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白銀の魔王と白金の巫女姫+勇者  作者: 葉月風都
第一部 蝦夷編
8/13

第5話 前哨戦

<第五話>


「よってここに、我々魔王国は日本皇国に対し宣戦布告する。第一制圧目標は蝦夷鎮守府である。正々堂々とした戦争を楽しみにしている」


 画面に映る黒ずくめに銀髪の美丈夫はそう締めくくった。


 日本中が騒然としていた。

 唐突な電波ジャック。

 そして映し出されたのは、魔王を名乗る怪しい男による皇国への宣戦布告であった。


「調査部、どうなっている!」

「はっ。現在逆探知を試みています・・・でました!」

「どこだ!?」

「電波塔・・・東京タワーです!!」

「よし、特殊部隊を直ちに派遣しろ。レーダー網をフル稼働。蟻一匹見逃すな!」

「了解!!」


 皇国陸軍第二師団の駐屯する基地は俄に緊張を増していた。


 突如起こった、日本全土を対象にした電波ジャック。

 しかも、天皇陛下のおわす西国京都ではないにせよ、皇国軍のお膝元である関東がその発信源だという。


「テロか?」

「可能性は低いかと。可能性が一番高いのは愉快犯です」

「次に高いのは?」

「本気で皇国に喧嘩を売っている、ですね」

「どっちにしろ、お仕置きが必要な事に変わりは無いな」

「肯定です」


 皇国に喧嘩を売ろうなどという輩はここ200年程現れていない。

 皇国の科学技術力は、アジア随一である。

 高度に科学化された現在の戦争では、物量や国土の広さはさほど重要ではない。その気になれば、皇国は周辺諸国を武力で制圧する事も可能だ。


 それをしないのは、単純に手間の問題である。

 いまさら広大な領土を抱え込むなど愚の骨頂。

 皇国の自主独立とアジアの盟主の地位を保つための武力と補給さえ賄えればそれでいいのだ。あえて無駄な戦いをする必要など無い。


「あんなふざけた格好と物言いでの宣戦布告など認めん。しかも魔王国だと?」

「映像に映っていた黒ずくめの男が魔王という設定なのでしょう。なかなか凝ったコスプレでしたな」

「あの銀髪も染色か?」

「案外カツラなのかも知れませんな。舞台俳優のように」


 調査部の作戦本部に笑いが起こる。

 誰もが、たった今の出来事を真剣には受け止めていなかった。

 今は。




 5分後。


 完全武装の軍人達が、東京タワーを囲んでいた。

 武装装甲車と電磁シールドを戦闘に、数百人の屈強な男達がゴーグル越しにタワーを眺めている。


「隊長、いつ突入ですか?」

「すぐだ。情報部からの連絡だと、誰もタワーからは出て来ていない」

「ということは、一般人が人質になっているということでしょうか?」

「とみて間違いないな。もしも目標がテロリストだった場合は、被害は許容するとのことだ。交戦する場合は、最悪死亡させても構わない」

「本当ですか。随分と気合い入ってますね、上の連中も」


 ヒュウと口笛でも吹きそうな様子で仕官がそういった。


「こんな馬鹿な真似をしでかすヤツが国内にいたというだけでも恥だとさ」

「違いないですね」

「さて、行くぞ諸君。皇国軍人の日頃の訓練の成果を見せて貰おう」


 部隊長が合図を出そうとしたまさにその時、それは空から降ってきた。


 ずうん!!


 白銀に輝く全身鎧と、大人の背丈以上、2mは優に超える巨大な戦槌。

 それは地面を陥没させながらも見事に着地を決めた。


「案外平気なもんだなぁ。さすがオレ」


 兜に覆われていて顔は見えないが、若い男の声が兜ごしに聞こえてきた。


「撃てぇっ!!」


 軍人達の反応は素早かった。

 即座に発砲。

 光学兵器ではなく実弾を使用しているのは、仮に適性目標が高い防御力を誇っていようとも衝撃で足止めするためである。

 凄まじい数の弾丸が全身鎧の男に着弾する。


「撃ち方やめぃっ!」


 白煙があたりを覆い隠す。


「残念でしたっ! さすが魔王様と巫女姫様の防御魔法!!」


 白煙の向こうから、声が響く。


「まさかっ!?」

「死んでも知らねえぜ? 【大地揺らす戦槌(アースシェイカー)】!!」


 ごおんと地面を撃つ戦槌の音。

 その瞬間、大地が揺れた。


 大地揺らす戦槌(アースシェイカー)


 スキル使用者の前方に扇形の衝撃ダメージと揺れによる転倒効果を与える槌スキルである。発動までが短時間である事と効果の扱いやすさからよく使われる上位スキルだ。

 それを「勇者」である範馬が本気で使用したのであるから、効果は推して知るべし。


「ば、ばかな・・・」


 範馬の前方にいた兵士達と装甲車両は、軒並み壊滅的なダメージを受けていた。車両の中には横転どころか天地がひっくり返っているものもある。

 範馬との距離が近かったものは即死。

 距離がだいぶ離れたものですら瀕死の重傷といったところか。


「あらあら、随分と派手にやりましたね、範馬」

「そんなことねえよ。ただの上級スキルだ」

「そうですわね。魔王城に討ち入った時にはこんなものではありませんでしたわね」


 ふわりと舞うように範馬の横に降り立ったのは白金の巫女姫ルティアラ。

 巫女装束と美しい金髪が波打つ。


「さあ、道を空けなさい。勇者様のお通りよ」


 端正な顔を嘲笑の形に歪めながらルティアラが宣言する。


「ふざけるなぁっ!」


 その言葉に我に返ったのか、兵士達が銃を構える。


「敵対行動と認定。殲滅しますわよ?」

「う、撃てぇっ!!」


 またしても凄まじい銃撃。

 今度は装甲車からもロケット弾が撃ち込まれる。


 轟音。


「ふふふ。せいぜい上級魔法といったところですわね」


 もうもうとあがる白煙の中から聞こえてきたのは、鈴を鳴らすような美声。

 白煙に透けて緋袴が映える。


「では、ごきげんよう。そしてさようなら」


 どこから取り出したものか、薄紫色に染められた扇を一閃する。

 と同時に轟と音を立てて吹き上がる火柱。


 残されたものは、黒い炭の塊と、溶け崩れた鉄塊。

 生きて動くのは、範馬とルティアラのみであった。


「弱い。範馬一人で十分すぎる」

「そういうなって。魔法と近代兵器とどっちが強いかって話だろ」


 不満そうに口を尖らせるルティアラ。

 物語を生み出す存在によって解釈は違うが、この世界では幻想世界の力のほうが優勢であるようだ。


「それに、ただの火薬兵器だろ。科学技術の発達した世界だ。光学兵器以外にもSFチックな武器ぐらいあんだろ」

「次は楽しめるといいですわね。どなたか、きっとどこかで見ているんでしょう。この世界の軍隊の強さを見せて下さいませね。でないと・・・」


 空を見上げてルティアラは華やかに笑って言う。


「簡単に世界征服してしまいますよ?」

お読みいただきありがとうございます。

良ければ評価などポチッとしていただけると嬉しいです。

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