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どうぞ、許しをいただけますか


 あれから、近すぎるルードヴィッヒからのアプローチは続いている。

 手を握り、指を絡めて視線を合わせる。

 蕩けるような笑みでマリアベルを見つめるルードヴィッヒは今日も変わらず愛を囁いていた。



「…………あれは毎日?」


「……ええ」


 ルードヴィッヒはまだナターシャの専属騎士である。

 通常7日に1日が休みで1日8時間勤務で毎日忙しいルードヴィッヒではあるが、必ずマリアベルに1日1回顔を合わせ手を握り愛を囁く時間を作っている。

 それは人前など関係なく手を握り蕩ける笑みを浮かべて口説くのだ。

 歯が浮くような言葉を垂れ流してマリアベルの顔を赤らめさせている。

 







 


「……あ、あの……」


「なんでしょうか? マリアベル様」


「これは……婚約者ではない男女の距離感ではないと思い……ます」


「では、どうぞお許しを頂けますか? あなたの隣に立つ権利を」


 ソファに座るルードヴィッヒの隣にいたマリアベルの腕を引いて膝の上に上半身を優しく横たえさせた。

 頭を撫でて指を絡めるルードヴィッヒから手を引き抜こうとすると、親指の腹で優しく撫でられ手が止まる。


「……また、そのような事おっしゃるの」


「貴方を好きですから、頷いて頂きたいのです。あなたの心に私を住まわせてください」


「……私は、貴方が……あの……ええと……んん……ルードヴィッヒ様」


「はい、なんですか?」


「……私を好き……なのですか?」


「こんなに口説いているのに、まさか気付いて貰えていませんでしたか?」


「あ……えっと」


 マリアベルの項に唇を当ててルードヴィッヒは話す。

 当たる熱い吐息に、たまに触れる舌先がマリアベルを優しくあやす様に、理解させるように言葉だけじゃなく態度で伝えてくれる。


「……では、どうすればあなたに届きますでしょうか。私の胸を開き見せて差し上げられたらいいのにと掻きむしりたい気持ちです。マリアベル様……あなたが好きです。あなたの隅々まで触れて愛でさせて頂きたい……あなたを初めて見た時から、この気持ちは変わりませんよ」


「ルードヴィッヒ……さま……」


 ルードヴィッヒはマリアベルの体を起こして抱きしめたあと、顔を見る。

 赤らめた頬に手を当てて、潤む瞳から1粒溢れてきた涙を親指で拭った。


「さぁ、あなたの可愛らしい口から答えてください。ルードヴィッヒを愛していると。あなたの隣にいることを許すと」


「……私……私は……あなたを……愛しています……私をずっと、愛してくださいますか」


 溢れ出た涙が止まらなくなったマリアベルの涙をさらに拭うと、嬉しそうに輝かしい笑みを浮かべたルードヴィッヒは、ぎゅっ! と強く抱き締めた。

 そして、顔を近づけ首を傾げたが、ピタリと止まった。


「…………口付けを、許してくださいますか?」


「きっ……聞かないでください」


「それは失礼を」


 ふっ……と笑ったルードヴィッヒは髪に指先を忍び込ませて後頭部を支え、優しく唇を重ねた。






「あーあ。私のマリアベルがルードヴィッヒに盗られた」


「人聞きの悪い。マリアベル様はいつまでもあなたの妹君ですよ。ただ、私の愛する人というだけです」


「それが気に入らないのよ。私よりあなたを優先するじゃない」


「前婚約者でもそうでしたでしょう?」


「あなただから気に入らないのよ」


 カチャカチャとティースプーンで紅茶を揺らすように混ぜるナターシャに、行儀が悪いですよとルードヴィッヒに注意される。


「マリアベルに言われるなら分かるけど、あなたに言われたくないわ」


「ナターシャ」


「やっとマリアベルに時間が出来たというのに! 今度はルードヴィッヒにとられるのよ! マリアベルは私のなのに!」


「ナターシャ様のではなく私のマリアベル様です」


「やめてよね! 私のマリアベルよ!」


 テーブルをバンっ! と叩くと、紅茶の表面が波うつ。

 マリアベルはその紅茶を目を丸くして見てからナターシャを困った顔で見た。


「ナターシャ……」


「マリアベルゥゥ……私もっとマリアベルと遊びたいのにぃぃ」


「一緒に遊べるわ、これからもそばにいるのですもの」


 

 マリアベルとナターシャ。

 どちらかが入婿を取りリンクエラ公爵家を継ぎ、どちらかが輿入れすると思っていた。

 だが、2人の希望でお互いの仕事を分け合いリンクエラ公爵家を盛り立てようと思っている。

 マリアベルは手に入れた業務に力を入れ、落ち着いたら他にも手を出していく。

 その半分をナターシャが受け持ち、お互いの入婿にも領地経営など4人で話し合い上手く共存する道を選んだ。

 リンクエラ公爵家を後に継ぐのは社交に上手く対応出来るナターシャが受け持つことになる。

 この国は、女性領主も受け入れられる為、貴族社会に立つにはナターシャの方が向いているからとの判断だ。

 とはいえ、マリアベルをないがしろにする訳では無い。

 むしろ、領地経営にはマリアベルの知識や技術が必要となるだろう。

 適材適所として、決めたのは2人で入婿となる2人の夫に口出しはさせないと決めた。

 なにより、地位と2人のよく回る口に入婿は叶うことは無いだろう。


 ナターシャの専属騎士から外れたルードヴィッヒは名実共に愛するマリアベルのそばに常にいて、麗しい顔に蕩けるような笑みを浮かべている。

 ナターシャも半年後に黒髪黒目に野心がない優しい男性を婚約者とした。

 早くに領地の仕事を覚えるために、リンクエラ公爵家に越してきた婚約者は現状を聞き目を白黒とさせたが、力を合わせて領地経営をする事に難色を示すことなく笑顔で了承する。

 お互いに思い合い、時にナターシャに口で負かされながらも関係は良好だ。

 

 4日に1度、4人でのお茶会が開催されて4人の関係性も良くリンクエラ公爵家は穏やかな生活が約束された。


「マリアベル、今日はねシルフィアに聞いたマカロンを用意したから食べてみて」


「まぁ、ありがとう」


 相変わらずナターシャのマリアベル愛は炸裂していて、2人の入婿となる男性たちは今日も苦笑する。


「ナターシャ様、マリアベル様にあまり構いすぎないでください。貴方は愛しのリルベルトに話しかけていればいいじゃないですか」


「何を言うのかなルードヴィッヒ。貴方は常にマリアベルを独占しておいて。少しは遠慮なさいよ。マリアベルは私のよ」


「マリアベル様は私の奥方になられる方です。髪の毛一筋からつま先まで、全て私のですよ。ナターシャ様はお呼びではありません」


「まあ、姉妹の絆は永遠だわ。貴方はただの書類を交わしたら家族となる安っぽくも薄い絆ではないの。やはり同じ母様のお腹の中にいた私にこそマリアベルは必要だわ」


「それは確かに強い絆ですが、最後の瞬間まで共にと誓い手を取り合うのは私です。ナターシャ様には決して出来ない神への誓いですよ。羨ましいですか?」


「羨ましいか羨ましくないかで言ったら羨ましいに決まってるじゃない! 何かしらその勝ち誇った顔は!!」


 2人のいがみ合いは、ナターシャに婚約者が出来ても変わらなかった。

 お互いいかにマリアベルを愛し慈しんでいるかで対決しているのだが、今回はルードヴィッヒに軍配が上がるようだ。

 そんな2人を今日も見ながら、のほほんとお茶を交わすマリアベルとリルベルト。


「リルベルト様、お砂糖をどうぞ」


「はい、ありがとうございます」


 シュガーポットから角砂糖を出してリルベルトのカップに落とすマリアベルに微笑んで礼を言う。

 もうこの様子に慣れたリルベルトは、マリアベルと今日も2人は仲がいいねぇ……とズレた感想を話していた。

 公爵令嬢と、元専属騎士の仲の良さは異常とも取れるが、そのお互いの婚約者も同じ波長で仲良しだと笑う。

 ある意味双子はお互いに似たような相手を無意識に選び取っていた。


「……今日も空が青いわ」


「はい、本当に。素敵なお茶会日和ですね」


「ね」


 そう言って笑う2人をナターシャとルードヴィッヒは見て静かに着席するまではいつもの流れであるとメイド達は双子の姉妹の幸せそうな笑みを毎日見ては喜びを噛み締めていたのだった。

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