石田隆二
ざくっ。そんな音をたてて男の体に槍が突き刺さる。
普通なら慌てる、取り乱すそんな反応が相応しいであろう場面で男が発したのは
「どこで選択肢間違えたんだ……」
という場違いな台詞。そして苦々しい表情だった。
ここで男についての説明をしておこう。
刺された男の名前は、石田隆二。21歳独身である。
職業はサイバー犯罪特別対処班に属する警察官であるが、
彼本人に尋ねれば自信満々にこう答えるだろう。
「俺はプロゲーマーだ」
十数年前ならゲーム好きのひきニートですね、わかります。
と言われていただろうが2032年現在においてはまかり通る。
なぜか?
それはVRMMOというものが普及した事に他ならない。
従来のゲームでのプレイヤーの立ち位置はキャラクターを操作することだった。
一方のVRゲームでは立ち位置はゲーム内で一人の人物を演じるといった所だろうか。
初期こそ視覚のみだったのだが、現在では五感を現実さながらに感じられることから
第二の人生をここに。などを謳ったものも売られている。
本来娯楽として生まれたゲームが極楽を謳うようになったのだから世も末だろう。
閑話休題。
リアルを追求したゲーム世界ではある問題が発生した。
所謂サイバー犯罪である。
最もサイバーとは名ばかりで現実さながらの世界で起こる犯罪は現実じみていたが...
それを予防・阻止すべく作られたのがサイバー犯罪特別対処班である。
結成当初政府から批判的な意見で溢れていた。
たかがゲームになぜ監視をつけ、金を払わねばならんのか…と。
真っ当な意見だったため人員は最小限、予算も雀の涙だったがある日を境に一変する。
世界初のVRMMO「ハンドレットナイツ」で起こったデスゲーム。
100日間の間に出た死者は582人。総被害額600億円。
碌な対策もしなかった政府が叩かれたことは言うまでもない。
しかしVRMMOが被害額を補って余るほどの経済効果を持つ以上、
禁止されるわけもなく特別班にはデスゲーム前の15倍の人員。
30倍の予算が割り当てられ名称も情報通信局サイバー犯罪管理課と変わった。
内部組織は統制・管理・実行の三つで構成されており、隆二は実行班の一人だ。
実行班は警察組織の中の変り種である。
警察の内部組織にも関わらず公務員扱いでなく、給料は最低賃金であった。
それでも倍率は高い。
なぜなら新作VRMMO及びそのβ版の優先プレイ権が与えられるからだ。
生粋のゲーマーからすれば基本的に抽選で行われるβテスト、
人気ゲームを確実にプレイでき、金までもらえるのだからまさに天職であった。
仕事内容は平時には、管理班で対処できない犯罪者の排除。
異常事態ではプレイヤーの統率・保護である。
期間は基本的にゲーム開始からβテストで3日。製品版が5日間。
これは過去2回のデスゲームと引き起こした加害者の供述をもとにしたもので
以降の犯罪は基本的にモニターの外から監視している管理班に引き継がれる。
では冒頭の話に戻ろう。
それは「次元の違うリアリティ ~とある世界のNPC事情~」という触れ込みとともに
発売された「インフィニティ・デイ」の世界に隆二が潜りちょうど1週間目を迎えた日の事だった。