序章に変わる三つの小篇 ~魔王の場合~
新作です。
もともと打ち切りっぽく完結させる予定で書きましたので、10話くらいで終わる予定です。
よろしくお付き合い下さい。
<序章に代わる三つの小篇 ~魔王の場合~ >
灰色の石造りの大広間。
天井や壁には魔法の篝火が焚かれ、揺らめく炎が大広間をくまなく照らしている。
その広間の一番奥。
玉座と呼ぶに相応しい一段高い場所に、彼は腰掛けていた。
「来たか・・・」
彼はそう呟くと閉じていた目を開ける。
白皙の美貌と長い銀髪。
全てを吸い込んでしまいそうな、深紅の瞳。
まさに人外の美である。
そのとき、広間の大扉がゴゴゴ・・・と重々しい音を立てて開いた。
そこから現れたのは、全身を白銀の鎧で覆った一人の戦士。
何を隠そう勇者である。
「魔王。今こそ決着の時だ!」
光り輝く戦槌を高々と掲げ、勇者は宣言する。
「ふむ・・・。お前で一体何人目の勇者だろうか。懲りない女狐だ」
「何を訳の分からないことを。いざ尋常に!」
人間とは思えない速度で、勇者が魔王に殴りかかる。
魔王は避けようともしない。
ゴッ!!!
鈍い音が広間に響く。
魔王が自らの左腕でもって、勇者の戦槌を受け止めたからだ。
だが、それだけだ。
「折れたか。最近の勇者の中では一番の戦果だな」
「何を・・・!?」
魔王が右腕を軽く振り抜く。
それだけで、勇者は床に這い蹲っていた。
「な、なにが・・・」
勇者が茫然と呟く。
「なに、命までは奪わぬ。帰ってあの女狐に伝えろ。自分で来いとな」
そう言うと、魔王はまたイスに腰掛ける。
折れた腕はいつの間にか治っているようだった。
「しかし、タチの悪い女狐め。頭を下げて懇願すれば我とて悪魔ではない。多少の便宜を図ってやりもしようものを・・・」
盛大にため息をついた所で、それは起こった。
「なんだ!?」
玉座を中心として謎の巨大積層魔法陣が展開される。
『召喚シークエンス開始。カウントダウン・・・』
強烈な眩い光が魔王を包み込んだかと思うと、そのまま消えてしまった。
後には空の玉座が残るのみ・・・。
お読みいただきありがとうございます。
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