【14】
夕方になり、雅巳と落ち合うと、彼も驚いたようだった。
「…は? 誰も知らない? しかも入居者募集中?」
「…そうなのよ。変よね」
「うーん、あの娘が嘘をついているのか」
「小梅さんは可愛いっす」
「どうでもいい。可愛いとか綺麗とかの問題じゃない」
「そうっすか。失礼したっす」
「よろしい。…で、どうするんだ? 問いつめるのか?」
「それなのよね。私の家にいつまでも置いておくわけにもいかないし…」
「俺が聞くか?」
「雅巳さんが…? それは…ちょっと」
小梅はあれからまた食を拒絶していた。衝撃が大きかったのだろうと、皆、静かにしてきたのだが、間違いなのだろうか。
ーどうなの、小梅さん!!
彼女のことがよく分からなくなり、小石を蹴飛ばす。人間は裏と表の顔があるのは知っているが、小梅はどうなのだろうか。
ー症状は本当のことだけど…。どうしよう。
彼女を追及したほうが早いのは分かっているが、傷つけるのも嫌だし、何より自殺されたら困る。
「うーん、どうすればいいんだろう?」
困って雅巳に投げると、彼が意外なことを言ってくる。
「そういえば、客が喋っていたな。また殺人事件が起きたって」
「…は? どこで?」
「どこでって、あのなー」
雅巳は食いついてきた凛を、とりあえず追いつかせると、場所を教える。そこは凛のうちから遠くではなかった。
「何でも包丁で刺されていたそうだ。しかも部屋の中は空っぽ。どこか同じだろう?」
「そこに行ってみよう!!」
凛は鼻息を荒くすると、雅巳の手を掴み、急いだのだった。
雅巳の教えた通り、家へ向かうと、まだこちらのほうが雰囲気が明るかった。ただし何らかの匂いがし、鼻をつまみたくなる。
「ーここだ」
雅巳が親指で示し、戸を開ける。勢いよく凛と春徳が覗き込むと、向こうの部屋と同じく、何もなかった。
ーまったくうりふたつ…。
この部屋は何を意味しているのか、大事な気がした。
「ここで、殺されたのは…?」
「女だそうだ、20代から30代くらいとか聞いたが…。心臓をひとつきされたらしい」
「女…。それ近所の人は…?」
「まったく知らないらしい。最近、越してきたんだが、姿を見たことがないって話だ」
「何か同じっすね」
春得もさすがに真顔になり、考え込む。
ー2件の同じ部屋、同じ状態の人。それが意味するものは…。
凛は顔を上げると、雅巳と春徳に言う。
「早くうちへ帰ろう!! いいから!!」
3人は物凄い勢いで、走り出したのだった。
雑貨屋に戻ると、ちょうど小梅が入り口で頭を下げていた。
「ー大変、お世話になりました。もう大丈夫です」
「そうかい? うちとしては、まだいてくれてもいいんだけど…」
「いいえ!! そういうわけにはいきませんから!!」
「ちょーっと待った!!」
凛が荒い息をしながら、止めに入った。後ろには雅巳と春徳がいる。
「…どうしたんですか、皆さん?」
普通に聞いてくる小梅に、凛はびしっと言う。
「話があるんですけど…ちょっといいですか?」
「え…でもあの、彼が…」
「…は? 彼?」
馬車に乗っている男性が不思議そうにこちらを見ている。
ー…男の人だ。
何か閃きそうで、もどかしかった。すると春徳がぼそりと言う。
「あの男も関係者っぽいっすね」
「関係者…。…確かにそれっぽい」
凛がきつい眼差しで見つめると、男はふいと顔を背けた。気まずいことでもあるのだろうか。
ー男と女。2人で協力すれば…あ!!
1つだけ閃くものがあった。可能かどうかは知らないが、天が与えてくれた機会だと思うことにする。
「小梅さん、あの男性は…?」
「ああ。私の恋人の楊貴高さんです。どうですか?」
「どうって…いい男性だとは思うけれど」
表面だけの会話をし、貴高を見る。どうやら苛ついているらしく、足を揺らしている。
ー怪しい。ものすごーく、怪しい。
この2人を逃してたまるかと、凛は小梅の襦裙を掴む。
「ちょっと来てくれますか?」
「え…。いいですけど…でも彼が」
「彼ごとお願いします!! この通り!!」
両手を合わせると、小梅はちらりと貴高をちらりと見、反応をうかがう。手を振ってきたので、「やめとけ」という意味らしいが、凛は小梅の肩を掴む。
「駄目!! 行っちゃ駄目です!!」
「…分かりました。少しだけなら」
小梅は負けたようで、か細く言ってきた。貴高は耳がいいのか、膝を叩いた。機嫌がいいとは言えないが、小梅が了承したのだから、こちらのものだった。
「じゃあ場所を変えましょう」
「え…? ここじゃないんですか?」
「凛? どうしたんだい?」
「ちょっとね。ほら、早く」
凛は小梅を馬車に乗せ、自分達は馬にまたがったのだった。




