世界との邂逅
「最初のペンギン?このタイミングってことは…」
先ほど自分が死んだことが関係しているのだろうと隆二は考えた。
確か中学生の頃、現代文の授業でそんなタイトルの文章を読んだ覚えがある。
内容は確か、ペンギンは一番を譲り合っているのではなく危険な役割を擦り付けあっている
転じて欧米では一番最初にリスクに挑むものは勇気あるものとして称えられる…だったか。
確かに最初に死ぬ事はリスクのある事ではあったが、勇気と言うよりは立場上の責任感からである。
「どちらにせよ・・・初めて仕事がゲームで役にたったな!」
隆二は彼にしては珍しい子供っぽい笑みを浮かべた。
これまでゲームをより長くやるために仕事を続けてきた彼が言っているのは
あくまでゲーム自体ではなくゲームの世界でということなのだろう。
「さてどんな効果なのかね…」
『最初の』とある以上、勇気が伴う何かを始めて行ったものに贈られるものだろう。
だとすれば唯一ではなくとも、希少なものである可能性は高い。
隆二はワクワクしながら、称号の効果を確かめた。
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≪最初のペンギン≫
パーティメンバーの状態異常時に発動。
「HP/生命力」の数値が1.5倍になる。常時ヘイト大。
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つまり現在の状態は多くの人が『恐慌』状態という事だろうか。
どうやら運営はくだらない洒落がお好きなようだ。
とはいえこの称号は使いどころが限定されているところ以外はかなりいい。
逆に言えばその欠点が全てとも言えるがないよりはいいはず――うん、違いない。
そうやって前向きに考えていると隆二はいきなり声を掛けられた。
「えっと・・・君はさっき猪に・・・その・・・狩られた人だよな?」
いきなり現れた青年は聞きづらそうに、失礼な事をいってきた。
赤みがかった茶色い髪。背は高く引き締まった体、頭上に表示されている
ノエルという名前から想像するにNPCの冒険者と言った所だろうか。
頭上に名称が出るのはNPCや敵キャラ――つまりこの世界の住人だけなのだ。
「あーうん。それで――」
「すまなかった!気づいて駆けつけた時にはもう…」
隆二はとりあえず何の目的で話しかけてきたのかを訊ねようとしたのだが、
彼の謝罪という形で出鼻を挫かれた。
すまなそうにこちらを見てくる顔は確かに白い部屋にいく前に見た人影のものだ。
「それで君はなんなんだ?」
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺の名前はノエル。この町で唯一の冒険者だ」
どんな目的かを訊ねた隆二の疑問に対し、彼は身分を訪ねられたと判断したようだ。
聞いてみるに『ラム』の周りには強いモンスターが出ないため稼ぐことができず
腕の聞く冒険者は外へと出て行ってしまう。
しかしそれでは町に何かあった時に困るために、この町で生まれた冒険者は
後輩の冒険者見習いの面倒をみて、そのうち誰かが冒険者になった時旅立てるきまりらしい。
考えられた設定だなと思うとともに、ようするに初心者プレイヤーのお助け役ってところか、
βではこんな所で死ぬ事はなかったために知らなかったのだろうと隆二は納得した。
「ところで…リュウはどうして防具も付けずあんなところにいたんだ?」
一通りの説明を終えたノエルが怪訝そうな顔で訪ねてきた。
「・・・・・・」
正直に答えてしまっていいのだろうか。
NPCの間でHP0がどういう扱いなのかが分からない以上はいいわけをするべきか。
そう考えているとノエルは魅力的な提案をしてきた。
「立ち話もなんだな・・・水でも飲まないか?すぐ近くに俺の止まっている宿があるんだ
リュウに聞く気があるんなら、冒険についてもレクチャーしてやれるし」
「…頼む」
「おう」
こうして隆二は初めてのNPCとの関わりで彼の泊まる宿へ行くこととなった。
内心驚いていたにも関わらず了承した理由が、喉が渇いていたからというのは内緒だ。