第2話 和解?
第二話です。
お付き合い下さいませ。
<第二話>
いつの間にか、魔法陣の中で倒れ伏していたはずの男と女が立ち上がっていた。
美男美女ということばが相応しい二人。
かたや異世界の魔王。
かたや異世界の巫女姫。
「うわ、魔王と巫女姫様、いつの間に!」
「お目覚めかね。気分はどうかな。どこか具合の悪いところがあったら言ってくれ。善処しよう」
驚く範馬と対照的な飛鳥。
「別段不具合はなさそうだな。気にするな。して、ここはどこだ?」
「体のことはともかく、貴女が私を召喚したのですね!?」
「その通りだ。喜んでくれたまえ、実験は成功だ!」
「一つだけ聞くわ。帰れるの?」
誇らしげに胸を張る飛鳥に対して巫女姫はそう聞いた。
「元の世界に帰れるのか」と。
「今は無理だな」
「簡単に・・・っ!」
「ふはは。自業自得だな、女狐」
「なんですって!!」
憤りを露わにする巫女姫に対して、魔王が如何にも楽しそうな笑い声を浴びせる。
「貴様がこれまでどれだけの異世界人を道具にし、使い潰してきたか胸に手を当てて考えてみろ」
「くっ・・・」
「喚ぶことができるのだ。喚ばれることとて予想はできようが」
唇を噛む巫女姫を、侮蔑の笑みを浮かべて見る魔王。
実に楽しそうな、意地の悪い笑みである。
さすがは魔王といったところであろうか。
「待ってくれ。私は『今』は無理だといったのだ。私の理論が正しいことが証明されたのだから、研究を進めることで送り返すこともできるようになるだろう。安心してくれ。それは私の責任だ。努力はする」
平然とした様子の飛鳥を三人がそれぞれの表情で見つめる。
「我の国は、我一人が居なくとも十分に動く。そのようになっているからな。しばらく骨休めに旅に出たとでも思えばよい。貴様の国は違うだろうがな、女狐」
「女狐女狐うるさいわ、魔王!」
「事実だから仕方あるまい。巫女姫などと偉そうに?」
にらみ合う魔王と巫女姫。
二人の間に緊張と魔力が高まる。
「待て待て待て待て!!」
間に割って入る勇者。
この瞬間、勇者は間違いなく勇者であった。
「こんなところで魔力高めてんじゃねえよ。わざわざ異世界まで来てバトることねえだろ!」
「お前は黙っていろ、勇者」
「勇者は黙っていなさい!」
範馬は二人に浴びせられた言葉と視線にたじろぐ。
だが、そこで引かなかったのも勇者らしい。
「勇者勇者うるせえ! オレには鉄範馬って名前があるんだよ!」
「ちなみに私は小鳥遊飛鳥だ。あなたたちは魔王様と巫女姫様なのか。何とも大物を召喚してしまったものだな、私も」
あくまでマイペースの飛鳥。
「せっかくだ、魔王様に巫女姫様。自己紹介してもらえないだろうか?」
「何を・・・」
「飛鳥と言ったか。其方、なかなか面白いな。よかろう、我は魔王。魔の国トルキアを治める王である。名はルイン」
笑みを浮かべると、魔王はそう名乗った。
「アンタ、そんな気軽に・・・」
「この世界で我を知るものは貴様と勇者しか居らぬ。何も問題はあるまい?」
「そっか、魔王ってルインっていうんだな。名前で呼んでもいいか?」
「ははは! 構わぬ、構わぬとも勇者よ。我もお主のことは範馬と呼ぶが良いな?」
「勿論だぜ。異世界に呼ばれちゃった者同士、仲良くしてくれよ!」
そんなことでいいのか、魔王と勇者よ。
だが、魔王はこの状況を楽しんでいた。
魔王として「魔の国」に君臨してより数十年。
こんな楽しい出来事は久しぶりなのだから。
「なんで魔王と勇者が仲良くなって握手してんのよ!?」
巫女姫の言うことももっともである。
もっともではあるが、無意味でもあった。
「それで、巫女姫様は何というのですか?」
小首をかしげて飛鳥が尋ねる。
「私だけ空気読めてないみたいじゃない!?」
「うむ。読めていないな」
「そうだな。読めてないな、巫女姫様」
魔王と勇者は早くも意気投合したようだ。
意地の悪い笑みを浮かべて巫女姫を見ている。
「わ、私は神聖国アリーナの巫女姫ルティアラ・・・」
「おお、そういえばそんな名前であったな、女狐」
「女狐って言うな!!」
「ルイン殿にルティアラ殿だな。今すぐに帰してやれずに申し訳ない。研究が進むまでは申し訳ないが我慢して欲しい」
そういって飛鳥は頭を下げた。
「なに、別段急がねばならぬ理由もない。のんびりやってくれればよい」
「オレもだな~。なんかもうそこまで元の世界に執着もないっていうか」
「・・・それもそうね」
何かに気がついたように、そう巫女姫ルティアラが呟いた。
「終わりかけの国を立て直すために魔王を狙ってたのよ・・・。元の世界に帰らなければ立て直すなんて面倒事もないのよね!」
「ちょっとまて。聞いた話と違うじゃねえか!?」
「だまされていたことにようやく気がついたか、勇者よ?」
「ちょ。説明プリーズ!!」
しばらくの説明タイム。
面倒なので割愛。
「魔物に襲われてたいへーん・・・ってのは嘘か!」
「そうよ」
ルティアラが開き直った。
「資源を得るために他国に戦争を仕掛ける。どこの世界でも一緒なのですねえ」
「まぁ、争いの原因など突き詰めれば資源か復讐か正義かであろうからな」
飛鳥とルインがうんうんと頷いている。
「この世界にいる限り、私は巫女姫の責務から解放されるんだから、無理して帰らなくてもいいんじゃない、もしかして!?」
「もしかしなくてもそうだろ・・・」
「せっかくだ、異世界とやらも楽しんでみたいではないか」
「この世界にいる限り、私達の利害は一致しているはずよ。一時休戦といきませんこと、魔王様?」
セリフとは裏腹の、純真無垢そのものの笑みを浮かべてルティアラが提案する。
今まで自分が何をしてきたかなど完全無視。
何という厚顔無恥。
心臓に毛が生えているどころではない。
しかし、そうでなくては貴族やお偉いさんなど務まらない。
「構わぬ」
「いいのかよ!?」
「何を驚く、勇者よ。国のいざこざなどそういうものよ」
「その通り。腹では何を考えていようとも、それを表に出さないのが上に立つものの常識よ」
「オレは偉い人にはなれなくていいや・・・」
微妙な顔の範馬。
「ところで飛鳥よ」
「はい?」
「しばらくこの世界に厄介になるとしても、我らには何もかもが足らん」
「そうね。ここは異世界召喚の常として、この世界のことを教えてもらえるかしら?」
「そうだな、日本とはいえ、オレの知ってるのとは別な日本だ。オレも聞きたい」
「そうですね・・・。では、簡単にですがこの世界のことをレクチャーいたしましょう」
勉強会開始である。
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