プロローグ 不審者発見
2011.12.19 加筆・修正しました。
「うーん、今日もとってもいい天気」
「そうですねぇ、ユーファ様。ほんっとに、こういうのを平和って言うんですよねぇ・・・」
ぽかぽかとしたお日様の下、クロズリー家の娘――ユーファミアとその侍女――リゼットは城の近くの森までのんびり散歩していた。
―――手には大量のエサがつまったバスケットを下げて。
「今日はどこら辺にしますか?ウサギゾーン、キツネゾーン、小鳥ゾーン・・・どれも捨てがたいです」
「うーん、今日はなんだかキツネさんたちが気になるからキツネゾーンにするわ」
「気になる・・・ですか?」
腰に下げた刀をゆらゆら揺らしながら、ユーファに問いかける。
「実は森に近づくにつれて感じたんだけど、いつもより騒がしいの。何かあったのかしら・・・」
そう言いながら歩調を速め、キツネゾーンなるところへ行く。
今日はめずらしくここにすんでいるだろうほとんどのキツネが一角に集まっており、くうーんという鳴き声を発している。
ユーファとリゼットはその一角の中にある騒がしさの原因を見て、瞬時に固まった。
―――そして一言。
「全然平和なんかじゃなかったですね、ユーファ様」
◆ ◆ ◆ ◆
キツネに囲まれているのは、1人の男だった。
少年はいたるところから血を流し、ぐったりとして倒れていた。
「なんでこんなところに人がいるの・・・?しかもひどいケガ・・・」
ようやく我を取り戻したユーファはそう言って、そおっと男に近づく。
と同時に、なぜかリゼットは刀を鞘から出し少年の心臓にぐっとつきつけ足を踏みつける。
「ちょ、ちょっとリゼ!何してるの!」
「ユーファ様、こいつはとてつもなく怪しい不審者です。ここで仕留めとかないと後々面倒なことになると、私の第六感が告げています」
淡々とそう言って、本当にやってしまいそうな雰囲気をだし始めたリゼットをあわあわしながら止める。
「だめよ!!確かに不審者だけれど、この人はケガをしてるし・・・早く手当てしないと命にかかわるかもしれないわ」
ねっお願い、と瞳を潤ませるとリゼットは素早く刀を鞘におさめた。
「まずは人を呼びましょう。私1人ではさすがに持てません」
ころっと変わったリゼットの態度にユーファはおかしくて顔を緩める。
彼女は主人にとても忠実である。それなので、ユーファがお願いと頼むと折れてしまうのが日常。
納得してくれたので自分はその場に残り、足の速いリゼットに城まで人を呼んできてもらうよう頼んだ。
もちろん最初は「こんな不審者と2人っきりにさせられません!」とか「こいつやっぱり怪しいです」とか「とどめを・・・」とか言っていたが、「さっき私が言ったこと、忘れてないよね?」と最上級の笑みを向けると、猛スピードで去って行った。
「リゼってば本当に可愛いんだから」
リゼットが相手だとついつい遊んでしまうのは、幼い頃からずっと一緒にいるからだ。
「今のうちに何かできることはないかしら・・・」
恐る恐る近付き、ケガの具合を見る。
「―――本当にひどいケガ。こんなこと、誰がしたのかしら。あっ、顔にも傷が・・・」
頬にあるひどいかすり傷を見て、これは何日かは痕が残るだろうと思った。
それにしても・・・恐くてあまり顔を見ていなかったが、とても綺麗な顔立ちをしている。
さらさらの金髪がユーファの中の『王子様』を連想させる。
思わずぐいっと顔を近付けていたユーファはその美しさに圧倒されていた。
「うっ・・・・」
突然、男の口から悲痛な声が漏れる。苦しそうに喘ぐ男を見て、ユーファはぎゅっと手を握る。
「大丈夫ですかっ!?今、人を呼んでいるのでもう少し待ってて下さい」
「よ、ぶな・・・。だいじょうぶだから、だれも、よばなくてい、い」
とぎれとぎれに聞こえる声は『大丈夫』と言えるものではない。
しかしその男の表情は痛がってもいない、悲しんでもいない―――無表情だった。
「駄目ですよ!そんな体のままじゃ死んでしまいます!」
「べつに、死んでも・・・かまわ、ない」
男がぽつりとそう漏らす。生きることを、あきらめたかのように。
―――バシッ。
ユーファはその言葉を聞いた途端、握っている手とは反対の手で男の頭を思いっきり叩いていた。
「何言ってるんですかっ!簡単にそんなこと言わないでください!あなたはまだ生きられるんです、まだまだ若いんですから生きられるんです。傷だって何日かすれば癒えます。それなのになぜ死にたいとか言うんですか!」
すさまじい剣幕でまくりたて男を叱ると、彼の無機質な瞳がゆらゆら動いた。
その瞳は、なぜそんな事を言うのか分からない、と言っているようにも見える。
「あなたに何があったのか私には全然さっぱり分かりません。嫌な事があって生きたくない、と思ったのかもしれません。」
ユーファは握っていた手をさらにぎゅっと握りしめる。
「けれど・・・命とは簡単に失われていいものではないと思います。あなたが生きていることにもきっと意味があります―――私たちがこうして出会ったことにも。だから生きて下さい」
すると彼は驚いたように目を見開き、そしてわずかな力でユーファの手を握り返した。
その後、力尽きたのか静かに瞳を閉じた。
「ユーファ様ーー、とりあえずレナードを連れてきました。荷台を持ってきたので、これにのせて運びましょう」
「お疲れ様、リゼ。レナードもありがとう。急いで運びましょう」
「はい!ユーファ様」
「かしこまりました、お嬢様」
リゼットが元気よく手を挙げ、レナードがきっちり頭を下げる。
◆ ◆ ◆ ◆
「胸に弾丸が残っていましたが、摘出しました。その他のすり傷は、弾丸がかすったのでしょう。まぁ、色々心配ごとはありますが、とりあえず命に別状はありません」
「よかったわ、これで一安心ね」
体中を包帯でぐるぐる巻きにされた男はベットの上で静かに息をしている。それを見てユーファはほっと息をつく。
すると、顔をしかめたリゼットがぼそっと愚痴をもらす。
「一安心じゃありませんよ。こんな不審者男、早く追い出しましょうよ。もし突然目を覚ましてユーファ様を襲ったりしたらどうするんですか」
「考えすぎよ、リゼ」
「いいえ!ユーファ様は天然で鈍感なところが多々あるので心配なんです!」
「確かにお嬢様は天然で鈍感な所もありますが、思ったことは割とはっきり言ったりして頼もしい方だと私は思いますね」
なんだかけなされているような気がしたが、今は放っておく。
「ケガしてるんだし・・・あと1週間ぐらいは保護しておきましょう。ねぇ、レナード」
「そうですね。こんな馬鹿女の言うことは無視しましょう。医者として怪我人を放りだすような真似はできません」
この城の執事で医療に最も長けたお医者様であるレナードは、リゼットを見下ろし眼鏡をくいっと押し上げる。
「陰険鬼畜変態メガネ男は黙ってて下さい!私は要するに、ユーファ様のそばにこの不審者がいることが気に食わないんです!」
相変わらずユーファ命!!なリゼットだった。
「リゼット、その辺にしておきましょう。ケガ人がいるのよ」
ぽんぽん、とリゼットの頭をなでる。すると、一瞬気持ちよさそうにし、ハッと表情を引き締めると、しぶしぶと言ったように引き下がった。
「この人の事は、私たち3人の秘密にしておきましょう。無駄に騒ぎ立てるのはよくないと思うの。そしてもう1つ」
2人に向き直り、静かに告げる。
「この人のお世話は私がするわ」
その後、リゼットに大反対をされたのは言うまでもない。