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第94話「たまおちゃんの修行」

 最近たまおちゃんがおとなしいそうです。

 百合巫女のたまおちゃん……なにか新しい作戦とか!

 わたしはどーでもいいって思っていたけど……

 なぜかこーゆー時はわたしの出番なんです。

 ミコちゃんもコンちゃんも、わたしよりも強いくせにっ!


 朝、登校の準備で忙しいレッドとみどり。

 ミコちゃんが声かけです。

「レッドちゃん、忘れ物はない?」

「はーい、おべんともちましたよ」

「みどりちゃん、忘れ物、ない?」

「はい、ミコ姉」

 ミコちゃんは二人の身なりを確かめると、今度は、

「シロちゃん、準備はいいかしら?」

「本官、朝の配達であります」

「それじゃなくて」

「?」

 ミコちゃん、お弁当の包みを渡します。

「駐在さんにお弁当頼まれてたから」

「ああ、でありました」

 シロちゃん、配達のバスケットにお弁当の包みを入れます。

 そんな横を巫女さんコスプレ……じゃなくて、巫女姿のたまおちゃんが通ります。

「行ってきます」

 落ち着いた口調。

 静々と出て行くたまおちゃん。

 わたし、どうしてか声をかけれません。

 いや、ミコちゃんもコンちゃんも声をかけられないの。

 すると店長さんが、

「たまおちゃん、行ってらっしゃい」

「はい、店長さん、行ってきます」

 店長さんはなんともないみたい。

「たまおちゃ、きょうもすてきー!」

「はい、レッド、でも、巫女にキスはだめですよ」

「しんせいですかな?」

「そうですね」

 レッドもへっちゃらみたいですね。

「ふん、その格好、いつも決まってるわねっ!」

「みどりちゃん、ありがとう」

「ふん、褒めてなんかないわよっ!」

「ふふ、ありがとう」

 みどりも、ツンツンしているけど、いつもの感じ。

 でもでも。わたしとコンちゃんミコちゃんは見つめるばかり。

 お店のドアが開いて、カウベルがカラカラ音をたてて、たまおちゃんは行っちゃいました。

 レッドとみどりは一緒に登校です。

 わたしも……老人ホームに朝の配達あるんでした。

「はい、ポンちゃんの、一番最後になっちゃってごめんなさい」

「別にいいけど……」

 わたし、さっきミコちゃんとコンちゃんの様子が変だったから聞いちゃいます。

「二人とも、どうかしたの?」

 ミコちゃんもコンちゃんも神妙な顔……どうしたんでしょ?

「ポンは気付かんようじゃの」

「コンちゃん、どうかしたの?」

 わたしが聞くと、ミコちゃんが、

「最近、たまおちゃんがおとなしいのよ」

「?」

「気付かない?」

 それには、まだ残っていたシロちゃんが、

「その件でありますが……」

「なになに、シロちゃん」

「本官、たまおちゃんと一緒に寝ているであります」

「そだね」

「以前のたまおちゃんは、夜な夜な本官に抱きついていたであります」

「そうなんだ」

「最近は一人でおとなしく寝ているであります」

「それが?」

 わたしが聞いたら、3人の視線が刺すようです。

 コンちゃんが不満そうに、

「わらわ、ポンは『エロポン』と思っておったのじゃが」

「コンちゃん、その『エロポン』はやめて、エロ本みたいだから」

「実際エロ本に詳しいではないか」

「そ、それはそーだけど……」

 そう、わたし、まだ野良だった頃、不法投棄の雑誌を読んでいたんです。

 山に捨てたらダメなんだからモウ!

 でもでも、おかげで大人の恋愛だってばっちり勉強してるんです。

 実践はまだだけどね。

「ポンちゃんは本当に百合って知らないの?」

「わたし、知らない」

 シロちゃんがあきれた顔で、

「女の子同士の関係でありますよ」

「ふーん、女の子同士で楽しいの?」

「そういった趣向なのであります、たまおちゃんは」

「だから?」

 わたしがキョトンとしていると、3人ともため息です。

 コンちゃんが膨れながら、

「その百合巫女のたまおが、最近わらわやミコを襲わんのじゃ」

「コンちゃんとミコちゃん、襲われたくないんだよね?」

 頷く二人。

「じゃ、いいんじゃないの? ねえ?」

 またため息です。どうしてかな?

「いいか、ポンよ、あやつが何もしかけて来ぬ……何か感じぬか?」

「さぁ……」

「ポンちゃん、私はたまおちゃんが、何かとんでもない作戦を練っている……って思ってるの」

「たまおちゃんが?」

「本官、夜眠れてうれしいでありますが……不気味であります」

「たまおちゃん、百合じゃなくなったんじゃないの? やめたんだよ」

 途端に3人とも首を横に振ります。

 コンちゃん、わたしを指差して、

「ポンに命令じゃ、神社のたまおを偵察するのじゃ!」

「自分で行けばいいのに」

「神社はあやつのテリトリーじゃ、トラップが仕掛けてあるのじゃ」

 まぁ、コンちゃんが行くなんて思ってないですから、行くしかないですね。

 ふふ……でも、ちょっと興味あります。

 巫女さんのお仕事って、なんだか格好いいもんね。

 一度神楽で袴も着たんです。

 わたしもアレを着たらバッチリ巫女なんだから。


 道すがら一緒しているシロちゃんが、

「本官も正直言うと……」

「どうかしたの?」

「ちょっと不安であります」

「?」

「たまおちゃんは、いつも本官に絡みつくように寝ていたであります」

「ふうん」

「それが最近はまったくないであります」

 わたし、ちょっと考えます。

「わたしもたまに、コンちゃんが抱きついてくるよ」

「そうでありますか」

「寝ぼけてるみたいだけど……びっくりするよ」

 神社への階段をのぼりながら、

「抱きついてこないなら、その方がよくない」

「確かに、よく眠れるであります」

「なら……」

「でも、それが不気味なのであります」

 神社に到着です。 

 社務所に……あれ、たまおちゃん、いませんね。

 サボりかな?

 隣でシロちゃんがクンクンしてるの。

「こっちであります……滝の方です」

「え! 滝? そんなのあるの!」

「神社の裏にはあるであります」

 シロちゃんに連れられて神社の裏へ。

 滝、ありました。

 マイナスイオン漂う空間ですよ。

 たまおちゃん、滝行の最中。

 手を合わせて、祈っていますね。

 わたしとシロちゃん、岩陰に隠れてたまおちゃんを見守ります。

 修行の邪魔をするのもなんだけど、シロちゃんが引き止めたの。

「真面目にやってるみたいだけど」

「確かに真面目にやっているようであります」

 でも、引き止めた時に肩に重ねられたシロちゃんの手に力がこもるの。

「ポンちゃんは感じないでありますか?」

「え? なにを?」

「たまおちゃんは本気であります」

「は? なにが?」

「たまおちゃんは本気でコンちゃん達を攻略しようとしているであります」

「まさかまさか、だってたまおちゃん、いつもコンちゃん達に返り討ち」

「だから修行しているであります」

「そ、そうかな……」


「な、なにかまずい事言った?」

「いや、貴重な情報なのじゃ」

「そう、たまおちゃん、本気みたいね」

 コンちゃんもミコちゃんも表情こわばってます。

 ちょっとたまおちゃんがかわいそう。

「真面目に修行しているだけじゃないのかな~」

「……」

「きっと改心したんだよ」

「バカモノーっ!」

 コンちゃんチョップがわたしに直撃。

「い、痛い……」

「ポン、おぬしはわかっておらぬっ!」

「そ、そんな……叩かなくてもいいのに……」

「そうよ、ポンちゃん、わかってないわね」

「コンちゃんもミコちゃんも心配しすぎだよ」

「わらわ、心配なのじゃ」

「今夜辺り、攻撃してくるかしら……」

「そうじゃの、用心に越した事ないのじゃ」

「私の封印も破られるかも」

「うむ……それも考えた方がよかろう」

 って、ミコちゃんの頭上に裸電球点灯。

「レッドちゃんとみどりちゃんと一緒なら!」

 その言葉にコンちゃんもパッと明るい表情……になったのは一瞬。

 すぐに険しい顔になって、

「あの淫ら巫女の事じゃ、その辺も考えておろう」

「そ、そうね……」

 二人そろってため息ついてから、

「何か良い手はないかの」

「困ったわね」

 むー、なんだかみんな、たまおちゃんを疑ってます。

 ちょっとひどくないですか。

「ねぇ、そんなにたまおちゃんを疑わなくても……」

「ポン、おぬしはわかっておらぬのじゃ」

「そうよ、ポンちゃんは本当にお人好しなんだから」

「むー!」

 って、コンちゃんがポンと手を打ちます。

「そうじゃ、良い手があるのじゃ」

 キラキラした目でわたしを見ながら、

「ポン、おぬし、わらわの胸に憧れておったであろう」

「いきなり……まぁ、その胸はうらやましい」

「では、わらわになるのじゃ!」

「は?」

 コンちゃんが指を鳴らすと、わたしの体が輝き出すの。

 そしてなんと、わたし、コンちゃんになっちゃいました。

 でもでもしっぽはタヌキのまま。

「どどどどーなってるんですかっ!」

「術でわらわの生き写しにしたのじゃ……しっぽはタヌキのままかの」

「ふわわ……む、胸が重いっ!」

 こ、これがコンちゃんの体っ!

 胸が重いと肩がこります。

 コンちゃん、さらに術を発動します。

「それ、ゴット・フリーズじゃ」

「は?」

 わたし、術にかかって動けなくなりました。

「ちょちょちょっ! どーして!」

「ふふ……ミコの術はおぬしに効かぬが、わらわの術は効くのう」

「やめてくださいっ!」

「おぬしにはそこでソファーに転がっていてもらうのじゃ」

「どーして!」

「たまおが襲ってくるのじゃ」

「……」

「しゃべられては困るゆえ、それ、ゴット・サイレントじゃ」

「むーむー!」

 しゃ、しゃべれませんっ!

 ミコちゃん、頷きながら、

「私たちが出掛けてる設定にすれば、たまおちゃんがポンちゃんを襲うシナリオね」

「ミコ、置手紙じゃ」

「はい、サラサラっと」

「ふむ、では、みなで配達なのじゃ」

「そうだ、たまおちゃんにメールしましょ」

 ミコちゃんどこからともなく携帯出してピピピ。

 そしてみんな出て行っちゃいました。

『ただいま~』

 入れ替わるように、遠くからたまおちゃんの声。

 足音が近付いて来て、

「いきなりお留守番を頼まれたけど……私も神社が……」

 い、居間に入って来たの、足音で分かりました。

 あ、熱い視線を感じます。

 も、桃色オーラが部屋の色を染めます。

「コンお姉さまっ!」

「むーむー!」

「今、ここにはコンお姉さまと私だけっ!」

「むーむー!」

「なぜか動けないみたいですね、それ、むちゅーん!」

「むーむー!」

 わたし、レッドにキスされるのも嫌だけど……

 女の子同士のキスも好きじゃなーい!

「さぁ、ひとつになりましょうっ!」

 たまおちゃん、脱ぎだしました。

 わたしドン引き。

「!!」

 って、脱いでいるたまおちゃんの後ろに、コンちゃん達が浮かび上がります。

 きっとステルスの術で隠れてたんです。

 コンちゃんのチョップがたまおちゃんに振り下ろされました。

「ゴン」って痛そうな音がしましたよ。

 ★三つのダメージ。

 崩れ落ちるたまおちゃん。

 ミコちゃんがわたしに顔を寄せて、

「ね、わかった、ポンちゃん」

「むーむー!」

「これがたまおの本心なのじゃ」

「むーむー!」

「修行はこの為だったでありますね」

「むーむー!」


 な、なんでわたしもダンボールの刑なんでしょ。

 隣には頭にたんこぶこさえたたまおちゃんが体操座りしてます。

「わたしがダンボール一緒している理由、わかる?」

 たまおちゃん、首を横に振ります。

「わたし、たまおちゃんを信じていたのに」

「……」

「騙されやすいから、ダンボール一緒なんだよ」

「……」

「ねぇ、たまおちゃん、真面目に修行してたんじゃなかったの!」

 たまおちゃん、涙目でわたしを見ながら、

「あの時、コンお姉さまと二人きりってすごく嬉しかった!」

「は、はぁ……」

「キスしてすぐに、気付いたんです」

「?」

「しっぽがタヌキでした」

「……」

「ポンちゃんだったなんて……私、もてあそばれたっ!」

「そこじゃないでしょっ!」

 わたし、たまおちゃんをゆすりまくり。

「とばっちりはこっちなんだから!」 


「デートの時はひまわりを持って来るのじゃ」

「ひまわり~」

「咲いておる場所は知っておろう」

「らじゃー!」

 この「ひまわり」が嵐を呼ぶんですよ、ええ!


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