突然周囲が明るく成りました。
それは、敵艦の両用砲(副砲と高角砲を兼ねた対空・水平撃ち可能な少口径砲)から打ち上げられた照明弾(星彈)でした。
一瞬にして我が艦隊の周囲は昼のような明るさと成りました。
気がつくと敵艦隊は速度を上げ、我が艦隊の後方から右舷側へ針路を取り、並進しながらこちらの戦力を削ぐ行動に出てきた様に見えました、
「良いぞ・・。」
私の呟きに合わせるように再び艦隊は逐次回頭で右に舵を切り更に第二戦速(二一ノット)へ増速しつつ、西へ、ガダルカナル島から離れる針路を取り始めました。丁度針路を変え我が艦隊に並進しようとした敵艦隊の頭を押さえTの字を描く様に針路を取ったにです。
「おっ、やるな。」
私にこの戦いを楽しむ余裕は有りませんしその様な行動は不謹慎にも思えました、しかし、敵味方の死力を尽くした駆け引きは見ていて心躍るものが有るのは確かでした。
敵艦隊の司令は我が軍の投げつけた果たし状に、受けて立つ構えのようでした。
我が艦隊が再度右に針路を変更したのを確認した敵の艦隊は自らも右に舵を取り、再び我が艦隊と並進する針路を取り同航戦を挑んできたのです。
彼我の距離は一八〇(一八〇〇〇メートル)まで接近していました、夜間ではあるが充分砲撃戦の出来る距離です、対する米艦隊は四〇センチ砲を搭載する戦艦を有しながら彼らは至近の砲撃戦を選択したのです、それは新型とはいえ三〇センチ砲艦である「八坂」「八咫」としては願ってもない好条件での砲撃戦でした。
後に米軍側の資料を確認したところ、当初、米軍は兵員の疲弊と損害の蓄積により、また何より二度に渡って敵の攻勢を跳ね返した事も有って我々が三度、それも戦艦を投入してまでもガダルカナル島ヘンダーソン飛行場基地を攻撃しに来るとは考えて居なかったようです。
そこへ潜水艦や哨戒艇から日本艦隊の来寇の情報がもたらされ、しかもその中に噂でしか無かった日本軍の最新戦艦、つまり二隻の「大和」戦艦と思われる新鋭艦の存在を確認した事から大慌てで迎撃に出向いたようなのです。
つまり彼らはシルエットの似た我々の「八坂」「八咫」を「大和」型戦艦と誤認し、その為に遠距離での砲撃戦を避けて接近戦を挑んで来たというのが事の顛末のようです。
私の艦隊の上空には再び何発もの照明弾が輝き昼間の様な明るさに成りました。
照明弾で光で明瞭に目標を捉えられれば、光学照準による射撃諸元の修正も可能に成っての精度は一気に上がります。
前述の米軍資料によれば、当初電探を使用した射撃のみで砲撃を試みたものの、現状では米軍といえど運用実績の不足から、実効弾を与えることが出来ないと判断した事から照明弾(星弾)の使用に踏み切ったようです。
再び射撃を開始した敵戦艦の射撃は一気に目標である「八咫」との距離を縮め、至近弾と成って右舷に着弾しました、いえ戦艦だけでは有りません、これまで発砲を控えてきた後続の艦も同じく射撃を開始したのです。
「ホチ!」
「まだだ!」
危機に陥りつつある「八咫」を心配して、動揺手の岡野上等兵曹が応戦を求めましたが、私は一言でそれを押し留めました。
この状態で発砲しても、効果は知れていますし逆にこちら側の正体が露呈してしまいます。
ですが「八咫」が危険なのは変わりませんし、現状では我々の「八坂」の周辺にも砲弾が落下し始めています、私が焦りを声を上げようとした時、敵艦隊の上空で敵の照明弾に劣らない輝きが生まれました。
これは後方の輸送艦隊に同行していた水上機母艦である「千代田」より発進した零式三座水上偵察機が投下した吊光弾による光でした。
投下された吊光弾の光により相対する敵の姿が初めてハッキリとしました。
敵もやはり戦艦を先頭に巡洋艦が後続する形で単縦陣を組んで航行していました。
敵艦隊は、戦艦一隻と巡洋艦三隻で単縦陣を組み、その前面に五隻の駆逐艦が露払いとして位置取ると言う、我が軍の陣形と似た姿で同航している姿を明確に確認したのです。
主砲射撃指揮所の壁に取り付けられた高音電話のベルが成り伝令が出ます。
「艦長より、主砲右同航戦用意、本艦目標敵二番艦。」
「主砲右同航戦用意、本艦目標敵二番艦、砲術長了解。」
私は伝令の言葉に、復唱して了解を告げました。伝令がそれを艦長へ復唱すると他の伝令が各部へ砲撃戦準備の指示を伝えます。
「砲術長より、主砲、右同航戦、目標は敵の二番艦だ!」
「二番艦ですか?」
私は目の前の伝声管へ怒鳴りました、この伝声管は下の測距所に継っています。
私の指示する目標が巡洋艦なのに下にいる測距長からは不満げな口調の確認が帰って来ます。
「二番艦だ、さっさと叩いて戦艦を殺るから、しっかり頼むぞ。」
「目標敵二番艦、ヨーソロ。」
私の腹づもりが判ったのか打って変わって上機嫌な返事が帰って来ます。
ただ、それでも問題は有るのですが。
私と測距長が会話を終えたその直後、下層の測距所が十メートル測距儀と供に右に旋回しました。
さて、ここからは私達、砲術科の戦闘です。
旋回手の渥美一等兵曹は素早くハンドルを回して照準器内の縦の線を敵艦中央へ合わせ、これと並行して方位盤射手兼仰角手の鷹野特務少尉も照準器内の横線を標的に合わせます。
こうした作業により、本艦の主砲の左右へどの位旋回させるか、各砲塔の各砲身をどれだけ上下させるか算出されます。
つまり、方位盤照準器とはその作業のための装置なのです、更にこれに動揺手が左右の水平線と合わせて照準器のブレを修正した値を下層、艦隊中央最下部付近に有る発令所へ送ります。
送られてくる先に有るのは射撃盤(正式名称九八式射撃盤改二)と呼ばれる二メート四方の机のような装置で、巨大な箱状の装置の内部には一般的な四則演算を行う単純な計算用の歯車から砲術用の関数を計算する歯車、カムとそれを駆動させるためのモーターなどが組み込まれた一種の機械式計算機でした。そして、これこそがこの時代までに蓄積された砲撃技術としての幾何学、或いは弾道学の精華とも言うべき知識と技術の集大成であると言いうことが出来ます。
この本艦で最も重要な装置の一つである射撃盤の上面には各種の表示装置、その周囲には多数の手廻しハンドルが付けられていてこれを回すことで主砲砲撃の為の各種の諸元数値が入力されるのです。
入力されるのは先に記した、旋回角、仰角、それに測距儀による距離数値(三基の平均数値)ですが、これで主砲が発射できるかと問われれば否と言うしか有りません。
それは本艦も敵艦も動いているからです。
ですから先ず自艦の針路と速度、相手の針路と速度を測定してこの装置に入力しなければなりません、しかもそれらの諸元は継続的に入力され続ける必要も有ります。
その為に、この射撃盤を設置した発令所の四方の壁はそうした各種諸元を測定する部署から観測・測定結果を報告するための電話や伝声管、通信機の表示盤とブザーや表示ランプで埋め尽くされていました。
こうした伝達装置から伝達された情報は伝令員によって、射撃盤を操作している操作員に伝達されて射撃盤へ入力されます。
しかし、自艦と敵艦の諸元を入力して準備完了というわけでは無いのです。
少々スケールの大きな話で大げさに聞こえるかも知れませんが、この後にも各種入力する諸元があるのです、たとえば当日の風速や風向、大気の密度、地球の自転の影響、更に主砲の腔内の腔線の磨耗度合いと装薬の経年劣化等です。
これらの巨視的、微視的事象は影響が小さくは無いのですが、機械式や自動で計算する仕組みは無く、軍機密と成っている諸表から該当箇所を探し出し現状に合わせて筆算による修正を加えて諸元を入力するの必要が有りました。
こうした一連の処理が済むと、各諸元は砲塔へ伝達されます。
砲塔へ伝達されるのは先に記した、砲塔の旋回角と各砲への仰角の指示です、それらの指示は砲塔内に設置された時計状の表示盤の赤と白の二本の針で伝達されます。
赤針を基針と呼び方位盤から指示された角度を示しています、これに追針と呼ばれる白針でもって赤針に重なるように各砲塔の旋回手と三人の仰角手(一つの砲塔に三門の砲が搭載されている為)は操作します、この白針は各々砲塔の旋回角や砲の仰角を現状の状態を示していますので、これが重なると言う状態は方位盤の照準と各砲の向きが一致している状態を示しています。
この段階で方位盤射撃装置の引き金が引かれれば砲弾が発射され理論上は命中となるはずです。
現時点では九門の主砲には既に砲弾と装薬が装填されて発射の火花が散るだけなっていました。
ただこの主砲へ装填されていた砲弾が対空対地攻撃用の三式弾だったのは問題でした。
これは当初、敵との遭遇を考えて先航の「八咫」に対艦用の九一式徹甲弾、次航の「八坂」が対空警戒用の三式弾と役目を分担して対処を計った結果でした、これは後続の二隻の重巡洋艦も同様で、先航の「鳥海」は対戦準備、次航の「衣笠」は対空対地準備をしての参戦でした。
只、三式弾には先の第二夜戦において戦艦「霧島」が敵戦艦にこれを集中的に打ち込み、艦上を火の海にして撃沈まで後一歩と言うとこまで追い込むことに成功していたのと言う実績は有るのです。
しかし、これ以外にも大きな問題が有りました、もしかするとこれが最も大きな問題かも知れません。
「これでこいつ(八坂)も、『対艦戦処女』とはお別れですかね。」
照準をつける鷹野特務少尉がしみじみとそんな言葉を口にしました。
そう、実は「草薙」型装甲巡洋艦三姉妹は就役が海戦間際だったこともあって、揃って対艦戦を経験したことが無かったのです、確かにインド洋作戦の折に、英国艦隊へ砲撃を行った実績は有るもののすぐさま英国艦隊が煙幕を張って逃走を図ったために実質対艦戦には至っていなかったのです。
そうした事情から連合艦隊の海上勤務者、特に鉄砲屋(砲術士官のこと)たちから「草薙」型三姉妹に付けられた渾名が『対艦戦処女』でした。
ここで考え違いされては困るのですが、対艦戦を経験していないのは艦の「八坂」であって、乗務している我々ではないことです。逆にそうした事情から砲術関係は経験豊富な士官や下士官が配属されていたのです。
この場合に問題と成るのは、対艦戦の経験がない為に砲撃の結果に対する情報の蓄積が無いことなのです。先に記した様に砲身内の腔線の摩耗度合いや装薬の経年劣化で着弾位置は変わります、旧来の艦は訓練や実戦を経てこれらの情報の蓄積があって最終的な照準の微調整が可能だが我々はそれが出来ない、これは大きな足枷でした。
そんな不安は有ったもの、装填が既に済んでいた各砲の砲撃準備は瞬く間に終了し、砲撃可能を示す赤いランプが九個並ぶことになりました。
然しながら、私はそんな準備完了の状況を確認しながらやや焦り気味にパノラマ眼鏡を覗いていました。
その眼鏡の視線の先にいるのは「八咫」、挺身砲撃艦隊の旗艦です。
艦隊単位の統制射撃では旗艦の発砲を合図に後続も射撃というのが鉄則でした。
ですから旗艦である「八咫」が発砲してくれないと、「八坂」は発砲出来ないのです。
従って私は「八咫」の発砲を待っていたのです。
「三谷さん、どうした!
早く撃ってくれ!」
私はパノラマ眼鏡を覗き込みながら、姉妹艦の同じ射撃指揮所で必死に狙いを定めているであろう、先任の「八咫」砲術長に呼び掛けた、いや懇願したと言って良いでしょう。
私の願いが通じたのはその後一〇秒ほど経ってからでした。
旗艦の「八咫」の艦上に三つの閃光が光りました、旗艦が射撃を開始したのです。
三基ある主砲塔の各一番砲を使用しての交互射撃でした。
「撃ちー方はじめ!」
私は「八咫」の発砲を確認すると、そう叫んでブザーのスイッチを押し込みました。
断続音三、一呼吸置いて長音一、「八坂」艦上に退避ブザーが鳴り響きます、この退避ブザーの長音が鳴り終わると発射です。
「撃っい!」
「テイッ!」
ブザーが成り終わるのを待ちかねて発した私の号令に被るようにして鷹野特務少尉はそう叫んで方位盤射撃装置の引き金を引き絞りました。
こちらは斉発、九門の主砲を一斉に放ったのです。
今回は比較的手早く書き終わる事が出来たのですが、誤字脱字が多くて推敲に時間が掛かってしまいました、もしかするとまだ誤字脱字は残っているかもしれませんが有りましたら一報下さい。
次はなるべく早くしたいですがどうでしょうか?
では少々お持ち下さい。