【7】
その夜、密かに忍んでくる者がいた。目当ては雑貨屋のお金である。明かりがないのを確認し、足音を立てずに進む。戸を確認すると、開いていた。まるで入れと望んでいるようだった。慎重に戸を開けると、中へ入る。真っ先に目当てのものに近づこうとしたその時、一気に部屋が明るくなった。
「ーそこまでよ!!」
叫んだのは凛だった。相手はびっくりし、外へ戻ろうとしたのだが、雅巳と春徳が立ちふさがる。明かりを相手に向けると、何とまた子どもだった。それも3、4人の子どもである。
ーこの子達…!!
凛は記憶が良いほうなので、忘れもしない。麗と啓太が来た時に、外で遊んでいた子どもだった。
「あなた達…!! あの時の…!!」
「ちっ」
1人が舌打ちすると、逃げようとしたのだが、雅巳と春徳が止める。
「逃さない」
「残念っす」
子ども達はそれでも突破しようとしたが、簡単に捕まり、取り押さえられる。
「縄!!」
「はい!!」
雅巳の怒鳴り声に、凛が反応し、縄を渡す。子ども達は身動きができないように縛られ、1カ所に集められる。
「…何だってこんなことをしたんだい?」
少し可哀想な声で大雅が言うと、1人が勝ち気に答える。
「僕らじゃありません!!」
「…へえ、そうきたか」
春徳は口笛をし、楽しそうに反応を見ている。それに雅巳が怒って舌打ちし、黙らせる。
「嘘つきは泥棒の始まりだぞ」
雅巳が厳しく言うと、定が優しく言う。
「まあまあ。未遂に済んだのだし、ここは許して…」
「駄目だ。子どもでもちゃんと罰を与えないと」
大雅の厳しい声音に、誰も何も言わなくなった。少ししてから、凛が質問する。
「どうしてうちを狙ったの?」
「それは…」
子ども達が顔を見合わせる。どうやら言いづらいらしい。しかしここは大事なところなので、言ってもらわないと困る。
「早く、答えて」
「…だって、生きる術だから」
「…え…?」
全員が子どもの答えを聞いて、固まった。まさか、そう答えるとは思わなかった。
ーもしかして、この子達、凄く苦労している…?
そう思ったのは、雅巳も同じようで、子どもの袍を確認している。どうもつぎばぎたらけであり、身なりがいいとはいえなかった、髪の毛も荒れた状態で、どう見ても貧乏のようだった。
ーそうか。貧乏な子ども達なのか…。
そう思っても、犯罪は犯罪である。許すわけにはいかなかった。
「これが初めてじゃないだろう?」
雅巳の問いに、子どもの1人が答える。
「さあ? 知らない」
「いいから答えろ」
妥協を許さない強い口調で、雅巳がたたみかけた。子ども達はあまりの怖さに、首を竦める。しばし沈黙した後、1人が答える。
「…だって、働けないし」
「親は? いないのか?」
「いるのと、いないのと分かれる。いつも酒飲みだったりするし」
子ども達が、ようやく重い口を開いてくれた。どうやら家庭環境があまりよろしくないらしい。
ーそれで、盗みを覚えたのか…。何というか…。
哀れの一言だった。この子達だって、やりたくてやったわけではないのだろう。生きるために、淋しい者同士が集まって行動していたのだと推測する。
ー違ううちに生まれていたら…。
凛がそう思っていると、1人の子どもが答える。
「あんた達みたいに、普通の生活が送れれば、別にこんなことをしないんだよ。犯罪をしちゃいけないことくらい分かっているし」
「…いつからしているの?」
凛の問いに、子どもが答える。
「さあ? 気づいたら、皆で行動するようになっていたから。そうすると、強くなれる気がして」
「…。そう」
凛にはそれしか答えられなかった。生きるためだったら、何でもする、そんな考えをするのは人間だけだと思い知る。
ー神様の意地悪。どうして人間なんか生み出したりしたのよ。
この世には恵まれた人と、そうでない人に分かれる。凛は恵まれたほうだが、雅巳はそうでもないのかもしれない。
「どうします、大雅さん?」
雅巳の問いに対し、大雅が視線を向けてくる。
「お役人のところに預けるしかないかな」
「そんな…!! この子達だって…!!」
「しょうがない。1人を許せば、他も許さなければならなくなる」
雅巳の言葉に、春徳が付け加える。
「そうっす。皆、許したら、またやっていいことになるっす」
「…。そう、そうね」
凛は自分の体を抱きしめる。もし自分が捕まえる側だったらと思うと、ぞっとする。
「早く連れて行けよ。覚悟はできているし」
「…分かった。本当にいいんだね?」
「いいんだよ。大人なんか信用できないし」
「何でそう思うの?」
凛が思わず聞くと、子どもが煩そうに答える。
「だったら、貧しい僕達を助けてくれるはずだ。それでも毎日、毎日、過ぎていく。何の解決にもならない。だったら、自分達で稼ぐしかないだろう?」
「…」
その場の全員が無言になった。啓太とは、また違った意味で、子どもらしい子どもではなかった。
「生まれなければ良かった」
ぼそりと1人が言うと、子ども達、全員が下を向いた。何で生きているのか、分からないのかもしれない。
「…同情はなしだ。いいな?」
雅巳の言葉に、全員が仕方ないとうなずく。
「行くっす。ほら歩くっす」
雅巳と春徳が子ども達を連れて行く。凛は何だかどっと疲れて、その場に座り込む。
「凛!! 大丈夫か!!」
「あ、うん。…ごめん。何だか自分が情けなくなって」
片目から涙がこぼれてきた。これは氷山の一角で、まだまだ苦しんでいる人間はたくさんいるはずだと、思い知ったのだった。
「…人間って、何なんだろう?」
凛の言葉に、大雅が取り乱さず、柔らかく言う。
「それは神様の宿題だろうね。最期まで生きてみないと分からないけれど。苦しい人生も、楽しい人生も、その人の生き方次第だから」
「…。そうだね」
凛は大雅の手を取ると、ゆっくりと立ち上がったのだった。




