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最悪な再会のはずが、氷のプリンスな彼に胃袋も心も掴まれました~ライバルなのに、二人きりだと激甘なんです~  作者: 水凪しおん


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第十四章:仕組まれた裏切り

 二次プレゼンを三日後に控えた、月曜日の朝。フロンティア・ビバレッジの役員フロアは、異様な緊張感に包まれていた。

「――これは、一体どういうことだね、水野くん」

 役員会議室に呼び出された詩織は、テーブルの上に並べられた数枚の写真を見て、血の気が引くのを感じた。

 そこに写っていたのは、週末に蓮と訪れた水族館での、幸せなひとときだった。手を繋ぎ、微笑み合う姿。蓮が詩織に、ぬいぐるみを渡す瞬間。どう見ても、ただの仕事仲間には見えない、親密な二人の姿。

「…匿名で、役員全員にこれが送り付けられてきたんだ」

 上司である部長が、苦虫を噛み潰したような顔で言う。

「競合であるエンパイア・ドリンクの担当者と、密会していたというのは事実かね?」

「…っ、それは…」

 詩織は、言葉に詰まった。事実ではない、とは言えない。しかし、これは。

「まさかとは思うが…君は、橘蓮にハニートラップをかけられたんじゃないだろうな? あるいは、君が情報を得るために彼に近づいたか。どちらにせよ、これは大問題だ」

 役員の一人が、冷酷な声で詩織を問い詰める。違う、そうじゃない。私たちの関係は、そんな汚いものじゃない。そう叫びたかったが、声にならなかった。写真という動かぬ証拠の前では、どんな言葉も言い訳にしか聞こえないだろう。

「プロジェクトからは、外れてもらうことになるかもしれない」

 非情な宣告に、詩織の目の前が真っ暗になる。社の命運を賭けたプロジェクト。私の、私たちの夢。それが、こんな形で…。

 時を同じくして、エンパイア・ドリンク社内でも、嵐が吹き荒れていた。

 蓮は、祖父である創業者と、木戸、そして数人の役員に、緊急で呼び出されていた。

「蓮、これはどういうことだ。説明してもらおうか」

 創業者の厳格な声が、重役会議室に響く。テーブルの上には、詩織が見たものと同じ写真が置かれていた。

 さらに、木戸が追い打ちをかけるように口を開いた。

「創業者。実は、社内で妙な噂が立っておりまして。…橘くんが、競合であるフロンティア社に、我々の内部情報を漏らしている、と」

「何!?」

「バカなことを言うな!」

 蓮は、激昂して立ち上がった。木戸は、待ってましたとばかりに、作り物の資料を提示する。それは、蓮がさも情報を漏らしたかのように、巧妙に改竄された通信記録だった。

「このタイミングで、競合の担当者とこれほど親密な写真が出てくるとは。偶然にしては、出来すぎていませんか?」

 木戸の言葉は、役員たちの疑念を煽るには十分すぎた。蓮が最近、情緒的な提案をするようになったこと。フロンティア社の企画と、どことなく方向性が似てきたこと。すべてのピースが、木戸の描いた悪意のシナリオ通りに、はまっていく。

「私は、情報を漏洩などしていない!」

 蓮は必死に無実を訴えるが、状況は最悪だった。創業者からの信頼も厚い木戸が仕掛けた罠は、あまりにも巧妙で、蓮は完全に窮地に立たされていた。

 その日の夜。詩織は、茫然自失のまま、会社の屋上にいた。プロジェクトから外されるかもしれない。会社にいられなくなるかもしれない。何より、蓮との関係が、こんな形で白日の下に晒され、汚されてしまったことが、たまらなく辛かった。

 そこに、一本の電話がかかってきた。蓮からだった。

「…もしもし」

「詩織か。…聞いたと思うが、こっちも大変なことになってる」

 彼の声は、ひどく疲弊していた。

「蓮さん、これは罠よ! 誰かが、私たちを…」

「分かっている。だが、今は何を言っても無駄だ」

 彼の声は、諦めているかのように冷静だった。

「詩織、少しの間、俺とは連絡を取らないでくれ。会うのも、やめよう」

「…え?」

 その、あまりにも冷たい言葉に、詩織は耳を疑った。

「どうして…? そんなこと言わないで。二人でいれば、きっと…」

「今は何も話せない」

 蓮は、詩織の言葉を遮った。「いいか、これは俺の問題だ。君を巻き込むわけにはいかない。だから、何も聞かずに、ただ俺を信じて待っていてくれ」

 そう言う彼の声は、真剣だった。しかし、今の詩織には、その言葉の真意を正しく受け止めることができなかった。信じて、待つ? どうやって?

 電話が、一方的に切れる。

 ツーツー、という無機質な音が、詩織の絶望を増幅させた。

 信じてくれ、と言いながら、彼は何も説明してくれなかった。

 彼は、私を、この状況から守ろうとしてくれているのだろうか。それとも。

 会社での自分の立場を守るために、私を切り捨てようとしているのだろうか。

 最悪の考えが、頭をよぎる。氷のプリンスと呼ばれた彼だ。結局は、自分のキャリアが一番大事なのかもしれない。

 そう思った瞬間、心に、冷たいひびが入った。

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