表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最悪な再会のはずが、氷のプリンスな彼に胃袋も心も掴まれました~ライバルなのに、二人きりだと激甘なんです~  作者: 水凪しおん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/21

第八章:雨の夜の共闘

 疑心暗鬼は、チームの空気を最悪のものに変えていた。誰もが口を閉ざし、互いを探るような視線を交わしている。このままでは、チームは内部から崩壊してしまう。

「――私、一人で行ってきます」

 重苦しい会議の席で、詩織はきっぱりと宣言した。

「情報漏洩の犯人探しなんて、今は意味がない。それよりも、私たちがやるべきことは一つ。週末、山梨の生産者さんに直接会って、月光草の独占契約を取り付けること。それしか、私たちが逆転する道はありません」

 詩織の決意に満ちた言葉に、ハッとしたように顔を上げるメンバーたち。そうだ、下を向いている暇はないのだ。

 週末、詩織はレンタカーを借り、一人で山梨の山奥にあるという『高坂農園』へと向かった。都心を抜けると、天気はどんどん下り坂になっていく。カーナビが示す道は、次第に険しい山道へと入っていった。

 そして、ついにラジオが「大雨警報」を告げ始めた頃、ワイパーが役に立たないほどの豪雨が、フロントガラスを叩きつけ始めた。視界はほぼゼロに近い。細い山道で、これ以上進むのは危険だ。そう判断した詩織が、安全な場所に車を停めようとした、その時だった。

 ガガガッ、という不気味な音と共に、目の前の道が、突如として土砂に飲み込まれていった。

「――っ!?」

 急ブレーキを踏み、ハンドルを切る。車はスピンし、ガードレールに軽く接触して、ようやく止まった。心臓が口から飛び出しそうだった。目の前では、土砂崩れによって道が完全に寸断されている。後ろを振り返っても、来た道はすでに川のように濁流が溢れていた。

 完全に、立ち往生してしまった。

 携帯電話を取り出すが、表示は『圏外』。助けを呼ぶこともできない。どうしよう。絶望的な状況に、詩織は呆然とするしかなかった。雨はますます勢いを増し、車体を激しく打ちつける。

 このまま、ここで夜を明かすしかないのだろうか。不安と寒さで、体が震え始めたその時。

 ――ブォン、というエンジン音と、ヘッドライトの光が、土砂降りの雨の向こうから近づいてくるのが見えた。

 こんな状況で、誰か来るなんて。まさか、救助隊? 淡い期待を抱いて光の先を見つめる詩織の目に、信じられない光景が飛び込んできた。

 ぬかるんだ道に乗り捨てられたその車は、見覚えのある高級な外国車だった。そして、そこから降りてきた人影は。

「……橘、蓮…!?」

 びしょ濡れになりながら詩織の車の窓を叩いたのは、スーツを泥だらけにした、橘蓮その人だった。

「おい、無事か!?」

 窓を開けると、怒鳴るような彼の声が飛び込んでくる。

「な、なんであなたがここに…!?」

「そんなことはどうでもいい! このままだと、こっちの道も危ない。近くに生産者の家があるはずだ。そこまで走るぞ!」

 蓮は、有無を言わさぬ口調でそう言うと、詩織の車のドアを無理やり開けた。もはや、ライバルだとか、情報漏洩の犯人だとか、そんなことを言っている場合ではない。この危機を乗り越えることが最優先だ。

 詩織は頷くと、車を飛び出し、蓮の後に続いた。雨と風が容赦なく体力を奪っていく。足元はぬかるんで、まともに走ることすらできない。

「こっちだ!」

 蓮は、詩織の手を強く掴んだ。その手は、驚くほど温かかった。

 罵り合いながらも、お互いを支え、励ましながら、二人は暗い山道を進んでいく。しばらく行くと、闇の中にぽつりと、小さな明かりが見えた。高坂農園だ。

 二人は最後の力を振り絞り、その明かりに向かって走った。農園の家の扉を開けてくれたのは、人の良さそうな老夫婦だった。

「おお、こりゃ大変じゃったのう。まあ、中に入りなさい」

 温かい部屋に通され、熱いお茶を出してもらった時、二人は同時に、全身の力が抜けてその場にへたり込んでしまった。

「……なんで、あなたまでここに?」

 少し落ち着きを取り戻した詩織が尋ねると、蓮は気まずそうに顔をそむけた。

「……俺も、独自に月光草の存在にたどり着いた。あんたたちの情報じゃない。昔、祖父の書斎で読んだ古い文献に、記述があったんだ」

 彼の言葉は、嘘をついているようには聞こえなかった。

「交渉に来たってわけ? こんな土砂降りの日に?」

「あんたこそ、無謀すぎるだろう。一人でこんな山奥まで来るとは」

「あなたには関係ない!」

「関係なくない! もし何かあったらどうするつもりだったんだ!」

 思わず声を荒らげる蓮に、詩織は驚いて彼を見た。その瞳には、いつもの冷徹さではなく、本気の怒りと…そして、心配の色が浮かんでいた。

 ライバルとして、罵り合いながらも、今、この瞬間、二人は確かに”共闘”していた。この絶望的な状況の中で、互いの存在だけが、唯一の頼りだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ