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最悪な再会のはずが、氷のプリンスな彼に胃袋も心も掴まれました~ライバルなのに、二人きりだと激甘なんです~  作者: 水凪しおん


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第十七章:最終プレゼン、交差する言葉

 最終プレゼン当日。会場となったネクスト・マート本社の大会議室は、異様な熱気と緊張感に満ちていた。両社の役員、プロジェクトメンバー、そして招かれた業界関係者やプレスまでが、固唾を飲んで戦いの行方を見守っている。

 噂は、すでに業界中に広まっていた。フロンティアとエンパイアの担当者同士のスキャンダル。そして、両社のプロジェクトが、その影響で大きく揺れていること。今日のプレゼンは、単なる商品の優劣を決めるだけでなく、二つの会社の、そして二人の担当者の未来を占う場でもあった。

 先にプレゼンを行うのは、フロンティア・ビバレッジ。

 壇上に立ったのは、主担当に復帰した先輩社員だった。しかし、プレゼンの中心となるコンセプトを語るパートで、彼は一歩下がり、マイクを詩織に手渡した。

「この商品の魂を語れるのは、彼女しかいません」

 ざわめく会場の中、詩織は静かに一礼し、マイクの前に立った。目の前には、審査員席に座るネクスト・マートの役員たち。そして、その少し後ろの席に、蓮が座っているのが見えた。目が合ったが、彼はすぐに視線を逸らした。その表情は、読み取れない。

 もう、迷わない。詩織は、深く息を吸い込んだ。

「私が、この『月光草のクラフトティー・結』に込めた想い。それは、”誰かを想う心”です」

 詩織の言葉は、静かだったが、不思議なほどの力強さを持っていた。

「私たちは、日々、たくさんの情報の中で生きています。効率が重視され、人との繋がりが希薄になりがちな現代で、本当に大切なものを見失いそうになる瞬間があります」

 彼女は、スクリーンに映し出された月光草の美しい写真を見つめた。

「このお茶のキー素材である月光草は、月の光を浴びて、夜にだけ咲く花です。その花言葉は、『秘めた想い』。それは、まるで、普段は言葉にできない、誰かへの大切な気持ちのようです」

 詩織は、この商品が生まれるまでの全ての道のりを語った。仕事での挫折。チームとの絆。山奥で出会った生産者の高坂さんの温かさ。そして――。

「私は、このプロジェクトを通して、大切なことを学びました。人と人が、本気でぶつかり合うこと。時には傷つけ合い、すれ違うこともあるけれど、その先には、必ず新しい何かが生まれるということ。このお茶は、そんな、不器用だけれど愛おしい、人と人との繋がりを”結ぶ”一杯になってほしい。そう、心から願っています」

 それは、紛れもなく、蓮と出会い、彼を想い、そして傷ついたからこそ生まれた、血の通った言葉だった。個人的な感情を語っているわけではない。けれど、その言葉の奥にある詩織の経験と想いは、普遍的なメッセージとなって、会場にいるすべての人々の心を震わせた。

 プレゼンが終わった時、会場は一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手に包まれた。それは、一次プレゼンの時とは比較にならない、心からの賞賛の拍手だった。

 詩織は、涙がこぼれそうになるのをぐっとこらえ、深く頭を下げた。

 次に、エンパイア・ドリンクの番が来た。

 壇上に立った蓮は、以前とは全く違う空気をまとっていた。冷徹でもなく、かといって借り物の言葉を語るのでもない。静かな自信と、覚悟に満ちた表情をしていた。

「エンパイア・ドリンクの橘です。我々の最終提案は、ただ一つ。『The Craft Answer』は、飲む”あなた”への答えです」

 彼のプレゼンは、これまで通り、緻密なデータとロジカルな分析から始まった。しかし、その根底に流れる思想は、明らかに変わっていた。

「我々は、市場をデータで分析するだけでは不十分だと気づきました。市場とは、数字の集合体ではない。そこにいる、一人ひとりの人間の、心の集合体です」

 蓮は、スクリーンにある家族の写真を映し出した。

「このご家族は、先日、我々のモニター調査に参加してくださった方々です。彼らは、我々の試作品を飲んで、こう言いました。『なんだか、久しぶりにゆっくり話ができた気がする』と」

 蓮は、数字やデータだけでなく、人の”声”を丁寧に拾い上げ、それを商品の価値として提示していく。その手法は、合理的でありながら、驚くほど温かかった。それは、まるで、詩織の『心をつなぐ』という思想に対する、彼なりの”答え”のようだった。

 詩織は、息をのんで彼のプレゼンに見入っていた。彼は、私の想いを、彼のやり方で、見事に昇華させている。

 二人の想いが、プレゼンという形で交差する。ぶつかり合うのではなく、互いを認め、高め合うように。

 そして、プレゼンは、誰もが予想しなかったクライマックスへと向かっていく。

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