表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

第96話「さよならヒットマン」

 村おこしは良い事だって思ってました。

 なんたって「ポンと村おこし」…村おこしするのが目標なんですよ。

 でもでも、忙しいとこまる人もいるんです。

 こまる人…

 コンちゃんはすぐに逃げようとするんですよね、忙しいと。


 日曜日の「ぽんた王国」。

 お客さんがいっぱいです。

 以前は神社に参拝に来る人が多くて、それって女の人メイン。

 でも、「ぽんた王国」は家族層がターゲット?

 親子連れが多いの。

「ニンジャ屋敷」で遊んで、そのまま長老のおそば屋さんでお食事。

 最後におみやげや、お豆腐を買って帰るパターンみたいです。

 わたし、今日はそんなぽんた王国をお手伝いしてるの。

 おそば屋さんの引き戸が音をたてて、お客さん入ってきます。

「いらっしゃいませ~」

 わたし、前のぽんた王国でも働いていたから、おそば屋さんでもばっちりなの。

 お客さんを席に案内して、注文を取ります。

 紙に注文を取ったら、すぐに厨房に指でサイン。

 長老がちらっと見て頷きます。

 そんな長老の隣では、ポン太がせわしなく働いているの。

 わたしがポン太の所に戻る時には、注文したおそばが並べられてるんです。

 コンビネーションもばっちりってもんでしょ。

 でも……

『ぽ、ポン太!』

『な、なに? ポン姉?』

『お、お客さんすごくないです?』

『今日は多いかも……』

 ぽんた王国が復活してから、たまにお手伝いはしてました。

 でも、今日は今までにない多さです。

『どうしてかな?』

 ポン太、それを聞いて首を傾げます。

 そして長老を見ると、

『神社の方は何もなかったと思うのですが』

『お祭りもないよね』

『そのはずですが……』

 って、またお客さんです。

 よく見れば、パン屋さんでよく見かける女のお客さんですね。

 今日はこっちにお食事でしょうか?

 ちょっと聞いてみましょう。

「いらっしゃいませ、今日はこっちなんですね」

「あ、ポンちゃん……どうしてココに?」

「はい、ここのお手伝いなんです」

「へぇ……そうなんだ」

「今日はおそばな気分なんですか?」

「え? 何の事?」

「いつもパン屋さんに来てくれてるから……」

「ああ……帰りにパン屋さんにも寄って行くけど……」

「?」

 常連さん、体をくねらせながら携帯電話を出して、

「ニンジャ姿のレッドちゃん、かわいい~」

 一緒に写っている写真を見せてくれます。

 そういえば、この人はレッド目当てかも。

「あの……もしかして……」

「何、ポンちゃん?」

「他の常連さんも、レッド目当てで来てません?」

「そうかも……みどりちゃんもかわいいし、ポン太くんやポン吉くんもいいわね~」

 そう……ニンジャ屋敷はポン吉がやってるんですが、レッド・みどり・シロちゃんがヘルプしてるんです。

 わたし、注文をとってポン太の所に戻ると、

「人が多いの、レッドのせいかもしれません」

 それを聞いてポン太と長老、頷いてくれました。

 お店、それからも大忙しでし。

 わたし、大活躍だけど、すごく疲れました。


 外はすっかり暗くなってます。

 お店の片付けも終わって、もう帰ってもいいかなって空気です。

 わたし、一緒にどんぶりを洗っているポン太に、

「今日はすごかったね」

「ボクもびっくりしました……途中でおそばもなくなるし」

「おそば、作りながらだったもんね」

 って、奥から長老が出て来ました。

「ポンちゃん、ポン太、おつかれさま」

「長老もおつかれさま~」

「今日は……」

 長老、すまなさそうな顔で、

「今日は……いつもなら残り物をお土産にしてもらうところですが」

「あ、ないんですよね、そんなもんですよ」

 今日はすごい繁盛したから、残り物なんてないんです。

 長老、ニコニコしながら、

「そう言ってもらえると助かります」

「長老、どこに行ってたの?」

「ニンジャ屋敷の方……あちらもすごかったみたいです」

「やっぱりレッド効果?」

「かもしれません」

「こんなにお客さん多いなんて、びっくり」

「前のぽんた王国よりも条件は悪いはずなんですが……」

「そうだよね、ここは大きな道路からちょっと入らないとダメだし」

「逆に……来る客は必ずここにって感じで」

「そう言われると、そうかも」

「ちょっとこれからの事、考え直さないといけませんね」

「というと?」

「この人数でやるのは……人を雇わないといけないかもしれません」

 その時です、戸を開く音がして、帽子男が入って来ました。

「おい、爺さん、いるか!」

「どうしました?」

「爺……いやがった!」

「?」

 帽子男、すごい怒ってます。

 それに、どことなーくやつれた感じもしますね。

 長老に詰め寄ると、

「爺さん……俺はのんびりできる仕事って聞いてたぞ!」

「あ、あの、どうしたんですか、帽子男さんっ!」

「タヌキ娘……今日すげー忙しかったんだよっ!」

「え……学校のおそば屋さんも忙しかったんですか?」

「そうだよ……こんな村のそば屋だからって思ったらどーなってんだ」

「どれくらい来たんです?」

「200だ、200、正確には221!」

 か、数えてたんだ……

「え……200……わたし、最近卸してるけど、50食くらいだよね?」

「そーだよ、50だよ、キャパは!」

 帽子男、長老に向き直ると、

「最初と話が違うんじゃねーのか?」

「繁盛していいではありませんか」

「爺っ! 俺に押し付けてるだろうがっ!」

 長老はひょうひょうとしてますが、帽子男はカッカしてるの。

 険悪なムード、わたしもポン太も割り込むタイミング失っちゃいました。

「はーい、夕飯の準備、出来てるわよ~」

 また戸が開いて、今度はミコちゃんがレッドやみどり、ポン吉と一緒に入って来ました。

「今日はすごく忙しかったわね、みんな頑張ったから、今日は焼き肉よ!」

 ミコちゃんニコニコ顔で言います。

 帽子男に目をやって、

「お肉、たくさんあるから、用務員さんも来てくださいね」

「いっしょ、しよー!」

「ふん、一緒に食べるのを、許してあげるわよ」

 みんなが言うのに帽子男も怒りのやり場を無くしたみたいです。

「しょうがない、ごちそうになるか」

 とりあえず、険悪なムード回避成功なの。


「大体爺、調子のいい事ばっかじゃねーかっ!」

 食後は帽子男、荒れまくり。

 わたし達はテレビの前にいるんですが……

 食卓には長老と帽子男がいて、まだ続いているんです。

 不安そうにミコちゃんも見守ってはいるけど……

 帽子男の怒りは本物なんですね。

 わたし、一緒にテレビを見ている店長さんに、

『あのー、店長さん』

『何、ポンちゃん』

『どうなるんでしょうね、帽子男さんと長老』

『長老さんは、全然受け合ってないよね~』

 店長さんと一緒になって、ちらっと見ます。

 長老、頷いているけど……あれって頷いているだけです、きっと。

『また決闘になっちゃうんでしょうか?』

『どっちにしても……』

『どっちにしても?』

『用務員さんは長老さんには勝てないんじゃないかな?』

『え? 西部の決闘モードなら、帽子男は早撃ちすごいですよ』

『知ってるけど……で、長老さんがやられたら、結局お店やらないといけないんだよね』

『あ……』

『あきらめた方がいいと思うんだけどんな~』

『教えた方がいいでしょうか?』

 わたしと店長さん、見つめ合い。

『ほっとこ』

『ほっときましょう』

 二人ではもっちゃいました。

 帽子男が満足するまで、いくとこまでいくしかないでしょ。


「このクソ爺っ!」

「用務員さん……シロちゃんの勝負に負けたのですから、言われた通りにするしかないでしょう」

「シロちゃんに負けた訳で、爺に負けたわけじゃ……」

「男らしくないですね」

「ちっ!」

 ああ、帽子男と長老、視線で火花散らしまくり!

「約束をこうもあっさり……小さい男ですね」

 長老の言葉に、帽子男は怒りマークがポンポン頭からはじけ出してるの。

「このクソ爺っ! 覚えてろっ!」

 ああ、帽子男、食卓を叩いて行っちゃいました。

「長老、帽子男さんをいじめてない?」

「そんな事はないです、お店を任せているだけです」

「丸投げですよね?」

「でも、一国一城の主、こんな話はそうそうないです」

「でもでも、ぽんた王国もあんなに忙しいんですよ」

「……」

「帽子男さん、逃げ出しちゃうかも」

「それはないでしょう……男ですから」

「心配だから、行ってきます!」

 わたし、帽子男を追っかけて飛び出します。

「ちょっと待って!」

 ミコちゃんの声。

 配達に使うバスケット……中はおはぎですね。

「なに、ミコちゃん」

「カッカしてる時は甘いもので落ち着かないかしら」

「子供じゃあるまいし……」

「あと……レッドちゃーん」

 ミコちゃんが呼ぶと、レッドがやって来ました。

 もう、テレビを見たら寝るだけだからパジャマ姿。

「レッドちゃん、お使い、いいかしら?」

「なにごと?」

「用務員さんのところにお泊りしてきて」

「はーい」

「わたしもお泊りしてくるの? 襲われないかな?」

「レッドちゃんがいるから大丈夫よ」

「でも、なんでレッドも?」

「子供だからよ」

「?」

「用務員さんが逃げ出さないように……ね」

「そんなに心配?」

「だって、用務員さん、子供達に人気あるのよ」

「まぁ、遊んでくれるから……ね」

「なんとしても、なだめて逃がさないでね」

「逃げる事はないと思うけど……」

 でもでも、さっきの怒りっぷりは気になります。


 レッドをおんぶして学校に……宿直室に明かりが点いてます。

 そんな明かりに一瞬人影。

 わたし、びっくりして、

「だ、だれっ!」

「ポンちゃん! レッドちゃんも!」

「そ、村長さん」

 いたのは熟女の村長さんです。

「村長さん、どうしたんですか?」

「用務員さん、すごい怒ってたから」

「知ってるんですね?」

「今日は日曜日でしょ、私もちょっと、お店手伝ったのよ」

「すごく忙しかったんですよね?」

「ええ……」

 わたし達、宿直室に向かいます。

 夜の学校は不気味で……宿直室から帽子男のグチる声が聞こえてくるの。

 ちらっと中を見ると……

 吉田先生にグチを聞いてもらってるんですね。

「大体あの爺は……」

「こんばんわー」

「おおっ! タヌキ娘っ! 村長もっ!」

「まだグチってるんですか?」

「グチらずにおれるか……か……か……」

 わたし、おんぶしていたレッドをリリース。

「よーむいん、おとまりにきました~」

「おお、レッド、そ、そうか……」

「うふふ、いっしょにおねむです~」

「むう……そうだな……」

 レッド、帽子男に抱きついたら、もうまぶたが半開き。

「うふふ、いっしょにおねむです~」

 言いながら落ちていくの。

 わたし達、部屋の時計を見ます。

 いつもなら、もう寝付いているような時間なの。

 わたし、押入れから布団を出して敷きます。

 村長さんが、

「逃げたら、子供達が悲しむわよ」

 真っ先に釘をさします。

 帽子男、レッドを布団に寝かせながら、

「そんなの、わかってるっ!」

 すると、吉田先生が、

「あのタヌキの爺さんをギャフンと言わせれば満足なんだよな」

 缶ビールを飲みながら言うと、ちょっと考えてから、

「爺さんのそば屋をやっつければいいんじゃねーの?」

「た、確かに……何でもいいから負かせられれば!!」

 村長さん、笑顔で、

「頑張って、用務員さんっ!」

 しかし、また吉田先生がつぶやきます。

「あの爺さんのそばに勝てるかな?」

 わたしと村長さん、吉田先生をにらみます。

 村長さん、すごい剣幕で、

『どうしてそんな事言うのっ!』

『村長、実際そうでしょ、あの爺さんタヌキのそばは一級品』

『帽子男さんのそばもおいしいですよ』

『タヌキ娘……あの爺さんの味には年季があるんだよ』

 吉田先生、一瞬考えてから、

「看板変えればいいんだよ、看板を」

「え?」

 吉田先生の言葉に、みんな声を上げます。

「そば屋もいいが……ラーメン屋でいいんじゃねーか?」

「な、何故ラーメン屋?」

「ともかくラーメン屋でそば屋をやっつけたらいいじゃねーか」

「!!」

 帽子男、ラーメン屋さんになっちゃうみたい!


 平日は……観光バスが来ない時は暇なの。

 店長さんに言われて学校に配達に行ったけど……

 学校のおそば屋さん、見事に「ラーメン屋」になってました。

 っても、のれんと看板が変わっただけですけどね。

 わたし、ちょっと覗こうと思ったら、いきなり戸が開いて現場監督さんが出てきました。

「じゃ、またな~」

 中の……きっと帽子男に言ってるんです。

 現場監督さんに続いてぞろぞろと職人さんが出てきます。

「みなさん、おそろいですね」

「おお、ポンちゃんか、そうだな、今日はここで昼」

 職人さん達、歩いて現場に向かいます。

 現場監督さんはニコニコ顔で、

「ラーメン屋出来てよかったよ」

「どうしてです?」

「そばもいいし、パンもいいけど……」

「?」

「塩っぽいのが食べたいもんなんだよ、力仕事だし」

「そんなもんですか~」

「ポンちゃんも食って行かないのか?」

「わたしは家で食べるもん」

「コンちゃん、中にいるぜ」

「またツケですね……」

 現場監督さんが行っちゃうのに、わたし、中を覗いてみます。

 コンちゃんがカウンターでラーメンをすすってますね。

 もう、いきなりチョップです、チョップ。

「またツケですかっ!」

「うお、ポン、食べている時にチョップはなしじゃっ!」

「まったく、いつの間にかいなくなったと思ったら!」

「どうせ暇なのじゃ」

「そ、そうなんですけどね……」

 見れば吉田先生もいます。

 学校は……昼休みか……

 その時、戸がカラカラいって、長老が入って来ました。

 厨房にいる帽子男との間に視線火花が散ってるの。

「何しに来た、タヌキ爺……」

 途端に長老、ハンカチで目元をぬぐいながら、

「ラーメン屋に客を取られて、そば屋は閉店の危機……」

「ざまぁ」

「一杯いただきます」

「おう、待ってな」

 すぐさまラーメン出てきます。

 わたしの前にも出てきました。

「注文してな~い!」

「コンちゃんのツケにしとくから、食べな」

 だ、そーです、いただきましょう。

 白いスープの豚骨ラーメンですね。

「帽子男さん、おいしいですよ」

「おう、殺し屋の時はあちこち食べ歩いていたからな」

「ふふ、修行になってたんですね」

「今、思えばな」

 長老、食べ終わるまで黙っていましたが、どんぶりを置いて、

「これは美味しいですね、たいしたものです」

「どうだ、タヌキ爺、まいったか!」

「まいりました」

 長老、あっさり降参しましたよ。

「くやしいから帰ります」

 長老、出て行っちゃいます。

「俺も休み時間終わっちまう」

 吉田先生も席を立ちました。

 長老が心配だから、ついて行っちゃいましょう。

「長老、大丈夫?」

「ポンちゃん……」

 って、振り向いた長老はニコニコしてます。

「さっき泣いてませんでした?」

「これ」

 って、たまねぎですね……以前ミコちゃんがウソ泣きで使ってました。 

 わたしの横から吉田先生が、

「爺さん、約束だからな、そば屋のツケ、ちゃらだぜ」

「ふふ、その約束は守りますよ」

 長老と吉田先生の目がキラリ。

「え……まさか二人の作戦だったんですか?」

 長老は何も語りません……でもでも間違いないみたい。

 吉田先生がニコニコ顔で、

「俺、ラーメンが食べたかったんだよ、餃子とかチャーハンもな」

「ラーメン屋ができたから、そば屋は土日だけでもいいでしょう」

 むー!

 帽子男さん、まんまとはめられてるみたいですね。

 勝ったつもりがやられてるんです。


「ミコちゃん……長老さんはミコちゃんの術で人間になってるんだよね?」

「え、長老……はい、そうですけど」

「長老って言うくらいだから……何歳くらいなの?」

「それって……いつから生きているかって事ですよね」

 長老って何歳なんですかね?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ