罠とメール
いかにスキルが使え、装備で補えるといっても基本的に身一つを資本に生きる世界。
そんな世界でステータスを軒並み上昇させることのできるレベルアップは
RPGをプレイするものにとっての最優先課題である。
すわなちRPGをプレイするものにとってレベルとは資本であり、
費やした時間を示す一種のステータスであり、すべてだった。
これまでの経験、知識を最大限に用いて『インフィニット・デイ』をプレイしていた
隆二はめきめきとレベルを上げ、全プレーヤで最も早くlv10に達した。
そしてlv10で発生したオーダークエスト『未開地の罠』を受けた。
ここでこのゲームにおけるクエストというものについて説明しておこうと思う。
『インフィニット・デイ』には大きく分けて3つのクエストがある。
1.ノーマルクエスト
常時受けることのできるクエストで、種類は討伐・採取・護衛など多岐にわたる。
難度や報酬もクエストによってまちまちである。
2.ストーリークエスト。
誰か1人がクリアすれば、それ以降は受注できず報酬が豪華であるため、
上位プレーヤーの間でクエストの取り合いないし取引が頻繁に起こる。
主な内容はこのゲームにおける人類居住区外への進出及びボスの討伐である。
3.オーダークエスト。
発生条件は一定のレベルに達する、NPCとの親密度が一定以上になるの2つである。
このゲームの特色のひとつでありNPCのAIがクエストを作成するため
基本的に一切の縛りがない。NPCとの共闘などもある。
内容は未開地の探索を依頼主であるNPC冒険者の2人とともに行うというもの。
あからさまに怪しいクエスト名だったが、何が起きても対処できる自信があったし
なにより豪華な報酬につられ迷うことなくに第二の町『リキュール』を出発した。
しかしその自信は未開地に入りものの数分で瓦解した。
というか後方からいきなり槍を刺され隆二の体が崩れ落ちた。
槍の出てきた方を見てみれば、冒険者の1人が険しい顔をして槍を突き出している。
思わず出た言葉は驚きでもなく、怒りでもなく
「どこで選択肢間違えたんだ・・・・・・」
などというなんとも場違いな台詞と苦笑だった。
数瞬の間、そしてなんとも言えない浮遊感とともに隆二は
人生2度目の強制転移を受けることとなった。
隆二は縋る思いで何よりも先にステータスを開く。
「はぁ・・・」
ついで諦めながらも確認の意味でアイテムBOXを開く。
「・・・終わんないだろこれ・・・てかなんでいきなりNPCに刺されるんだっ!!」
まず本音をポツリ、そして時間差でやってきた苛立ちを言葉に乗せて吐き捨てる。
彼の見たものは見事なまでの初期装備・初期ステータスである。
声を発した事でいくらか落ち着きを取り戻した隆二からは呟きが零れる
「にしてもNPCからいきなり刺されるってのはどういう事だ…?
親密度ってものがある以上、マイナス感情を向けられることも
あるだろうが…積極的にNPCに関わってきたわけじゃないし...」
端からみれば怪しい人物だが、隆二にとっては深刻な問題だった。
もし理由もなく殺されるイベントが発生するようなら
まともにゲームを進めることができるかどうかわかったもんじゃない。
『ポフン』
しかし少し間抜けな音を立てて届いたそれにより、隆二の懸念は杞憂に終わる。
「ん、メールか?コール『メッセージ』」
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Sub:死亡について
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死因:NPCの攻撃によるHP切れ
忠告:この世界のNPCは現実世界の住人と同程度、もしくはそれ以上に
繊細な心をそれぞれが持っています。
知り合いでもなんでもないぽっと出のルーキーに手柄を
根こそぎ持っていかれた冒険者がいたとします。
恨みを買って復讐に殺されるのも当然の結果と言えます。
もしかしてこんなことも分からなかったでしょうか?
自分は何もしていないから大丈夫だと思っていた人が
いたとしたら知性を疑います。 何もしないことは罪だと知りなさい馬鹿め。
NPCとの交流は大切に!
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「なんだこれ...運営うざ!最後の一文だけでいいじゃん!
普通にゲームしてたらクレーマー殺到してるよこれ!?」
転移先は始まりの町『ラム』、悪夢もここから始まった。