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第一話 侍女の葛藤と目覚め

現在、部屋の外の扉に張り付いて監視しているものが約2名。

「なぜユーファ様が、不審者男をかいがいしく世話しなければいけないのですか」

「ご自分からやるとおっしゃたからですね」

通称・不審者男がこのクロズリー家の別荘であるオリヴァー城に運ばれてきて3日ほど経った。

ユーファは宣言通りに、毎日男の世話を熱心にしていた。

包帯を取り替えたり、汗を拭いてあげたり、額の布がぬるくなってきたら氷水で冷やしたり・・・と、リゼットが発狂してしまうほどのかいがいしさだった。

心配でたまらない彼女は、こうやって毎日ドアの隙間からこっそり覗き見(というかストーカー)をしていた。

すると、たまたま通りがかったレナードも参加して今に至るというわけだ。

「私の単なる憶測ですが、お嬢様はあの不審者男に惚れてしまわれたのではないかと」

「はぁっ!?何を言ってるんですかこの陰険鬼畜変態メガネ男は!」

「陰険鬼畜変態は余計です。・・・あの不審者男、男の私から見てもかなりの美形でした。それを見て、惚れてしまったんでしょう」

「ユーファ様はそんなに惚れっぽい方ではありませんし、そこまで美形でもなかったです!」

「あなたの目がおかしいのですよ。お嬢様以外の人はくすんで見えているんです、きっと」

あきれたような視線を投げかけると、今にも誰かを呪い殺しそうな目で睨み返してきた。

「とにかく、ユーファ様はあんな男に惚れてなんていません。お優しい方なので、放っておけないだけなんですよ!」

「それが5割、後の5割は確実に恋によるものです」

どこからそんな自信がでてくるのか全く分からないが、そんなあっさりとしたレナードの言葉を聞いたリゼットは、この世の終わりかのように絶望した様子でぶつぶつつぶやき始めた。

「私のユーファ様が、私の、私のユーファ様が!!あの不審者男、害虫、害虫、害虫っ」

床に膝と手をつき、呪文のように言葉を紡ぐリゼットをレナードはため息をついて、撤退させた。

そんな事があっているとは露知らず、ユーファは窓を開けて空気の入れ替えをしていた。

春のちょっぴり冷たい風が頬をなでる。気持ち良さについウトウトしかけてしまうのを我慢し、男にそっと問いかける。

「もう死んでもいいなんて言わないでね・・・」

ユーファにとって『死』というのは、恐怖の対象である。

5歳の時にある事件で母を目の前で殺されたユーファは、もう2度と自分の前で誰かが亡くなるのは嫌なのだ。

だからあの時、男が「死んでもかまわない」と言ったときはついカッとなって手をあげてしまった。

―――痛かっただろうか。

男の頭を優しくなでる。

「ごめんね」



◆ ◆ ◆ ◆



重たい瞼をゆっくり開けると、そこには真っ白な天井が見えた。

―――助かったのか。

脳内は曖昧な記憶で混乱している。それ故に、なぜ自分がこんな所にいるのか理解するのに少し時間がかかった。

―――確か、人を呼んでいるとか何とか言っていたな・・・。

パッと目を開けた時には自分は重症で、傍には1人の少女が心配そうにこちらを覗きこんでいた。

軽いウェーブがかかったキャラメル色の髪に、瞳は吸い込まれそうなほどの綺麗なアクアマリンの色。

そしてくりんとした大きい目が特徴の可愛らしい少女だった。

最初は天使かと思ったぐらいである。

とりあえず起きようと思って体を起こすと、胸のあたりがずきんと痛んだ。

そしてそろっと辺りを見回すと、そこで初めてベットの横に誰かがいるのに気付いた。

―――こいつは、さっきの女・・・。

看病してくれていたのだろうか、彼女の横には水桶が置いてあった。

それにしても、見知らぬ男がいつ部屋でよくもこんなにすやすやと眠れるものだ。彼女に危機感というものはないらしい。

何秒か彼女を凝視していると、うぅーんという声を上げそろそろと顔をあげた。

見つめ合うこと5秒間。

「目が覚められたんですね!良かったですわ、本当に」

嬉しそうに彼女がほほ笑む。そして思いついたように言う。

「あっ、そうだった。不審者さんの名前を教えていただけませんか?名前が分からないと呼びづらいんです。あと、敬語じゃなくてもよろしいですか?話しにくいので」

「・・・・」

「駄目ですか・・・?」

「敬語じゃなくていい。俺の名前は―――ラファエルだ。呼び捨てで構わない」

「ラファエル、ラファエルって言うのね!これで不審者さん卒業だわ。リゼやレナードにも言っておかないと」

そしてそのまま部屋をでていこうとしたユーファをラファエルが呼び止める。

「まて、少し聞きたいことがある。ここはどこだ?」

そういえば何の説明もしてなかった、とユーファは部屋をでるのをやめ、ベットの横の長椅子に腰かける。

「ここはクロズリー家の別荘のお城よ。オリヴァー城って言うのだけれど、たぶん知らないと思う。場所は、首都フェリックスからかなり離れたウェールズっていう町なんだけれど・・・」

「ウェールズか・・・」

その後、ラファエルは何か考え込んでいるようにしんと黙ってしまった。

ユーファは話しかけずらさと、説明ならレナードに任せた方がいいかもしれないという考えからこっそり部屋を出ていくことにした。

―――結局この人、何者なのかしら・・・?

疑問を残しつつ、部屋を後にした。

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