第97話「長老死亡説?」
今回は長生きしている長老のためにポン太が働くお話です。
でも、ポン太、家の事はやってる気がします。
おそば屋さんもちゃんと手伝っていますよね。
長老のために何かって言われても……
ってか、本当に長老、死ぬんですか? 死にそうにないけど…
レッドと一緒にお豆腐屋さんに行きますよ。
お鍋を頭の上に持ってクルクル回ってるレッド。
「お豆腐貰ったら、踊っちゃだめですよ~」
「しってま~す」
「お豆腐、ぐちゃぐちゃになっちゃうんだから」
「らじゃー」
平日のお豆腐屋さん……戸を開けるとポン太がいました。
「いらっしゃいませ~、って、ポン姉とレッド」
「ポン太、お豆腐貰いに来ました」
「ぽんたすきすき~」
レッド、ポン太について行っちゃいます。
すぐにポン吉も顔を出して、
「ポン姉、いらっしゃい」
「ポン吉、おあげ、ありますか?」
「キープしてあるぜ」
「そこまでしないでもいいんだけど」
「コン姉、これ、好きなんだろ」
ポン吉、おあげを持ってやって来ます。
「お味噌汁に入れるとおいしいね」
「ふふ、オレの自信作だぜ」
「って、揚げてるだけだよね?」
「ジュワーってのが超楽しいぜ」
って、レッドとポン太が戻って来ました。
ポン太、わたしをじっと見て、
「あの……」
「なんですか?」
「今日……夕飯一緒してもらえませんか?」
「えっと……ポン太達がこっちに来るんだよね?」
「ええ……」
わたし、ポン太がコンちゃん目当てって思って冷やかそうって思ったけど……
今日はちょっと様子が違います。
わたしが首を傾げると、
「ボクとポン吉だけお呼ばれで……」
「え、ポン太とポン吉だけなの?」
わたし、ちらっと奥の方を覗きこみます。
あ、いました、おじいちゃんとおばあちゃん。
わたしと目が合って……小さく頷いています。
なんでしょうね、いつもなら、この家全員来るところです。
それが今日はポン太とポン吉だけなんて……
「わかりました、二人増えるくらい大丈夫と思うよ」
わたし、お店を出ます。
後から付いてくるポン太が、ちらっと目を泳がせます。
わたし、その視線の先を見ますよ。
おそば屋さん……「今日はお休み」の札がさがってますね。
まぁ、平日だし、夕方だから、そんなもんでしょうか。
「ポン姉、わかってくれましたか?」
「え? え? なにが!」
「おそば屋、休みなんです」
「そ、それが?」
原因はおそば屋さんみたいなんだけど……なんなんでしょうね?
夕飯終わって、ポン吉はレッドとお風呂に行っちゃいました。
わたし、ポン太につかまって「相談」されちゃってます。
「ポン姉、見ましたよね」
「おそば屋さん、お休み」
「そうなんです」
シリアスなポン太。
わたし、一緒に食後のテーブルに着いている店長さんに目をやります。
店長さん、わかってくれたみたいで、
「ポン太くん、今日は平日だし、しょうがないんじゃない?」
「店長さん……店長さんは長老を知ってますか?」
「知ってるよ……おそば美味しいよね」
「ぽんた王国……前のぽんた王国の時からみると……」
「え、味、落ちちゃったの?」
店長さん、言いながらわたしを見ます。
「うーん、長老のおそば、味、変わらないんじゃ?」
ポン太、わたしを見ながら、
「今のおそばを作ってるのは誰ですか?」
「え……それはわたしかな?」
そうなんです、長老、おそばを打つのが大変だからって、最近はわたしがこねてるんですよ。
「でも、わたしはこねてるだけで……仕上げは長老だよね」
「そう言われるとそうだけど、でも……」
「でも?」
「学校がラーメン屋になりましたよね」
「うん、だね」
「ラーメン屋さんは毎日開いてます」
「それが?」
「最近、長老は元気がないというか……」
ここに来て、ようやく事情が飲み込めました。
一緒してくれてる店長さんも、
「ポン太くんは、長老さんが元気がないのが心配なんだ」
店長さんの言葉にポン太は頷いて、
「最近ぼんやりしている事が多いような」
店長さん、急に険しい顔になってお皿を洗っているミコちゃんの背中に、
「ミコちゃん……長老さんはミコちゃんの術で人間になってるんだよね?」
「え、長老……はい、そうですけど」
「長老って言うくらいだから……何歳くらいなの?」
「それって……いつから生きているかって事ですよね」
「そうだね」
店長さんに言われて手を止めるミコちゃん。
ちょっとしてから、
「コンちゃんを封印した時とあんまりかわらないと……」
長老、かなりの長生きです。
店長さんそれを聞いて苦笑いしながら、
「ポン太くん、しょうがないんじゃないかな」
「店長さん……そうでしょうか」
「コンちゃんが封印されたのって、平家の落ち武者時代の話だし」
「ボクも学校で歴史を習ったからわかります」
「充分長生きしてるから、そろそろまったりしても……ね」
店長さんの言葉にポン太は考え込んでいます。
すると、居間でテレビを見ていたコンちゃんが湯呑を持って入って来ました。
「これ、話、聞こえたのじゃ」
「コン姉……」
「あのタヌキ爺、もう充分すぎるくらい長生きなのじゃ」
「コン姉もそう思うんですね」
「ポン太、そろそろ、ゆっくりさせてやってもよいのではないかの」
「ボクは……用務員さんにお店をやらせ始めた頃から……」
ポン太が苦々しい顔をしています。
わたしが続き、言っちゃいましょう。
「サボりたい一心……とかなんとか?」
「ポン姉はわかってくれるんですね」
「わたし、長老ってお酒くさいイメージしかないから」
「ボクも……長老はさぼりたい一心って思うんです」
コンちゃん、ポン太の隣に腰をおろすと、
「これ、ポン太」
「コン姉……」
「育ててくれた爺にそう言うでない」
「そうでしょうか……」
「おぬしと違って、ずっと長生きで苦労しておるのじゃ」
ミコちゃんやって来て、コンちゃんの湯呑にお茶を注ぎながら、
「そうね、長老さんはわたしやコンちゃんみたいに神じゃないし」
「え……そうなんですか?」
「ええ……長老さんが長生きなのは、私の術の影響と思うの」
「そうなんですか……」
「だから……もしかしたら、寿命なのかもしれないわ」
ポン太びっくりした顔になってます。
わたしもびっくり。
長老寿命説は考えもしませんでした。
「ポン太、おぬし、長老に恩返ししたいと思わぬか?」
「え?」
「長老はもうお疲れなのじゃ」
「コン姉……ボクにどうしろと?」
「お疲れの長老に恩返しせよと言っておるのじゃ」
「だから……どうしろと?」
「わらわ、おぬしが家事をやっておるの、知っておる」
わたしも知ってます。
ぽんた王国に連れて行かれた時に一緒に暮らしたもんね。
長老はお店の事はやってたけど、家の事はポン太がやってたと思うんです。
ポン吉は遊び専門でなにもしてなかったかな。
「それはそれで、恩返しになってはおる、しかし、さらにじゃ」
「さらに……」
「そうじゃ、さらに何かじゃ」
ポン太、視線を泳がせてから、
「わかりません」
「そうじゃの……爺の好きなものを作ってやるとよいのじゃ」
「好きなもの……ですか?」
「うむ、あやつの好きなモノ、わかっておろう」
ポン太の頭に「?」がふわふわ浮かんでいます。
コンちゃん苦笑いして、
「あやつは酒が好きじゃろう、いつも酒くさいのじゃ」
ポン太、頷いていますが、ちょっと表情険しいです。
「あの、コン姉……」
「何じゃ」
「長老にお酒をあげたら、余計に飲んで、余計に体によくないような」
コンちゃん、ポン太にチョップです。
「もう充分長生きなのじゃ、酒に溺れて死ねれば本望じゃろう」
「そ、そうかなぁ~」
わたしも「そうかなぁ~」って言いたいところですよ、本当にほんとうかなぁ。
老人ホームに配達の帰り道、ポン太に遭遇です。
なんだか笑顔で機嫌よさそう。
「どうしたんですか? ニコニコして」
「あ、ポン姉……この前の話なんですけど」
「この前の話?」
「コン姉がお酒を作れって言ってた事です」
「ああ……それがどうかしたの?」
「村長さんに相談したら、役場で作っていいって言うんです」
「役場で? なんで?」
「役場はお酒を作っていいようになってるそうです」
「ふうん……そうなんだ」
「それに、村長さんも村の特産品が一つ増えてうれしいって言ってました」
「それなら、長老のためだけじゃなくて、いいかもね」
「ですね……長老のためだけに作るのは、ちょっと……」
「わたしもわかる、あれ以上飲んだくれたら、いろいろまずいと思うし」
「あと、役場も見せてもらったけど、お酒を作る場所は広くてよかったです」
「そうなんだ」
「新しいぽんた王国は前よりも狭いから、もう場所、なかったんです」
「ポン太、なんだかすごい嬉しそう」
「ええ……ボク、お酒造り、興味あったから」
「ま、まさかポン太も飲んだくれ?」
「ボクは子供だから飲めないけど、作るのはテレビで見て面白そうだったから」
「ポン太は真面目だなぁ~」
「えへへ」
わたし、ポン太と一緒に歩いていたけど、「ニオイ」を感じたんです。
ポン太の肩をつかまえて、足を止めます。
「ポン姉……」
しゃべるポン太の口を押さえます。
目で合図すると、ポン太もわかってくれたみたいです。小さく頷きます。
それからゆっくり口を押さえていた手を離します。
『ポン太、ニオイませんか?』
わたしが言うのに、ポン太目を閉じて宙をクンクンします。
目を見開くと、
『長老のニオイです』
『あと、コンちゃんのニオイもするよね』
『!!』
ポン太、改めて目を閉じてクンクン。
『しますね!』
長老とコンちゃんのニオイ、イマイチ関係わかりませんね。
「あら、二人とも、どうしたの?」
いきなり後ろから声。
村長さんがニコニコ顔でやってきました。
わたし、ダッシュで村長さんにとりついて、口を押さえます。
「むーむー!」
『静かにしてくださいっ!』
『むむむ……どうしたの?』
『村長さんは人間だからわからないと思うけど、長老のニオイがします』
『おそば屋さん……今はラーメン屋さんだけど……そこじゃないの?』
わたしとポン太、最近宗旨変えした帽子男のラーメン屋を見ます。
『村長さん、帽子男さんと長老は仲が悪いんですよ』
『あら、そうなの? 師匠と弟子の関係とばかり』
『長老がお店を押しつけちゃうから』
『そうなんだ……』
『でも、どうして長老がラーメン屋に?』
『鍵持ってるんじゃないかしら……それに……』
ラーメン屋さんには人の気配が確かに。
『用務員さんは学校で仕事してたから、ラーメン屋さんにはいないわ』
『帽子男さんの留守の間にここにいる……なぜ?』
わたしとポン太、村長で頷きあって、お店に近寄ります。
『勝手口から入りましょう』
ポン太の提案に裏に回ります。
そっと、抜き足差し足忍び足……
いました、長老とコンちゃんです。
ラーメン屋のカウンターで並んでお茶をすすっているの。
耳をすませてみると……静かだから話声聞こえてきます。
「タヌキ爺、うまくいくかの?」
「コンちゃんが言ってくれたのでしたら、ポン太もやってくれるでしょう」
「あやつは真面目ゆえ……うまくひっかかってくれればよいが」
「ポン太は真面目ですから、作るお酒もきっと美味しいですよ」
「むう、それは楽しみじゃ」
話を聞いてポン太の表情ゆがみます。
って、村長さんが今にも飛び出しそうなポン太を押さえ、唇に指を立てます。
『待って……』
『どうしたんですか、村長さん』
『もう一人、来るわ』
わたし達、改めて息をひそめます。
戸がカラカラと音をたてて、入って来たのは髭の吉田先生。
「おう、長老、コンちゃん」
吉田先生、コンちゃんの隣に座ると、
「さっき校長に聞いたら、ポン太のヤツ、酒造りの相談に来たそうだぜ」
「そうですか」
「そうかの」
「これであいつが酒造りをするの、間違いなし」
吉田先生がガッツポーズ。
長老が、
「まさか先生のアイデアがこんなにうまくいくとは、思っていませんでした」
コンちゃんが、
「わらわもびっくりじゃ」
吉田先生、胸を張って、
「所詮子供こども」
ポン太苦々しい表情。
わたしだって嫌な顔になっちゃいます。
でも、そんなわたしとポン太の顔も、すぐに引きつっちゃうの。
村長さん、暗黒オーラを背負って立ち上がり。
「こーのー髭男ーっ!」
わたしもポン太も動けません。
指をポキポキ鳴らしながら、向かうは吉田先生。
「教師が子供を騙してどーすんですかっ!」
村長さん、まるでゲームのような連続技、吉田先生は宙で踊ってます。
それが終わったら長老とコンちゃんには「ボクッ」って鈍い音のチョップ。
ああ、二人とも首が縮んでいます。
「おおお……」
二人とも頭を押さえて涙目で唸ってます。
コンちゃんがやられるのはいいけど、長老死なないかな?
でもポン太はお酒を造っています。
出来たお酒を持ってやって来ました。
「こんにちは~」
「あ、ポン太、お酒持ってきたの?」
「はい、初めてですけど、美味しいみたいです」
「ポン太、子供なのに飲んだんだ、いけないんだ」
「村長さんが味見してくれたんですよ」
「な~んだ」
でも、不思議、わたし、聞いちゃいます。
「ねぇねぇ、ポン太」
「なんですか、ポン姉?」
「あの時、ポン太、嫌な顔してなかった?」
「お店の時……ですね」
「うん」
「あの後、村長さんにお願いされたんです、村おこしのためにって」
「そうなんだ」
ポン太、ニコニコしながら、
「でも、それだけじゃないんです」
「?」
ポン太、お酒を持ってコンちゃんの所に行きます。
なにか話してますよ。
ああ、コンちゃん、お酒に手を伸ばします。
ポン太、ひょいとかわしちゃうの。
コンちゃん、ふてくされて立ち上がりました。
ポン太もお酒を渡していますね、交渉成立みたい。
二人してやってきて、コンちゃんが、
「これ、ポン、わらわ、今からポン太とお散歩なのじゃ」
あー、お酒をダシにデートだったんですね。
ポン太、なかなかやるじゃないですか。
わたしが目をやると、ポン太嬉しそうにガッツポーズです。
ポン太の持ってきたお酒、わたしは飲めないけど、コンちゃん達は美味しいって言ってましたよ。
わたしが説明する前に、ミコちゃんの頭に裸電球光ってます。
「なーんだ、そうだったんだ」
ミコちゃん、「ポン太とシロちゃん」「ポン吉とコンちゃん」を並べて座らせました。
「ほら、機嫌直して!」
って、ミコちゃんにこやかに言うけど、ポン太とポン吉はひきつってます。