表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
南溟の断証(ゴリアール)  作者: 雅夢
第一章 八坂激闘譜
15/42

八坂激闘譜 閑話 或る米砲術士官が見たソロモン海戦Ⅱ−Ⅰ

後半の内容をアメリカ側からの視点で書いてみました。

矛盾している点は無い、ハズです。

八坂激闘譜 閑話 或る米砲術士官が見たソロモン海戦Ⅱ−Ⅰ


 空を切り裂いて飛来音した敵の砲弾が海面に落着し炸裂した時、我々は己の過ちに気が付いた。

 敵の投下した吊光弾の光の中で生まれた着弾に拠る水柱は、私が知る40センチ砲弾のそれよりも明らかに小ぶりで36センチ砲弾クラスのものにしか見えなかった。

 情報部の報告に拠れば敵の新型戦艦は40センチ砲若しくはそれを凌駕する主砲を持っているはずであった、故に一方的にアウトレンジから叩かれる状況を防ぐ為に我々は接近戦を選択したはずであった、しかし実際には36センチ砲を持つ敵が相手である。

 当然だが、砲は口径が小さくなれば射程が短くなり威力も落ちる、従ってそのハンディーを補うには敵艦との距離を縮める必要がある。

 そう考えると現状の彼我の距離は敵戦艦にとってはお誂え向きの近距離戦であった。

「やってくれたな、ジャップめ。」

 自嘲気味に呟くリー提督の声は、その言葉とは裏腹に何か心躍る感情を押し殺している用でも有った。

「さて諸君、このナメた真似をしてくれて連中に然るべき教育をするべきだと思うがどうかね?」

 スリットから外の様子を観ていたリー提督は、任務部隊司令部一同に振り向いてそう言った。

 無論、異論は無かった、皆がこの様な事態は予測していなかったし、敵軍に手玉に取られた事実には怒りを持っていたのだ。

 勿論、我々がこの様な会話を続ける間にも敵戦艦とワシントンの双方による砲撃を続けられていた。

 然しながら敵戦艦は格下ながら高い砲術レベルを持っているらしく、第三射でワシントンを挟叉し、次の射撃で一発を直撃させて来たのだ。

 その一発は左舷側中央の甲板に命中し、そこに置かれていた3基の両用砲をスクラップに変えたが甲板直下の装甲に弾き飛ばされていた。

 その報復は次以降のワシントンの砲撃で行われた。

 次の射撃が敵戦艦を挟叉し、その後直後の一斉打ちで放たれた砲弾が作り上げた水柱の檻が崩れ落ちた。

 最初、敵戦艦に直撃弾が無いことに落胆を感じたが、次の瞬間敵艦の動きが通常でないことに気が付いた。

「敵艦、減速しました。」

 見張り手の報告に私はもう一度双眼鏡を敵戦艦に向けた、そして敵戦艦に何が起こったのか確信した。

「敵艦、左に転進!」

 敵戦艦は推進器、もしくは舵に重大な損害を受けたと考えられた。

 残念ながら次の射撃はそうした条件の変化に対する修正が間に合わず、そのままの速度と針路で進むことを前提としていたため、大きく外れる結果となった。

 しかし、その一撃に対して誰も落胆はしなかった、何故ならこの後に射撃データが修正されれば回避のままならない敵戦艦を葬ることは然程難しくはないと見られたからであった。

 然しながら、それは我が軍の事情であった、当然敵艦隊にはそれとは別の考えと行動が有った。

 射撃照準を修正し、これから敵戦艦を追い詰める、そうした射撃を開始した直後ワシントンの左舷側、敵戦艦を射線から覆い隠すように新たな水柱が吹き上がった。

 この時になって初めて我々は敵の二番館の存在を失念していたことに気がついたのだ。

 確認すると敵の二番艦は、速度を上げて敵の一番艦とワシントンの間に割り込んで来ていた、彼らは後続していた重巡洋艦のペンサコーラを撃破し、その勢いに乗じてその切っ先をこちらに向けて来た様だった。

 その行動は明らかに旗艦である一番艦を身を挺して守ろうとする姿に見えた。

「司令、目標を敵の二番艦へ変更します。」

 よろしいですね、と言う言葉を言外に滲ませながらグレン・B・デイビス艦長が、任務部隊司令官のリー少将に宣言した。

 勿論リー提督に異論はない、従って彼の口からでた言葉は正しく彼のと彼のスタッフの思っていた言葉であった。

「よろしい、思う存分やりたまえ。」


 敵の二番艦の攻撃を受けている間に、敵の一番艦は既に星弾の放つ光の圏外に逃れていた、もしこちらがレーダーによる射撃を光学照準の助けなく出来るのであればこのまま追い打ちも可能であったが現状では光学照準の補助は必須である事かから、これ以上の攻撃は無理な上に無意味であった。

 しかも、敵の二番艦は先ほどまで相手をしていた一番艦と全く同型の姉妹艦であり、当然ながらワシントンを屠ることは不可能であっても手傷を負わせる事は可能な位に厄介な相手である。したがって舐めてかかる事は極めて危険であった。

 その証拠に、敵戦艦はワシントンへ照準を変更して僅か4射目で挟叉弾を出し、二度の空振りの後に初めてとなる本艦への直撃弾を与えて来たのだ。

 敵が挟叉後3射目に放った砲弾はワシントンの艦体の後ろ半分を取り囲むように落下してきた、ほとんどは至近弾となり水中爆発で、少なくない艦体外装にダメージを与えたが、うち一発が第二煙突後方の後檣を直撃、二基の射撃指揮装置と共にそれをスクラップに変えた。

 当然だがこちらもやられっ放しでは無い、それに抗するように放たれたワシントンの40センチ砲弾は対照的に敵戦艦の艦体の前半分を覆い隠す様に落下してうち一発が敵の前部副砲を吹き飛ばした、一瞬弾薬庫の誘爆を期待したがそれ以上の爆発は無く、更にその次の砲撃の内一発が敵戦艦の艦尾に命中した。

 しかしながら、敵戦艦は第一副砲、艦尾とワシントンの40センチ砲弾を受けても怯むことなく、いやそれ以上に苛烈に反撃をしてきた、次に敵戦艦が放った主砲弾9発の内、ワシントンへ命中したのは5発、内二発は艦の前後の非装甲区画の兵員室で炸裂するに留まったが、3発は第二主砲塔に命中、一発は砲塔の天蓋の分厚い装甲が弾き飛ばしたが二発は左舷側砲塔基部に命中して第二砲塔のバーベットを大きく歪まして砲塔の旋回を不能にした。

「やるな、さすがと言うところか。」

 その様子を見ていたリー提督は、敵戦艦の戦い様をそう評した。

「粘りますね。」

 これは主席参謀のカニンガム大佐の評だ。そして、

「敵は格下だ、次の一撃で決めろ!」

 そう発破を掛けているのは次席参謀のスコット中佐で、

「言われるまでもない!」

 とけんか腰なのが、ワシントンの砲術長のグッドマン中佐だ。

 次の一撃は砲術長の宣言通りの、いやそれ以上の戦果をもたらした。


「敵艦に直撃2!」

 見張り手の報告に私は装甲の狭いスリット越しに双眼鏡を敵戦艦に向けた。

 双眼鏡のピントを合わせるに従って、星弾の青白い光に浮かぶ敵の姿がハッキリと見えて来た、そこには先ほどまでとは艦容を一変させた敵戦艦の姿が有った。

 特に大きく変わっていたのは艦の中央で、そこに有った巨大で優雅な曲線を描いていた煙突は根元から無くなっており、そこからは燃え盛る炎と煙が噴き上がっていた。

 それは一目で見て機関部に重大な損傷を受けた事が判る姿だった、事実、この被弾の後、敵戦艦は推力を失い惰性で進むだけとなっていた。

 視線をそれ以外の場所に移動させると他にも被弾箇所を見て取る事が出来た。

 そこは艦の中央、日本海軍伝統の仏塔型パゴダマストとは趣の違う造形で塔型をした前檣楼の上部、頭頂部に近い艦橋付近だった。そこには被弾によると思われる巨大な破孔が穿たれていた。

 ただ砲弾がそこで炸裂した訳では無いらしく、破孔以外に大きな破損個所は無い、もっとも40センチ砲弾が直撃すれば炸薬が起爆の有無に関係なく大きな損傷となることに違いはなかった。それは同時に敵戦艦が指揮命令系統の中核を失ったことを示していた。

「後方より、ショー、突出します!」

 艦橋に被弾した敵艦の損害状況を確認するため、双眼鏡を覗いていた私の耳に見張り手の叫び声にも似た報告が飛び込んできました。

 その報告を聞いて私は急ぎ双眼鏡を左舷側後方へ向けました。

 視界に入ってきたのは、艦首に373の番号が記されたマハン級駆逐艦10番艦、DD-373ショーだった。

 白波を蹴立てて進むショーは一気に敵戦艦との距離を縮めて行く、目的は明確だ。

「ショー、魚雷発射!

 続けて発砲始めました!」

 見張り手の報告通り、双眼鏡の中で発砲炎が艦体のシルエット越しに見えたが、魚雷の発射はここからは確認出来なかった。

「不味いぞ!」

 同じ様に私と並んでその様子を見ていたカニンガム主席参謀が唐突に叫んだ。

 一瞬、私はその言葉の意味を判理解できずにいたが、やがてそれは明確な形となって顕われた。

 突然、今まで動きの無かった敵艦上に閃光が瞬き発砲音が鳴り響いた、しかもそれは一つではない、やがてそれは敵戦艦の右舷側を埋め尽くして行く。

 それで私はやっとカニンガム大佐が言った意味を理解した、それは敵艦に対空用火器として搭載されていた、機関砲群の射撃であった。

 本来それは来襲する敵機に対する攻撃手段として搭載されていたのだが、当然であるが水平射撃で対地対艦攻撃にも使用できた、特に速度は速いが装甲の薄く防御力の低い駆逐艦には有効な攻撃手段であった。

 ショーは敵戦艦に対して魚雷を発射する為に直進に定針したところを狙われた。

 日本軍には珍しい大口径のと見られる機関砲とやや小口径の機関砲、二種類の機関砲の砲弾がショーに向かって降り注ぎ、瞬く間にショーの上構物を蜂の巣に変えていった。

 更に2基4門の両用砲もそれに加わり、最終的に後部発射管に残っていた魚雷への命中弾が弾頭を誘爆させることで、この蛮勇とも言える行為の代償としてショーを艦の中程で断ち切った。

 この結果には些かショーの不運もあった、それはマハン級駆逐艦の構造によるものだった。本級には533ミリ4連装魚雷発射管が3基12門搭載されていた、しかしながら前部の発射管は二本の煙突の間の艦中心線上に設置されていたが他の2基は第3主砲の左右に置かれていたために前部発射管と違って左右それぞれ片方にのみ発射が可能で今回も左舷に向けて発射している為に右舷側の1基4門がそのまま艦上に残されていたのである。

 しかし、ショーの命運とは無関係に発射されたMk11魚雷は凡そ3000メートルの距離を事前に設定されていた46ノットの最高速度で駆け抜け、その弾頭に収められていた約220キロのTNT火薬のエネルギーを解放させた。

 命中したのは3発、敵戦艦の右舷中央付近である。

 それは敵戦艦にとって致命的な損傷であるはずだった、事実この直後より敵戦艦は浸水から右舷側へ傾斜を始めていた、従って遠からず敵艦の命運は尽きると私たちは予測した。

 故に我々は敵艦が攻撃力を失い、脅威となる存在では無いと判断したのだ、勿論ノーマークではない、見張りの内数人は常時敵艦の動きに注意を払っていたし、主砲は徹甲弾を装填して何時でも敵艦を攻撃できるようにしていたのだ。

 だがしかしである、当時の状況は我々から敵艦に関わる余裕を奪いつつあったのだ。

 それは艦橋内でスピーカーに繋ぎっ放しに成っている艦隊内無線機の内容から充分に推測できた。当初、我々の任務部隊は戦艦1,重巡洋艦2,軽巡洋艦1,駆逐艦5と言う陣容であった。それが現状では瓦解しつつ有る、と言う評価しか出来ない状況に追い詰められつつあるのだ。

 既に2隻の重巡洋艦ペンサコーラとノーザンプトンは「砲撃を受けつつ有り」の一報を最後に通信を途絶しており、軽巡洋艦のヘレナは撃沈こそ免れたが瀕死の状態でガダルカナル島方面へ撤退をしていた、駆逐艦は予想外とも言える健闘を見せ敵の駆逐艦4隻を撃沈または撃破していたがその代償として先のショーを含めて3隻が沈められ、他の2艦も少なからぬ損害を受けていた。

 艦橋のスピーカーから流れるのは、そうした現状下で旗艦の戦艦ワシントンへ来援を求める救援要請であった。

書き終わったら8000文字超えていましたので途中で分割してあります、それでも終わらなくて3話まで続くことになりました、どうにも話が長くて申し訳ないですが是非最後までお願いします。


 例のごとく感想や意見をお待ちしています、それと誤字脱字ですね、見つかりましたら感想の方で結構ですのでお願いします。

Ⅱ−Ⅱは少し手直しして明日夜に投稿の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ