表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

物語の始まり


光が収まり隆二達が目を開くとそこは、一面の砂地そして石造りの観客席に

囲まれた場所。いわゆる闘技場というものだった。

光の柱とともに次々と転移してくる人々。

人々の反応は様々だ。

これからに思いをはせ、喜色を浮かべている人。

突然転移されたからか呆然とした様子の人。

デスゲームだと気づいている人はいないのか、絶望を顔に貼り付けた人は見えない。

転移が一通り終わったのか、光の柱は見えなくなった。

『インフィニット・デイ』の初期ロット販売数は5万本。

全員が集められたとして、まるで狭さを感じさせないこの場所が

どれだけの広さを有しているのか想像もつかない。

それにしても静か過ぎる、ゲーム開始直後とはこんなにも静かだっただろうか。

これはデスゲームだ。

そう断定している隆二からしても現状は異常だった。

話し声が聞こえてこないどころか、動いている人がいない。

かくいう隆二もエルの手を握ったまま動けず、声もでせていない。

原因は思考発声で開いたステータスをみて判明する。

『麻痺硬直』のステータス異常がかかっていた。

『麻痺硬直』は体の動きが制限される『麻痺』の上位に位置する状態異常で

完全に身動きがとれないかつ、声もだせない。

ソロでの戦闘中にかかると、死亡がほぼ決定する恐ろしい状態異常である。

周りの様子からして、ここにいる全員が『麻痺硬直』状態と考えていいだろう。

その証拠に困惑顔の人、顔色を悪くしている人が増えてきている。

しかし、身動きが取れないからといっていつまでも呆けているわけにもいかない。

隆二はエルに念話で呼びかけた。


『手、離せなくて悪いな。さらにデスゲームの可能性が増したわけだがどう動く?』


『あー…仕方ないですよ。これって麻痺硬直ですよね?

 集められた以上は何らかのアクションがあるでしょうし待ちでいいと思います』


『そうだな・・・』


彼女もしっかりと状況判断ができているようだ。

角度的に彼女の表情はうかがえないが、転移時に手を握っているのは悪手だった。

待ちという事になったが、この状況はなかなかに気まずい。

そんな気持ちを察してくれたかのように前方に巨大なモニターが表れ、

プレイヤーたちが拘束状態のまま開幕セレモニーが始まった。


「プレイヤーの諸君、ようこそ『インフィニット・デイ』の世界へ。

 それでは私の話を聞いて欲しい」


モニターのなかに現れ、説明を始めたのはこのゲームの開発主任である藤堂佐鳥だ。

数々の大作を作り上げてきた彼は、有名な人物だった。

隆二自身もこのゲームがデスゲームでなければ感動していたことだろう。

そんな彼の『聞いて欲しい』という言葉。

その直後、全プレイヤーがモニターの方を向いた。

その光景は実に不気味であったが、強制されなくても似たような結果になっていただろう。


「まず、諸君らの行動の自由を奪ってしまった事を謝罪しよう。

 これから私と後ろにいるカゴメとでこのゲームに関する説明及びチュートリアルを

 行っていくが、進行をスムーズに進めるに『麻痺硬直』をかけることを選択させてもらった。

 しばらくの間、我慢して欲しい。

 それではまずはカゴメにチュートリアルを行ってもらう」


確かに話だけを聞くと真っ当な選択であると思える。

VRゲームの開始セレモニーというのは、それだけで収拾がつかなくなる事も少なくない。

これから話される事の衝撃と、それに対する反応を考えれば

プレーヤー達の行動を制限するというのは妥当な判断だ。

カゴメと言われた女性は淡々とゲームに最低限必要な知識を説明している。

カゴメというのはNPCなのだろうか。

生身の人間としては明らかに表情が薄くと声に感情がでていない。

しかし、このゲームのNPCは転移前にみたショップ店員をみても分かるように

生身の人間に見えるほどに高いクオリティだった。

ショップ店員だけが特別と考える事もできるが、その可能性は低い。

人なのかNPCなのかは分からないが、カゴメには何か事情があるのだろう。

そんな隆二の思考をよそにチュートリアルは進行し、終わった。

β経験者の隆二は確認の意味で聞いていたがいくつか新たな仕様もあった。

再び藤堂とカゴメの位置が入れ替わり、彼が話し始める。


「それではここに集まってもらった理由を説明しよう。

 簡潔にいうと諸君にはこれから最大三年間このゲームをプレイしてもらう。

 体感時間を引き延ばす技術を採用しているので現実時間では最大1ヶ月だ。

 つまり私は諸君の時間を1ヶ月分奪うという事になる。

 私の目的のために巻き込むのだから、許して欲しいなどというつもりはない。

 このゲームによって人が死ぬことはないから殺人にはならんだろうが、

 監禁あたりの罪でどのみち私は捕まるだろうしな。

 しかし私の財をもって金銭的保証を、時間を引き伸ばす技術を貸し出し時間的保障

 はするつもりだ。日常には大きな支障はきたさないはずだ。

 私を恨んでも、どうかこの世界を恨まないで欲しい」


時間を引き延ばす技術というものが本当にあるのかは知らないが

彼の言っている事はおかしい。

おそらくこんな事をする以上は何か目的があるのだろう。

しかし、彼は自分は捕るだろうし、プレイヤーには保障をすると言っている。

これでは労働という形にしたほうがいいように思える。

閉じ込めることによって彼にいかなるメリットが発生するというのか。

自分を恨んでも、この世界を恨むことはしないで欲しいと言っていたが

まさか自らの作った世界を好きになってもらいたかったとでもいうつもりなのか。

数々の疑問が湧き上がったが、答えが出るわけでもない。

今、重要なのは与えられる情報を聞き逃さないことだろう。

隆二はそう考え、再び話しに耳を傾ける。


「最大3年間と言ったがその理由を説明しよう。

 まず、このゲームには一般的にいうログアウトコマンドというものは存在しない。

 君たちがこのゲームからログアウトする方法は3つだ」


クリア条件は3つ。彼はそう言った。

おそらく2つはゲームのクリアとタイムアップだろう。

最後の1つしだいでこのゲームの難易度は大きく変わる。


「1つめの条件は多くの人が分かっているだろうが、エンディングを迎える事だ。

 エンディングを迎えるには最終フロアのボスを倒す必要がある。

 2つめの条件は、ゲーム時間で3年が経過することだ。

 この場合にはバッドエンドを迎え、この世界は滅び諸君は現実に戻る。

 3つめの条件は少し特殊なものになっている。

 条件はゲーム内通貨である『G』を10000000G集め、脱出の権利を買うこと。

 この場合には、権利をもった人物のみログアウトできる。

 10000000Gというのはおおよそ攻略に参加しているプレイヤーが3年間かけて

 得ることのできる金額であるため、

 第3条件によって全プレイヤーがログアウトすることは不可能だろう」


どうやら条件3で脱出することは無理そうだ。

おそらくこれがデスゲームでないとしても、いくらかのプレイヤーは攻略に参加しないだろうし

デスペナルティの内容次第では諦めるものが増えていくことは想像に難くない。

だいたい攻略するために資金が必要な攻略組でないと手に入らないというのは、

矛盾しており、自力での脱出は不可能――何らかの集団が金を集めて個人を脱出させるのがせいぜいだろう。

もっとも脱出のメリットもほとんどなさそうだが。


「私からの説明は以上となる、質問があれば受け付けたい所だが全てに答える。

 というわけにもいかない。これからプレイヤーをもとめてもらう立場になるんだ。

 代表して警察の方に聞いてもらう事としよう。

 情報通信局サイバー犯罪管理課実行班班長の石田隆二君だったかな?

 君には『麻痺硬直』は解除し『拡声』を付与した。有意義な質問に期待する」


これまで藤堂が映っていたモニターは隆二を映している。

まさか、こうなるとは思っていなかった隆二だったが

確かに聞きたいことならいくらでもある、素直に使わせてもらおう。


「質問の数はいくつまでだ?」


「ほう。本来は3つで打ち切るつもりだったがしっかり確認してくるとはね。

 この質問は含めずに5つまで受け付けよう」


「分かった。では一つめだ。本当に人は死なないのか?」


おそらく最も多くの人が期待した質問。

人間としても警察としての立場としてもこれだけは聞いておかなければならない。


「このゲームが原因で人が死ぬことはない。

 当然1ヵ月もの間、栄養を補給しなければ死ぬことはありえるが

 すでにプレーヤーのリスト及び保護にかかる費用が警察に送られている。

 また無理やり機器を外した場合には意識が戻らなくなるが、

 これも通達済みかつクリア後ならば戻すことができる。

 そもそも私の目的に現実世界での死は必要ではないからな」


「・・・では2つめ。あんたの目的はなんだ?」


「明確にすることで、失敗になる事が考えられるので明言はできない。

 しかし私の目的は君たちをこの世界に招けた時点でほぼ達成している。

 だから必要以上に干渉するつもりはないし、君たちで達成しきれなければ

 私の目的は始めから夢物語だったということだ。

 失敗したからと言って君たちが不利益を被る事はないから安心して欲しい」


「3つめだ。さっき現実世界での死は必要ないといったな。

 ゲーム内の死はあるんだろう。このゲームにおけるデスペナルティはなんだ?」


「いい質問だ。確かにこの世界での死は存在する。

 つまりNPCの死亡がありプレイヤーの死亡がある。

 HPが0になれば死亡し、プレーヤーはこの世界で得たものの全てを失う。

 ゲームと現実の死がリンクしていないといっても、このゲームのデスペナルティは

 とても軽いと言えるものではない。

 詳細は死ぬことでしか確認できないがなるべく死なないことを推奨する。」


デスペナルティはかなり重いらしい。

この世界で得た全てというのがよくわからないが、考えられるところでは

レベル及び経験値・装備品・アイテム・スキル・通貨といったところだろうか。

全てというからには記憶や経験という可能性もあるが、さすがにないだろう。


「4つめ。セレモニー終了後にあんたに質問することは可能か?」


「いつでも対応するということは不可能だが、

 質問及び仕様変更の申し立てを受け付ける日を作る事は可能だ。

 その場合個人からのものは受け付けずギルド及び君たち警察からになるがね」


「分かった。一週間に一度。質問を受け付ける日を設けるでいいんだな?

 それと仕様変更の申し立てというのはどういうことだ」


「構わない。日程は水曜日としよう。

 仕様変更についてだが君たちが不自由しないようには作っているつもりだが

 不満は少なからず出ることだろう。

 仕様変更で改善が見込めると判断すればその都度変更をするつもりでいる。

 なおバランスの調整はあっても、ゲーム自体の難度を変えることはない。

 基本的に変更する部分というのは生活に関することだけだ」


聞かなければいけなかったことは一通り聞いた。

ゲームに関することはチュートリアルで話されているし

詳細については後からでも問題ないだろう。


「分かった。それなら今無理やり質問をねじ込む必要もない。

 開発者から攻略へのアドバイスでも聞いておこうか」


「一番有効なのは、NPCを人と思い、戦力として認識する事だ。

 基本的なことに関しては他のゲームとさほど変わる所はないだろう。

 それとこれはアドバイスではなく、私の願いだが

 少しでもこの世界で生きようと思えるならば、この世界を感じこの世界で生きて欲しい。

 待っていても現実に戻ることはできるが、生きることで得られるものが絶対にある」


「抽象的過ぎる気がするな…最後に質問でなく周りに支持を出したいんだがいいか?」


「問題ない。彼の発言終了後ゲームを開始する」


異常事態で人をまとめるためには安心と信頼が必要だ。

死なないとはいえデスペナルティがはっきりしていなければ安心できない。

誰よりも早く確認し、伝える事で信頼を得る必要があるだろう。


「情報通信局サイバー犯罪管理課実行班班長の石田隆二だ。

 巻き込まれてしまった以上今できることをやるしかない。

 治安を守り、できる限り早いクリアをしていくために、

 努力するつもりでいる協力して欲しい。

 これから俺はデスペナルティの詳細を確認しにいく。

 検証が終わり次第、仲間を通じて伝えるのでこれから30分は動かないでほしい」


一通りの説明を終えた隆二は闘技場を出てマップを確認しながら、

モンスターの出現するフィールドエリアへと向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ