第4話 世界征服までは何マイル?
続きです。
<第四話>
「では、世界征服のための会議を開始する」
重々しくルインが宣言する。
「まずは本拠地となる領土を確保せねばならんな」
「先立つものがないんだから、兵糧を確保したいわね」
「であれば、蝦夷と奥州を標的にするのが良いかと思います」
「なぜだ、飛鳥?」
こほんと咳払いをすると、壁面のディスプレイに情報が映し出される。
どうやら、昨年度の収穫高のようであった。
「このように皇国の食料は、ほぼ8割が蝦夷と奥州が賄っております。土壌改良と長年に渡って続けられてきた品種改良によって、毎年一定以上の収穫が保証されています」
「なるほど。だが、蝦夷と奥州と同時に攻め落としても後が続くまい?」
「はい。ですから、海峡によって隔てられている蝦夷を落とすのが良いかと。穀物と野菜類のバランスが良いですし」
周囲を海に囲まれていることから、魚介類なども豊富なようだ。
土地が広いのが若干ネックか。
「よし、ではそうしよう」
「あとは兵力よね。単純に攻め滅ぼせばいいというなら私たちだけでどうにかなるのでしょうけど。継続的に国を運営していくのなら、民が必要だわ」
「蝦夷の民を徴用して、奴隷にでもすれば良いのではありませんか?」
「ふむ。それも一考の余地はある。飛鳥よ、皇国の民はどれだけの忠誠心を持ち合わせているのだ?」
「それぞれだと思いますが、皇国のために命まで投げ出せるような者はそれほど多くないかと」
日本の平行世界で、なおかつ技術の発達が著しいとなれば、個人個人の意識の違いはより大きくなっているはずである。
自らの命よりもお国が大切という考えは、未来社会でも廃れてきているようだ。
「なるほど。では、圧倒的戦力により蝦夷鎮守府を攻め滅ぼし、恭順を呼びかけるのが早いか・・・」
「でしょうね。魔王様の攻撃力に期待するわ」
「範馬、お前にも働いて貰うぞ。今さら人を殺めるのが嫌だとは言わせん」
「言うつもりはねえよ。オレだってあっちの世界では大量殺人者だ。今更だぜ。自分の居場所を自分で作れるんだから、今度はオレの意思で動けるんだ。気楽なもんさ」
勇者として騙されていた時間は、確実に範馬を変えていた。
いや、蝕んでいたというべきか。
「この世界の戦闘レベルがどのようなものか楽しみだな。『科学』とやらの実力を見せて貰おうか」
「そのあたりもある程度レクチャー出来るかと思いますが?」
「いや、興が冷める。敗北し死ぬならそこまでだ。こちらもフルパワーでいかせてもらうとしようではないか」
「じゃあ、派手に宣戦布告した方がいいわね。超長距離魔法で一撃じゃ、私たちの力を示すことも出来ないしね」
「そうだな。そのあたりは頼めるな、飛鳥?」
「お任せ下さい!」
初仕事に張り切る飛鳥の指示の元、宣戦布告の動画が作成されていく。
まるで映画を撮るように。
「はあー、魔法の力というのは凄まじいものですね」
飛鳥が何度目になるか分からない感嘆のため息を漏らす。
「どういうことだ?」
「このように自在に物質を生み出したり変換したりすることが可能だとは・・・」
「なあに? この世界の魔術師はそんなことも出来ないのかしら?」
「ルティアラ様。この世界の魔術師など、せいぜいが使い魔を使役したり、チンケな呪いを掛けたりする程度ですよ。このような錬金術めいたことなど不可能です」
「じゃあ、『科学』とやらではできないの?」
「不可能ですね」
「なんだ、大したことないのね」
肩をすくめる飛鳥とルティアラ。
「魔法が廃れていってしまっていることを考えていただければ分かるかと」
「そうだよなぁ。魔法の方が便利なら科学より魔法を使うよなぁ」
「範馬の言う通りね。ということは、私達の使う魔法はこの世界では凄まじい威力の可能性があるってことよね」
そういってルティアラがルインを見る。
「そういうことだな。そのあたりを見定めるためにも、今回の戦争は圧勝せねばならん。眷属の軍団を呼び出すことも視野に入れておこう」
「げ、モンスター呼ぶのかよ」
「視覚的にもその方がおどろおどろしくてよかろう。科学の武器とやらと魔界の生物、どちらが強いかもそれで分かる」
「うーん、ゴブリンとかオークみたいな亜人レベルなら近代兵器の方が強いぜ?」
「範馬が言うならそうなのだろうな。まぁ、そのあたりの境界になるようなヤツらを召喚すればよかろう。最悪【大罪】クラスの魔将を呼べばいい」
「うげー。そりゃ過剰戦力ってもんだぜ、ルイン」
飛鳥にはさっぱりな会話を繰り広げる三人。
「楽しみだ。我が前線に出る戦争など何十年ぶりだろうか」
「私だってそうよ」
「それもそうだな。【戦巫女】とまで呼ばれたお前の力、久しぶりに見せてもらおうか」
「物騒な会話だなぁ」
「何を言う、範馬。魔将と渡り合うその実力、期待しているぞ」
「ハードルあげんなよー」
何ともお気楽な三人であった。
だが、そんな様子を見ていると「どうにでもなるんじゃ・・・」と不思議と落ち着く自分に飛鳥は気づいたのだった。
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