第1話 召喚されし者
本編です。
本編十話目に打ち切り風味完結予定ですw
<第一話>
そこは白い部屋だった。
床も壁も天井も、照明の色さえ白い。
つるりとした何かでコーティングされているようだ。
床には、円や三角形、四角形など、様々な図形が組み合わされた模様が塗料によって書き込まれている。その模様の中にかき込まれた様々な文字や数式。
いわゆる魔法陣という奴だ。
その中央に倒れ伏す三人の人影。
一人は漆黒の衣装に身を包み、美しい銀髪を広げる美丈夫。
一人は白銀の鎧を身に付け、巨大なハンマーを持った若い黒髪の男。
一人は緋と白の巫女服に華奢な体を包んだ、長い金髪の美しい少女。
「やったわ・・・。私の理論は正しかったのよ!!」
ガラス越しにその魔法陣と人影を見つめながら震える声で白衣の女が呟いた。
白衣の女が立つその部屋は、無数の機械で埋め尽くされていた。
壁に埋め込まれた巨大なディスプレイはもとより、たくさんのコンピュータ。
箱形の何が何だか分からないもの。
明らかに剣と魔法のファンタジーな世界ではないようだ。
「科学と魔術の融合。魔技理論・・・。私は正しかった、証明された!!」
長い黒髪を振り乱し、壊れたように笑い続ける。
顔立ちが美しいだけに、より異様な雰囲気を生み出す哄笑。
「お伽噺だ、似非科学者だと私を嘲ったヤツらにこれで復讐できる!!」
そう言うと彼女は、ロックされていた隔壁を開け、白い部屋へと入っていく。
その手には銃のようなモノ。
というか、ぶっちゃけ光線銃である。
自衛の手段だろうか。
「さてさて。とはいえ、一気に三人も召喚できるとはさすがに予想外だったけど・・・」
女は部屋に入ると、慎重に召喚された三人を検分していく。
白衣から取り出した怪しい道具から光線が発せられると、光線を照射された三人の身体データが道具のディスプレイに表示される。
「ふむ。間違いなくこの世界の生命体ではないな。まさに異世界召喚!!」
興奮冷めやらぬといった感じの白衣の女。
しかし、何と美しいのだろう。
この銀髪の男と金髪の少女は。
黒髪の男だけは平凡だったが。
「というか、これは明らかに日本人じゃないのか?」
身体的特徴とデータもそれを裏付けている。
「うむ、分かった。この男は異世界に召喚されていた日本人だな。その被召喚者を再度召喚してしまったというわけだ」
彼女の優秀すぎる頭脳は、真実を一瞬で看破した。
ちょっと方向性は狂っているものの、頭脳そのものは間違いなく一級品なのである。
「どれ、とりあえず起こしてみようか。まずは日本人らしきこの男からだな」
銃の威力を最低の非殺傷モードに設定し、日本人らしき男に発射する。
「いってえええええっ!!」
叫んで男、鉄範馬は飛び起きた。
「いきなり何すんだよ・・・って」
「目が覚めたか、同胞よ」
飛び起きた範馬が目にしたのは、自分に向けて銃のようなものを構える美女だった。
「お前は誰だ!? そしてここはどこだ!?」
「私の名は、小鳥遊飛鳥。研究者だ。そしてここは日本・・・」
「やっぱりか! アンタ日本人なんだな! そしてここは日本!」
両手を高々と天に突き上げガッツポーズをする範馬。
「日本よ! オレは帰ってきた!!」
どこぞのアナベルさんのような台詞を吐く勇者である。
「こ、興奮しているところ悪いが、キミも名乗ってはもらえないだろうか?」
「あ、ああ、そうだな。悪い、嬉しくってつい興奮しちまって。オレの名前は鉄範馬。範馬って呼んでくれ」
若干引き気味の女に、そう言ってキラリと白い歯を見せて笑う範馬。
「笑うとそれなりに見られるな。高等学校生くらいか」
「おう、オレは高校二年の17歳だ。あ、あっちで1年以上経ってるからもう18か?」
「やはり召喚されていたのか。今回の召喚実験に巻き込まれて戻ってくるとは運のいい奴だな、君も」
「オレもそう思うぜ。ところで、今は西暦何年だ?」
「は?」
範馬の質問に、白衣の美女、小鳥遊飛鳥が怪訝そうな顔をする。
「いや、異世界とこっちの時の流れが違ったりとか良くある話だろ?」
怪訝そうな顔をする飛鳥に対して、笑いながら話しかける範馬。
何かがすれ違っている感覚。
「そこじゃあない。君は今『西暦』とか言ったね?」
「ああ、言ったけど?」
「それは一体、どこの国の年号なんだい?」
「は?」
わずかな沈黙。
飛鳥の言葉の意味が範馬に浸透するまでの短い時間。
「ちょっとまてよ、それって・・・」
「現在は皇紀2680年だ。西暦というのは皇国では使った記憶がないな」
「皇紀ってのは聞き覚えがあるぞ。歴史の授業で習ったような・・・。まて、ここは日本なんだよな?」
「ああ、そうだとも。天皇陛下の治める神の国だ」
「天皇陛下の治める?」
「そうだ。日本の統治者は、昔も今も万世一系天皇陛下以外はあり得ない」
範馬は愕然とした。
気づいたのだ、話の齟齬に。
この「日本」は、自分が生きていた「日本」とはおそらく違うのだということに。
「マジかよ・・・。日本は日本でもこの日本じゃないってのかよ」
「うむ。私も今気がついたぞ。君の言う『日本』と私の言う『日本』は別物なのだな。異世界召喚が現実にあるのだから、あるのだろうな、平行世界とやらも」
「ちっくしょう! 帰れてねえよ!!」
そう範馬が叫んだときだった。
「面白い話をしているな。我にも聞かせてもらおうか」
「当然私にもね」
若い男女の声がした。
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