【13】
「…なーんか、気になるのよね」
レジ台に肘をつき、凛はぼそりと溢した。それを素早く春徳が聞きつけ、側にやって来る。
「どうしたんっすか、姉御?」
「いや、何でもないんだけど…」
「だけど? 何かあるっすか?」
「…そうなのよ」
どうもここ数日、すっきりしないでいた。小梅は相変わらず客間で寝ており、会話を聞かれる心配はなかった。
「ーどうして室内に何もなかったのかしら?」
「は? どういう意味っすか?」
「普通、布団とか机とか何かあるでしょう? でもあの殺人が起きた部屋には何もなかった。それが引っかかるのよ」
「なーるほど。さすが姉御」
「あー気になる!! 何かを見落としているのよ」
「何っすかね? 犯人に近づくっすか?」
「多分ね。一歩、前進すると思うのよ」
凛はそう言うと、立ち上がった。奥にいる大雅を呼び、
「ちょっと出かけてくる。だから店番、お願い、お父さん」
「はいはい。気をつけるんだよ」
「うん、大丈夫」
「俺も行くっす。用心棒っす」
「そう、ありがとう。ーじゃあ行こうか」
凛は春徳を連れ、外へ出たのだった。
向かった先は当然、殺人事件のあった部屋だった。
ーここ、何かどす黒い塊を感じるのよね。
寒気を感じ、首を横に振る。雰囲気に飲まれては駄目だと、自分を鼓舞する。
「ここっすね!」
春徳は平気なようで、普通に戸を開いた。もう遺体はなく、何もない空っぽの部屋だった。
ーおかしいのよね…。
全く生活臭を感じないのだ。まあ殺人事件が起きたから、そう強く思うのかもしれないが、何か気になる。
「一応、部屋の中を見てみようか」
「はいっす!!」
春徳は嬉しそうに、押し入れに手をつける。凛も部屋をあさってみるが、思った通り、何も出てこなかった。
「…うーん、何かな」
「そうっすね…。どうするっすか?」
「…。ここは近所の人達に話を聞きましょう」
本当はじめじめして暗い目をした住人に聞くのは、気が引けたが、ここは腹をくくり、女性陣の集まりに声をかける。
「あの…」
「…何だい?」
警戒心丸出しの態度に、凛は一瞬、「う」っときたが、負けないことにした。
「ここに住んでいた人達が亡くなりましたよね? それで何か知らないかと思いまして…」
「そこ…? …ああ、迷惑な連中のこと」
「迷惑? どういう意味ですか?」
「そのままだよ。他で死んでくれればいいのに」
洗濯をしながら答える女性に、凛は追及する。
「そこの人達とは、仲が良かったんですか?」
「仲が良い…? 馬鹿を言っちゃいけないよ」
ふんと鼻を鳴らすと、女性は答える。
「誰が入っていたのかも知らないんだよ」
「…どういうことですか?」
「つい最近まで、入居者、募集だったんだよ」
「え…」
凛は部屋を振り返り、質問する。
「…ということは、皆さんとは…?」
「挨拶も交わしたことがないよ。たまに夜だけ明るいとか、そうじゃないとか、色んな話があるけどね」
「そう、なんですか…」
凛の頭は混乱していた。女性陣の話を信じると、誰がここに住んでいたのか知らないという。それなのに、小梅は何故、自分達を連れて来たのだろうか。親子で仲が悪いのは分かるが、誰も知らないとなると、小梅が怪しくなってくる。
「…どういうことっすかね?」
春徳の目も厳しいものとなっている。ずっと暮らしているのなら分かるが、何故、新しく入った場所を教えたのだろうか。
ーそもそも名前自体、違っていたりなんかしないわよね?
ふと疑問に思い、春徳に問う。
「あんた、小梅さんをどこで拾ったのよ?」
「どこって…姉御の店の近くっすよ。本当ですってば」
「…なるぼど」
帰ったら小梅を問いつめようか迷ったが、もう少し情報が欲しかった。忙しく動く女性陣に聞いてみる。
「あの…じゃあ、今、あの部屋は…」
「また入居者募集だと思うよ。忙しいんだ、邪魔しないでくれ」
「あ…すみません」
凛は謝ると、春徳の手を引っ張り、その場から離れる。
「ねえ、どういうこと? 小梅さんは帰る場所がなくなったじゃない」
「さあ、俺も分からないっす。何がどうなっているのか…?」
「そうよね…。何か降ってこないかしら…?」
天を仰ぐと、希望の一筋の光が差し込んでくる。
ーちょっと雅巳さんにも相談しよう。
そう決めると、凛は春徳を連れ、離れたのだった。




