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南溟の断証(ゴリアール)  作者: 雅夢
第一章 八坂激闘譜
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第1-2話 八坂激闘譜Ⅱ

 更新が遅くなりましたが八坂激闘譜第二話をお届けします、激闘譜なんですが二話の最後でやっと戦闘が始まります。

八坂激闘譜Ⅱ


昭和十七年(一九四二年)十一月十六日、私こと帝国海軍中佐有川尚繁は自身が砲術長を務める装甲巡洋艦「八坂」と共にガダルカナル島へ向かう道程にありました。

十一月十五日早朝に連合艦隊司令部からショートランド泊地へ向かう旨の命令を受けた我々第十二戦隊と第十駆逐隊は、対潜対空警戒を厳にしながら十五日の深夜に泊地へ無事に辿り着くことが出来ました。

 泊地では既に損傷箇所の修復と補給を済ませた重巡の「衣笠」「鳥海」の二隻に第二七駆逐隊の三隻の駆逐艦が我々の到着を待っており、この五隻を合わせた計一〇隻が今回の三夜目となる夜戦に向かう艦艇の全てでした。

 参加艦艇の集結が完了して、来援の我々の艦艇が随伴してきた油槽船から燃料の補給を受ける間、艦隊の臨時旗艦と成った「八咫」に参加艦艇の指揮官が集められ、作戦の細部の詰めと打ち合わが綿密に行われるといよいよ出撃です。

 今回の作戦では艦隊の旗艦を前述の通り装甲巡洋艦「草薙」型三番艦「八咫」とし、作戦指揮は第十二戦隊の司令である木村進少将が執る事と成りました。

 これには先の二夜目の夜戦における豊田信竹中将の慎重過ぎる指揮が消極的との評を受けた事と、より積極的に艦隊を運用できる人材として既に「草薙」型で編成した戦隊での指揮経験がある点を買われての任用でした。

十一月一六日十五時、ショートランド泊地を抜錨した決戦艦隊(通称)はソロモン諸島の中央に位置するニュージョージア海峡を南下、ガダルカナル島ヘと針路を向けたのです。

 艦隊は泊地を出ると、前面に警戒部隊として第十駆逐隊の駆逐艦「夕雲」「巻雲」「風雲」の三隻が並進、その後方に本隊として艦隊旗艦の「八咫」を先頭に「八坂」の第十二戦隊の二隻、さらにその後方に「鳥海」「衣笠」の二隻の重巡がそれぞれ単縦陣で続き、殿として第四水雷戦隊第二七駆逐隊の「時雨」「白露」「夕暮」が並進して後方警戒に当たる所謂第二警戒航行序列を取りながら、針路方向への警戒を厳にしつつガダルカナルへと向かったのです。

 更にこの決戦艦隊の後方には、これまでと同様に陸海軍の輸送船と水上機母艦、護衛の一個水雷戦隊で編成された輸送艦隊が後続します。

 作戦の主旨から考えれば本来はこちらが主役と言うべき重要な存在です、ですがそれ故に輸送艦隊も先の二度の夜戦の中で何度かガダルカナル島への揚陸を試み、その最中に既に四隻の輸送船を失うと言う損害を受けておりました。この為、これ以上の喪失は輸送作戦そのものの失敗に繋がるとの認識を持った輸送艦隊の指揮官たちは、今回の夜戦が困窮する友軍への物資と兵員輸送し戦力の建て直しが行える最後の機会と捉えて決死の覚悟で輸送任務に向かったと後にお会いした士官は語っておりました。

 艦隊は当初二四ノットの艦隊速度で南進していましたが、サンタ・イサベル島南方を通過し、鉄底海峡入り口のサボ島が彼方に見える付近まで来たところで、十五ノット(強速)まで減速が指示されました。

 これはスコールが有って幾分視界が悪化したのと、周辺を警戒するための減速でした。

 我々が進むニュージョージア海峡には多数の小島が有り、その島影は襲撃を目論む敵の哨戒艇や魚雷艇が隠れるのに正に好都合な場所でしたし、襲撃はしないまでもこちらの動向を本隊に通報する斥候が身を潜めのにも最適であると見られ警戒されていたのです。

 この時点で私が居たのは持ち場である装甲巡洋艦「八坂」の艦橋上部に有る主砲射撃指揮所でした。

 本艦の主砲を指揮管理するこの設備は、艦中央に聳え立つ艦橋構造部の頭頂部に設置された、直径三メートルの耐機銃弾装甲で覆われた円筒形の筐体で、中には主砲の照準に必要な装備と人員が詰め込まれていました。

 艦橋の最上部ということでその高さは「草薙」型ですと三〇メートルは有ります、それ故に見晴らしは良く海が穏やかで昼間であれば素晴らしい眺望を拝めるのですが、荒天の時は前後左右に大きく揺すぶられる大変な持ち場でした。

 そしてこの主砲射撃指揮官の一層下には、敵との距離を測定する為の測距儀を装備した測距所が有って、更にその基部は回廊式で露天の防空指揮所となっていました。

 これまでの帝国海軍の艦艇では主砲射撃指揮所の上に測距儀を含む測距所が積み上げられるか一体化した構造をしていましたが、この「八坂」を含む「草薙」型装甲巡洋艦ではその配置が逆に成っていました、この形式は他に「長門」型と「大和」型の戦艦が有るだけで他の艦との識別の際に大きな要素と成っていたのです。

 厳密には「長門」型では主砲射撃指揮所と測距所が大きく離れた位置に有るため、「大和」型「草薙」型の積み上げた様式とは相違が有りました。また個艦ですが金剛型二番艦の「比叡」が「大和」型のテスト例として同一形式と成っていました。

 余談ですが下層の測距所に置かれた測距儀は「大和」型に搭載された十五メートル測距儀ではなく、他の戦艦に装備されたのと同様の十メートルの物でしたので、頭頂部のボリュームが「大和」型よりも小さくなっていて、この点が艦橋の構造がよく似ていた「草薙」型と「大和」型の識別の点にも成っていました。

 この測距儀は実は耐弾装甲のケースの中に三基一組で収められており実測データはその三基の平均とされていました。

 この主砲射撃指揮所の中央には天井から床を貫く柱のような装置が置かれていました、これは方位盤照準装置(正式名称 九八式方位照準装置改二)で、名前の通り主砲の射撃のために目標を照準し射撃に必要な方位などの諸元を測定して入力する為に使用されるものでした。

 この柱状の方位盤照準器の上部は潜望鏡の様に指揮所の上に突き出しており、複数の照準と測定用の眼鏡と指揮官である私の使用する指揮官用パノラマ眼鏡が装備されていてその接眼レンズは柱状の方位盤照準器のそれぞれの面に設置されていました、この為この指揮所に配置された指揮官の私を含む四名の人員は各々方位盤照準器に向かって座りそれぞれの照準様の接眼レンズを覗き込む形でた作業をしていたのです。

 配置は、一番奥で進行方向に向かって座るのが指揮官つまり私です、その対面に座るのが左右動揺手で艦の主に左右の揺れを計測し修正値として射撃盤に入力します、私から見て右手には旋回手そして左手は射手兼俯仰手の席と成っていました、この旋回手は主砲塔の旋回を俯仰手は各砲塔のそれぞれの砲の仰角を指示操作する役目を持っていて射手はその名の通り準備が完了した主砲に最終的に発射指示を下す役目を担っていました。

 この他、射撃指揮所にはそうした方位盤射撃装置や照準眼鏡類以外にも指揮所の前後と左右には観測用の窓と大型の双眼鏡が設置されていて、外の様子を直接目で見ることが出来るように成っていました。


 私は、スコールを抜けたところで観測用の窓から離れて持ち場である指揮官席に戻りました。

 当然ですが夜戦ですので指揮所の中は全ての灯が消されて暗闇が支配する世界と成っていました、例外なのは装置の重要箇所に塗られた蛍光塗料による印で、これらは不可視の紫外線灯に反応して仄かな光を放っていました。

 然しながら、この様な状態に於いても我々に行動の不自由は有りません。

 それは正に日々の訓練とこれまでに積み上げてきた経験の賜物ということが出来ます、少なくともこの指揮所に居た私を含めた四名は十年以上を海軍の大小の艦艇で鍛え上げてきたベテラン揃いです、夜戦での作業は慣れたものと言って良いでしょう。

 そうは言っても上には上が居ます、それは私達の足元、防空指揮所で見張りの任務に付いている見張員達でした、彼らは一言で言えば人間でありながら秘密兵器としての側面を持つ帝国海軍の至宝とも言える存在でした。

 彼らは作戦行動中は真昼を締め切った光の差し込まない部屋で過ごしたり、真っ黒な遮光眼鏡サングラスを掛けて昼間の明るさを和らげたり、ヤツメウナギ等でビタミンAを大量に摂取したりするなどして人の持つ夜間視力の限界を超えるべく日夜鍛錬を続けてきたと言われていてました。

 実際に先の第一次ソロモン海戦に於いては重巡洋艦「鳥海」の見張員は暗闇の中で九〇〇〇メートル先の米駆逐艦を敵の搭載するレーダーに先んじて発見したとされています。

 こうした脅威の夜間視力を持つ見張員の存在は緒戦における夜戦での我が軍の勝利に大きく貢献したと言って良いでしょう。

 しかし、そうなると疑問が湧きます。

「ホチ(砲術長の意)、どうですか?」

 声がして前を見ると、先程まで観測窓につて双眼鏡で外を見ていた左右動揺手の岡野上等曹長がいつの間にか前の動揺手席に付いていました。

 戦場である鉄底海峡を間近にして、既に四方の観測窓の扉は閉められたロックが掛けられて指揮所内には夜戦用の赤色灯が灯され、岡野上等曹長以外の二名も既に持ち場に付いていました。

 私は周囲の状況を確認し、もう一度接眼レンズを覗き込んで、方位盤照準器に取り付けられた旋回用ハンドルをユックリと回して周囲を見回します。

 然しながらその結果は予想の範囲を超えるものでは有りませんでした。

 そもそも、パノラマ眼鏡を覗き込んだのは単に❝何か見えるかも❞と言う、単純な動機からでした。

 それ故に接眼レンズの向うに微かに見えたのが、前方を先行する旗艦「八咫」の航海灯と航跡に漂う夜光虫の淡い光以外は漆黒の闇の世界であったことは意外でも何でもないと言うことが出来ました。

 ですから岡野上等曹長への答えは素っ気無いですが、他に言いようが有りませんでした。

「駄目ですね、そっちはどうです?」

「こっちも、同じですよ。やはり本職(見張員)のようには行きませんな。」

 そう言いながらも、岡野上等兵曹は動揺手用の潜望式双眼鏡から目は離しません、何かの拍子に敵の動静を捉える可能性が無いわけでは無いからです。

「連中、一種の化け物ですからね。」

 会話に加わってきたのは、旋回手の渥美一等兵曹でした、私はその単純だが適確な表現に苦笑の笑みを浮かべて相槌を打つことにしました。

「連中は鍛えてるからね、夜目を。」

「と成ると、逆に疑問が湧きますね。」

 私の言葉に、普段は余りお喋りをしない、鷹野特務少尉が言葉を挟んできました。

「疑問?」

 私は、ベテランの鷹野特務少尉が自分と同じところに疑念も持っていたことが少し意外でオオム返しのように訪ねたのです。

「艦隊の先陣を切る、水雷戦隊の夜間見張員はウチの様な大型艦のそれより更に夜目が利くと言われていますが、ならば何故、敵に先手を取られたのでしょう?」

 鷹野特務少尉の疑問は、先の二夜の夜戦を含む最近の夜戦で敵に先手を取られる例が多く、守勢から逆転しての勝利が多いこと言っていたのです。

「あれですか?敵さんも夜目鍛えたってことでしょうか?」

 岡野上等曹長は相変わらず接眼レンズに目を付けたまま、そんなことを言いましたが、それは誰もが最初に行き着く答えでした、ですが・・・。

「それは無理でしょ、見張長の❝鬼の恵比寿様❞が『毛唐どもは夜目が利かん、夜に成ればこっちのもの!』って言ってましたから。」

 渥美一等曹長の意見は、単なる偏見でなく帝国海軍内では常識と言っても良い認識でした、それで良いのかは不明でも間違っているとは誰も思っていなかった事例でもありました。

 因みに彼の言う❝鬼の恵比寿様❞とは、見張長の奥井上等曹長のことで、水兵から叩きげの彼は私などより遥かに年嵩でガッシリとした体躯に年輪を感じさせる赤銅色に焼けた丸顔をのせた古参の下士官でした、釣りが好きで非番の時は釣り竿を手にするその姿は恵比寿様のようでしたが、訓練や実務において妥協はなく非常に厳しい事から配下の兵に❝えびす顔の鬼❞または❝鬼の恵比寿様❞と呼ばれていたのです、彼もまた鷹野特務少尉と同様に我が軍の背骨を支える貴重な叩き上げの熟練士官の一人でした。

 その後、皆の口から出たのは、周囲に小型の哨戒艇などを潜ませて逐一我が軍の動静を報告させる等の手法が出されたが、どれも皆が納得するものでは有りませんでした。

 その様な会話の中で私は、ふと思いついた一つの可能性を口にしてみることにしました。

「電探かな?」

 電波探信儀、略して電探は今日で言うところのレーダーの帝国海軍内での呼称でした。

「電探ですか?そりゃあ無理でしょ!」

「そうですよ、うち(八坂)のマグロ(二二号・仮称二式電波探信儀二型の通称)なんて、まともに動かないくせに整備に手間ばかり掛かるって、通信長がぼやいてましたよ。」

 岡野上等曹長、渥美一等曹長が口を揃える様に否定しました。まあ、これは当時の帝国海軍では常識とも言える認識でした。

 ともかく当時の電探に対する、一般の士官や兵たちの認識は『役立たず』『故障ばかり』『艦の見栄えが悪くなる』などと散々なものでした。私自身も当時は他の士官たちと同様に好意的な感触は持っては居ませんでした。

 しかし、同じ砲術士官の中でも松田千秋大佐(当時)などの様に早くからその有用性を認め、開発と運用に尽力した正に先見の明を持たれた逸材も存在していることは確かでした。

「いや、だからこそ米軍は電探を開発したのではないか?我々が夜間視力を日夜鍛えた様に・・。」

 それまで皆の会話を聞くだけだった鷹野特務少尉は、そう言って敵のレーダーによる戦果の可能性を口にした。

 彼に言う事は理解できた、我々が勝つために『酸素魚雷』を開発し、それを有効に使うために『夜戦』と言う条件を設定し、更にそれを可能にする為の要員として『夜間見張員』を育成した。

 であるなら、夜戦において夜目の利かない見張りに代わって、電探を開発させてその弱点を補うのは不思議では無い、何しろ物の量と質に関しては世界のどの国より秀でているのだから。

 それが鷹野特務少尉の結論であったらしい。

 しかし、その結論に対して意見をする機会は与えられませんでした。

 彼が会話を拒んだ訳では有りません。

 私達の会話は突然打ち切られる事になったのです。

「旗艦『八咫』より、発光信号、『本艦電探ニ感アリ、十一時ノ方向、反応大ナリ』、各員周囲監視を厳と成せ!」

 それは、指揮所内に取り付けられたスピーカーから伝えられた緊急情報でした。

「どうやら、『八咫』のマグロは仕事をしているらしいですね。」

 鷹野特務少尉はそう言って厳つい顔に納得の笑みを浮かべた。

「そのようですね、十一時方向と・・・。」

 私もそう答えて、指揮官用のパノラマ眼鏡を情報にあった方向に旋回ハンドルを回してその視界を向けました。

 やがて私が覗き込む眼鏡はその視界の中に薄っすらと鉄底海峡の入り口に位置するサボ島の影を捉えたました。

 と、その時ですサボ島の左、島の西の海上に眩い閃光が煌めきました。

「前方に発砲火焔!

 敵艦だ!」

 私はパノラマ眼鏡を覗き込んだままそう叫んだのです。





 歳のせいか体調が思わしくなくて、創作に集中できません。正直ペースがこれまで以上に遅くなっていますが止めるつもりは有りませんのでもう少しお付き合い下さい。五〇過ぎてなろうに投稿している人って居るのでしょうか?


さて、激闘譜第二話でやっと戦闘が始まりました、次からは激戦の連続となります(予定)、ご期待下さい・・・・。

何時も通り、誤字脱字、表現のおかしなところ有りましたら感想でお知らせ下さい。勿論、感想、意見、疑問点の指摘など大歓迎です。また出して欲しい兵器のリクエストが有りましたらお願いします。

 では次はなるべく早い更新を心がけたいと思います、もう少々お持ち下さい。

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