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【8】

盗難事件が解決し、陽だまりのできる心地良い日。凛は小梅を誘い、廊下で日向ぼっこをしていた。店番はもちろん大雅がしている。

「うーん、気持ちがいい!!」

凛は腕を伸ばし、深呼吸する。自分的には、将来、結婚した相手とこういう晴れた日に、お茶を飲みながら、日向ぼっこするのが夢だった。小梅も調子がいいのか、青空を見上げ、少し頰が赤かった。空には綿を咲かせたような柔らかい雲が浮かんでいる。

「どうですか? 調子は?」

凛が聞くと、小梅は短く答える。

「調子がいいです」

「そうですか。良かった」

凛は深く聞かず、自然に任せる。すると小梅のほうから言ってきた。

「私のことを、詳しく聞かないんですか?」

「…うーん、聞きたいけれど、無理に話させていけないですし」

「…そうですよね」

小梅は迷ったように言い、黙り込む。2人は鳥が心地よく歌う中、自然の空気と光景を楽しむ。

「…あの」

ぼそりと口を開いたのは、小梅からだった。「はい?」と凛は無理させないように問い返し、返事を待つ。

「実は…その、私のことなんですけど」

「小梅さんのこと? 何ですか?」

優しく聞き返すと、小梅は意を決したように言う。

「私…普通より、細いでしょう? 何か思わないんですか?」

「うーん、確かに思うところはあるけれど、小梅さんの事情は小梅さんの事情だし、無理に聞こうとは思わないです」

「そうですか…」

小梅は少し安堵したように息を吐き、凛を見つめてくる。

「実は私…親に呪いをかけられているんです」

「…呪い? 例えば?」

表面上は興味なさそうに言うと、小梅は口を開く。

「食べるな!! 私達のものだからって言われて育ったんです。その…貧乏で、子どもが育つような環境ではなかったんです。今もそうですけど」

「…そうなんですか。だから食べられないんですね」

凛の確認に、小梅はしっかりとうなずく。真剣な顔をしているので、ずっと誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。

「口減らしで、捨てられそうになったこともあって…。その、子どもの時のことですけど…」

「…なるほど。それは大変でしたね」

あくまでも受け身で接していると、小梅はせきをきったように続ける。

「最初は興味本位だったんです。食べないとどうなるのか。もちろん貧しいので、お腹いっぱい食べたことなんて、なかったんですけど…。どんどん痩せていくのが楽しくて…」

「分かります、その気持ち。今、まさに私がそうですもの。早く体重が落ちないかな、細くならないかなって思うんでしょう?」

「そうです!! その通りです!!」

小梅は興奮したように言い、凛の手首を掴む。しかし、その力は弱く、痛くなかった。

「どうせ自分なんか…と思いながら生きてきたんです。今もそうですけど、親のかけた呪いって、なかなかとけないんですよね。食べたら怒られる、食べたら嫌われる、そう思ってしまうんです」

「…。大変な中、生きてきたんですね」

小梅の手に、自分の手を重ねて、落ち着くようにしてあげる。すると小梅は恥ずかしそうに言ってくる。

「私、自分自身が嫌いなんです。自分が可哀想に思えて…。親は鼻で笑うんですけど、自分を卑下するのが止まらなくて」

「…そうですか。小梅さんは自信がないんですね。可愛い顔をしているのに」

「…可愛い? 嘘ですよね?」

「本当の話です。もっとふっくらすれば、もてるのに」

冗談じゃなく本気で言うと、小梅は嬉しそうに少しはにかんだ。

「あの…それで9 9 %は死んでしまえっていう自分がいるんですけど、残りの1%は生きたいという自分がいて…。負けず嫌いな自分がいると思うんですけど…どうも呪いには負けたくなくて」

「その気持ち、大事ですよ。自分を愛してあげないと」

真剣な面持ちで小梅を見つめると、彼女は照れたように言う。

「…目、綺麗ですね」

「え…? 目?」

「そう、目です。目は口ほどに物を言うという通り、その人の心を表しますから。凛…さんいいですか?」

「はい、いいですけど。どうして?」

「凛さんって真っすぐな人なんですね。嘘をつけないというか…。私の話を聞いてくださってありがとうございます」

「いいえ。私は小梅さんの話を聞いただけですから。まだ複雑な思いとかあると思うけど、また今度でいいですか?」

「はい」

やっと小梅がおどおどせずに答えた。2人の前を鳥が飛んでいき、空で1回転して去っていく。

「そういえば、その…」

「何? どうしたんですか?」

「は、はい…。その…凛さんって、どちらが好きなんですか?」

「? どちらって?」

「その、雅巳さんと春徳さん、どちらが好きなのかなと思って…」

「…え、え? えー!!」

聞かれたことがないので、凛は戸惑ってしまった。小梅は目をぱちくりさせると、顔を覗き込んでくる。

「あの…失礼だったですか?」

「いや、その、別に」

凛は胸に手を当て、落ち着かせると、真面目に返す。

「2人をそういう目で見たことがないなーなんて、その、私、恋愛とかよく分からないので。ただ春徳は別として、雅巳さんのことは信頼しています。何度も助けてもらったから」

「そうなんですか…。いいですね」

ふふっと笑った顔は、すっきりしたような感じがした。凛は安堵すると、太陽を見上げる。凛だけに注目しているようで、どんな宝石よりも綺麗な眩しさだった。

「…そろそろ部屋に戻ろうか」

「はい。話を聞いてくださって、どうもありがとうございました」

「いいえ」

2人は立ち上がると、客間へ戻ったのだった。


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