四話
魔王を倒したのは、勇者である僕の親友ではなく、僕が愛した人だった。
僕は彼女を守るためならば悪魔でも、鬼にだってなれる。だから、彼女の綺麗な手を汚さないためならば、僕は自分の身が血に染まっても構わないと思っていたんだ。
なのに、彼女は今返り血を浴びている。
……ああ、守れなかった。
そう、何かを僕は悟った。
いや、悟りざるおえなかった。
だって、彼女の顔は全てを悟り、何かを決意した顔だったから、ああ気づいてしまったんだなとそう認めるしかない。
僕が見た、星の記憶が今から起こるんだと覚悟したけれど諦めきれなかった。
タイミングを逃さまいと、冷や汗を掻きながらその時を待った。守り通すつもりでいた、運命を捻り曲げたとしても彼女と共に生きたかった。
でも、その望みを叶えることは出来なかった。……だけどね、彼女も生きたいと言葉にしてくれたから、僕は躊躇いなくあの手段を使うことが出来る。
念のため最悪な事態を想定しておいて良かった、彼女の魂だけは守れる……。
親友、騙してごめんな……?
お前だけは騙したくなかった、騙すことが苦しくて苦しくてしょうがなかった。
だけど、彼女を守るためには、これしかなかったんだ……。ごめんな……。
「月葉……」
僕は親友に最後の嘘をつくために、親友の名前を呼んだ。親友は何故か悲しそうだった。
「……良く見てみろ、あの魔王は人形だ。僕達はあいつらの手のひらの上で、あいつらの駒として転がされていたんだよ……」
僕は声を震えさせながらそう言った。
王に騙されて怒っている演技をしている訳じゃない、もう親友を騙すことに対して感じていた痛みに耐えられなくて僕の声は震えてしまった。
親友以外には怒りを感じて、思わず声を震えさせているのだろうと思われているだろう。
だが、親友は気づいているはずだ。
今までだって違和感を感じていたはずである、……親友は長年僕の側に居てくれたから嘘だとはわからないとしても違和感は抱いていたはずだ。
その違和感が積もりに積もって、きっと親友は確信を得てしまっているはず。
……親友は僕に対して怒るだろうか? 何故、嘘をついたと。
裏切り者だと、そう言うだろうか?
哀川さんが好きだ。
その次に、親友が好きだ。
だから、嫌われたくないけれど、僕には嫌われたくないと言う資格なんてもう……。
「華月。やると決めたらとことん貫く、お前のそんなところが俺は好きだ。だから、裏切られたなんて思ってない。最初から知ってたよ、王が何か企んでることもお前がそれを逆手に取ろうとしていたことも気づいてた。何時だって、どの世界に行こうと、俺はお前の味方だ。
あとは仕上げをするだけなんだろ? 今更躊躇うんじゃねぇ。安心して、仕上げをして来いよ。俺はお前に裏切られたなんて思ってねぇから」
嫌わないで、そう言う資格なんてないと思ってた。そう言いたかった相手に、まさか背中を押されるなんて、思ってもみなかった。
……全く、敵わないなぁ。
そう考えた後、静かに目を閉じて僕は声に出さずに、呪文を唱え始める。
同時に彼女も呪文を唱え始めた。
一方は魔王が体内に留めていた、世界を破滅させるくらいの膨大な魔力の器になるための魔法の呪文。僕の魔法はそんな彼女を守るための魔法の呪文。
……どうか、どうか。
……お願いだから、彼女と同じタイミングで呪文を唱え終わってくれ……。
僕はそう願いながら呪文を唱え続けた。
あれから十五年後が経ったある日のこと。
魔法自体は上手く出来た。
後は、魂とその器が上手く馴染めるかどうかで、彼女が目覚めるか否かが決まる。
僕はそんなことを考えながら、不老不死になり、年月が経つのが早く感じながら彼女の目覚めを親友と共に待っていた。
その時は、案外あっさりとやって来た。
「おはよう、東雲くん」
彼女が目覚めたことで、魂だけは守ることが出来たんだとそう実感出来た。
次回から第2章です。主人公が変わり、恋愛の話から依存系の友情ものへと変わります。主人公は男の子です。