第99話「子供みこし」
寄宿舎の子供達のためにお祭りだそうです。
レッドとみどりも喜んでいます。
この和やかな空気…
こっそり店長さんに迫るチャンスですよ!
それっ! 抱きついちゃえっ!
「ポンちゃん!」
学校に配達に行ったら、村長さんに声をかけられました。
なにかな?
「今度村で『子供みこし』をやるから、よろしくね」
「子供みこしってなんです?」
「お祭りよ、お祭り」
だ、そーです。
わたし、ちょっと考えてから、
「それってまた神社の客寄せですか?」
この間の子供かぐらはそうでした。
「ううん、違うわ……お祭りと言っても学校のイベントなの」
「学校のイベント?」
村長さんのお話だと……
村の学校の子供のほとんどは寄宿舎暮らし。
親と離れて暮らしているんです。
そんな子供達のために、イベントをやって親を呼ぶんだそうです。
「みんな喜ぶといいですね」
「ええ……それに」
「それに?」
「こんな小さな村だから、学校のイベントでも村祭りも同然なのよ」
「そうなんですか」
「老人ホームの皆さんも楽しみにしているしね」
「でもでも……わたしはなにをやったらいいんでしょうか?」
「お祭りをサポートしてくれたらいいわよ」
村長さん笑ってます。
わたし、すぐににらみつけて、
「また女子プロレスをやれって言うんじゃないですよね?」
「あ、それ、いいわね」
「村長さん、モウっ!」
わたしが膨れたら、村長さんダッシュで行っちゃいました。
モウ……女子プロレスは絶対やらないんだから!
あれをやると、後でみんなの視線が微妙に変わるんだもん。
夕飯の片付け中なの。
「ぼくもでま~す」
レッド、子供みこしのチラシを持ってピョンピョン跳ねてます。
「レッドはなにをするんですか?」
わたしが聞いたら、レッドはうちわを持って、
「おおきなうちわをふりま~す」
「頑張ってくださいね」
って、今度はみどりがわたしの腕をゆすって、
「アンタ、ワタシにも聞きなさいよっ!」
「みどりも参加するんですね」
「当たり前じゃないっ! 子供なんだからっ!」
「で、みどりはなにをするんですか?」
「えーっと……まだ決まってないのよっ!」
じゃあ、いちいち聞いてこないでほしいなぁ。
二人は言うだけ言うと、今度はたまおちゃんの方に行っちゃいました。
わたしは二人から解放されて、皿洗いに専念です。
隣ではお米を研いでいるミコちゃんが、ちょっと沈んだ顔をしているの。
「ミコちゃん、どうかしたの?」
「うん……子供みこしの事は二人から聞いたでしょ?」
「今日、学校で配達の時に村長さんにも会ったし」
「じゃ、ポンちゃんは詳しい事は知ってるのよね?」
「?」
「子供みこしの時は、寄宿舎の子達の親がたくさん来るでしょ」
「パンがたくさん出るのが心配なんですか?」
「それ、店長さん、配達人さんに相談してたわ」
「じゃあ、なんです?」
ミコちゃん、黙ってます。
あ、答え、わかりました~
「レッドやみどりがケモノなのがばれる!」
「みんなコスプレって思うわよ」
「じゃあ、なんです?」
「みんなの親が来るでしょ……レッドちゃんもみどりちゃんは親が……」
「あー!」
「さみしい思いをしないといいんだけど……」
なるほどですね~
見せつけられたら、シュンとしちゃうかもしれません。
レッド……イノシシ親子の時にそんな感じでしたもんね。
ミコちゃんに言われると、ちょっと心配になっちゃいました。
「わーい、おにあい?」
レッド、法被姿でくるくる回ってます。
「レッド、お似合いですよ」
「わーい!」
「ちょっとアンター!」
「あ、みどり」
「ワタシはどうなのよっ!」
みどりの法被姿もなかなかなものです。
でも……
わたし、みどりを捕まえてバックをとります。
両肩をしっかり捕まえて、みどりの背後をチェック。
「ねぇ、みどり」
「なによっ!」
「誰に着がえ、手伝ってもらった?」
「たまおちゃんだけど」
わたし、たまおちゃんに厳しい視線。
みどりを放して、たまおちゃんを手招き。
「何、ポンちゃん」
「ねぇ、レッドとみどりの格好はたまおちゃんの趣味?」
「え? え!」
レッドとみどり、今度はコンちゃんの所にお披露目に行ってます。
コンちゃん二人を見てますが……目尻がピクピクしています。
『これ、ポン、おぬしの仕業か!』
『あー、二人のコーディネートはたまおちゃんだよ』
『たーまーおー!」
コンちゃんの視線がたまおちゃんに刺さります。
でも、たまおちゃん、キョトンとして、
『コンお姉さま、私、何か悪い事したでしょうか?』
レッドとみどり、今度はミコちゃんの所にお披露目。
ミコちゃん、一瞬固まったかと思うと、頭から湯気をたてながら、
「きゃー! 二人ともかわいいーっ!」
いきなり抱きしめます。
レッドとみどりも嬉しそうにしてますね。
コンちゃん、わたしの横にやって来て、ミコちゃん達を見ます。
レッドとみどり……法被です。はっぴ。
でもって、二人とも「しめこみ」なの、「ふんどし」?「まわし」?
コンちゃん、たまおちゃんをにらみながら、
「おぬし、どーゆー趣味じゃ」
「お祭りの格好では?」
「みどりは女子じゃぞおなご」
「子供ですし」
たまおちゃん、ちょっと考えてから、
「しめこみ、尻尾があるから位置が決まり易いんです」
たまおちゃん、いきなり桃色オーラが噴き出しました。
コンちゃんににじり寄りながら、
「お姉さまもやってみますか?」
「殺されたいかの」
「あれはTバックなんです、Tバック!」
そ、そう言われればそうなのかな?
わたしとコンちゃん、ちょっと赤くなっちゃいました。
「わっしょい! わっしょい!」
お祭り当日、目の前ではお神輿が上下してます。
学校の子達が担いだお神輿は神社下の広場まで来て止まりました。
レッドとみどりは、そんなお神輿のまわりでうちわを持って走りまわっているの。
わたしは……たまおちゃんと一緒に巫女装束。
神楽の時以来ですね。
「たまおちゃん、たまおちゃん」
「何ですか、ポンちゃん?」
「今日のわたしのお仕事はなんですか?」
「その榊を私に渡すだけです」
「えーっと……」
お仕事は葉っぱを渡す事だそうです。
でもですね、ちょっとした疑問が。
「なんでわたしなんでしょ?」
たまおちゃん、半泣きでわたしに、
「私だってコンお姉さまやミコお姉さまがよかった!」
「そんな、泣かないでも」
「ポンちゃんだなんて……」
普通なら怒るところですが、たまおちゃんの泣きっぷりにあきれちゃいます。
「神事ならわたしなんかよりもミコちゃん達だよね」
「そうなんです……でも、でも!」
お神輿を誘導していた村長さんが手で合図しています。
出番ですよ。
たまおちゃん、吐き捨てるように、
「今日は子供の日なんだから、我慢しますっ!」
なにを我慢するっていうんでしょうか?
わたしとたまおちゃん、お神輿の前に静々向かいます。
わたし、よくわからないけど、たまおちゃんがムニュムニュ言ったら葉っぱを渡します。
たまおちゃん、葉っぱを子供達の頭でシャンシャン。
これでお祭りは終わりみたい。
見ていた観客が拍手をしていると、子供たちが駆け出しました。
「そうだ、親が来てるんでしたね」
子供たち、お父さんやお母さんに飛びついています。
学校じゃわんぱくな子供たち。
でもでも、なかには泣いている子もいますね。
「お父さんやお母さんに久しぶりに会ってるんですもんね」
わたしも胸が「ジーン」としちゃいます。
「だから、私は我慢しないといけないんです」
「たまおちゃん、なに言ってるんですか?」
「私だってコンお姉さまやミコお姉さまに抱きつきたいのに」
「たまおちゃん、大人だよね……でも、なんでコンちゃんとか……」
言ってて心配になったのはレッドにみどり。
二人に親はいないんですよ。
レッドとみどりは手をつないで右往左往。
でも、すぐに手を振ってるミコちゃんを発見、駆け出します。
二人とも、ミコちゃんに抱きしめられて嬉しそう。
「レッドもみどりもミコちゃんがいてよかった~」
「わ、私もミコお姉さまの胸に抱かれたい」
「たまおちゃん、大人だよね」
「ポンちゃんにはわからないんです」
「はいはい、わかりませんよ~」
あんまり解りたくないかも……ええ。
そうそう、レッドとみどりはミコちゃんの所に行きました。
「ポン太とポン吉はどうしたのかな?」
わたしが探していると……いました!
まずポン吉を発見、シロちゃんと何かお話してるみたい。
ポン吉はシロちゃんスキーだから、超うれしそう。
するとポン太は……いました、コンちゃんと一緒です。
二人して露天で何か食べ物を買ってるところですよ。
イカ焼きを食べて……コンちゃん、ポン太のほっぺを拭いてるの。
ポン太、真っ赤になってテレまくり。
わ、わたしのしっぽに激痛が走ります。
一緒に見ていたたまおちゃんが握りしめてるの。
「たまおちゃん、痛いよっ!」
「むー、私もコンお姉さまにあんなふうにされたいっ!」
「ほっぺのソースを拭いてもらっただけだよ」
「あーゆーのがきっかけになるんです! くやしい! うらやましい!」
「たまおちゃん……巫女なんだよね」
「私もお姉さまとラブラブしたいシタイSHiTAi……」
そんなたまおちゃんの肩に手が重ねられます。
わたしとたまおちゃん、その人を見ます。
「たまお、久しぶりだね」
たまおちゃんのお父さんです。
ふもとの神社で神主さんをやってるんですよ。
たまおちゃんのお父さん、すばやくたまおちゃんの首に腕を決めちゃいます。
「まったくお前は……」
「おおおお父さま、首、決まってる、はまってる!」
「まったく、どうしてこんな娘に育ってしまったのやら」
「お父さま、ギブ、ギブ!」
たまおちゃん、そのままお父さんに連れて行かれちゃいました。
そこに今度は店長さんと配達人です。
たくさんの紅白まんじゅうの袋を持ってますよ。
「店長さん、そのおまんじゅうは?」
「今日のお祭りで配る分だよ」
わたしもちょっと持つとしましょう。
3人して神社に向かいます。
社務所のたまおちゃんとお父さんにおまんじゅうを渡すと、子供たちが集まって来ました。
たまおちゃんとお父さん、おまんじゅうを渡すのに大忙し。
レッドとみどり、ミコちゃんにおまんじゅうを見せてニコニコ。
ポン太はコンちゃんに紅白2個ともあげちゃいました。
ポン吉はシロちゃんと1個ずつ食べてますね。
みんなラブラブな雰囲気です。
わたしもラブラブしたい……
コンちゃんはポン太と一緒です。
邪魔者はいないんですよ。
わたし、獣の目、狩りの目で店長さんをチラ見します。
今こそチャンス。
それ、抱きついちゃうの。
「好きっ!」
ギュッ!
「うわっ!」
声が違いますね。
クンクン、ニオイも違うんです。
抱きついたまま、顔を上げるとそこには目の細い顔。
「どーして配達人っ!」
もう、ポカポカ叩いちゃうんです。
「いや、店長がヒョイって動いたらポンちゃんが……」
店長さん、こっちを見てニコニコしています。
「なんで店長さん、避けるんです」
「いや、なにか刺すような視線を感じたから」
「わたしにラブラブしてもよくないですか?」
「今、配達人の事、好きって言ったじゃん」
「間違ったんですよ!」
すると配達人が、
「俺も叩く女の子嫌だな~」
「配達人は黙ってるんですよーっ!」
もう、ポカポカ!
本気で叩いてないのになんて言い草ですかモウ!
店長さんも配達人も笑ってます。
むー、この作戦、バレバレだったみたい。
ミコちゃんが出してきたのはカップのキツネうどん。
「今日はこれ?」
「ほら、お昼、ちょっと少なくしてたの、これがあるから」
「そうだったんだ~」
「でも、2つしかありませんよ」