【6】
それからしばらく経った頃。葉家は賑やかになっていた。
「俺も手伝うっす!! 姉御!!」
「いいってば」
原因は春徳で、家族に懐くのが早かった。大雅も追い出そうとせず、そのままにしているので、凛が何か言うわけにいかなかった。
「今日もいい天気っすね。雪が溶けていますよ」
「…そうね」
外を見、凛もうなずく。雪は砂糖の山のように、日光の雨を受け、崩れていく。その光景は美しくも儚いものだった。
「ーおい」
声をかけられて見れば、雅巳だった。凛が喜ぶ前に、春徳が前に出た。
「兄貴!!どうしたっすか!! 会えて嬉しいっす」
「お前、何でいるんだよ?」
「それが…」
凛が説明すると、雅巳は険しい顔つきとなった。
「男なら居候せず、外で働け。お前、体は丈夫だろう?」
「そうはいかないっす、兄貴。ちちちっす」
指を左右に振り、春徳は悪気もなく言う。
「気に入った場所で働きたいっす。姉御の役に立ちたいっす」
「…役に立っているのか?」
「さあ…何とも」
凛も冷静に答えると、春徳が「えっ!」と言って小指を立てる。
「姉御のために健気に働いているのに、分かってもらえないなんて…。酷いっす!!」
「はいはい。分かりました」
「本当っすか!! 好きっす、姉御」
「私は嫌いだけど」
「がーん」
嘘だったが、春徳には効果があったようで、店の隅へ移動してしまった。
「いいのか?」
雅巳が横目で見つつ、言ったが、凛は肩を竦める。
「たまにはいいんじゃないの? 雅巳さんもそう思うでしょう?」
「まあな。煩い奴は嫌いだ」
「がーん!! さらにがーん!!」
こちらの会話は聞いているようで、春徳はいじけてしまった。腰を下ろすと、床に丸を描き始める。そんな彼をちらっと確認してから、雅巳と凛は会話する。
「それで? 今日はおつかい?」
「ああ。縄と手巾、数枚、用意できるか?」
「もちろん!! ちょっと待って」
凛は動こうとしたのだが、ふと思い出し、問う。
「もう咳は…?」
「ああ、まだ少し出るが、大分、おさまった」
「そうなの? 良かったわね」
「ありがとう」
礼を言われ、凛は思わず固まる。
「どうした?」
「…いや、別に」
本人が気づいていないならいいかと、品物を探しに行く。すると大雅がやって来たのだが、何故か暗い顔をしている。
「…どうしたの、お父さん?」
思わず声をかけると、大雅が我に返り、笑みを浮かべる。
「何でもない。ちょっと考え事をしていたんだ」
「…怪しいな。何か隠しているでしょう?」
凛の勘が働き、大雅に言う。彼の顔には陰りがあり、疲れているような表情だった。
「どうしたんですか、大雅さん?」
雅巳にも言われ、大雅は渋々、答える。
「実は…帳簿のお金が合わないんだよ」
「え…。それって、まずいよ!!」
強く反応したのは、凛だった。店番を任されているのは彼女なので、1番責任がある。しかし、凛としてはちゃんとお金はもらっているので、足りないということはあり得なかった。
「どうしたんだろう…? お金をもらう時、ちゃんと何回も確認したんだけど…」
「…犯人探しっすね」
すっかり元気になったのか、春徳が割って入ってくる。
「俺じゃないっすよ。分かっていると思うっすけど」
「誰も決めつけたわけじゃないでしょう?」
「でも内部の人間が1番、怪しいっす。ね、兄貴?」
「…まあ、そうだが…。疑いたくはないわな」
「そういうものっすか? 早く犯人を捕まえたほうが…?」
「私でもないわよ。もちろんお母さんとお兄ちゃんも違うと思う」
「なるほどな。…とすると、他に怪しい人物は…?」
「他に…? …まさか」
小梅が浮かんだが、彼女は客間から出ていない。しかも、ふらふらしたまま、盗むとは思わなかった。
「早速、犯人探しっすね!!」
「…楽しそうだな、お前」
「楽しいっす!! 早く探しましょう」
「ちょっ待った。俺は今、働き中なんだよ」
「私も店番中」
「えー!! 動けるのは俺だけっすか。そんなー!!」
「私の間違いだといいんだが…」
大雅が「うーん」と唸ってしまった。皆、怪しいのだけれども、同じ家族で疑いたくなかった。
ー家族を疑ったら、最後だもの。
店の経営はおろか、家庭自体が崩壊してしまう。
ー一寸先は闇だわ。
とりあえず、この場はおさめることにし、凛はレジへ向かったのだった。




