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誠心誠意、あなたを愛します


 ナターシャがお茶会に行ってから、マリアベルはルードヴィッヒと部屋で過ごしていた。

 本来なら扉を開けておかなくてはいけないのだが、両親がマリアベルに無理はするなと言いつつ、押せ押せゴーゴー! とルードヴィッヒの背中を押す。

 密室? いいぞ! と言いたげな両親に苦笑するルードヴィッヒだが、それを実行はしなかった。

 したのはメイドたちである。

 自宅ですよ? 相手は専属騎士ですよ? 守る立場にいるのですから何か問題が? と問題しかない言い訳をしながら、扉を閉める。

 勿論リンクエラ公爵夫妻から了解を取ってだ。

 最初の何回かはルードヴィッヒも開けに行っていたが、扉の前に待機しているメイドが笑顔で閉めるのイタチごっこがなされて、マリアベルも折れたという経緯からである。


「マリアベル様、事業はどうですか?」


「ええ、問題ないです。場所をリンクエラ公爵領に移したことで動きやすくなりましたし、領民を雇用する事ができました。これで領民も少しは穏やかに暮らせますよね」


 にこやかに笑って言ったマリアベルだが、次の瞬間言葉が詰まる。


「では……もう少し私に時間を頂いても? 貴方を堪能する時間を頂きたいのです」


「た……たん……のう……」


「はい。あなたの手に触れて、あなたの好きな事を知りたい。私はまだあなたを知らなすぎるので、沢山の貴方で私を満たして欲しいのです」


「みっ! 満たす?!」


 真っ赤な顔で狼狽えるマリアベル。

 仕事の話なら問題ないのに、それ以外となると翻弄される。

 マリアベルは優しく手を握られた。

 ルードヴィッヒは見つめトロリとした眼差しが柔らかく弧を描く。


「…………あなたの心に触れ、全てを知りたいのです」


「ひぇ!」


 ルードヴィッヒはマリアベルを理解したい為に紡いだ言葉だが、マリアベルには不埒な言葉にも聞こえる。

 言葉選びに色が含まれているように感じて、毎回顔を赤らめ動揺してしまうのだ。


「……いけませんか? あなたの全てを知りたいと思うのは傲慢ですか?」


 指を絡ませて握るルードヴィッヒは、もう片手でも握りこんできた。

 涙が潤みそうになりながら首を横に振るマリアベル。


「は……恥ずかしい……ので」


「その恥ずかしがる姿すら愛らしい」


「ルードヴィッヒ……様!」


「はい、マリアベル様」


 掴まれていない手で顔を隠すマリアベルだが、直ぐに手を握られて離される。


「ああ……隠さないでください。あなたを見つめられない。貴方を余すことなく眺めていたいので」


 さらに至近距離で見上げると、口元が艶めかしく弧を描く。

 唇の下のほくろが、今日は余計に艶やかさを増幅させていて、もう泣きそう! とマリアベルはいっぱいいっぱいになっていた。


「…………ああ、なるほど。今ならナターシャ様の言葉がわかりますね」


「……なんでしょう」


「貴方を捕まえて身動きを取れなくして……捕食してしまいたい」


 指先が唇をなぞる。

 ビクッ! と体を揺らすと、マリアベルは真っ赤な顔のまま力が抜けた。


「も……ルードヴィッヒ様……」


「なんでしょうか。口付けを許してくださるとか?」


「いっ……いけません!」


 ルードヴィッヒの胸に両手をついて押すがビクリともしない。

 そんな弱い力で抵抗するマリアベルを、可愛らしい……と見つめるルードヴィッヒふわりと頭を撫でた。


「……ルードヴィッヒ様」


「……お可愛らしい、あなたのすべてが。その髪に指を入れて引き寄せたい。細い腰に腕を回して軋むほどに抱き寄せたい。その小さな唇に口付けて中まで……いえ、やめておきましょう。あなたは……許してくれますか? 私が誠心誠意、貴方を愛する事を」


「…………軋むほどは……おやめ下さい」


 少し俯き小さな声で言うと、するりと腰に腕が回って逞しい胸に抱かれた。

 暖かく弾力がある胸に頬が当たり背中と腰をホールドされる。

 そっと額に口付けられ、マリアベルは恥ずかしさに顔を埋めた。


「では……優しくなら許してくださいますか?」


「……口付けは許可……しません」


「これは失礼いたしました」


 ちゃっかりと額に向けた口付けに注意するが、笑みを浮かべるルードヴィッヒには効いていないようだ。

 両親の前で婚約者にと望まれてからルードヴィッヒから過剰なほどの愛を囁かれ触れ合いを好む。

 窓から眺めていた騎士としてナターシャを守る姿は清廉潔白で、こんなに愛情深く触れてくる印象はなかった。

 抱き締めて離さないルードヴィッヒにマリアベルは次第に困り出す。


「……あの……いつまで……」


「なんですか?」


「…………腕は……その」


「あぁ。マリアベル様の腕も私の背にどうぞ?」


「ちっ……違います!」


「そうですか? 残念です」


 クスッと笑って背中を撫でると、ゾクゾクと粟立ちピクッ……と体が跳ねた。

 熱い息がマリアベルから吐き出されてギュッ……と脇腹の服を控えめに握ると、さらに背中をさすられる。


「…………っ、何を……なさったの?」


「なにもしておりませんよ?」


「でも……ぁ……」


 ススス……と背中を指先で滑らせるルードヴィッヒに、背中を反らせた。

 上気した顔で小さな唇から零れた声にルードヴィッヒは手を止めて自らの口を抑えた。


「……ルードヴィッヒ……さま?」


「……はい。マリアベル様は……魔性ですね」


「……ま、しょう……ですか?」


 首を傾げながらもペタリと胸板に頬をつけて息を吐くマリアベルにルードヴィッヒは天を仰いだ。

 

 

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