第96話「さよならヒットマン」
村おこしは良い事だって思ってました。
なんたって「ポンと村おこし」…村おこしするのが目標なんですよ。
でもでも、忙しいとこまる人もいるんです。
こまる人…
コンちゃんはすぐに逃げようとするんですよね、忙しいと。
日曜日の「ぽんた王国」。
お客さんがいっぱいです。
以前は神社に参拝に来る人が多くて、それって女の人メイン。
でも、「ぽんた王国」は家族層がターゲット?
親子連れが多いの。
「ニンジャ屋敷」で遊んで、そのまま長老のおそば屋さんでお食事。
最後におみやげや、お豆腐を買って帰るパターンみたいです。
わたし、今日はそんなぽんた王国をお手伝いしてるの。
おそば屋さんの引き戸が音をたてて、お客さん入ってきます。
「いらっしゃいませ~」
わたし、前のぽんた王国でも働いていたから、おそば屋さんでもばっちりなの。
お客さんを席に案内して、注文を取ります。
紙に注文を取ったら、すぐに厨房に指でサイン。
長老がちらっと見て頷きます。
そんな長老の隣では、ポン太がせわしなく働いているの。
わたしがポン太の所に戻る時には、注文したおそばが並べられてるんです。
コンビネーションもばっちりってもんでしょ。
でも……
『ぽ、ポン太!』
『な、なに? ポン姉?』
『お、お客さんすごくないです?』
『今日は多いかも……』
ぽんた王国が復活してから、たまにお手伝いはしてました。
でも、今日は今までにない多さです。
『どうしてかな?』
ポン太、それを聞いて首を傾げます。
そして長老を見ると、
『神社の方は何もなかったと思うのですが』
『お祭りもないよね』
『そのはずですが……』
って、またお客さんです。
よく見れば、パン屋さんでよく見かける女のお客さんですね。
今日はこっちにお食事でしょうか?
ちょっと聞いてみましょう。
「いらっしゃいませ、今日はこっちなんですね」
「あ、ポンちゃん……どうしてココに?」
「はい、ここのお手伝いなんです」
「へぇ……そうなんだ」
「今日はおそばな気分なんですか?」
「え? 何の事?」
「いつもパン屋さんに来てくれてるから……」
「ああ……帰りにパン屋さんにも寄って行くけど……」
「?」
常連さん、体をくねらせながら携帯電話を出して、
「ニンジャ姿のレッドちゃん、かわいい~」
一緒に写っている写真を見せてくれます。
そういえば、この人はレッド目当てかも。
「あの……もしかして……」
「何、ポンちゃん?」
「他の常連さんも、レッド目当てで来てません?」
「そうかも……みどりちゃんもかわいいし、ポン太くんやポン吉くんもいいわね~」
そう……ニンジャ屋敷はポン吉がやってるんですが、レッド・みどり・シロちゃんがヘルプしてるんです。
わたし、注文をとってポン太の所に戻ると、
「人が多いの、レッドのせいかもしれません」
それを聞いてポン太と長老、頷いてくれました。
お店、それからも大忙しでし。
わたし、大活躍だけど、すごく疲れました。
外はすっかり暗くなってます。
お店の片付けも終わって、もう帰ってもいいかなって空気です。
わたし、一緒にどんぶりを洗っているポン太に、
「今日はすごかったね」
「ボクもびっくりしました……途中でおそばもなくなるし」
「おそば、作りながらだったもんね」
って、奥から長老が出て来ました。
「ポンちゃん、ポン太、おつかれさま」
「長老もおつかれさま~」
「今日は……」
長老、すまなさそうな顔で、
「今日は……いつもなら残り物をお土産にしてもらうところですが」
「あ、ないんですよね、そんなもんですよ」
今日はすごい繁盛したから、残り物なんてないんです。
長老、ニコニコしながら、
「そう言ってもらえると助かります」
「長老、どこに行ってたの?」
「ニンジャ屋敷の方……あちらもすごかったみたいです」
「やっぱりレッド効果?」
「かもしれません」
「こんなにお客さん多いなんて、びっくり」
「前のぽんた王国よりも条件は悪いはずなんですが……」
「そうだよね、ここは大きな道路からちょっと入らないとダメだし」
「逆に……来る客は必ずここにって感じで」
「そう言われると、そうかも」
「ちょっとこれからの事、考え直さないといけませんね」
「というと?」
「この人数でやるのは……人を雇わないといけないかもしれません」
その時です、戸を開く音がして、帽子男が入って来ました。
「おい、爺さん、いるか!」
「どうしました?」
「爺……いやがった!」
「?」
帽子男、すごい怒ってます。
それに、どことなーくやつれた感じもしますね。
長老に詰め寄ると、
「爺さん……俺はのんびりできる仕事って聞いてたぞ!」
「あ、あの、どうしたんですか、帽子男さんっ!」
「タヌキ娘……今日すげー忙しかったんだよっ!」
「え……学校のおそば屋さんも忙しかったんですか?」
「そうだよ……こんな村のそば屋だからって思ったらどーなってんだ」
「どれくらい来たんです?」
「200だ、200、正確には221!」
か、数えてたんだ……
「え……200……わたし、最近卸してるけど、50食くらいだよね?」
「そーだよ、50だよ、キャパは!」
帽子男、長老に向き直ると、
「最初と話が違うんじゃねーのか?」
「繁盛していいではありませんか」
「爺っ! 俺に押し付けてるだろうがっ!」
長老はひょうひょうとしてますが、帽子男はカッカしてるの。
険悪なムード、わたしもポン太も割り込むタイミング失っちゃいました。
「はーい、夕飯の準備、出来てるわよ~」
また戸が開いて、今度はミコちゃんがレッドやみどり、ポン吉と一緒に入って来ました。
「今日はすごく忙しかったわね、みんな頑張ったから、今日は焼き肉よ!」
ミコちゃんニコニコ顔で言います。
帽子男に目をやって、
「お肉、たくさんあるから、用務員さんも来てくださいね」
「いっしょ、しよー!」
「ふん、一緒に食べるのを、許してあげるわよ」
みんなが言うのに帽子男も怒りのやり場を無くしたみたいです。
「しょうがない、ごちそうになるか」
とりあえず、険悪なムード回避成功なの。
「大体爺、調子のいい事ばっかじゃねーかっ!」
食後は帽子男、荒れまくり。
わたし達はテレビの前にいるんですが……
食卓には長老と帽子男がいて、まだ続いているんです。
不安そうにミコちゃんも見守ってはいるけど……
帽子男の怒りは本物なんですね。
わたし、一緒にテレビを見ている店長さんに、
『あのー、店長さん』
『何、ポンちゃん』
『どうなるんでしょうね、帽子男さんと長老』
『長老さんは、全然受け合ってないよね~』
店長さんと一緒になって、ちらっと見ます。
長老、頷いているけど……あれって頷いているだけです、きっと。
『また決闘になっちゃうんでしょうか?』
『どっちにしても……』
『どっちにしても?』
『用務員さんは長老さんには勝てないんじゃないかな?』
『え? 西部の決闘モードなら、帽子男は早撃ちすごいですよ』
『知ってるけど……で、長老さんがやられたら、結局お店やらないといけないんだよね』
『あ……』
『あきらめた方がいいと思うんだけどんな~』
『教えた方がいいでしょうか?』
わたしと店長さん、見つめ合い。
『ほっとこ』
『ほっときましょう』
二人ではもっちゃいました。
帽子男が満足するまで、いくとこまでいくしかないでしょ。
「このクソ爺っ!」
「用務員さん……シロちゃんの勝負に負けたのですから、言われた通りにするしかないでしょう」
「シロちゃんに負けた訳で、爺に負けたわけじゃ……」
「男らしくないですね」
「ちっ!」
ああ、帽子男と長老、視線で火花散らしまくり!
「約束をこうもあっさり……小さい男ですね」
長老の言葉に、帽子男は怒りマークがポンポン頭からはじけ出してるの。
「このクソ爺っ! 覚えてろっ!」
ああ、帽子男、食卓を叩いて行っちゃいました。
「長老、帽子男さんをいじめてない?」
「そんな事はないです、お店を任せているだけです」
「丸投げですよね?」
「でも、一国一城の主、こんな話はそうそうないです」
「でもでも、ぽんた王国もあんなに忙しいんですよ」
「……」
「帽子男さん、逃げ出しちゃうかも」
「それはないでしょう……男ですから」
「心配だから、行ってきます!」
わたし、帽子男を追っかけて飛び出します。
「ちょっと待って!」
ミコちゃんの声。
配達に使うバスケット……中はおはぎですね。
「なに、ミコちゃん」
「カッカしてる時は甘いもので落ち着かないかしら」
「子供じゃあるまいし……」
「あと……レッドちゃーん」
ミコちゃんが呼ぶと、レッドがやって来ました。
もう、テレビを見たら寝るだけだからパジャマ姿。
「レッドちゃん、お使い、いいかしら?」
「なにごと?」
「用務員さんのところにお泊りしてきて」
「はーい」
「わたしもお泊りしてくるの? 襲われないかな?」
「レッドちゃんがいるから大丈夫よ」
「でも、なんでレッドも?」
「子供だからよ」
「?」
「用務員さんが逃げ出さないように……ね」
「そんなに心配?」
「だって、用務員さん、子供達に人気あるのよ」
「まぁ、遊んでくれるから……ね」
「なんとしても、なだめて逃がさないでね」
「逃げる事はないと思うけど……」
でもでも、さっきの怒りっぷりは気になります。
レッドをおんぶして学校に……宿直室に明かりが点いてます。
そんな明かりに一瞬人影。
わたし、びっくりして、
「だ、だれっ!」
「ポンちゃん! レッドちゃんも!」
「そ、村長さん」
いたのは熟女の村長さんです。
「村長さん、どうしたんですか?」
「用務員さん、すごい怒ってたから」
「知ってるんですね?」
「今日は日曜日でしょ、私もちょっと、お店手伝ったのよ」
「すごく忙しかったんですよね?」
「ええ……」
わたし達、宿直室に向かいます。
夜の学校は不気味で……宿直室から帽子男のグチる声が聞こえてくるの。
ちらっと中を見ると……
吉田先生にグチを聞いてもらってるんですね。
「大体あの爺は……」
「こんばんわー」
「おおっ! タヌキ娘っ! 村長もっ!」
「まだグチってるんですか?」
「グチらずにおれるか……か……か……」
わたし、おんぶしていたレッドをリリース。
「よーむいん、おとまりにきました~」
「おお、レッド、そ、そうか……」
「うふふ、いっしょにおねむです~」
「むう……そうだな……」
レッド、帽子男に抱きついたら、もうまぶたが半開き。
「うふふ、いっしょにおねむです~」
言いながら落ちていくの。
わたし達、部屋の時計を見ます。
いつもなら、もう寝付いているような時間なの。
わたし、押入れから布団を出して敷きます。
村長さんが、
「逃げたら、子供達が悲しむわよ」
真っ先に釘をさします。
帽子男、レッドを布団に寝かせながら、
「そんなの、わかってるっ!」
すると、吉田先生が、
「あのタヌキの爺さんをギャフンと言わせれば満足なんだよな」
缶ビールを飲みながら言うと、ちょっと考えてから、
「爺さんのそば屋をやっつければいいんじゃねーの?」
「た、確かに……何でもいいから負かせられれば!!」
村長さん、笑顔で、
「頑張って、用務員さんっ!」
しかし、また吉田先生がつぶやきます。
「あの爺さんのそばに勝てるかな?」
わたしと村長さん、吉田先生をにらみます。
村長さん、すごい剣幕で、
『どうしてそんな事言うのっ!』
『村長、実際そうでしょ、あの爺さんタヌキのそばは一級品』
『帽子男さんのそばもおいしいですよ』
『タヌキ娘……あの爺さんの味には年季があるんだよ』
吉田先生、一瞬考えてから、
「看板変えればいいんだよ、看板を」
「え?」
吉田先生の言葉に、みんな声を上げます。
「そば屋もいいが……ラーメン屋でいいんじゃねーか?」
「な、何故ラーメン屋?」
「ともかくラーメン屋でそば屋をやっつけたらいいじゃねーか」
「!!」
帽子男、ラーメン屋さんになっちゃうみたい!
平日は……観光バスが来ない時は暇なの。
店長さんに言われて学校に配達に行ったけど……
学校のおそば屋さん、見事に「ラーメン屋」になってました。
っても、のれんと看板が変わっただけですけどね。
わたし、ちょっと覗こうと思ったら、いきなり戸が開いて現場監督さんが出てきました。
「じゃ、またな~」
中の……きっと帽子男に言ってるんです。
現場監督さんに続いてぞろぞろと職人さんが出てきます。
「みなさん、おそろいですね」
「おお、ポンちゃんか、そうだな、今日はここで昼」
職人さん達、歩いて現場に向かいます。
現場監督さんはニコニコ顔で、
「ラーメン屋出来てよかったよ」
「どうしてです?」
「そばもいいし、パンもいいけど……」
「?」
「塩っぽいのが食べたいもんなんだよ、力仕事だし」
「そんなもんですか~」
「ポンちゃんも食って行かないのか?」
「わたしは家で食べるもん」
「コンちゃん、中にいるぜ」
「またツケですね……」
現場監督さんが行っちゃうのに、わたし、中を覗いてみます。
コンちゃんがカウンターでラーメンをすすってますね。
もう、いきなりチョップです、チョップ。
「またツケですかっ!」
「うお、ポン、食べている時にチョップはなしじゃっ!」
「まったく、いつの間にかいなくなったと思ったら!」
「どうせ暇なのじゃ」
「そ、そうなんですけどね……」
見れば吉田先生もいます。
学校は……昼休みか……
その時、戸がカラカラいって、長老が入って来ました。
厨房にいる帽子男との間に視線火花が散ってるの。
「何しに来た、タヌキ爺……」
途端に長老、ハンカチで目元をぬぐいながら、
「ラーメン屋に客を取られて、そば屋は閉店の危機……」
「ざまぁ」
「一杯いただきます」
「おう、待ってな」
すぐさまラーメン出てきます。
わたしの前にも出てきました。
「注文してな~い!」
「コンちゃんのツケにしとくから、食べな」
だ、そーです、いただきましょう。
白いスープの豚骨ラーメンですね。
「帽子男さん、おいしいですよ」
「おう、殺し屋の時はあちこち食べ歩いていたからな」
「ふふ、修行になってたんですね」
「今、思えばな」
長老、食べ終わるまで黙っていましたが、どんぶりを置いて、
「これは美味しいですね、たいしたものです」
「どうだ、タヌキ爺、まいったか!」
「まいりました」
長老、あっさり降参しましたよ。
「くやしいから帰ります」
長老、出て行っちゃいます。
「俺も休み時間終わっちまう」
吉田先生も席を立ちました。
長老が心配だから、ついて行っちゃいましょう。
「長老、大丈夫?」
「ポンちゃん……」
って、振り向いた長老はニコニコしてます。
「さっき泣いてませんでした?」
「これ」
って、たまねぎですね……以前ミコちゃんがウソ泣きで使ってました。
わたしの横から吉田先生が、
「爺さん、約束だからな、そば屋のツケ、ちゃらだぜ」
「ふふ、その約束は守りますよ」
長老と吉田先生の目がキラリ。
「え……まさか二人の作戦だったんですか?」
長老は何も語りません……でもでも間違いないみたい。
吉田先生がニコニコ顔で、
「俺、ラーメンが食べたかったんだよ、餃子とかチャーハンもな」
「ラーメン屋ができたから、そば屋は土日だけでもいいでしょう」
むー!
帽子男さん、まんまとはめられてるみたいですね。
勝ったつもりがやられてるんです。
「ミコちゃん……長老さんはミコちゃんの術で人間になってるんだよね?」
「え、長老……はい、そうですけど」
「長老って言うくらいだから……何歳くらいなの?」
「それって……いつから生きているかって事ですよね」
長老って何歳なんですかね?